初代ポケモン「にらみつける」の謎

初代ポケモンの不自然な技習得から開発中の姿を追う。
独自研究なので人に見せる時は要注意。

参考資料:つれづれな日 初代ポケモン資料集
(後半については、別タブで開いて見比べながら読み進めるといいかも)

習得数ナンバー1の技

初代ポケットモンスター(赤・緑)で、自力で覚えるポケモンが最も多い技は何か?
答えは「にらみつける」である
実に43種類(進化前からの継承のみのパターンも含む)。なんと全体の3割近くのポケモンが覚えるのである。
次点である「たいあたり」が41種類で僅差だが、そちらは基本的な攻撃手段として納得がいく。
3番手は「なきごえ」で、覚えるポケモンは31種類まで下がる。

ズバットやヒトデマン・スターミーなどごく一部を除き、ほぼ全てのポケモンは目を持っている。
よって、「にらみつける」を覚えるポケモンが多いこと自体は不自然ではない。
しかし以下に挙げるように、深読みすると奇妙な部分が見えてくるのである。

疑問その1:「しっぽをふる」との重複習得

「にらみつける」と「しっぽをふる」は、PPや命中率も含めて全く同じ効果である。
しかし、どういうわけか両者を2つとも覚えるポケモンが少なからず存在する。

以上、4系統5種が該当する。
いずれの例も、「にらみつける」のほうを高Lvで覚える。

初代ポケモンは技のバリエーションが乏しいとはいえ、
変化技でPPも含めて全く同効果である例は「しっぽをふる」と「にらみつける」「まるくなる」と「からにこもる」しかない。
そして、後者の2つを同時に覚えられるポケモンは存在しない。
この点からも「にらみつける」という技の異様さが理解できるのではないだろうか。

なお厳密に言えば、「まるくなる」と「からにこもる」はタイプが異なる。
故に一部トレーナーの行動ルーチンに影響を与えるので、全く同じ機能の技というわけではない。
ゲームにおいて真の意味で完全に同効果なのは「しっぽをふる」と「にらみつける」のみである。

疑問その2:後の世代での剥奪

ヒトカゲ/リザード/リザードン、サイホーン/サイドン、ケンタロス、ファイヤーは、金銀では「にらみつける」を覚えない。
ブースターは金銀の時点では覚えるが、ルビー・サファイア以降では覚えない。
重複習得するポケモンのうち、ガルーラを除く全てから剥奪されているのだ。
(ガルーラに関しては第二世代で習得順がなぜか入れ替わり、第七世代に至るまで両方とも残っている。これはこれで謎だ)

技マシンが存在しないという理由ならまだしも、「自力で覚える技が削除された」例は少なくは無い。
初代からだと「にらみつける」以外にも、以下の例が挙げられる(進化系のいずれかのみ覚えない例は割愛)。

これらはいずれも単発であり、「にらみつける」のように同じ技が5系統8種から剥奪されていることは異様といえる。
新作で技が剥奪される主要な理由は「新しい技に差し替える」といったところだろうから、
同効果の技が重複しているようなら片方を差し替えるのは当然の判断である。
しかし、それなら別にどちらを剥奪してもいいはずだ。
にもかかわらず、残されているのはどちらかといえば”かわいらしい”印象のある「しっぽをふる」のみである。
(実際、第三世代以降のコンテストでは「かわいい」系に分類されている)。
ブースターはともかく、サイドンやケンタロスも「しっぽをふる」が優先されているのは、
彼らが「にらみつける」を覚えることには、本来の意図とは異なる後ろめたい理由が存在するからかも知れない。

仮説:元は炎タイプの技だった?

「にらみつける」を覚える43種類中、炎タイプは8種類も存在する。
ポケモン全体を見ると、炎タイプは150種類中12種類しかいないことを踏まえると、割合として明らかに多い。
具体的には、ヒトカゲ、ガーディ及びその進化系、そしてブーバー、ブースター、ファイヤーが覚える。
(逆に、覚えないのはロコンとポニータの系統くらいである)
ちなみに上記8種を含め、43種類中21種類は技マシンで炎タイプの技「だいもんじ」を習得できる。

