「Funny World じょたの冒険」
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第2話「大泥棒あらわる!3種の宝玉を探すの事」(下)
 薄氷の張った池にボートが3そう浮かんでいる。ボートには、オマチ城の警備兵が5名ずつ乗っており、その先頭でがなり声を上げながら、陣頭指揮しているのは警備隊長の 平蔵である。「さかのぼる、とはまさしく川を遡ることに違いない。反射する日光の底にありとは、ここの薄氷の下という意味だと見た。どうだ、ワシも冴えとるだろう。」今 日は実に上機嫌である。この池は、オマチ城の南を流れる川の上流にあり、どういうわけか常に薄い氷が張っていた。水深は浅く、所々ボートが座礁してしまう。水生植物が、 氷の面から顔を出して、1mくらいの背丈に育っている。そのような植物が群生している間を縫って、オマチ城の警備隊は、太陽の王冠を探して右往左往しているのだ。平蔵は 、犬が西向きゃ尾は東という言葉が気になっていたが、何かに向かって反対方向に探し物があるということなのだろうと考えていた。ボートの上からぐるりと周囲を見回した。 氷の張った池の周囲は崖になっていて、その崖の上はうっそうと茂った森が広がっている。何に向かって反対方向なのだろう。平蔵は伸びすぎた鼻毛を抜きながら池の底をさら っている兵士を眺めた。「へーくしょーい!コンチクショウ!」ツバキが兵士の頭に飛んでいた。「まだ見つからんかぁ。」がらがら声の平蔵が兵士に声をかける。「まだ、見 つからないであります。」新人らしい若い兵士がこたえる。「ふむ、いっちょう池の中に入ってみるか。よし、みんな池の中に入れ!寒中水泳だ!1,2番艇は、その場で待機 。3番艇は、どぶ川の入り口付近まで戻り上陸。キャンプの準備をしろ。ぐずぐずするなよ。」春になったとはいえ水はまだ冷たい。第一ここは氷の池である。常に薄氷が張っ ているのだ。平蔵はすばやく装備を外すと、ボートから池の中に飛び込んだ。「いてっ!」水深は30cm程度しかなかった。しばらくの間、氷の池でじゃぶじゃぶと水底をさ らっている兵士たちの姿が見られたという。
 「犬が西向きゃ尾は東。この犬って何の事だろう。」じょたは、秘密基地のてっぺんで頭をひねっていた。シュウ、トム、マルコも、材木を立てかけて作った秘密基地の上に 登って、お菓子を食べたり、望遠鏡をのぞいて遠くを眺めたりしていた。「なむぅー、遡るのはやっぱり川だとすると、もうオマチ城の警備兵たちが探しに行ってるの予感」そ うなのだ、それはこの秘密基地からも見えたのだった。警備隊長の平蔵を先頭にして、3そうのボートがオマチ城から出発し、運河を通ってどぶ川に入り、そのまま文字通り川 を遡って、氷の池に向かうのが見えたのだ。「太陽の王冠はさかのぼる。反射する日光の冷たい底にあり。犬が西向きゃ尾は東。ふーむ、さかのぼる、反射する、西と東。全部 逆向き、逆方向という意味だなぁ。冷たい底、というのが氷の池を指しているというのも、素直すぎて引っかかるよなぁ」日光が反射するのは、鏡、水面、もちろん氷の表面、 それからここから見る限り、青々とした木の葉っぱなども、太陽の光を反射してきらきらと輝いている。それらの日光の反射する先を調べてみたらいいのかもしれない。
 オマチ城の4つの尖塔を見下ろすバルコニーで、二人の男がグラスの飲み物を飲んでいる。テーブルの上には、赤いさくらんぼが幾つも入ったガラスの容器が置いてある。「 今ごろ、氷の池を探してる奴らは大変だろうぜ。な、ネコキチよ。」「そーだなぁ、いんげぇん。何しろ冷えるからなぁ。しかも、・・・」ネコキチは、くくくっと喉の奥のほ うで笑うと、ガラスの容器に盛ってあるさくらんぼを一つつまんでぱくりと食べた。「おぉ、すっぺぇ・・・全然見当違いの場所なんだからなぁ・・・」
 「ここだ」じょたは、オマチ城の外壁を指差して言った。そこは、どぶ川運河の入り口で、水面に反射した光がオマチ城の壁に映りこんでいる場所である。「なむぅー、反射 する日光はここかもしれないけど、さかのぼるというのが意味不明の予感。」と、マルコ。「ははーん、犬が西向きゃ尾は東か。ここの反対側という意味かな。」というのはシ ュウの意見。「冷たい底って言うのは、ひょっとして水路の下に通路があるんじゃないの」トム君も冴えています。じょたは、一通りみんなの意見を聞くと答えた。「太陽の王 冠はさかのぼる。僕が思うに、これは太陽の王冠が、時間を遡ってもと来た場所に戻った事を意味していると思う。それから、反射する日光の冷たい底にありというのは、運河 に反射した日光が当たる壁のことで、冷たい底というのは地下室のことだろうと思う。氷の池の底では、自分たちで取りに行くときも大変だろうからね。犬が西向きゃ尾は東、 これは多分その地下室に入るためのヒントだと思う。シュウの言うとおり、場所を表していると思うんだ。」じょたは、オマチ城の城壁を見上げた。「このお城の城壁には、そ れぞれ彫刻が彫られている。犬は無いけれど。でも、シッポを持つ動物がひとつだけある。だから、多分その部屋の入り口は、その彫刻のある城壁の反対側、すなわちこの場所 に何らかの秘密が隠されていると思うんだ。」
