「Funny World 番外編」
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第10話「赤ちゃんの巻」
 北の大陸の東の果てには、おぞましき魔物どもの国がある。その国の名はカール帝国といい、ファニーワールドの常識ある人物であれば、あえて遊びに行こうなどとは思わない 、呪われた土地である。首都バウムクーベンには鉄道が敷かれていて、唯一これが外国と連絡している陸上交通機関となっている。この列車は、大陸横断鉄道の支線なのであるが 、主に貨物線として利用されており、たまに走っている旅客列車には、あまり程度のよろしくない者たち乗っていて、怪しげな薬を売買する場所として利用されたりしていた。ま た、乗客はおおむね人にあらざるものが多かったが、これはカール帝国の人口比率からすると至極もっともなことであった。したがって、列車内での犯罪は後を絶たないわけであ り、殺人事件なども珍しくはない。しかし、そんな犯罪慣れっこのカール帝国民さえも震撼させる事件が起きつつあった。

 真っ暗闇の中を水平に流星群が移動していた。一本の帯のようにも見えるその流星群は、近づいてみると大陸横断鉄道の車両であった。その列車内に、新婚旅行の帰途に就く夫 婦がいた。個室で何事か語り合っていた夫婦は、何か金属的な音を聞いたような気がして周囲を見回した。そして、部屋の隅に光る小物を発見した。

「こんなところに指輪が落ちている。誰かが忘れていったのかしら。」

女は、金の指輪を拾い上げると、しげしげと眺めた。ほっそりとしたリングにはひねりが加えられていて、そのひねりの片面には小さい文様が刻まれていた。よく見ると、それは 文様というよりは文字であるが、誰かの名前を記念に彫りこんだというものではないようであった。

「車掌に渡しておこう。」

 男は、興味なさそうにぼそりとつぶやいた。女は、なおも指輪を光にかざしてみていたが、やがて自分の指にはめて、輝きにうっとりしたり、感触を確かめたりしていた。

 翌日、寝台列車が王都バウムクーベンに到着したとき、新婚夫婦のいた車内には妻の姿は無く、夫のパーツが分散していた。そして、壁にはヴォルトと読める血文字がしたため られていた。後々、連続殺人鬼と呼ばれることになるヴォルト最初の事件であった。
 奇妙な二人連れが町を歩いていた。道行く人の二人に一人が振り返るが、それには二つの理由があった。前を歩く少女の美しいことがひとつ。そして、その後ろに続く少年が、 ほっそりとしたその少年が、自分の身長の2倍くらいはありそうな荷物を背負っていたからであった。少女の名はシェリル・フル・フレイム。亡国の姫君である彼女は、カール帝 国の知人を頼ってこの土地にやってきていた。祖国再興のため、スポンサーを見つけ、人材を集める予定なのだが、なかなかはかどっていなかった。それは、この国の監視がつい ているからであり、彼女は知る由も無いが、そもそも彼女の国を滅ぼしたのはカール帝国なので、再興の援助をするつもりは無いのである。もう一人、ほっそりとした少年は、南 の大陸出身のじょたという名で、黒というよりは濃紺かかった前髪は額にたらしていて、華奢な体にはそぐわない長剣を背負っていた。その奇妙な二人連れ、我らがヒロインと主 人公がやってきたのは、王都バウムクーベンの街中に忽然と現れた森であった。
 「絶対に怪しいわ。」

 長い黒髪を後ろに結んだ色白の少女が言った。彼女は、くるりと振り返ると、ボディーガード兼、ポーター兼、雑用係のじょたが近づいてくるのをしばらく待った。彼は、リュッ クを左右に揺らしながら、はぁはぁと荒い息をついて歩いてきた。

