「Funny World じょたの冒険」
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第2話「大泥棒あらわる!3種の宝玉を探すの事」(上)
 たいまつを持った兵士らしき男が二人と、その前に小太りでヒゲを生やした男、そして何かを探して室内をうろうろする男がひとりいる。部屋の中には、長剣や見事な彫刻が 彫られた短剣、銀色に光る金属鎧や兜、人間の背丈ほどもあろうかという金属製の盾、金ぴかに光る冠、竜と虎が戦う様が描かれた絵画や美女の肖像画、その他宝の箱らしきも のがずらりと並んでいる。ここはオマチ城の宝物庫である。「まだ見つからんのか」小太りの男が、苛立ちをあらわにして、うろうろと探し回っている小男に言った。「確かに ここにあったはずなのですが」小男は、額から汗を流しながら、宝の箱の後ろ側などを覗き込んでいる。「警備兵、こっちへ来てもっとよく照らしてみろ!」下の者に八つ当た りである。ふてくされた兵士がたいまつを持って近づく。「かせっ!」小男は、兵士からたいまつを奪い取り、宝箱の裏をよく調べるふりをした。「無い・・・いや、あるはず が無いのだ。困った事になった。式典の日までには奪い返すつもりであったが・・・」と小声で呟く。「どうしたのじゃ」小太りは、この地方を納める領主であり、オマチ城の 城主でもあった。「こうなっては仕方が無い。本当のことを申し上げるしかない。」小男は、ふらふらと城主の前へ進み出ると、がくっとひざまづいた。「どうしたのじゃ。申 してみよ。」小男は、涙ぐんだ目で城主を見上げると、震える声で話し出した。
 特大のお茶碗に大盛のご飯が盛られている。「いただきます。」と言うが早いか、わしわしと箸を突っ込んで食べ始める。青みがかった髪、くりくりお目々に丸っこい輪郭、 オマチ城の城下町に住むじょたであった。ガンマリングの探索からは、一月ほど経過していた。その間、オマチ城の小学校で魔道の基礎理論を習い、初級の魔道を使えるほどに なっていた。火の玉にかなりのショックを受けたようだ。魔道は、個人の特性によって、成長しやすいものとそうでないものがある。特性は、大まかに5種類に分けられる。す なわち、木火土金水である。西の尖塔でミレーネが放った火の玉は、もちろん火性であり、あの若さで(若いと思っているのだが)あれだけの強力な魔道を使いこなしているの は、もちろん生まれつきの魔道資質もあるが、個人の特性が火性であることの表れであろう。じょたが最初に覚え始めたのは、水性の魔道であった。「ごちそうさま」そう言う とじょたは、いつものリュックを持って表に駆け出していった。
 「俺はやっぱり火性の魔道だな」シュウが、石の上に敷いたござの上に腰掛けて言った。ここはアルファリングの中、城壁に開いた小さな穴から侵入した秘密基地である。隠 し部屋の一つであると思われるが、部屋の中には何も隠されていなかった。すでに何者かによって盗み出されていたのかもしれないし、もともと何も無かったのかもしれない。 「火性ねぇ」じょたは、シュウがなかなか魔道を覚えられないことを知っていた。恐らく魔道の資質があまり高くないのだ。自分では火性の魔道を覚えるつもりのようだが、思 い通りにならないのが世の常である。じょたもまた、自分が最初に覚えようとしたものとは異なった特性が開発されていた。じょたはふと、シュウが火性にこだわるのは、この 間のミレーネという女性が気になって、同じ能力を持とうとしているのではないかと思った。まぁ、魔道を覚えようと思ったきっかけは、じょたも同じようなものなのだが。
