「Funny World じょたの冒険」
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第1話「マルコニャンコを救出するの事」(下)
 ベータリングには宿屋や道具屋があって、旅人たちがしばしの休息をとっていた。じょた達3人組は茶屋に入ると、めいめい草餅やおにぎりを頼んで座敷に上がると、足をも んだり、背伸びをしたり、辺りを眺めたりしていた。1日歩き詰めだったのでちょっと疲れた。店内は明かりが少なく薄暗かった。店の奥に続く通路には、人相の悪い男が立っ ていて、まねかれざる客人が奥の部屋に入ってくるのを防いでいた。カウンターには背の低い、一見すると子供のように見える男が二人、木のコップを傾けて飲み物を飲んでい た。彼らは、地底や洞窟に住む小人の種族であることをじょたは知っていた。幾つかあるテーブルのひとつでは、旅の商人風の男が客相手に商売をしていた。直径3センチ近く もある宝石を見せながら、しきりにお買い得であると買いを勧めていた。恐らくはガラス玉であろう。酔った客相手にぼったくるつもりに違いない。別のテーブルでは、怪しげ な女が若い男にしなだれかかってグラスの酒を飲んでいた。どうも、ここは全体的に怪しげな店のようなのであった。
 きれいなオネーサンが、竹で編んだ皿の上に、おにぎり3つと、草餅が2つ、それとお茶の湯飲みが3つと急須一つを載せて運んできた。「お嬢さん、きれいな手をしていら っしゃいますね。その細い指にはルビーの指輪が良く似合う。」また、シュウの病気が始まった。「はぁ」給仕の女性は、子供に口説かれ始めたので驚いている。「美しい黒髪 だ。この銀の髪飾りをあなたに・・・」どこから持ってきたものか、シュウが銀の髪飾りを懐から取り出し、お嬢さんの髪につけてあげている。じょたが、そんな様子を横目に 見ながらおにぎりをほおばり、お茶を飲んでいると、店の前に頭から黒い布切れを被った人間が10人くらい集まってきた。新手の宗教団体、キル・キャット団である。彼らは 、ネコを生贄にして低級魔道を召喚するという、まことに憎むべき教団であった。最近ではネコだけでなく、高等生命体であるヒトネコまでも殺めているという、まことしやか な噂もささやかれていた。彼らは、先端に鈴のついた杖を地面に立てて調子をとると歌いだした。シャリン、シャリン、シャリン、ねこのひとみの、ひかるとき、えものをねら う、そのひとみ、おそいかかるぞ、おともなく、まどにしろがね、ひかるかぎ、あかごをさらい、つれさるは、いしのおしろの、かべのなか、しろいまあるい、されこうべ、つ きのないよる、しのびよる、つきのないよる、しのびよる、シャン、シャン、シャン!シャン!ネコを殺せ!ネコを殺せ!店の奥の通路をふさいでいた男が、表の殺気立った状 況に気がつくと、仲間を呼んで大乱闘が始まった。棍棒を持った男が、布切れを被った信者に殴りかかるが、手にした棒で受け流される。そして、そのままくるりと棒が回転す ると、正面から鼻面に突きを食らわされた。てだれの使い手のようだ。衛兵が駆け寄って来ると、キル・キャット団の連中は口々に何かを叫びながら、用意してあった馬にまた がり、砂埃を上げて逃げていった。現場は、鼻血を流して伸びている男2名と、その仲間たち、野次馬でごったがえしていた。じょたは、その野次馬の中にまぎれて様子をうか がっていたのだが、ある野次馬の話している内容を聞いて驚いた。なんでも、ガンマリングの西の尖塔で、ヒトネコが生贄にささげられるというのだ。そして、そのヒトネコは 、冒険者会館に紛れ込んでいるキル・キャット団のスパイによって、ガンマリングまで連れて行かれたらしいとの事だった。「せめて住所を教えてん」まだ、シュウが口説いて いる。もう、口調が変わってきているから終盤戦だな。案の定店の女の子は、シュウを無視して店の奥に引っ込んでしまった。怖いお兄さんがシュウをにらむ。キル・キャット 団の事もあるので、今にもつかみかかりそうな勢いである。「あれ?なんだ、なんかあったのか?」今ごろ周囲の状況に気が付いたらしい。「ガンマリングへ急ごう!」じょた は、野次馬でごった返すベータリングを後にして、城門を抜けるとガンマリングへと続く街道を急いだ。「おーい、待てよおぅ」シュウとトムは、じょたの後を追いかけて走っ ていった。