 「何が怪しいって?」

 じょたは、片手で額の汗をぬぐうとシェリルにたずねた。

 「ここで、見たのよ。」

 「何を?」

 「あの、いまいましいヴァンパイアよ。」

 彼女の言っているのは、ヴァンパイア少女のチャイムのことだろうとじょたは思った。このチャイムとシェリルは犬猿の仲であり、その理由はニブチンのじょたには良く分から なかったけれど、とにかく会えばしょっちゅうけんかしている二人だった。よく、けんかするほど仲が良いというけれど、けんかすればほとんど相手が失神するくらいまで肉弾戦 をするというのは、やっぱり仲が悪いからだろうとじょたは思っていた。今までの対戦成績は10−0で、すべてシェリルのKO勝ちであった。物理攻撃の効かないヴァンパイア を素手でしとめるというのは信じられないが、事実は小説よりも奇なりなのであった。

 「へぇ、チャイムがここへ来ているんだ。何があるんだろうね。」

 じょたは、ようやく息が上がっていたのが楽になって、襟元を直すとシェリルにそう言った。

 「ふふふ、じょた。ここがどんな場所だか知らないのね。」

 シェリルは勝ち誇ったように言った。彼女は、腕組みするとニヤリと笑って言った。

 「ここにはね、子宝に恵まれたい人が訪れる神殿があるのよ。ね、怪しいでしょう?」

 そう言うと、彼女はフフフと笑って森の奥へと歩いていった。
 「あら?シェリル。どうしたの?こんなところで。」

 森の奥には神殿があって、その前には予想通り、ご期待通りヴァンパイア少女のチャイムがいた。シェリルは、先手を打つつもりだったのが後手に回ってしまい、ちょっとうろ たえた。

 「あ、ひょっとして…」

 チャイムはにやりと笑った。出鼻をくじかれたシェリルは、体勢を立て直して思った。おかしい、追い詰めるのは私のはず。

 「じょ、冗談じゃないわ。どうして私がじょたとなんか。」

 「え?違うわよ。あのファンとか、ネルとかいう男のことよ。」

 「あ、あぁ、そうね。ファンネル。そう。でも、違うの。」

 シェリルは、2度にわたってチャイムに負けてしまうと、ちょっと意地悪になって言った。

 「ヴァンパイアって、子供ができるのかしら。」

 チャイムは、むっとしてシェリルをにらみつけた。

 「私たちは通常のアンデッドではないの。どちらかというと魔族といったほうがいい。だから子供もできるんだけど、不死身の肉体のせいか、出生率はかなり低いわ。人間のよう に、ぽんぽん産むわけにはいかないのよ。それと、勘違いなさらないようにひとつ言っておきますが、産むのは私ではなくて私の母です。私は護符をもらいにきただけです。」

 「兄弟ができるんだ。それはおめでとう。」と、じょた。

 「ありがとう。あなたの義理の弟か妹になるのよ。」と、チャイム。

 ウインクするチャイムに、じょたは一歩後退した。

 「それじゃぁ、僕もコウノトリの神様にお願いをしていこう。」

 「「ん?」」

 じょたは、背中の荷物と長剣を降ろすと、神殿の方へ歩き始めた。

 「あ、じょた。気持ちはありがたいんだけど、ここへはいつかあたしといっしょに来ましょう。それに、ここはコウノトリの神様がいるのではなくって、その、…いつか来たとき に話すわ。」

チャイムは、柄にもなくちょっと照れながら言った。

 「ふーむ、コウノトリではないとすると、…ふくろうかな。」

 「じょた、ボケるのもいい加減にしなさい。ここは、本当に悩んでいる人たちが来る場所なのよ。」と、シェリル。

 「だから、コウノトリさんにお願いして。」

 じょたがそう言うと、シェリルとチャイムは、思わず顔を見合わせた。そして、チャイムがニヤリと笑って言った。

 「付き人の教育がなってないんじゃない。なんなら、あたしがみっちり教育してあげてもいいのよ。」

 「そんなの、だめっ!」

 じょたは、きょとんとして彼女たちのやりとりを眺めていたが、ややあって言った。

 「ほら、赤ちゃんはコウノトリさんが運んでくるから。」

 チャイムが、ぷっと吹き出した。シェリルは、苦虫を噛み潰したような顔をすると、じょたの胸倉をひっつかんで言った。

 「おぉ、こぉ、ちゃ、まぁ、はぁ、だまってなさい。」
 小高い丘の上に古びた洋館が建っている。その洋館の一室で、今まさに新たな命が誕生しようとしていた。頭でっかちの産婆さんに取り上げられた赤ちゃんは、まばゆい光を上げ ると元気に泣き出した。はたから見ると、お化けに驚いた子供が泣いているように見えるが、まさしくお化けの産婆だから感覚どおりでいいわけである。