 石の隙間から入る日の光で、新聞を広げて読んでいたトムが会話に加わった。「お兄ちゃん、お城に大泥棒が入ったんだってよ。」「なに!?ちょっと見せてみろ。」シュウ は、トムから新聞を1枚奪い取ると、目を細めて記事を読み始めた。彼の場所は暗くて文字が読みにくいのだろう。「その話なら知ってるよ。お城の入り口の看板で見たもの。 何でもその事件で、宝物庫の管理を任されていた人がクビになったんだって。泥棒に盗まれた宝物を、自分で取り戻そうとして出来なかったんだって。」とじょた。「ふーん、 大泥棒ネコキチねぇ、あんまり凄そうな名前じゃないけどなぁ。」新聞に目を近づけて読むシュウ。トムは、連載漫画のところを見て、くふくふと笑っている。そのとき、秘密 基地の入り口に人の気配を感じたじょたは、二人に隠れるように指示した。基地の奥には、いざというとき隠れられるように、細長い穴が斜め下の小部屋に続いていた。元の部 屋が6畳くらいの広さで、こちらは1畳分くらいである。入り口を板で塞いでしまえば、外からは気付かれることは無い。3人がその小部屋に入ったのと同時に、侵入者が基地 に入ってきた。
 「ネコキチィ、ここちょっと狭くねぇか、天井も低いし。」「贅沢言うなって、いんげぇん。」この二人、例のお城に入った大泥棒のようである。ネコキチと呼ばれた、ネコ というよりねずみのような顔をした男が話し出した。「いんげぇん、今度の獲物は近頃まれに見る最高級の獲物だったぜぇ。まず炎の宝珠。こいつは、炎の魔道を発動できる火 性アイテムだ。必要メンタルが1パワーポイントで、でっかい火の玉を発生できる優れもの。そして、装備すれば攻撃力と打撃力が大幅アップのまさに無敵のアイテムだ。お次 は月のしずく。こいつは魔道に対する抵抗力が90%もアップする水性のアイテムだ。ついでに戦闘中にライフとメンタルが1ターンにつき1パワーポイント回復する。こりゃ 手放せないよなぁ。最後が太陽の王冠。こいつは、アンデッドに効果の高い聖なる光を放つ無属性のアイテムだ。仲間にかけられた呪いも解除することができるんだぜ。」ネコ キチは真っ赤な上着を着て、あぐらをかき、ふんぞり返りながら話をしている。「ネコキチィ、早くおれにもそのお宝をおがませてくれよ。」いんげんが身を乗り出してネコキ チにせまる。すると、ネコキチは申し訳無さそうに「それがなぁあ、いんげぇん。実はよぉ、ちょっとわけありでな・・・」と言い、頭をぽりぽりとかいた。「まさか、またあ の女がからんでるんじゃぁねぇだろうな、ネコキチよ。」「ピンポーン!せぇかーい、いいカンしてるねぇ、いんげんちゃーん。」「ピンポーンじゃねぇよ。・・・で、今度は どうしたんだ、ネコキチよ。」「それがよーお、いんげん。聞いてくれよぉ、フジヤマちゃんったらひどいんだぜぇ。お宝盗み出してうまいこととんずらってなときにな、見張 り眠らせるついでに俺様にまで眠り花粉くらわせるんだぜ。おかげでこっちは池に落っこちて危うくどざえもんよ。ひょうろく介が、たらい舟で助けに来てくれなきゃあ今頃は 、閻魔様と面会してるところだぁ。」「なさけねー、おれは本当に情けなくて涙出てくるよ。」「いんげぇん、俺様もな、フジヤマちゃんの事考えるとな、どーしておいらの気 持ちが伝わらねぇのかってな、涙がでてくんのよ。おいらの顔がネズミ面だからだめなのか?おいらネズ公といっしょかよ。あぁ、どうせおいらはしがねぇ泥棒、ドブネズミの ネコキチだよ。」「いや、そーゆー意味でなくてだよ。」じょた達は、おかしくて笑いをこらえるのが大変だった。
