錦川 2025.9.14

錦川は山口県東部の岩国市を流れる清流。大半が山間部を流れる比較的穏やかな川で、美しいしい景観を誇り、本流に沿って錦川鉄道・錦川清流線と国道187号線が走っているため、とてもアクセスがよいです。山間部から平野部へ移行するあたりに、日本三大奇橋の一つ、美しいアーチが印象的な錦帯橋が架けられています。錦川でカヌーをしたのは1997年、2000年、2006年の3回。97年と06年は、キャンプをしながらのロングツーリング。楽しい思い出いっぱいの川です。

約20年ぶりの錦川。今回カヌーはせず、錦川清流線&とことこトレインに乗り、かつてカヌーをした一部区間を歩いて下るというプラン。さてさて、どんな錦川が迎えてくれるでしょうか。

 

1.錦川鉄道・錦川清流線

岩国駅でくぼっちと合流。0番線には既に錦川清流線の列車が停車中です。2両編成で、後ろの車両は黄緑色のボディーに大きくカワセミが描かれた「こもれび号 森林のグリーン」、前方車両は水色のボディーにアユ、オオサンショウウオ、アマゴなどが描かれた「せせらぎ号 清流ブルー」。素敵な車両を目の当たりにし、旅情が大いに掻き立てられます。

 

車両に乗り込み、進行方向に向かって右、錦川がよく見える窓側の席を確保。目の前の座席カバーには「錦川清流線・見どころ路線図」と「とことこトレイン・見どころ路線図」が描かれていて、これからどこで何を見るかを再確認。ワクワクが増してきました。落ち着いたところで、出発準備をする運転手さんのところへ行き、とことこトレイン予約済みであることを告げ、乗車証明書を受け取ります。とことこトレインの切符を乗り継ぐ錦町駅で買う際、受け取った乗車証明書を提示する必要があります。とことこトレインに予約して乗車するには、錦川鉄道を錦町まで利用しなければなりません。別途、錦川清流線1日フリー切符も購入しました。フリー切符のプレゼントとして、錦町駅で「こもれび号カード」をいただきました。

 

 

現在雨が降っていますが、午後には晴れるとの予報。午前8時28分、列車は岩国駅を出発。2駅目の川西まではJRの区間。ここで徳山方面に向かうJR岩徳線と、錦川に沿った錦川清流線に分岐、ここから先が錦川鉄道です。ホームの脇に「錦川清流線起点」と書かれた杭が立っていました。川西から錦町までは、民営化されたばかりのJR岩日線が、1987年7月に第3セクター錦川鉄道に引き継がれ運営されています。

川西の次は清流新岩国。山陽新幹線の新岩国駅との接続駅です。2006年の錦川ツーリングの際、新幹線からの乗り換えで利用した駅です。その時の駅名は御庄(みしょう)でしたが、2013年3月に現在の駅名に変更され、新幹線接続駅であることが明確になりました。ただ、駅名から地域の名前がなくなるのはちょっぴり寂しい気もしますね。

守内かさ神駅を過ぎた辺りに沈下橋が見えてきます。2006年には、この橋の下流側川原でキャンプしました。思い出の橋をしっかり写真に納めようと窓にへばりつきますが、あっという間に通り過ぎてしまいました。ダメだったと思いましたが、それなりに撮れていたので一安心です。

しばらく進むと、印象的な姿の斜張橋が見えてきました。南桑橋です。1997年、2000年は、ここがカヌーのスタート地でした。今日も帰路は南桑駅で下車して、2駅分歩いて下る予定です。
列車は約40分で終着の錦町駅に到着。さあ、とことこトレインに乗り換えよう。

   

 

 

2.とことこトレイン

トレインという名前がついていますが、とことこトレインは列車ではありません。テントウムシを模した赤くてかわいらしいボディーの動力車で、2両の客車を引き連れた観光用のトロッコ観覧車です。子供たちに大人気のようで、乗客の大半はお子さんと一緒の家族連れです。くぼっちとの初老男二人連れは少々浮いた感じですが、お構いなしで乗り込みました。ちびっ子たちに負けないよう楽しむつもりです。

とことこトレインは、清流線錦町駅から雙津峡温泉駅までの約6キロ、鉄道未完成区間の跡地を走ります。錦川鉄道の前身である旧国鉄岩日線は、岩国から島根県の日原までを繋ぎ、山口線と接続する路線として計画されました。1960年11月に川西−河山間が開通、3年後に現在も終着駅である錦町まで延伸されました。その先、錦町−日原間は岩日北線と呼ばれ、1967年11月に建設工事が始められました。途中の六日市まではある程度工事が進行したものの、国鉄の経営悪化などのため工事が凍結され、1987年の国鉄民営化の際に、未完成区間は廃止扱いとなりました。