 「女の子ですよ。とっても、魔道力の強い赤ちゃんですよ。」

 お化けの産婆が言った。ヴァンパイアの母親は、やはり不死身とはいえ疲労するのか、汗をかいて少し荒い息をしていた。子供の名前は、マイアと名づけられた。そのマイアが、 何者かによってさらわれてしまったのは、彼女が生まれたその夜のことであった。
 じょたは、その夜バウムクーベンの駅にいた。誰だったか、お偉いさんの見送りをして、その後残っていろいろと後片付けの手伝いをしていたのだ。

「…ですか」

 「え?」

 じょたは声のしたほうを振り向いた。しかし、人気のなくなったプラットホームには、普段からほとんど人が訪れることの無いプラットホームには、じょた以外の人間は誰もいな かった。彼は、突如なんの脈絡も無く、居候の小間使いは、こんなことまでしなければならないのか?と思ってみたりした。こういうのは専門の人がいるんじゃないかなぁ。とも思 ってみたりしたが、むなしいだけなので彼は清掃を続けた。

 「あなた、…ですか?」

 「はい?」

今度はさっきよりも近くで声がした。ぞくり。彼は背筋が寒くなった。ここは、呪われた国カール帝国なのだ。こんな夜更けの駅ならば、何が起こってもおかしくはない。じょたは 、ゆっくりと背後を振り返った。やはり、終電が終わったプラットホームには人っ子一人いない。ただ、風の音に混じって、かすかに赤子の声がするような気もした。確かに人の声 がしたのに、と思って清掃を続けようとしたとき、目の前にいつのまにか女が現れた。
 「うひゃぁ!」

 「あなたが、この子の親ですね?」

 彼女は、うつろな目をしながら、じょたにそうたずねた。

 「いや、僕は子供なんていないけど。」

 「あなたが、この子の親ですね?」

 彼女は繰り返す。

 「だから、僕はまだ結婚していないし、子供なんて授かるはずも…」

 そのとき、じょたは気がついた。この女の人の服、なんだかただの赤色ワンピースじゃないような気がする。それに、このにおいは、血?

 「あなたが、この子の親ですね。」

じょたは、いつの間にか自分の両のかいなに、赤子を抱きかかえていることに気がついた。重い!?赤ちゃんって、こんなに重いの?僕の長剣くらいか、いやもっと重いかもしれな い。じょたは、自分の腕の中ですやすやと眠る赤子を見つめると、なんだかほんわかとした暖かい気持ちが満ちてくるのを感じた。
 「その子供の親はわしじゃよ。」

 またしても、背後から声が聞こえた。今度のは空耳じゃない。はっきりとした老人の声だった。彼は、その老人の声に、なんだかいやらしい響きがあるのを感じ取って、すばやく 振り向くとサイドステップした。赤子は両手で抱きしめていた。

 「その子供は、ずっとわしが目を付けていたものじゃ。だから、わしのものじゃ。」

 「邪魔をするものは排除。」

 赤いワンピースの女は、風のように老人に向かって突進していったが、かまいたちにでも遭遇したかのように、細切れになってホームに散らばり動かなくなった。

 「やれ、やれ。邪魔者は排除するようにプログラムしておいたのじゃが、まさかわしまで攻撃されるとはのう。バグかの。ふぉふぉふぉ。」

 じょたは、新米戦士見習いとしての勘と、臆病者としての本能を働かせると、女が攻撃を受けている一瞬のすきに、改札の方に向かって駆け出した。

 「逃がさんよ。」

 老人は、片腕を蛇のように伸ばすと、じょたの首を背後からつかみかかった。が、しかし、その枯れ枝のような手がつかんだのは、一枚の紙切れであった。それは、護符のようで あった。赤子を包み込んでいるシーツに、まだ何枚か挟まっているそれは、バウムクーベンの神殿で手に入れた、ヴァンパイア少女のチャイムが手に入れた護符であった。

