「Funny World じょたの冒険」
Page 7
第3話「冬が訪れるの事」(その1)
 季節はもう秋。じょた達の活躍によって、建国の式典を無事乗り切ったオマチ城は、その後しばらく事件らしい事件は何もおこらず平和であった。大昔の魔道システムによっ て、太陽エネルギーが充分に供給されているオマチ高原ではあったが、季節の移り変わりによって、緑の植物たちも赤や黄色に色づき始めていた。森の中では、動物たちが越冬 の準備をするため、木の実を集めたり、暖かい寝床を確保したりしていた。
 近頃、城下町に不思議な旅人が訪れるそうである。その旅の男は、深緑の毛糸の帽子を被り、同じような色の襟巻きをして、熊の毛皮のコートを羽織り、灰色の毛皮のブーツ を履いていた。そして、オマチの民家を訪れては、もうすぐ大寒波が押し寄せ、植物が皆枯れてしまうので、食べ物をたくさん確保しておかなければならないと言うのである。 オマチは基本的に年中温暖な地域で、確かに冬になれば雪が降ることもあるけれど、春の訪れとともに大昔の魔道システムが働いて、雪は融けて水になり、水は肥えた土を運ん できて、常に豊かな作物が実ることが約束されていた。また、鉄馬車が通るようになってからは、常に北や東の港町から物資が運ばれており、冬の間の蓄えは、暖房用の燃料が 少しあれば充分なくらいであった。であるから、どこのものともつかぬ人間が突然やってきて、寒波が来るから備えをしろと言っても、信じるものはひとりもいなかったのであ る。
 じょた達が、その旅の男に出会ったのは、住宅が密集するアルファリングの小路でだった。いつもどおり城壁のくぼみに隠れて、4人で探険に出かける計画を立てていると、 その男が現れたのだ。「冬の時代が訪れる。家の人に備えをするように言いなさい。」いつからそこにいたのか、近づいてくる気配に気が付いたものはいなかった。まるで、突 然その場所に現れたかのようだった。じょた達は、一瞬言葉を失った。帽子と襟巻きの間から見える顔色は、薄黒いというより緑がかっていた。誰も言葉を発することも無く、 唖然としていると、男はくるりと振り返り、小路の先へ歩いて行き、曲がり角で見えなくなった。足音も無く、上体を揺らすことも無く、まるで空中に浮かんでいるかのように 、すーっと移動していったのだった。
 「あれが、今話題のアレだよ。ほら、あの。」シュウが言葉に詰まっていると、「お告げの人でしょう。」とじょたが後を続ける。「そう、それ、それだ。最初見た瞬間は、 人さらいかと思ったよ。」確かにそんな風に見えなくも無い。全体から受ける印象が怖かったから。「なむぅー、実は僕の仲間も同じような事を言っていたのね。この町を去る かもしれないと言っていたのね。寂しくなるの予感。」マルコは、風来坊な種族のヒトネコである。通常ヒトネコは、同じ土地に長く住むことは無いが、彼はこの古代遺跡のよ うな町並みを気に入って、10年くらい暮らしているのだ。その生活の殆どは、図書館通いと新聞の文字拾いのアルバイト、そしてじょた達と一緒に冒険に出かけることである 。「チャイムズベルのじい様は、何も言ってなかったみたいだぞ。」シュウが言っているのは、南の氷に閉ざされた町、チャイムズベルの長老のことである。この長老は、年甲 斐も無くひょうきんな行動をとる人なのだが、非常に物知りであり、皆から信頼されていた。氷の町で50年以上にわたって、天文、気象、生物などについて調べていて、大雨 や寒波が訪れる事が予想された際には、危険を知らせてくれていたらしい。「なむぅー、オマチの魔道システムに、変調が感じられると言っていたのね。コンキラトッピが言っ てたのね。彼女の魔道センスは一流だから、きっと間違いないの予感。」
 1匹の毛並みのつやつやした白いネコが、ストーブを焚いた部屋のソファの上に横になって眠っている。ストーブの上にはやかんがのっていて、口からゆらゆらと湯気を上げ ている。時々水滴がやかんの口からこぼれだし、しゅん、しゅんという音を立てて蒸発している。ネコが耳をピクリと立てた。目は閉じたままだ。ヒゲをひくひくと動かしてい る。しばらくすると、部屋の外を歩く足音が聞こえてきた。来客だ、ひとりではない。こつこつと扉が叩かれる音がする。しばらくして、またこつこつという音がする。ネコは 、尻尾をふりふりと動かして、寝返りをうったが起き上がる様子は無い。住人は留守なのだろうか?