 目が覚めると冷たい石の上に寝転がっていた。天井近くに小さな穴が開いていて、そこから日の光が差し込んできていた。そうだ、昨日はガンマリングの尖塔でキャンプした のだ。どうもここは、尖塔の地下室のようだ。昨日は確か尖塔の根元付近でキャンプしたはずだが。マルコは、あくびをして背伸びをしようとしたが、体が思うように動かなか った。金縛り?一瞬、ガンマリングに出没するという幽霊のことが頭に浮かんだが、冷静になって状況を判断すると、どうもそうではないらしい。いつの間にかマルコは、体を 麻縄でしっかりと縛られていた。隣を見ると、連れの戦士も同じように縛られていた。しかも身包みはがされて、鎧も装備していなかった。パンダ柄下着一枚の情けない格好で ある。もうひとりの連れの魔法使いの姿は見えない。どこに行ってしまったのか?しばらくすると、こつこつ、ぱたぱたと石の上を木の靴で歩く複数の足音が聞こえてきた。通 路に姿をあらわしたのは、連れの魔法使いと無表情な数人の男たち。やっと状況が飲み込めてきた。ミレーネとこの盗賊たちはグルなのだ。「気が付いたようね。眠り花粉入り スープの味はどうだったかしら。このアジトを知られたからには、町に帰すわけにはいかないの。でも、殺しはしないわ。お薬を少しずつ投与して、ここにいる盗賊たちのよう になってもらうだけよ。そして、私たちの手足となって働いてもらうわ。」「なむぅー、きついのね、苦しいのね」マルコは足をじたばたさせると、芋虫のように体をひこひこ と動かして、そこらを転がった。「んー?」パンダ柄パンツの戦士も御目覚めのようである。「・・・へーっくしょいい!うぅー寒!・・・あれ?なんでこんな格好で寝てるん だろ?あ、あれ?何だ?体が、あー、ミレーネこの縄ほどいてくれぇ」ヴァンは、まだミレーネが裏切ったとは思っていないらしい。「あの薬は、もう少し体力が落ちてきてか ら投与することにするわ。あなた達はこの二人を見張っているように。私は、例の儀式の準備をしてから、教祖様をお迎えに行くから。」ミレーネは、無表情で魂の抜けたよう になった盗賊にそう指示すると、通路の奥に引っ込んだ。「さみぃー!毛布くらいよこせ!畜生め!マルコ、おまえのつめでこの縄切れねぇのか?」「なむぅー、つめ・・・切 られてるの予感。」薄暗い地下室で2匹の芋虫が右に左に身をくねらせていた。しばらくすると、疲れたのかあきらめたのかおとなしくなった。「なむぅー」「うるせー!縁起 でもねぇ事言うなぁ!」
 円筒形の石壁の部屋に、お香の薄ぼんやりとした煙が揺らめいている。部屋の中央には台形の台座、そしてその上には祭壇が祭られている。その部屋の入り口階段のところに 頭から白いローブを被った女がいた。ミレーネである。彼女は、祭壇の配置をチェックすると、東西南北4方向に存在する窓を一つ一つ調べた。窓には、うっすらと異国の文字 が書いてあった。光に当たると発光する塗料なのか、日光が入る南側の窓以外も、ぼんやりと光を放っている。「封印はこれでよし。」床にも祭壇をぐるりと囲むように、同じ ような文字が書かれていた。こちらの文字は発光せず、赤茶けた色をしていて、どうやら血液でもって書かれた魔法陣のようである。「召喚の血文字もこれでいいはず。あとは 、儀式の際に神のよりしろとなる巫女と生贄が必要。巫女の方は、すでに魔道王国ブリューニェに使いを送っているから問題ないし、残る生贄も昨日捕まえたヒトネコを使えば いいわね。巫女が届く頃には、ちょうどいいくらいにおとなしく従順になっているはず。」