 「ところでいんげんよ、神様はまだ俺様を見捨たわけじゃぁなかったんだぜ。」「どうゆうことだ」ネコキチは、にやりと笑うと話を続けた。「あの3つのアイテムは、オマ チの3種の宝玉と呼ばれているのは知っているな。」「あぁ、知ってるとも。それがどうかしたのか、ネコキチよ。」「あの3つの宝玉が本来の力を発揮するには、4年に1回 、魔道を維持するための儀式を執り行う必要があるんだ。いんげぇん、この国の建国の式典が何年に1回行われるか知ってるか?」「・・・4年に、1回」「そぉ、そして前回 の式典から4年目が今年。つまり、フジヤマちゃんがあのアイテムを鑑賞品としてのみ使うつもりでなければ、倉庫の隅っこで眠らせておくだけでなければ・・・」ネコキチの 目が自信に満ちて、だんだんと輝いてきた。多分これが彼本来の表情なのだろう。「ネコキチィ!」「いんげぇん!」「取り戻そうぜぇ!!」二人はがっちりと握手すると、奪 取の計画を立てると、じょた達の秘密基地を後にした。二人がいなくなってしばらくして、秘密の抜け穴から顔を出したじょた達いたずら小僧の瞳も、らんらんと輝いていたの だった。
 「領主様、今年はオマチ建国の式典を、この城にて執り行わねばなりません。宝玉の件につきましてはどのように対処したら宜しいでしょうか。」小太りの男が、見事な彫刻 の施された椅子に腰掛けて、えらそうにふんぞり返ってそれを聞いている。こめかみの辺りがひくひくと動いて、いかにも不機嫌そうな表情である。「そんなこともワシに聞か ねば分からんのか!全く使えぬ人間ばかりだ!もうよい、その件についてはワシがじきじきに対処するわ。おまえたちになど任せておけぬでな。さがれっ!」御伺いを立ててい た男は、すごすごと部屋を退出していった。扉が重々しく閉まる。部屋の外では、扉を挟んだ二人の衛兵が顔を見合わせている。そして、首をうなだれて歩いていく男の後ろ姿 を見送った。転職しようかな、衛兵のひとりがぽつりと呟いた。
 謁見の間で、小太りの男が腕組みをして考え事をしている。しかし、困った事になったものだ。式典自体は、イミテーションを使って執り行えば問題はない。北の港町クイー ンズベル、別名クイーンズポートの女王陛下、東の港町ファーベルの鷹の爪騎士団長、この二人は宝石を見る目など無いから問題ない。南の氷に閉ざされた町、チャイムズベル の長老は博学でちょっと問題あるのだが、式典に出席できないようにする方法はいくらでもある。山脈を越えられないように、道を閉ざしてしまうという手でもいい。テレポー トアイテムでごく少人数で来られると厄介だが、まぁ、来たら来たでまたそのとき何か手を打てばよい。もうろくじじいなど取るに足りん。問題は、あのアイテムは放っておく と、魔道力場が薄れて魔道アイテムとしての効力を失ってしまうということなのだ。盗み出した人間がそのことを知っていれば、また必ずこの城へ戻るはず。魔道付与の儀式は 、この城ではワシしか知らぬし、そのおかげでもともと魔道国家ブリューニェの支配下にあった、オマチ城主のワシがここまでのし上がることができたのだから。なんとかせね ば。口惜しいが、小汚い盗賊めと取引するか、・・・だがどうやってつなぎを得るか?小太りの男は、腕組みしたまま足元の真っ赤な絨毯を眺めた。ずり落ちそうな王冠も気に せずに、口をへの字に曲げて考え込んでいた。ふむ、不本意ではあるが、やはり冒険者会館のオヤジに頼むしかないか。奴には色々貸しもあるしな。小太りの男は、人を呼ぼう と思ったが思いとどまり、羊皮紙に何事か書き込むと、それを小さな筒に入れた。そして、部屋の隅に飾ってある絵画をずらすと、壁に開いた穴の中へそれを落とした。下の小 部屋では、その筒を受け取ると鳩の足にくくりつけ、目的地に運んでくれる手はずになっている。程なくして、窓の下から一羽の白い鳩が飛び立った。足には先ほどの筒がくく りつけられている。男は、謁見室の窓からそれを確認すると、満足そうに口元をゆがめた。
