「ゴキブリ軍団大進撃!」
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第2話「レアカード」
 積み上げられた漫画の雑誌、壁という壁に貼られた水着アイドルの写真、ぶちまけられたままのおもちゃ箱からは、タイヤの取れたミニカー、腕がちぎれそうな人形、ボーリ ングのピンが3本、びーだま、ふにゃふにゃにふやけたカードなどが飛び出していた。お菓子の袋が散乱して、菓子くずが絨毯の上にこぼれていた。部屋の奥に落ちているお菓 子の袋が、ひとりでに動いたような気がするが気のせいだろうと思った。細長いひものような物が数本飛び出ていて、そよそよと動いているのも気のせいだと思った。ここはオ マチ城下町、貧乏長屋の屋根裏部屋、どんじゅうろうの部屋である。なーことじょたは、どんじゅうろうの家に遊びに来たのだった。
 「なんだかすごいね。」じょたは周囲を眺めると座布団に座った。ぱりりという音がした。お菓子をふんづけたらしい。なーこもじょたの隣に腰掛けると、足元を気にしても ぞもぞとしていた。「ところで、さっき言ってたおもしろい話ってなにかなぁ。」どんじゅうろうが菓子の袋に手を突っ込みながらなーこに話しかけた。なーこはどんじゅうろ うを一瞬にらむと、じょたの方を向いた。じょたは、いつもどおりぽやーっとしたような、呆けた顔をしてなーこを見つめ返している。これからなーこの悪巧みで、きりきりま いさせられるとは夢にも思っていないだろう。
 「昆虫採集をするんだよ。」なーこが男の子のような口調で言った。「オマチにはヘラクレスオオカブトムシはいないよ。あ、それから、ゴキブリを捕まえてカブトムシとい うのはもう無しだからね。」じょたがすばやく釘をさす。なーこは顔色一つ変えずに話を続けた。「これ、学校の図書館で見つけたんだ。」そう言うと彼女は、バックの中から 羊皮紙の束を取り出した。そこには、なにやら地図とメッセージのようなものが書かれていた。
 「773オオクワガタ[クワガタムシ科]α−丑寅。843アオタマムシ[タマムシ科]α−辰巳、767オオムラサキ[タテハチョウ科]α−戌亥、79オニヤンマ[オニヤンマ科]α −未申。これ、ひょっとして。」「そう、あんたが集めてるカードの事みたいなのよ。」どんじゅうろうは、興味無さそうにばりばりとスナック菓子を食べている。「あ、αって アルファリングのこと?」じょたは完全に舞い上がっている。「多分そうだと思う。」「丑寅とか、辰巳って・・・」「方角よ。丑寅というのは、東北東のことよ。辰巳は南南東 、戌亥は北北西、そして未申は西南西の事ね。まぁ、12方位だから4方位の間をとってもぴったりとは合わないけど、大体その方向よ。」
 「すぐ探しに行こう!」じょたはすばやく立ち上がると、なーこの手を引っ張って部屋を出て行こうとした。お?少し元気になったじゃなぁい。なーこは内心ほくそえんだ。「 ちょっと待ちなさいって!」なーこは、じょたの背中をむんずとつかむと、力ずくで座らせた。「いい?あわてちゃぁだめなの。その羊皮紙の裏側を見てご覧なさい。」カード番 号と昆虫の名前が書かれたカードの裏側を見ると、詩が書かれていた。「このカードは、私が借りた本の隙間に挟まっていたのだけれど、多分私以外の人もこれを見ていると思う 。」「なんだぁ、じゃぁもう見つけられているよ。」じょたは、急速に気持ちがなえてしまった。「じょた、あなたのカードアルバムを貸して。」なーこは、半ば奪い取るように じょたの昆虫カードアルバムを開いた。このアルバムは、菓子メーカーが出版している魔道アイテムで、集めたカードを入れると昆虫が動き出したり、鳴き出したりするのである 。そして、優れた機能があって、そのカードが誰の手にも渡っていない場合は、というよりもアルバムに収められていないカードは、ポケットが光るので分かるのだ。「カードポ ケット79オニヤンマ・・・未、767オオムラサキ・・・未、773オオクワガタ・・・未、843アオタマムシ・・・未!おぉ!やっぱりまだ誰も手に入れてないんだ!」「よかったわね 。それで次の問題が、この詩の内容なのよ。」
 2人は瞳を輝かせながら、頭を突き合わせて羊皮紙の裏側に書いてある詩を読み始めた。どんじゅうろうも、ようやく文字通り重い腰を上げて羊皮紙を覗き込んでいる。さて、3 人で文殊の知恵が出せるでしょうか?
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