 「チャイム、ありがと。」
 じょたは、すばやく無人の改札を通り抜けると、デッキに向かって走った。バウムクーベンの駅は、駅前のロータリーから階段を上って改札に向かうようにできていた。改札は地 上5階くらいの高さにある。じょたは、改札を飛び出ると直角に曲がり、階段を下りようとした。が、できなかった。

 「なんだこりゃぁ。」

階段からは、白く細長い手が何千何百と生えていて、うにうにと何かを求めて動いていた。この中に駆け込んだら、その手が求めている何かと自分自身が間違えられる可能性は大で あろう。というより、この手が求めているのはじょたであり、じょたの抱きかかえている赤子であるということは、想像に難くない。そのとき、じょたはひとつ気がついたことがあ った。手が伸びているのは階段からであって、手すりの部分は全く問題なさそうなのだ。手すりの幅は15センチくらい。5階から転落したら、ただではすまないであろう。じょた は、一瞬躊躇したが、腕の中ですやすやと眠る赤子の顔を見ると、やはり胸の奥に暖かい感情が広がってきた。迷っている場合ではない。

 じょたは、手すりによじ登ると、その上を歩いて下り始めた。すると、階段の手も状況を察知したのか、するすると伸びて彼の足を捕らえようとした。じょたは、今はもうダッシ ュして手すりを駆け下りていた。あの、老人のかまいたちのような攻撃を避けることは難しい。長剣を持っていないということもある。捕まったら終わりだ。そのとき、階段の手す りの先に、小柄な人間の姿が見えて、じょたは絶望を感じた。あの老人であった。どうやってそこにやってきたのかは分からないが、あの老人が階段の下でニタニタと笑っているの だ。じょたは覚悟を決めた。
 「うぅ、おぉぉぉー!」

じょたは、雄たけびを上げつつ手すりを駆け下りた。階段の下では、老人がご丁寧に手すりによじ登って待っている。じょたは思い出していた。あの老人が女を切り刻む時の間合い を。その間合い以上の距離を確保すれば、恐らくあの一撃を食らうことはあるまい。しかし、そのためには、少なくとも3階くらいの高さから飛び降りる必要があった。

 「それっ!」

 じょたは、ロータリーの方に向かってジャンプした。タクシー乗り場の屋根に向かって。届かないかもしれないと思った。自分の跳躍力と、赤子を抱えているということを考慮 すれば、乗り場の屋根に到達するよりも、地面にたたきつけられる可能性のほうが高かった。が、彼は空を泳ぐようにして乗り場の屋根にたどりついた。助走をつけたのが功を奏 したのかもしれなかった。しかも、ショックは屋根が吸収してくれた。そしてもう一回。今度は地面に飛び降りた。石の舗装のためか、今度は両足にかなりの衝撃がかかった。彼は 、つんのめると前方に転倒した。両手は赤子を抱いているから離せなかったので、額が地面に激突した。でも、そこまでだった。シューターが一台もいないのである。彼は、頭を 打ってふらふらになりながらも、駅から遠ざかろうとした。早く、逃げないと。赤子を包んでいたシーツが血に染まっていた。その染まり具合を見ると、額からの出血はかなりの もののようであった。
 だめか。じょたがそう思ったとき、一台のシューターが唸りを上げて突っ込んできた。そして、シューターの後部ドアが開くと、見慣れた顔が現れた。

 「じょた!早く、乗って。」

 それは、シェリルであった。じょたは、よろよろとシューターに近づくと、後部座席に倒れこんだ。シューターは、すばやくその場で反転し、ほとんど飛ぶようにその場を離れ た。彼らが去った後の駅は、何事も無かったかのように静まり返っていた。