 「どうやってお城に侵入するつもりなんだ、じょた。」城壁から南門へ向かいながらシュウが言った。「侵入したら捕まってしまうよ。それよりも事情を話して中に入れても らったほうがいいような気がするけど。」「なむぅー、そうしたら見つけたご褒美がもらえなくなる予感。」このご褒美というのがかなり大きな金額なのだ。「なるほど。」南 門が見える場所までやってきたじょた達は、門を出入りする馬車を見かけた。一日に何回か馬車が城の中へ入っては、また出てきた。大体荷物の積み下ろし作業は、1刻(2時 間)程度の時間がかかるようだ。どうやら、皆同じ事を考えているようだ。
 荷馬車は、町の外からやってくるものと、町の中から来るものがあった。外から入ってくるのは、北や東の港町から運ばれてくる海産物や、農産物、それから珍しい置物や、 美術品などが運ばれてくることもあるようだ。町の中、といってもベータリングの中からなのだが、そこから運ばれてくるのは、主に馬の餌となる飼葉であった。飼葉の山が、 荷馬車の後ろに山となって積み上げられてお城の中に入っていく。城門ではおざなりの検査をするだけである。「おい、じいさん、ここでちょっと止まってくれ。いつもどおり 、通行証を拝見させてもらう。」衛兵が荷馬車のじいさんに声をかける。じいさんは、木で出来た札に墨で何か文字が書かれたものを衛兵に見せる。衛兵は、この木札の片割れ を、詰め所の壁にかかった木札から探して、合わせてみる。「ふむ、異状なし。通って宜しい。」衛兵は、じいさんに木札を渡すと、また定位置に戻り見張りを続けた。「ふぁ ーくしょん!」衛兵の後ろでくしゃみの音がした。多分じいさん風邪でも引いているのだろう。特に気にもとめない。ちょっと声が甲高かった気もするが。
 「いやー、危ない危ない。もうちょっとでばれるところだった。」くしゃみをしたシュウが言った。ここは、オマチ城の厩である。飼葉の中に隠れて侵入してきたのは、おな じみじょた達4人組であった。体にまとわりついた飼葉を丁寧にこそげ落とすと、厩から外を見回す。一番近い城の入り口までは、10mくらいの距離がある。その間には、2 、3箇所潅木が生えた茂みがある。今のところ衛兵の姿は無い。潅木に隠れつつ城内に侵入すると、上下に続く階段と奥に続く廊下があった。迷わず地下へ向かう。たいまつで 照らし出された廊下を覗き込む。誰もいない。静かだ、静か過ぎる。この一番奥の部屋が、じょたが推理したお宝の隠し場所のはずである。抜き足、差し足、忍び足、奥の扉に 近づく。おや、扉が少し開いている。そして、中から光がもれている。4人は隙間からそっと中を覗き込んだ。
 「城内のこの付近は、人払いをしておいた。こんな会見が表ざたになってはまずいからな。しかし、ミスフジヤマ、会見の場所にオマチ城の地下室を選ぶとはどういうわけな のかね。」小太り領主のマルチャンが、頭から白いローブを被った女に言った。この女、ローブで顔を隠してはいるが、じょた達とは一度出会っている。西の尖塔で出会ったミ レーネに間違いなかった。彼女は、あの事件の後、東のファーベルでネコキチと合流し、彼にオマチの3種の宝玉を盗むようにたきつけたのだ。「ここには、ネコキチが隠した アイテムの一つがあります。」フジヤマは言った。冒険者会館のオヤジは、宝箱を一つ一つ念入りに調べている。しばらくして、一つの宝箱の前で止まった。「これじゃな。こ じ開けた跡が残っておる。見え透いた罠だと思うが、開けてみるよりないじゃろう。下がっていなさい。」「大丈夫か、ティン・カー。」領主マルチャンは、おろおろしている 。「任せなせぇ、これでも若い頃は錠開けのティン・カーって呼ばれてたんでぇ。」彼は、手鏡と針金を使って、鍵穴の中をいじくり始めた。しばらくしてピーンという音がす ると、手鏡が吹っ飛ばされた。「針が飛び出るようになっていやがった。あぶねぇ、あぶねぇ。」