彼女は、にやりと口元をゆがめると、ぶつぶつと独り言を言いながら、煙で咽ぶ部屋 を後にして階段を下りていった。「この世にあらひと神が降臨し、世界を御救いになる。すばらしい。すばらしい御考えです教祖様」そのとき、尖塔の階段の窓から声が聞こえ てきた。誰かこの尖塔にやってきたらしい。また未熟な冒険者どもだろうと彼女は思った。足を止めて声を聞くとどうも子供たちらしい。子供に手をかけるのはさすがに良心が 痛むが、もう後戻りは出来ない。それに今は、異教徒と戦うために少しでも戦力が必要。子供なら低級魔道の召喚の生贄くらいには使えるかもしれない。彼女は、魔道の発動体 たる銀のリングを左手に確認し、外へと続く通路を降りていった。
 「つかれたー」緑の髪の毛をした少年がそう言った。「あそこに見えるのが西の尖塔だよ。」と青い髪の少年。もうひとりの小さい子供は、はぁはぁと肩で息をしている。ベ ータリングからは運良く途中まで馬車に乗せてもらい、夜を馬車の中で明かすと、早朝に分かれ道のところで下ろしてもらい、昼頃ようやく尖塔に到着したというわけである。 じょた達が尖塔の見えるガンマリングの城壁の上でしばし休息をとっていると、城壁の南の方から怪しげな男たちが近づいてきた。雨も降っていないのに柳の絵が描かれた傘を 差して、朱色の地に金と銀の糸で竜の紋様が刺繍されたマントを羽織い、紫に黄色い花柄の入った着物を着て、橙色の帯を締めた男と、それにつき従うように黒の燕尾服を着た 、道具袋を背負った蝶ネクタイのせむしの小男である。「君たち、こんな所で何をしておるのじゃ」背の高いマントの男が言った。「友達のマルコニャンコがそこの尖塔の調査 に来ているはずなんですが、キル・キャット団がヒトネコを生贄にするらしいのです。」とじょた。マントの男は、片手で口を隠すと「まぁ」と言って驚いた。「そうすると、 君たちはヒトネコを助けるためにここへやってきたのかえ。えらいわねぇ。」やっぱりオカマっぽい、ほほほと笑っている。せむし男は卑屈な笑みを浮かべ、さすさすと揉み手 をすばやく動かしていた。シュウは面倒くさそうにあさっての方向を見ていた。トムは石の上に腰掛けてうなだれていた。
 じょた達は、リキュールがネコを虐殺するキル・キャット団を追い詰めるためにやってきたことを知り、一緒に尖塔の中を探索することにした。崩れた城壁を器用に飛び移り ながら、尖塔の入り口に近づくと、中から若い女性が現れた。予想外の展開に戸惑っていると、にこにこしながら女性が近づいてきた。「そこな娘よ、この尖塔でキル・キャッ ト団というよからぬ集団が、夜な夜なネコを虐殺しておるという・・・」リキュールが途中まで言いかけたとき、すかさずシュウが女性に近づき話し掛ける。「始めましてお嬢 さん。私オマチ城の城下町に住むシュウと申します。こちらに私たちの友人、マルコニャンコというヒトネコが伺ってはおりませんか。外見は白黒のこきたないヒトネコですが 、私たちのかけがえの無い友人です。御心当たりありませんか。」シュウの対外的な人当たりの良さはじょたのかなうところではない。ミレーネはキル・キャット団の話を聞い て内心驚いた。そんな噂が城下町で流れていたとは。神を降臨させる儀式の場所を変更したほうがいいかもしれない。キル・キャット団は、彼女と敵対する宗派の宗教団体で、 彼女の所属する団体とは血なまぐさい抗争が続いているのであった。とりあえず、今はこの突然の訪問者をやり過ごすしかない。ちょうどタイミングのいいことに、眠り花粉だ ったら山ほど用意してある。戦闘は避けたい。目の前のオカマ男、妙な風体をしているが、立ち居振舞いから見て腕の立つ剣士と思われる。その後ろのせむし男も怪しい。忍者 か?ミレーネはシュウを無視すると、ニコニコとした表情を崩さずに言った。「まぁ、皆さん御疲れでございましょう。私共はこちらで宿屋を営んでおります。もし、宜しけれ ば中へ御入りになって、お茶でもお召し上がりになってくださいませ。その、キル・キャット団様というのは存じませんが、ひょっとすると、以前ご宿泊された方かもしれませ ん。宿帳をお調べすれば何かわかるかもしれませんが・・・」シュウがさらに近づいて「お茶?えぇ、お茶しましょう、お茶しましょう。僕は君に会えて幸せだなぁ。」と、言 うと、ミレーネの手を取って中に入っていった。リキュールは、まだ何か言いたそうだったが、ふぅーとため息を一つつくとじょた達の後について尖塔の中に入っていった。