 「シェリル、…よく、…僕の、…居場所が、…わかった、…ね。」

 じょたが、途切れ途切れに言った。

 「遅いなぁって、思ってた。多分、何か、押し付けられているだろうと、思って。」

シェリルは、左腕をじょたの頭の下にまわし、右手で彼の額の怪我をゆっくりとなぜてやった。彼女は、チェロンのお姫様で、子供のころから癒しの能力の訓練を受けていた。いわ ゆる、ロイヤルタッチというものである。この能力が使えないと、王族としては認められないのだ。

 「おかしな結界が張られていたし、その護符のおかげで、場所ならすぐに分かったのよ。」

 運転しているチャイムが言った。あぁ、あの、すごいターンは、やはりチャイムのドライビングテクニックだったのか、とじょたは思った。

 「赤ちゃん、…怪我、…してなぃ?」

 だんだんと睡魔に引きずり込まれつつあるじょたが言った。

 「大丈夫よ。」

 さすがは魔族の子だからか、それとも肝っ玉が大きいのか、赤子は泣き出すこともなく、すやすやと寝息を立てていた。じょたは、それを眺めているうちに、ゆっくりと眠りの底 へ沈んでいった。彼は夢を見た。自分に子供が授かった、という夢であった。そして、自分の傍らにいて、自分を励ましてくれている人は…。
 「じょた、私もちょっと、疲れちゃったよ。」

シェリルは、じょたの頬を抱えると、ゆっくりと唇を重ねた。しばらくすると、シューターの後部座席からは、きっかり3人分の寝息が聞こえてきた。ルームミラーで後ろを見た チャイムは、シェリルとじょたが赤子を真ん中にして眠っている、しかも顔を寄せ合って眠っている、というシチュエーションに激しい怒りを覚えた。

 「…シェリル」じょたが、ぼそりと寝言を言った。

 「はいはい、分かった。分かりました。今日のところは、あたしの負けにしといたげるよ。シェリル。赤ちゃんも助けてもらったし。…しかし、あの結界のヌシ。一体、何者なの ?」

チャイムは、アクセルをぐんとふかすと、人通りの無くなったバウムクーベンの通りを、屋敷に向かってシューターをすっとばした。
 銀色のシューターが、唸りをあげて通りを疾駆していくと、浮浪者が驚いて道の脇に転がっていった。だが、彼はシューターに驚いたのではなかった。シューターの上に老人が乗 っているのを見て驚いたのだ。

 銀色のシューター、チャイムの運転する暴走シューターの上に乗る老人こそ、駅で女を惨殺し、じょたを追い詰めた張本人、ヴォルトであった。いや、正確に言うならば、ヴォル トの怨霊によって操られた老人であった。彼の右手には金の指輪がはめられており、その指輪の怨念によって老人は操られているのだった。

 老人は、左手の手のひらから、刃渡り90センチくらいの剣を抜き出すと、あたかも剣のさやから剣を抜くかのように、手のひらから剣を抜き出すと、その剣をまっすぐ振りか ぶり、狙いを車の中のじょたに定めて刺し殺そうとした。老人には、車内のじょたたちのようすが、手に取るように分かっているのだ。が、一瞬の間をおいて、老人の動きが止ま った。彼は見た。じょたとシェリルから、赤子に何らかのエネルギーが注ぎ込まれ、エネルギーがどんどん強くなってゆくさまを。それはあたかも、二人の愛情が赤子に注ぎ込ま れることによって、赤子が成長してゆくことをあらわしているかのようであった。

赤子が二人のエネルギーを吸収しているのかもしれない、そのような能力を持っているのかもしれないと老人は思った。それならば、もう少し様子を見たほうが良いかもしれぬ 。彼は、ゆっくりと剣を左手の中にしまった。

 「よかろう。今回はお前さんのガッツに免じて見逃してやろう。」

 老人は、夜の闇に溶けるように消えてしまった。シューターは唸りを上げ、闇の中を疾駆していった。
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