「Funny World 番外編」
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第4話「銀色のローブの巻」
 周囲が真っ白になって、いつもの面々のシルエットが見えたと思ったら、即座に辺りが震えるくらいの大音響が鳴り響きました。ざあざあと降る雨を避けて、民家の軒下に避 難した僕たちは、ただぼんやりと雨の向こうを眺めていました。どん、きゅら、きゅらきゅら、どん、きゅらきゅら。どん、きゅら、きゅらきゅら、どん、きゅらきゅら。雷太 鼓の狂ったビートは、僕の心臓を締め付けて、魂を黄泉の国に連れて行かんとしているようでしたが、僕の女神様、いや亡国の姫君シェリル・フル・フレイムの、憂いを含んだ 透き通るような横顔を見つめることによって、僕はなんとか命をこの世につないでいたんです。
 「やっぱり私のシューターで来るべきだったわね。」ヴァンパイア少女のチャイムがぼそりと言いました。「ワシャー、悪くない。わしゃー、悪くないんだ。」その向こうで 、背の低い、ちょっとオヤジ顔の男、ゴウ・ウエストが大声でわめいています。彼は、最近富クジで儲けた金で新しいシューターを購入したので、今日は皆でドライブをしてい たのでした。「これが、ワシのメテオ・ドライブじゃよ。」「ダサ」にこにこ顔で自分の新車、新車?と思われるオーロラ・シューターを自慢するゴウの横で、チャイムがそっ ぽを向いて感想をぼそりと述べました。ゴウには悪いけど、彼女の感性はかなり正しいです。っていうか、これ本当に新車ですか?ドアを開ければ、そのまま扉が外れてしまう し。「ちょっとユルイんだよ。」ハンドルはガタガタいってるし。「ちょっとユルイんだよ。」ブレーキはあんまり効かないし。「ちょっとユルイんだよ。」って、それはない だろ!絶対危ないって!それに、この車、なんだかいやな雰囲気だよ。「よし、じゃぁ、みんな逝こうか?」ちょっと、まてーっ!!シェリルまでそんなこと言って!君の頭も ユルイんですか?っていうか、今の字間違ってない?そのあと、シェリルの一言で、僕はまた嫌な予感がしてしまったんです。「あれ?変ね。さっきまで乗っていた人、どこに 行ったのかしら?」シェリル、…誰も乗っていませんでしたよ。
 スッポン!というコルクの抜けるような音がした後、猛スピードで飛ばすシューターの中で、「あじゃー!!」っと素っ頓狂な声を上げたのはゴウでした。僕は彼に尋ねまし た。ゴウ、どうした!?「は、ハンドルが、ハンドルが。」ハンドルが?「抜ぅけたぁー!」彼は、引っこ抜けたハンドルを僕に見せ付けました。僕にどうしろと?きゃぁー! !僕は、地球が3回転半するのを感じて、それでも地球は回っていると言った天文学者は誰だっけ?なんて意味不明な事を考えていました。次の瞬間、目から火花が出て、僕た ちはシューターから吐き出されました。まるで、スイカの種を飛ばすようにです。ん、ぷって。シェリルとチャイムは、田んぼの真中で尻餅をついて、お互いに腕を引っ張りな がらののしり合い、必死に立ち上がろうとしていました。ゴウは、まだ必死にハンドルを握りしめながら、何か声にならない声をだして、クチをパクパクさせて座り込んでいま した。「あたーぁ、あたーぁ。」
 また雷がひどくなりました。僕たちは、相変わらずぼんやりと雨の向こうを眺めて、立ち尽くしていました。「もう、帰ろうよ。」いつになくしょんぼりとしてシェリルが言 いました。そして、また決定的なことをおっしゃったのです。「走っている車の中でハンドルの整備をするなんて、やめてもらったほうがいいわよ。さっきの人に、ちゃんと言 っておいてね。」…さっきの人って、誰ですか?僕は、やっぱり、背筋がぞくりと寒くなるような不気味な雰囲気を感じて、辺りを見回しました。どん、きゅら、きゅらきゅら 、どん、きゅらきゅら。どん、きゅら、きゅらきゅら、どん、きゅらきゅら。雷太鼓の狂ったビートとシェリルの不思議な能力は、確実に僕の寿命を縮めていきそうでした。そ のとき、僕はシェリルが銀色に光るシルクのローブを頭に被るのを見て、すばやく彼女からそれを振り払いました。危ない!!雷が落ちたらどうするんだ!「え?」シェリルは 、きょとんとした顔をして僕を見ていました。僕は言いました。だって、銀色のものには雷が落ちるだろ?「ふふふ」僕の後ろでチャイムが笑っていました。「じょた。あんた たち、けっこうお似合いのカップルじゃない。ふふふふふふ。」呆然とする僕の前で、チャイムはなおも笑い続け、ゴウは空に向かって何事か叫び、そしてシェリルは、僕の頭 にも銀色のローブをかけてくれたのでした。
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