部屋の中の二人と、扉の隙間から覗き込む4人の見守る中、ゆっくりと宝箱が 途中まで開けられた。「おお、太陽の王冠!」領主がそれに手を伸ばした瞬間、目の前に卵形の物体が転がり出た。卵は、部屋の中央に転がると動きを止めた。「何なのだ、こ れは?金色に輝く卵だ。おお、美しい。」領主が我を忘れてそれを拾い上げた。すると、卵はウニウニと形を変え始めた。驚いた領主がそれを落としたときには、すでにミニチ ュア版の領主が床の上に立ち、どんどん大きくなっていた。「それは、物まねの実というてな、触った者の姿を写し取るのさ。」ティン・カーが言った。最後のほうは老人の声 ではなくて、どこかで聞いたことのある男の声になっていた。「お久しぶり、フジヤマちゃーん。」ネコキチだ。「ええい、このこそ泥め!とっ捕まえてくれるわ!」小太りが ネコキチにつかみかかるが、軽く空気投げで床に叩きつけられてしまう。「うぎゃ」領主は白目をむいてぶっ倒れた。しばらく目を覚まさないだろう。「お元気そうで何よりね 、ネコキチさん。私のビジネスの邪魔をするなんて、いい度胸しているじゃない。」フジヤマの目がきらりと光る。「邪魔なんてとんでもなぁい。3種の宝玉の秘密は、この白 目むいてる小太りから聞き出せるし、その間は物まねの実が活躍してくれる。」「何が望みなの?」「それは、こっちの言うせりふだぁ。」ネコキチは、宝箱の上であぐらをか いて座った。「それは秘密なの。ごめんなさい。でも、そうね、これらの宝玉ではなかった、とだけ教えてあげる。宝玉が欲しいのなら差し上げますわ。領主様から頂くものは 頂きましたからね。」彼女は、本物の宝玉を棚に並べると、脱出の呪文を唱え、煙のように消えてしまった。「俺様が欲しいものはただ一つ、フジヤマちゃんだけだぁ。チクシ ョウ、まぁいいかぁ。今回は充分楽しませてもらったからな。この小太りの部下達に。」
 「ぶえーくしょぉい!ん、がぁ」角顔の男が、ツバキを吹き飛ばしながらくしゃみをしている。顔色は真っ青、唇は紫色、体をぶるぶると震わせている。「見つからんなぁ。 」警備隊の兵士たちも、体を震わせながら焚き火にあたっている。「隊長殿!」川を遡ってボートが1そう近づいてくる。「隊長殿、オマチ城で3種の宝玉が見つかったとのこ とであります。」「なぬぅ!なんでまた、そんなところにあって、今まで気が付かなかったんだ。ネコキチめぇ、おぼえてろよぉ!!」
 オマチ城の謁見の間で、緊張した面持ちの少年3人と、ヒトネコがひとり、警備の兵士に見守られて、領主が入ってくるのを待っていた。じょた達は、領主がネコキチに襲わ れたとき、助けに入ったということになっていた。そして、イミテーションではあったが、3種の宝玉の内二つまでも発見したことで、感謝状が送られることとなったのだ。「 なむぅー、感謝状よりビスケットかクッキーの方がよかったのね。」マルコが小声で呟く。「俺は、金のほうが良かった。」シュウがマルコを横目で見ながら呟く。「えーっほ ん!」警備隊長がこちらをにらみながら咳払いをした。そのとき、謁見の間の奥の扉が開いて、領主マルチャンが現れた。「おほん、こたびは諸君らのおかげで、わが国の秘宝 を奪い返すことが出来、まことに嬉しく思う。また、わが国の若者が、賢く健やかに育っていることも、大変喜ばしいことである。よってここに諸君らの功績をたたえ、名誉騎 士見習の称号を付与するものとする。」領主は従者からメダルを受け取ると、ひとりひとりの首にかけていった。そして顔をじょたに近づけるとぼそりと呟いた。「城内に入っ た事は目をつぶろう。ただし、あのことは内緒じゃぞ。」
 オマチの3種の宝玉は、神を降臨させる際の触媒にはなり得ないことが分かった。どれも、強力な魔道のアイテムには違いないが、タイプが異なるようなのである。ある種の 低級魔道の召喚にはつかえても、神ともなると使い物にならない。ミレーネは、いつもの野暮ったいローブから、カジュアルな水色の花柄のシャツに着替えて、クリーム色の短 めのスカートをはき、足を組んで椅子に腰掛け、クイーンズベルのオープンカフェで仲間からの密書を読んでいた。そして、ため息を一つついた。「ふー、向こうもうまくいっ てないのね。」彼女は、密書を手の中でくしゃくしゃに丸めると、手の中で灰にしてしまった。その灰を地面にばら撒くと立ち上がり、ウサギのマスコットがぶら下がった革の ハンドバックを手にすると、クイーンズベルの港の方へ向かって歩いていった。
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