 「なむぅー、そんなの開けちゃえばいいの予感。」耳障りな声。白猫は、不機嫌そうに目を開けると、金色の瞳で扉をにらんだ。「ごめんくださーい。」扉を開けて入ってき たのは、青い髪の少年だった。ぐるぐるぐる、ネコが喉を鳴らしている。「誰もいませんか。」少年の後ろには、見慣れた醜いヒトネコの姿。白猫は、うーんと伸びをすると、 ソファの上にお座りをした。「誰もいないみたいだぞ。白いネコが一匹いるだけで。」白猫は、少年が戸惑っているのを見て、少しいたずら心を起こした。まだ、だまって何も 言わないでいてやろう。いつ気が付くかしら。「なむぅー、そんなこと無いのね。そこにいるのね。」余計なことを。「ちょっと、いつまで扉を開けっ放しにしておくつもり。 寒いじゃないの。」「うわ、ネコがしゃべった。」「なむぅー、僕もネコなのね。」「醜い姿。」白猫は、ぷいっと横を向いてしまった。「ひょっとして、コンキラトッピさん ですか?」じょたが驚いてい尋ねると、「そうよ、私がコンキラトッピ、何か問題あるかしら?」横を向いたまま瞳だけじょたの方を見る。「いえ、いつもマルコを見慣れてい るものですから。」「かわいそうね、そんな醜いものをいつも見なければならないなんて。ところで扉を閉めて、中に入ってくださるかしら。私は寒いの苦手なのよ。」
 じょた達は、部屋の中に入るとストーブの周りに腰をおろした。床には、毛の長い絨毯が敷かれており、お客さんが座る場所には、綿の入った座布団が敷かれていた。部屋の 広さは12畳くらいで、陶磁器が入った戸棚、分厚い本の詰まった本棚、クローゼットがそれぞれ1つ、やかんの載った石炭ストーブ、白猫が座っているソファ、ミニチュアみ たいな白いテーブルと銀のお皿があった。角がまあるい窓には、木の葉の柄の厚手のカーテンが下がっていて、ソファの後ろには、奥の部屋へと続く扉が一つあった。「ところ で、どんなご用件かしら。」ソファの上に座って、じょたの方を見ながら白猫が言った。なるべくマルコの方を見ないようにしているようだった。「実は、お告げの人のこと、 冬の時代が来るという事についてと、もうひとつは、オマチの魔道システムの変調について知りたいんです。」「なむぅー、この間トッピが言ってた事なのね。」「あなたには 聞いていません。」きっぱりとそう言うと、じょたに向かって「あの旅人は人間ではありません。山の精霊です。オマチの南にある山脈地帯、あの山々の精霊力が人間の形をと って現れたものなのです。」と言った。「そして、それはオマチの魔道システムの変調と関係があります。原因は私にも分かりませんが、最近、今年の春頃からかしら、空気の 匂いが変わってきたのを感じたのです。鉄の臭いのような、血の臭いような、嫌な臭いです。私は、オマチ城の尖塔に登って周囲の様子を調べてみました。臭いの発生する方向 は、北西の方角でした。」「西の尖塔かな?」シュウが言った。「いえ、ガンマリング程度の距離ではありません。もっと遠くの、・・・隣の大陸ではないかと思うのです。そ れと、これは人間の目では見ることが出来ませんが、北の空から不気味な真っ黒い雲が近づいてくるのが見えました。悪い魔道が近づいてきているようなのです。どうも、その 雲が近づいてきているのと、オマチの魔道システムの変調には何か関係がありそうなのですが、そこまでは私にも分からないのです。」そう言うとトッピは、白い尻尾をゆらゆ らと動かして、不安そうに窓の外を眺めた。風が出てきたのか、窓ががたがたと音を立てている。