ファイヤーが色々な意味で有名だが、まずはブースターに着目したい。
イーブイ及び他の進化系は「にらみつける」を覚えないのに、なぜかブースターのみ覚えるのだ。
前述のように、同効果の「しっぽをふる」を別途覚えるにも関わらず、である。
ビジュアル的には、むしろブースターはシャワーズやサンダースと比べて丸くてやさしい目をしているので不自然ではないか?
参考:当時の公式イラスト(任天堂公式サイト)
ちなみにイーブイ含めて「しっぽをふる」は系統全てが覚えることができるので効果自体の必要性はない。

さらに、ヒトカゲがLv15というタイミングで覚えることにも注目しよう。
同Lv帯では、フシギダネがLv13で「ツルのむち」、ゼニガメがLv15で「みずでっぽう」という自タイプの技を覚える。
確かに、既に同威力(40)の「ひのこ」を先に覚えているが、次の「かえんほうしゃ」は(進化キャンセルしない限り)リザードンLv46までお預けである。
フシギソウは(進化キャンセルをしない限り)Lv30で「はっぱカッター」を覚え、カメールは技マシンで「バブルこうせん」を覚えられる。
一方でリザード(リザードン)が自分のタイプの技を次に覚えるのは、自力にしてもマシンにしてもかなり後の話である
(唯一の炎タイプの技マシンである「だいもんじ」は、7番目のジムの報酬)。
その間、「ひのこ」一本というのは頼りない。自分よりLvの低い未進化の草ポケモンすら一撃では倒せないことが多い。
岩・地面タイプを軽々となぎ倒す2匹と比べるとタイプの役割を果たしきれていない感があり、炎タイプ不遇を印象付ける要因にもなっている。

また、ポケモンのモチーフの一つとして特撮映画の怪獣があることは各種資料で明言されている。
そして怪獣の定番といえば「火炎放射」である。これ自体はポケモンにも技として登場するが、覚えるポケモンはごく限られる。
炎タイプ以外でも、サイドンやガルーラといった典型的な二足歩行型怪獣が覚えないのは若干の不自然さを感じる。
この2系統はいずれも「しっぽをふる」「にらみつける」を無駄に重複習得するのだ。
(ついでに、ピカ版では同じく二足歩行怪獣であるガラガラが「しっぽをふる」を無駄に追加習得している)

ポケモンの技を内部コード順に見ると、ある程度は「手」「脚」といったカテゴリ別にまとめられていることがわかる。
「にらみつける」の技コードは10進数で43。以降は「かみつく」「なきごえ」「ほえる」「うたう」といった「口を使う技」が並ぶ。
「顔」という上位カテゴリを当てはめれば納得できなくもないが、「口」の中に1つだけ「目」を使う技が紛れているのは場違いではないだろうか。
(ちなみに前を見ると「どくばり」「ダブルニードル」「ミサイルばり」という針系の技が並ぶ)
参考までに「へびにらみ」は137番であり、前後には「とびひざげり」「ゆめくい」という(半)固有技が当てられている。

「炎タイプと縁が深い」「元々は口を使った技であるらしい」という2点から、
あくまで想像に過ぎないが、「にらみつける」の領域は元々は「口から炎を吐く技」として設定されたものではないだろうか。
覚えるレベル帯からすると、「ひのこ」と「かえんほうしゃ」の間の中堅技だと思われる。
経緯としては、例えば以下ようなものが考えられる。前身の技名については「ひをはく(仮)」と仮称する。

  1. 「ひをはく(仮)」という技データを設定。炎タイプや怪獣系のポケモンを中心に、中程度のLvで覚えるように設定する。
  2. 「ひをはく(仮)」を、何らかの事情で「にらみつける」に名称と効果を変更。
    特にイメージ上やゲームバランス上の問題が無い限り、習得ポケモンは据え置かれたと見られる。
    (炎タイプ及び、「しっぽをふる」と重複習得する例の大部分はこのパターンだと見られる)
  3. 「にらみつける」のイメージ通り、目つきが鋭いポケモンを中心に何匹か覚えるように追加設定。

「にらみつける」を覚えるポケモンの中でも、例えば炎と無関係なカモネギやクラブ/キングラーなどは3の過程で追加された可能性が高い。
この仮定だと、まったく別だった2つの技が同じ「にらみつける」に内包されていることになる。覚えるポケモンが多いわけだ。