 なんだか部屋の外が騒がしい。階段を登った先で、何人かの人間が談笑する声が聞こえる。誰か来たのか?あれから無表情の盗賊に、猿ぐつわをかまされて、さらに縄をきつ く締められたマルコは思った。見張りの盗賊はどこかへ行ってしまっている。逃げ出すなら今がチャンスだ。よくよく上の声を聞くと、どこかで聞いた事のある声がする。じょ ただ!シュウ、トムの声もする!あとひとりのオカマっぽい声は誰だかわからない。声は出せないが、何とかしてこの状況を伝えることができれば。そのとき、部屋の奥に光る ものを発見した。あ、あれは僕の・・・
 部屋の中に笑い声が響いた。「いや、そこで帰るお足が無くなったんですが、荷馬車のおっちゃんに拾ってもらって、一安心・・・と思ったら臭うんですよ。そこでひょいと 後ろをのぞいたら、それが積み肥の運搬用馬車だったんです。いやぁ、いまさらおろしてくれと言うわけにもいかないし、町に帰りつくまで口で息をしていたんですが、それで もやっぱり臭うんですよね。」シュウがそこまで話をすると、また部屋の中に笑い声が満ちた。「フフフ、まぁ、面白い御話ですわね。」ミレーネが口元を抑えて笑っていると 、無表情な従業員が入ってきて、お茶の入った大きな急須と人数分の湯飲みを持ってきた。「さぁ、お待たせいたしました。お茶のご用意が出来ましたので、今お入れしますわ 。」ミレーネが、急須のお茶を湯飲みに注いでいるとき、じょたがぽつりと言った。「御茶菓子は無いの?」ミレーネが一瞬ピクリとする。「ばか!じょたなんて事言うんだ。 せっかくミレーネさんがおいしいお茶をご用意してくださったのに、失礼なことを言うんじゃない。大体おまえは食い物にがめついんだよ。」シュウはじょたに向かって激しく 言い放った。「あ、ごめんごめん。すいませんミレーネさん。気になさらないでください。僕はよく家族で旅をするので、それで、いつも宿につくとお菓子をもらったりして、 それで、その・・・」じょたは口下手で、どうしてもうまく説明が出来なくなってしまう。いつもならその先をシュウが説明したり、最初からまとめなおして、シュウがうまく 説明するのだが、彼は今日は敵にまわっている。「いいんですのよ。私もうっかりしておりましたわ。今おいしいお菓子をご用意いたします。」ミレーネはニコニコして無表情 の従業員にお菓子を持ってくるように指示した。「ところでミレーネさん。もう一つ気になる事があるんです。この宿には今私たちしか宿泊客はいない。確かそうおっしゃいま したよねぇ。」とじょた。シュウが、まだ何かあるのかという鋭い視線をじょたに向ける。「えぇ、そうですの。今の時期は、西の港が氷で閉ざされておりますので、キャラバ ンもこの方面を通らないんですの。閑古鳥が鳴いて困っておりますのよ。」「そうですか、実は先ほどこの尖塔に入る際に、ちらりとキャンプの跡が見えたものですから、それ が気になりまして。だって、ここは宿屋なのにどうして外でキャンプするんでしょうか?僕が旅人だったら絶対ここに泊まると思うなぁ。だって、こんなにきれいな人が宿屋の 女将なんだもん。」じょたは御世辞のつもりでそう言った。「うんうん」シュウが満足そうに頷いている。ミレーネは思った。しまった!キャンプの跡を片付けておくのを忘れ ていた。もちろん片付けるつもりだったのだが、こんなに早く侵入者があるとは思わなかったのだ。それにしてもこの子供鋭い。子供と思って舐めてかかってはいけない。早く なんとかしなければ。