 「そうすると、あの旅人、精霊の言うとおり、冬の時代はやってくるということですか?」じょたはトッピに尋ねた。「そうかもしれません。それに対して備えをするくらい しか、私たちにできることは無いのかも。」「あの、失礼ですけど、こちらにはひとりでお住まいですか?」「そうよ。あなたも一緒に暮らしたいのかしら。」トッピはいたず らっぽく、じょたに向かってにやりと笑った。「いえ、そうではなくてですねぇ、備えをするにしても、何かと大変なんじゃないかと思いまして・・・」白猫相手にしどもどな のは、はたから見ると滑稽である。シュウもトムもニヤニヤしている。「大丈夫よう、作業員ならそこにいるじゃない。」トッピはマルコを見て言った。「なむぅー、また買出 しに行くことになった予感。」「買出しもいいけど、今の季節なら山の中に行けば蓄えになるようなものは色々あるはずよ。あなた達も山に入って何か探してみたらどうかしら 。ベータリングの範囲内なら、それほど怪物に遭遇することも無いと思うけど。」じょた達は、トッピの話を聞いて自分たちの食料を、アルファリングの秘密基地に蓄えること にした。大人に言っても、ヒトネコが言った事など信用してくれる人は少ないからである。信じてくれるのは、チャイムズベルのじい様くらいのものであろう。「なむぅー、人 間は自分本位なのね。」
 じょた達は、わんぱくの森で木の実を探すことにした。長いさおを持って、木の上になっている実を叩いては、下に広げたシートの上に落ちてくる実を集めるのだ。時々、木 の上や草むらの中に隠れている魔物と戦闘になることもあった。じょたの装備は、腰にぶら下げたダガーと両腕に腕輪。腕輪は、マルコと異なり魔道の品物ではなく、一般のお 店で買える木製の安物である。金属製は高価なのだ。主に落ちてきた実を拾うのと袋詰担当である。シュウの装備は、片手持ちの幅広の剣に左腕には小さな盾がくくりつけられ ている。この間、3種の宝玉を発見したご褒美に、領主様からもらったのであった。パーティーの見張り兼戦闘要員であり、荷物運び担当でもある。トム君は、新しいスリング ショットとポケットに鉛球を数十発持っていた。役割はと言うと、・・・あちこちの草むらをつついては魔物を出現させていた。マルコニャンコは、長いさおを持って、木の上 のほうをめちゃくちゃにかき回しては、木の実と一緒に鳥の巣を落としたりして、鳥の攻撃を受けては逃げ回っていた。
 そんなこんなで、アルファリングの秘密基地に充分な蓄えが集まってきた頃のことである。ある日、4人組がいつもどおり森に出かけようとすると、急に強い風が吹いてきた 。南風である。ちなみに、オマチは南半球に属する国のため、南風は冷たい風なのだ。鉛色の雲がどんどん広がってきて空を覆った。昼間だと言うのに、辺りは急に薄暗くなっ てしまった。不安な気持ちで空を見上げていると、空から何か白くて小さなものが降ってきた。雪だ。雪は空から地面に落ちてくると、数秒で融けて水に変わっていった。じょ た達が見ている間にも、降りはだんだんと激しくなり、地面に落ちた雪が融けるまもなく次の雪が落ちるようになってきた。オマチ高原の大地に雪が降り積もっていく。お告げ の人が言うとおり、このまま冬の時代に突入していくのだろうか。
 オマチ高原に春が訪れた。いや、もう訪れてもよい季節である。いつもならば雪は融け始めて新しい草の芽が出る頃であった。しかし、オマチの大地は雪に閉ざされ凍りつい たままである。鉄馬車でさえも、通行することがかなわないほど雪が深かったのである。「除雪タイプの鉄馬車は無いからなぁ。オマチ地方でこれだけの雪が降るのは珍しいこ とだから。」「車軸が凍り付いて使い物にならないらしい。」「生きた馬車にそりを引かせて町を往復させているが、数が限られていて話にならない。あと一月で町の蓄えも尽 きると言うのに。」城下町の中心街にある宿屋兼酒場の「ディープ・フォーレスト」では、町の人たちが集まってなにやら相談していた。テレポートアイテムを使って、物資を 輸送したいところであるが、魔道アイテムは数が限られているし、テレポートを常時つかえるようなミスティックもいない。だいいち、ひとりの人間が持って帰ることのできる 物資の量には限りがある。そして、ある結論に達した。「女王様に魔道の馬車を出動してもらえるように嘆願しよう。」