「Funny World 番外編」
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第7話「夜汽車の巻」
 暗闇の向こうから、白い顔をした少年がこちらを睨んでいました。少年は、流れる闇の中にぼんやりと浮かんでいて、ユラユラと揺れ動いていました。彼は、よく見ると顔中 あざだらけで、ところどころ傷口のかさぶたが剥がれかかっているところもありました。
 僕は、ぐらぐらと揺れる列車内から、漆黒の世界を眺めていました。時折、真っ赤な遮断機が火の玉のように通り過ぎて、ガラスに映る白い少年の顔を血まみれに照らし出しま した。僕は、夜行列車に乗って病院へ向かっていました。手術を受けなければならないのです。体中がずきずきと痛みます。顔のあざも病気のせいだと思うのです。早く手術を 受けなくちゃ。ガラスに映る白い顔は、緊張してこわばり、鬼のような表情をしていました。目が、怖い。目の周りに黒い縁取りをしているように見える。本当に自分の顔なの かな?
 いつの間にか、闇の中に浮かんだ少年の横に、きれいな女性が現れていました。ロングヘアのその女性は、ガラスの少年に二言三言声をかけると、少年の頭をなぜていました 。僕は、この女性が好きだったように思います。でも、誰か、もっと大好きだったひとがいたような気がして、でも、どうしても思い出せなくて、ひどくもどかしかったのでし た。
 そのとき、ふと病院の先生の言葉を思い出しました。「…君の、…手に負えない。」ガラスの中の少年は、ロングヘアの女性の肩に頭を寄せてうっとりと目を細め、先ほどよ りは人間らしい表情になっていました。「…は、私の手に負えない。」なんだっただろう。よく思い出せない。病気のせい、きっと病気のせいなのです。早く手術をして、良く ならなくちゃいけない。ガラスの少年は、ロングヘアの女性を抱きしめようとしたけれど、できないようでした。体が動かないんです。腕がぎしぎしといって、全く動かないん です。まるで金縛りにでもあったかのように。
 いつの間にか、僕の目の前には少年の代わりに白衣の先生がいました。僕は、その先生と握手しようとして、手を差し出しました。すると、その右手の先から、なぜか細長い ダガーが伸びて、そしてそれは先生の白衣の左胸に吸い込まれていきました。一瞬の後、真っ赤に染まった白衣を見ている僕の体に激痛が走りました。何人かの男たちが駆け寄 り、僕を棍棒で殴るのです。「君に、…とり憑いたものは、私の…、手には、…負えない。」そう言うと、白衣の男は絶命しました。
 気がつくと、僕は薄暗い部屋の床でうつぶせになっていました。体は縄で縛られていて、口には猿轡がかまされていました。しばらくすると、ドアの向こうからこつこつとい う足音が聞こえてきました。その足音で思い出したのです。僕の体にとり憑いたいやらしい霊のこと。そして、あの足音の主のせいで、また全てを忘れた状態になってしまうこ と。いや違う、手術をすれば治るんだ。僕の病気は。お願い、誰か僕を手術して。僕を助けて!
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