 月の出ていない夜。どこかで野犬の遠吠えがする。ひっそりと静まり返った街中に、石畳の通りを建物の壁から壁へすばやく移動していく小さな影があった。明かりのついた 窓は避けて、なるべく暗闇が支配している空間を選んで移動している3つの影は、おなじみじょた達3人組であった。闇の中で時折きらりと光るネコの目にギョッとしたり、見 回りの兵士の足音に驚いて物影に飛び込んで隠れたりと、目的を忘れて楽しんでいるようである。「じょた、本当に見に行くのか?」とシュウ。「うん。一度本物の盗賊のお手 並みというものを拝見してみたかったんだ。この間のネコキチさんの話だと、月の出ていない晩に、オマチ城の北側の森、僕らがわんぱくの森と呼んでいる方向から城に侵入す ると言っていた。つまり、新月の今日が侵入の日に違いないんだ。」じょたは、声のトーンを落として、ひそひそとシュウに言った。トム君はもう眠たいのか、立ち止まるとう たた寝をし始めている。「おい、寝るなよ」シュウは、トムのほっぺたをぺしぺしと軽く叩く。「さっき子の刻のぼんぼんが鳴ったから、時間も間違いないはず。」じょたは、 潅木の陰に隠れて城の向こうに見える森を見張っていた。「おれも、あの夜中に鳴るぼんぼんの音って嫌いなんだよなぁ。なんかこう、腹に響くような低い音。」シュウが言っ ている腹に響く音とは、時計塔の深夜の時報で、昼間はからんころんと鐘の音が町じゅうに響き渡るのだが、夜になると地の底から響くかのような太鼓の音に変化するのだ。
 もう小一時間ほど経っただろうか。少し風が出てきたようだ。森の木々がざわざわと音を立てている。それにしても遅い、もう侵入してもいい時間帯なのに。今日じゃぁなか ったのかな?「じょた、今何か言ったか?」「いや、何も」「ふぅん、今人の声がしたような気がするけど、気のせいか。」シュウも闇の中にいるのが恐ろしくなったようだ。 ぶるぶると身震いすると、持ってきた飴玉を口の中に放り込み、ころころと口の中で動かしていた。「・・・・・」「今のは聞こえただろう?」シュウは、口から飴玉を落とし そうになりながら言った。「聞こえた・・・」じょたもシュウを振り返らずに言った。すぐ近くで聞こえたような気がして、振り向くのが怖かったのだ。「おまえさんたち、こ こで何しとるか」「うわぁ!」突如3人のすぐ横から現れたのは、物乞いのじいさんだった。「あー、びっくりした!」シュウが一番驚いている。どうも彼は暗闇だとか幽霊の 類が苦手のようだった。「なんだ、じいさまかよ。脅かすなよ。」「じいさまかよではない!子供が出かける時間じゃないぞい!」からし色のハットを深々と被り、顔中ヒゲも じゃで、ぼろ布みたいなコートを羽織った、腰の曲がったじいさまが、ツバキを飛ばしながらシュウに言った。入れ歯が飛び出てくるのではと思い、一瞬ひるむ。「内緒の話な んだけど、今日の夜大泥棒ネコキチがお城に忍び込むんだってさ。それをある場所で聞いたから見物に来たというわけなんだ。邪魔するなよな。」相手が人間だと分かれば怖く なくなったのか、急に態度が大きくなるシュウ。「ほう、ネコキチのう。ふむ、そういえばそんな大泥棒がいたかのう。」じいさまは、白髪の混じったぼさぼさのヒゲを左手で なでながら、右手を腰に当てて考え込むしぐさをした。「そうか、見物するのはよいのじゃが、真夜中のぼんぼんを2回以上聞いてはならぬぞ。あのぼんぼんを一晩に3回聞い た者は、夜の闇の中に溶け込んでおる夜魔の姿が見えるようになるのじゃ。夜魔は、その姿が見えぬ者にとっては脅威ではない。向こうもこちらの存在に気付かないからじゃ。 ところが、ひとたびその姿が見えるようになったものは、夜魔にもその存在を感知される。そして、夜な夜な枕もとに現れては、あちらの世界へと引きずり込まれてゆく。毎晩 少しずつじゃ。夜魔に魅入られたものは、少しずつやせ細りやがてあちらの世界へと連れ去られるのじゃ。」シュウは、顔面蒼白になりながら体をがたがたと震わせている。「 じょ、じょじょじょじょたっ、や、やばいぞ。お、俺達、もう今日のぼんぼん2回聞いちまったぞ。ど、どど、どうする、やばいぞ、かか、帰ろう。帰ろうよ。」やはり、彼は この手の話に弱いようである。「おじさんは、帰る家がないの?」じょたが唐突に尋ねた。