魔道の馬車がどのような仕組みで動いているのか、それ を知る者は限られていた。それは、炉の中心で空間を切り裂いて、別の世界から反物質を取り込み、この世界の物質と対消滅を起こすことによって、強力なエネルギーを得て動 く機関を持つ馬車であった。空間を切り裂く際に、ある程度大きなエネルギーを必要とするが、物質の対消滅のエネルギーを引き出せれば充分にお釣りがくる。対消滅を起こす 際に生じる放射線は、磁気誘導装置でそのまま別世界に送り込まれる。システムの暴走を起こす危険性があるため、蒸気機関の鉄馬車誰のように、誰でも操縦できるという代物 ではなかった。
 「と、いうわけだから、しっかり留守番しているんだぞ。ついでに何か食料など買ってきてやるから。」じょたの家からも、クイーンズベルへ出かけることになった。もちろ ん、代表の数人でテレポートアイテムを使って移動するのだ。実際にはこれ以外にも、数人パーティで歩いて買出しに出かける者も多かった。じょたは、父が出かけると、誰も いなくなった家の中で魔道の本などを読んでいた。母も見送りにベータリングくらいまで一緒に出かけているのだ。窓の外は、雪で真っ白であった。じょたは本を読むのに飽き て、食物などが蓄えられている地下室へ行ってみた。地下室へは昔入った事があるが、その当時はこっぴどく叱られて、それ以来二度と入った事が無かった。今日はリターンマ ッチ、中を探険してやろうというのである。ランプを照らして階段を下っていく。ランプで内部を照らすと、ひんやりした空気の中に漬物の入った壷や、穀物の入った袋が2つ 、水や油などの入った樽が幾つかあった。地下室は探険するというほどのものではなかった。物が殆ど無かったからである。どうも、大分深刻な状況のようである。地下室内を ぐるりと一周すると、床に隠し扉を発見した。おお!これは大収穫ではないか。じょたは、ランプを床に置くと、鉄のふたを持ち上げようと、中央の取っ手に手をかけた。四角 い金属のふたは、魔道で封印されているのか、どんなに引っ張っても全く持ち上がらなかった。部屋の場所から考えて、このふたにかけられた魔道の性質は土性か、ふたの材質 から金性かもしれなかった。じょたが現在覚えた魔道は、水性と木性である。じょたの場合、水性を中心として、金性と木性の能力が開発されつつあった。木は土に剋つ。じょ たは木性の呪文を詠唱して、ふたを木の根っこで絡めとった。そして、じわじわと力を加えていく。「ふぅ、だめだぁ。」いくら木が土に剋つといっても、お互いが同じ魔道レ ベルだから剋つのであり、力不足の場合は逆に負けてしまう事もある。大体、魔道のポテンシャルに3倍以上の差がつくと逆転されてしまう。もうひとつの水性では、金性に剋 つ事は出来ない。鍵穴は無いし、動くのはこの取ってだけ。これ、押すことはできるみたいなんだよなぁ。かちり。
 シュウの家でも、同じように家の人が出かけていた。そして、悪がきの例にもれず、地下室の探険を開始するのだった。「トム、ランプを持ってついてこいよ。」シュウとト ムは、地下室に入り込むと、お菓子はないかと探しまわった。しかし、結局ビスケットの1枚も発見することは無かった。「無いなぁ。」シュウは、地下室の階段に腰掛けると 、室内をなおも探し回っているトムを眺めていた。そのうち、眠くなってうとうとしていると、トムにたたき起こされた。「お兄ちゃん、面白いものを見つけたよ。」「ん、あ ?」シュウは、少し寝ぼけながら、トムのあとについていった。それは、床に設置された金属のふたであった。「これなんだろう」シュウの目が輝く。「でかした、これは大発 見!」シュウは、ふたを開けようとして、取っ手を引っ張ったがびくともしない。二人で引っ張ってもだめである。これは、鍵がかかっているか、魔道で封印されているに違い なかった。鍵穴が無いところを見ると、魔道による封印に違いあるまい。「火は金に剋つ。」シュウは、覚えたての火性の魔道を唱えた。ろうそくの火のように小さな炎が、何 も無い空間にぽっと現れてはすぐに消えた。「トム、おまえも手伝うんだ。木は火を助ける。」ろうそくの火が、たいまつ程度に変化したが、ふたは開かなかった。ことろで、 この取っ手だけ動くんだよな。出っ張っているから押してみよう。かちり。