その後2001年3月に、国鉄の財産を引き継いだ国鉄清算事業団から、地元自治体である旧錦町に跡地は無償で譲渡されました。そしてその跡地は、錦町により岩日北線記念公園として整備され、翌2002年7月に 、とことこトレインの運行が開始されました。とことこトレインは道路を走るバスではなく、もちろん鉄道でもなく、公園内を走るアトラクションという位置づけです。うまいこと考えてんだな。目から鱗とはこのことか。とことこトレインは、国土交通省の鉄道活性化部門(地域活性化への貢献)において、2004年「日本鉄道賞」を受賞しています。実現しなかった鉄道施設跡が、有効に活用され、みんなから愛され生き続けているということは、とても意義深いことだと強く強く感じました。

現在の車両は2代目で、ガタくんとゴトくん。2005年の愛知万博で、電気自動車「グローバルトラム」として利用された車両が、2009年にやってきました。良い物を大切に使っていくという考えが貫かれており、とても感慨深いです。今日我々を乗せてくれるのはガタくんです。ではガタくん、出発進行!

出発直後、目の前に開いたトンネルの黒い穴へと入っていきます。全長1796メートルの「きらら夢トンネル」です。途中には赤・青・黄・緑・白・桃の6色の光る石で描かれた壁画が続き、とても幻想的です。動く車内からシャッターを切りますが、なかなかうまく撮れません。まぁしょうがないねと思いながら眺めていたら、トンネルの真ん中あたりで停車。そこは360度壁画が施されているエリアで、「下車してトンネル内をご鑑賞ください。奥へ進むとプロジェクションマッピングもあります」とのアナウンス。これならばっちり撮れますね。観ても撮っても美しい、本当に素晴らしいです。

 

きらら夢トンネルを抜けると、錦川の支流宇佐川に沿った軌道となります。しばらく進むと右側にコンクリートのプラットホームが見えてきました。出市駅になる予定でしたが、駅としては実現しなかった場所です。なんだか切ない気持ちで通過。さらに進むと、また長いトンネル。このトンネルの中にはたくさんのコウモリが住んでいて、通過するとことこトレインに驚いて、コウモリたちが天井付近を飛び交っています。驚かせてごめんなさいね。トンネルを出ると桜の並木。「さぞやきれいだろう。桜の咲く時期にも来てみたい」と、満開の様子を思い描きました。

次々と展開される景色に飽かされることなく進んでいきますが、コンクリート打ちっぱなしの軌道から伝わる振動に、「なるほど、ガタゴトだ」なんて一人納得。後半の小さな橋やトンネルは特に強く振動し、つらいなぁと感じたところで雙津峡温泉駅に到着し、ほっとしました。約45分の道のりでした。

 

3.雙津峡温泉

雙津峡温泉駅から未舗装の小さな道を下り、赤いつり橋で宇佐川を渡ります。その先の国道を横断し坂道を上ったところがSOZU温泉。天然ラドン温泉、源泉かけ流しの日帰り温泉施設です。ゆっくり温泉につかった後、館内でお食事。私は「岩国れんこん麺定食」を注文。岩国の特産品「岩国れんこん」はもっちりした触感で、一般のれんこんと穴の数が違います。一般のれんこんが8つなのに対し、岩国れんこんは9つです。その岩国れんこんを練りこんで作られたのが「岩国れんこん麺」。定食についている「錦寿司」も岩国特産で、きれいな押し寿司。どれもとってもおいしかったです。

  

 

食事後、帰りのとことこトレインまで時間がたっぷりあるので、くぼっちと周辺を散策。国道を歩いていると、眼下に宇佐川、向こう岸にとことこトレインの軌道が見えてきました。最近は鉄道写真にも興味が出てきた私、「とことこトレインと宇佐川を一枚に収めると素敵ではないか」と思い付きました。くぼっちには先に駅に行ってもらい、構図を決めとことこトレインの到着を待ちます。定刻を過ぎても、とことこトレインは姿を見せません。次の出発時間も過ぎ、「気が付かないうちに着いて既に出発し、一人取り残されたのではないか」と急に不安になってきました。でも、そんなはずないですよね。約10分遅れでかわいらしい姿が見えてきました。イメージしてたよりゆっくり進むので、じっくり撮ることができました。撮影を終えると、すぐに駅へと駆け出します。乗り遅れてはなりませんからね。

 

 

到着便は満員です。ホームで待つ人はそれほど多くないので、のんびり気分で来た人の下車を待っていましたが、一向に席が空きません。みんな下りるのかと思いきや、半分以上はそのまま錦町まで戻るようです。「ぐずぐずしてられない」って、開いている席を見つけ乗り込みました。相席で満員です。
帰路もきらら夢トンネル内で停車し、壁画鑑賞の時間が設けられていました。停車場所は往きとは違うところで、また別の壁画を堪能することができました。細かな配慮がなされた運営は、とても心地よいです。

  

 

4.南桑駅から歩いて下る

14時45分、上り列車は5分遅れで南桑駅に到着。くぼっちは川西まで行くというので、私一人が下車。しばし別行動となります。南桑は1997年と2000年のカヌー出発地。ここから2駅先の北河内駅まで歩き、途中で2006年には流出していた二鹿谷橋(ふたしかたにはし)の復興を見届けようというプランです。次の列車が北河内駅を出るのは16時41分。2時間弱で、8q程度の国道を歩かなければなりません。天気は回復し猛暑が戻っていて、熱中症に要注意。南桑橋を見上げながら歩き始めました。