彼女は、突如椅子から立ち上がると、冷たい表情になってじょたを見た。そして、ゆっくりと室内を歩きながら話し出した。「昔々、ある所に小さな宿屋 がありました。その宿屋は、旅人が殆ど訪れる事のない山の中にありました。あるとき、2組の旅人がその宿を訪れました。片方の旅人は、裕福でお金をたくさん持っていまし た。もうひとりの旅人は、貧乏でお金をあまり持っていませんでした。そのお金持ちは宿屋に泊まると、全ての部屋を借り切って、貧乏な旅人を宿屋に泊まれなくしてしまいま した。なぜかって?それは、宿屋の女主人がとても美人だったからです。貧乏な旅人は、仕方なく宿の近くで野宿することにしました。その夜遅く、貧乏な旅人は何かの物音で 目が覚めました。宿屋のほうを見ると、深夜だというのに窓から明かりが漏れています。旅人は、こっそり窓に近づき部屋の中を覗き込みました。そして、腰を抜かさんばかり に驚きました。部屋の中では、お金持ちの旅人が、宿屋の女主人に生き血を吸われていたのです。」ミレーネはそこまで話すと、じょたの瞳をじっと見据えた。ごくり、じょた は生唾を飲み込んだ。「なぁんてね。怖かったかしら。こんなお話を子供達にお聞かせするのも私の仕事なのよ。さ、せっかくのお茶が冷めてしまいますわ。」彼女はまたニコ ニコとした表情に戻りじょた達にお茶を勧めた。じょたは、ほっと胸をなでおろすと湯飲みを口に持っていった。そして、部屋の奥の通路を見たとき、あることに気がついた。 「ミレーネさん!あの通路の先に落ちて光っているの、ひょっとして疑似餌じゃないですか?僕の友達が持っている疑似餌にそっくりなんです。」「まぁ、偶然同じ種類のもの が落ちているんじゃないかしら。お客様の中で釣りをなさる方もいらっしゃるでしょうし。」「それは無いよ。だってあれは、僕がマルコニャンコにプレゼントしたものなんだ から。」ミレーネは、突然鬼のような表情になりじょたをにらんだ。シュウはそれを見てお茶を吹き出した。「全く、ごちゃごちゃと細かい事にこだわるガキだこと。そんなん じゃ女の子にもてないわよ。」そう言うと彼女は、左手の指輪を目の前にかざし、指を複雑に動かして右手を添えた。口からは意味不明の音声が歌を歌うかのように流れ出てく る。目は・・・、目はすでに人間のそれではない。「いかん!」オカマおじさんリキュールが、柳の絵が描かれた傘をさっと開くのと、巨大な火の玉が目の前に出現するのは、 ほぼ同時であった。次の瞬間、防ぎきれなかった熱気と衝撃がじょたの体を壁へと叩きつけた。部屋の中はしばらく灼熱の地獄と化した。熱気がおさまると、彼女はどこかへ消 えていた。シュウは目を真ん丸く見開いて、その場に座り込んでいた。トムは、運良く石の長いすの後ろに落ちて助かった。リキュールは、着物のすそや髪の毛の先がちりちり に焦げ、すね毛がぼうぼうの足を着物のすそからあらわに出しながら、傘を前へ差した状態で固まっていた。せむし男は、ぐったりとしているじょたの元へすばやく近づき、応 急の処置を行っていた。「助かった」ややしばらくして、シュウが呟いた。
 「なむぅー、助かったのね。来てくれると思ったの予感」じょたは、マルコの言葉を聞くとニコリとして、彼を縛っている縄をほどきながらマルコに言った。「それにしても 、こんなに縛られてよくあの疑似餌を通路に投げ出すことができたねぇ。」「なむぅー、僕はいつも釣りざおが無いときは、シッポで釣りをしてるのねん。体は厳重に縛られて たけど、シッポまでは手薄だった予感。」「はっくしょん!」パンダのパンツの男も開放されたようである。「寒い!風邪引いたぜ、畜生!・・・へーっくしょぃ!!」
 オマチ城から東へ抜ける街道に、ローブをまとった女の姿があった。彼女は、東のガンマリングを越えると、港町ファーベルに向かった。事件がおきてから3日後のことである。
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