差し替えられた「何らかの理由」として想像されるケースは、例えば以下のようなものが考えられる。

開発中の変遷として考えられる一例を、わかりやすく図にするとこうなる。

下位中位上位最上位
開発初期ひのこかえんほうしゃ(未定?)(未定?)
開発中期ひのこひをはく(仮)かえんほうしゃだいもんじ
製品版ひのこ(空位)かえんほうしゃだいもんじ

「ほのおのパンチ」に関しては、覚えるポケモンがごく少ないうえに、
内部データ上も他のパンチ技とともに番号の若い「手を使った技」カテゴリにあるので、他の炎技とは別枠で考えた。
ポケモンカード等の扱いからすると、「(未定?)」のどちらかは「ほのおのうず」の可能性が高いが、
本題からは外れるので深くは取り扱わない。

ちなみに炎タイプの技コードに関しては「ひのこ」「かえんほうしゃ」のみが隣りあわせで、「にらみつける」を含めて他の技はばらばらになっている。
そのため「ひをはく(仮)」があったとしても後付(番号が若いのは予備枠や廃枠を利用したため)だった可能性も指摘できる。
炎タイプに限らず、属性不特定のブレス技みたいなものだった可能性もある。

まとめ

「にらみつけるを覚えるポケモンが実は一番多い」いうところから始まり、
「しっぽをふると無駄に重複習得する例が多い」「そういう奴らは炎タイプと縁があることが多い」と芋づる式に繋げた結果、
それなりにつじつまの合う答えが出せたと思う。
あくまでもファンの想像の一つとしてお楽しみいただけたら幸いである。

余談あれこれ

注:本編よりさらに飛ばしてるので眉につばを付けてお読み下さい。

変化技以外に目を向けると、「はたく」と「かぜおこし」、「つつく」と「つばさでうつ」も完全同効果。
攻略本によると「かぜおこし」が飛行タイプ扱いだが、序盤のバランス調整のために変更されたと思われる。
(金銀では飛行タイプに変更された上で、ポッポの初期技がノーマルタイプの「たいあたり」に変更されている)
「つばさでうつ」の威力も攻略本では65と高めになっているが、これはどちらが意図通りだったか判断しかねる。

そもそも「にらみつける」の名前がついた後も、効果は防御ダウン以外だった可能性もある。
憶測の上での憶測なのできりがなくなってしまうが、敢えて予想するなら「相手を麻痺させる」効果だと思う。
まず、「にらみによって動きを封じる」というのは古今東西にありふれたモチーフである。
RPGでも定番だし、日本語にも「射すくめる」なんて動詞が存在するくらいだ。
そして、製品版で「にらみつける」と「相手を(追加効果以外で)麻痺させる技」を同時に覚えるポケモンは、アーボ・エレブー・ミニリュウの三系統のみ。
そのうちエレブーを除く2系統は、自力で麻痺技(「へびにらみ」「でんじは」)を覚え、エレブーもマシンならば覚えられる。
順番としては「麻痺技としての(旧)にらみつけるを設定」→「覚えるポケモンの数に対して効果が強力すぎた」→
「無難な防御ダウン効果変更。もともと麻痺技を使わせたかったポケモンには別の技を付与」という流れとなる。
その場合、「へびにらみ」は「(旧)にらみつける」の効果をそのまま受け継いだ技かも知れない。

ガルーラ等はともかく、ケンタロスが火を噴くのは不自然と思われるかも知れない。
しかしファンタジーにおいては「ゴーゴン(ゴルゴン)」という高熱のブレスを噴く雄牛のような姿のモンスターが定番だったりする。
一見するとポケモンの世界観からかけ離れたモンスターに思えるかも知れないが、
実はポケモンの雛形として、『ウィザードリィ』風の、ダンジョンRPGのような世界観が用意されていたことは各種書籍で明らかになっている。
「ケンタロス」は名前からして「ゴーゴン」と同じギリシャ神話由来なので、キャラ設定時に意識した可能性はある。
 「ゴーゴンのブレスや睨みには石化能力があるとされる(ゲームではバランスの都合で麻痺にグレードダウンされることもある)」
 「一般的なRPGにおける”睨み”系の技は、麻痺や石化を与えることが多い」
という点から、こじつけの域だが「(旧)にらみつける」と「ひをはく(仮)」のミッシングリンクとして関連付けられなくも無い。