気勢をそがれて一瞬たじろぎながらじいさまが答える。「あ、ああ、そうじゃとも。 」「ふうん、おじさんは外で寝ていて、1日にぼんぼん3回くらい聞くことないのかなぁ。」と、じょたの攻撃。むむ、憎たらしいガキめ、「いやぁ、おじさんにもねぐらはあ るのさ。」「ふーん」じょたが、じいさまのハットとヒゲ面をしげしげと眺めていると、「じょた、今日はもう帰ろう。ネコキチとかいうケチな盗賊の事は、また今度考えよう 。あと少しで、丑の刻のぼんぼんが鳴っちゃうよ。」シュウが、もういてもたってもいられないというふうに、足をわなわな震わせて逃げ出そうとしている。「ところで君たち 、盗賊が侵入すると知っていて、なぜそれをお城に伝えなかったのかね。」「友達にニャンコラ・キッドという盗賊のヒトネコがいて、ネコキチさんは悪い人じゃないって。」 建物の向こうから、こつこつと見回りの兵士が近づく足音がした。シュウは、脱兎のごとく走り去った。じょたも慌ててその後を追いかけていった。
 後に残されたじいさまは、少年たちの後姿を見送ると、見回りの兵士が近づいてくるのを待っていた。逃げる様子もない。「どうだった、ネコキチよ。」兵士がじいさまに話 し掛ける。「にくったらしいガキどもよぉ、俺様をケチな盗賊だと。」「確かにケチな盗賊だな、ネコキチよ。」「でも見所のあるガキどもだ。俺様がちょっくらいい夢を見さ せてやるかな。」「ひょうろく介が準備万端だって言ってるぜ、ネコキチよ。」「あぁ今行く。予定より少し遅くなっちまったが、今度はイミテーションの方も盗み出してやろ うぜ。そのほうが、領主の小太りもすっきりするだろうからな。」ハットとヒゲを剥ぎ取ると、その下からネズミ面のネコキチの顔が現れた。兵士の方は、相棒のいんげんなの だろう。二人とも、じょた達があの秘密基地でこっそり話を聞いていたのを、知っていた様子なのである。ネコキチは、背中をシャンと伸ばすと、ぼろ布のコートを脱ぎ捨てた 。コートの下には漆黒のタイツを着込んでいた。彼は、オマチ城の北側の壁面に沿って走ると、待機していたひょうろく介の手引きで裏口から侵入した。詰め所の兵士たちは、 眠り花粉の入った飲み物でぐっすりと眠っているようだった。そして、そのまま中庭をすばやく走り抜けると、ぽっかりと口を開けた城内の闇の中に溶け込んでいった。
 「じょたぁ、やっぱり出たんだよ!ほら!!」新聞を持って駆け込んできたのは、じょたの友人シュウである。じょたの家でも同じ新聞を取っているので、事件の事はもう知 っていた。「お城にまた泥棒が入ったんだってねぇ。」じょたは、食卓で大盛のご飯をかっこみながらそう言った。「え?泥棒?なんだそれ。そうじゃないよ、ほらこれだよ、 これ。」じょたは、口の中をもぐもぐいわせながら、差し出された新聞を見た。紙面の隅に小さな文字で、夜魔のしわざか!?アルファリングで見回り兵士が見た!というタイ トルがついていた。それによると、昨日の夜アルファリング付近を見回りしていた兵士が、城壁に映る化け物の影を見たとの事。兵士はそのまま気を失い、朝になって気が付く と身包み剥がされていたが、なぜか装備一式がそばに置いてあったとの事。物乞いのインタビュー記事も載っていて、それによると、1日に3回ぼんぼんを聞くと夜魔に取りつ かれるが、兵士は運良く気絶してそれを聞かなかったために助かったのでしょうと書かれていた。「なぁ!昨日俺たちが聞いたとおりだよ。」「あー」じょたは気のない返事を した。「シュウはあれからぼんぼんを聞いたの?」じょたは、興味無さそうに尋ねた。「いや、それが、布団被ってたから、よくは・・・じょたはどうだったんだ?」「ん?あ ぁ、僕なら大丈夫。ちゃんと4回聞いておいたからね。」
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