 同じ頃、マルコの家の地下室。「なむぅー、今日こそはこの扉が開きそうな予感。きっとこの奥に、まだ誰も見たことが無いようなお宝があるの予感。」マルコは床に付いた ふたの取ってに、物干しざおの先を引っ掛けて、一抱えもある石を支点にすると、てこの要領でさおの反対側にぶら下がった。ぶらん、ぶらん。「なむぅー、びくともしないの ね。僕の見たところ、このふたには魔道はかけられていないのね。鍵の穴が無いことも確かなのね。でも取っ手がついていると言うことは、これをどうにかすればいいのね。ふ ーむ、飛び出ているから、押してみるのね。」かちり。
 ごとん!どこかで重いものが落っこちるような音がした。「何だろう、この床の下から聞こえてきたけれど。」じょたが不思議に思っていると、床全体がゆっくりと沈み始め た。「うわ!?ひょっとして、このふたはこの床全体の開閉スイッチになっていたのか?」開閉と言うよりは、昇降と言ったほうが正しい。恐らく油圧の原理で昇降するものと 思われる地下室のエレベーターは、ゆっくりと地面の下にもぐりこんでいった。
 「お兄ちゃん、この部屋下がっているよ。」シュウの家の地下室もどんどん下がっていき、1分後くらいには停止した。そして、壁面にぽっかりと口を開けた通路が現れた。 「おお、すごいぞ、秘密の地下通路だ。」通路からは、かび臭い空気がゆるゆると流れ出てきていた。シュウはランプを手にすると、通路の奥へと進んでいった。
 「なむぅー、やっぱりなのね。隠し通路を発見したのね。今日はカンが冴えている予感。」マルコのカンが冴えているときは、大抵良くないことが起こる前触れであった。「 きっとこの奥に、今まで誰も見たことが無いような、お宝が待っているのね。」マルコは、ランプを片手に隠し通路の奥へと進んでいった。
 「何だ?通路の先が明るいぞ。」じょたが、暗くじめじめした通路を進んでいると、前方の曲がり角にゆらゆらとした明かりが見えた。じょたは、ランプの明かりを消すと、 通路の壁に背中をくっつけて身を隠した。ゆらゆらした明かりは2つ近づいてくる。暗がりなのでよく見えないが、3人くらいの人間が近づいてくるように見える。逃げようか な。そう思ったとき通路の向こうでじょたを呼ぶ声がした。マルコだ。マルコは、ネコ族特有の暗闇を見通す視力を持っているので、闇の中でじょたよりも早く存在を感知して いたようだった。「なむぅー、じょたも来ていたのね。どうやら城下町の家は、地下でみんな繋がっている予感。」「網の目のように通路が続いているんだ。出口の無い行き止 まりの通路もあったから、そこは他の家の地下室に繋がっているんだと思う。」シュウとトムも一緒だった。「通路のマッピングをして、先に進んでみようよ。こんな生物の住 んでいないところに、魔物もいないと思うし。」じょたがそう提案すると、マルコが小汚い羊皮紙を見せた。「なむぅー、もうやっているのね。この通路の先には、じょたの家 の地下室があるのね。」そう言うと、いかにも不器用な手つきで、羊皮紙にマークを書き入れた。三角印が地下室の出入り口を表しているらしい。「なむぅー、星のマークが宝 箱と決めているのね。いっぱい見つかりそうな予感。」じょたは、大昔の避難通路かと思っていたが、幾つかの地下室を連動させないと地下通路に入れないのでは、避難通路と しては役に立たないなと思った。そして、大昔の大戦時にここが魔道王国ブリューニェの領地であったことと、この通路が何か関係しているのではないかなと思った。
Top Page  , List  , 前頁  , 次頁