上記の麻痺ブレスに関連して、掲示板で『ドラゴンクエスト』シリーズの「やけつくいき」と関連付ける指摘があった(夏さんから)が、こちらに関しては名前に反して炎や熱の要素は薄い。
(漫画『ダイの大冒険』では「ヒートブレス」と呼ばれていた熱攻撃なのでその印象も強いだろう)
例えば初登場である3では、火に弱い骸骨型のアンデッドである「地獄の騎士」の専用技となっている。
続く4でも牛(アークバッファロー)、ミノムシ(悪魔の巣)、エイ(レイギガース)、悪霊(フェイスボール)、魔道士(ブラックマージ)といった雑多な面子が使う。
5になるとようやくフレアドラゴンや、味方としてはマッドドラゴンやグレイトドラゴンも覚えるようになって炎っぽさが出たが、
シリーズ定番の水棲生物で火とは全く関係ない(しかし麻痺使いの代名詞ではある)「しびれくらげ」が使うようになっている。

炎タイプのうち、ポニータ/ギャロップは「にらみつける」「かえんほうしゃ」を両方とも使えない唯一の系統。
もしかすると開発中のある段階までは炎タイプでは無かったのでは?という疑惑が浮上。

「まるくなる」と「かたくなる」は、PPが異なる以外はタイプ含めて全く同じ効果にも関わらず、イシツブテ/ゴローン/ゴローニャが重複習得する。
しかもPPが低い劣化版であるはずの「かたくなる」を後に覚える。
単発でも、Lv49で最後に覚えるキングラーのように意味不明な設定も散見される。
こちらも「技データ差し替え→覚えるポケモン据え置き→覚えるポケモン別途追加」のパターンの疑いが強い。
しかしサンプルが少ないので「元がどういう技だったのか」の想像が難しく、今回は深く扱わないことにした。
敢えて予想するのであれば「脱皮」的なモチーフの強化や回復の技だろうか。
攻略本によるとポリゴンがLv28で覚えることになっていた(製品版では「じこさいせい」になっている)のが怪しい。

「後の世代における自力技の剥奪」として紹介したシャワーズの「しろいきり」は、金銀より一足早くピカ版の時点で覚えなくなっている。
しかし実は、ピカ版でもデータの上ではLv42で習得することになっている。
普通にLvを上げると「くろいきり」しか覚えないが、育て屋でLvを上げれば両方とも覚えられるのである。
これに関しては初代ポケモンの技習得プログラムの欠陥(金銀以降のように「1回のLvアップで複数の技を覚える」ことができない)
に気付かずに同Lvに設定してしまったためと見られる。
途中でミスに気付いたのか、攻略本では「くろいきり」のみを覚える仕様だったことにされてしまっている。
そして攻略本に掲載された仕様をベースにしたのか、金銀以降でも覚えられない設定が継承されてしまった。
実用性はともかく、イメージ上は実にシャワーズらしくて様になる技だというのに……
金銀ではウパー(ヌオー)がこれら2つの技を同Lvで習得するが、本来はピカ版のシャワーズでそうなるはずだったのである。
なお、「同Lvで複数の技を覚える設定」自体は、赤緑の頃からいくつかの基本技で例が見られる。
これならば予め覚えた状態で出現するので、手元でLvアップさせたときに覚えられるか否かは無関係になる。
以上、「にらみつける」とは何の関係もないが、他にページを作るほどでもないのでここに書き置く。

技の剥奪に関して、「初代にも金銀にも技マシンが存在するのに、金銀では覚えられなくなった」例としては、
ラプラスの「ソーラービーム」が比較的有名。
マイナーな例としてはカブトの「なみのり」(カブトプスはOK、また第三世代以降は普通に使える)が挙げられる。
世代をまたぐ例としては「リフレクター」が多数のポケモンから剥奪されていることはよく知られている。

関連するかも知れない動画

「ファイヤーのにらみつける」に関する考察。こことは別の角度から例の技を分析している。一見の価値アリ。
注:動画UP主と、このページの作成者は無関係。このページの作成中に見つけたのでネタが被ることを承知で紹介。

http://www.nicovideo.jp/watch/sm31166425


技の剥奪に関する指摘:Clove_hammerさん

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