国道に出てすぐ、山側にある河内神社の石垣に吊り下げられた「台風14号最高水位 2005.9.6」と書かれたプレートが目に入りました。道路から高さ2メートル以上はありそうです。ということは、今歩いている私は、その時完全に水の中。錦川からこの場所まで、一面が泥水に埋め尽くされていたということです。南桑が水没したなんて知らなかったので、この記録には驚ろかされました。二鹿谷橋を流し去った台風14号は、南桑地区にもひどい被害をもたらしていたんです。

このレポートを纏めるにあたり、改めて台風14号について調べました。南桑地区は全域ともいえる2.7qにわたり水没。Webで見た資料には、南桑橋の低い部分が、轟轟と流れる泥水に没している写真もありました。小学校のグランドは完全に泥の海。また、下流にある錦帯橋では、市街地に一番近い第1橋を支える5基の橋杭のうち2基が流出するという被害を受けました。更には、隣の広島県では宮島の厳島神社が浸水し、宮崎県では高千穂鉄道の鉄橋が崩落しました。高千穂鉄道はその後復旧困難と判断され、2008年に廃線が決定されています。各地に甚大な被害をもたらした台風だったのです。

国道187号線は、歩いて下るには難易度の高い道です。道路の左側に少しばかり歩道らしきスペースはあるのですが、ぼうぼうと茂る雑草に覆いつくされ、更に雑草達は大きくせり出しているので、どうしても車道を歩くことになります。車に追い抜かれる度、ひやひやです。時々右側に移動して錦川を眺め、写真を撮ったりしながら進み、1つ目の椋野駅の対岸にたどり着いたのは15時30分。この先を考えると、時間までに北河内に到着するにはギリギリのタイミング。これまで以上に気合い入れて歩かなければなりません。

  

 

右手にレトロな感じの自動販売機コーナーが現れました。持っていたペットボトルの水は、既にお湯になっていて、改めて購入した冷たい水を一口飲むと、生き返った心地です。まだまだ頑張れそうです。横には未舗装のスロープがあり、下りて川原に出ました。水面近くから錦川をしみじみ眺めていると、ふと古い記憶が甦ってきました。
「カヌーで下っていた時、川原で遊ぶ若者グループと遭遇したのはこの場所なんだ。上の自販機で買い物して川原に下りてきたんだ」って、どうでも良いことに納得しました。更に歩き進むと、前方に目指してきた二鹿谷橋が見えてきました。既に16時を過ぎています。

  

 

5.二鹿谷橋

現在の二鹿谷橋はコンクリートで作られていますが、かつては青いつり橋でした。1997年にはこの橋が見える場所でキャンプ、2006年の時は流された後放置されている残骸を目にしました。

流央部の太い橋脚に支えられた二鹿谷橋。とても頑丈そうですので、もう流されることはないでしょう。歩いて向こう岸へと渡りながら、上流・下流に目をやります。どちらもとても穏やかで美しです。向こう岸の欄干には「完成平成19年6月」とのプレートがはめ込まれています。台風で流されたのが2005年(平成17年)9月ですので、2年足らずで復旧されたことがわかります。きっと最優先で対応されたんでしょうね。


現在の二鹿谷橋
 
1997年当時の青い橋
 
2006年青い橋の残骸

 

6.北河内

歩き進め16時半に迫るころ、北河内駅へと渡る橋が見えてきました。列車の時刻まであと10分少々。何とか間に合いました。橋に差し掛かり上流側を見ると、川幅いっぱいに設置されたしばぜき(柴堰)が目に入ってきました。深まりゆく秋を感じさせてくれる素敵な景観です。
しばぜきは、横たえた竹を鉄の杭で止めて作られており、アユの下りを遮ります。下れずここに滞留しているアユを狙い、投網が打たれるのです。中央部には葉をつけた木が2つ差し込まれていて、その間だけは杭がなく船の航行が可能で、もちろんカヌーではここを通りました。

歩いて橋を渡る途中、この景色をなんだか知っている気がしてきました。そうそう、NHKの番組「日本縦断こころ旅」で田中美佐子さんが来たところだ。橋を渡ったところにトンネルがあり、手紙を書いた方はここで幼稚園バスから下ろされたんだ。確認しながら、一人にやにやしながら歩きました。北河内駅の前でお婆さんをお見かけしたので訊くと、「そうですよ。あなたご覧になりましたか。手紙を書いたのは、この先もう少し行ったとこの人ですよ]と、教えてくれました。旅の最終版での、ほっこりした出会いに感謝です。

ホームで待つこと数分。予定時刻に列車が到着。「ひだまり号 桜のピンク」です。川西でくぼっちが乗車。くぼっちは歩いて錦帯橋往復してきたとのことです。私も錦帯橋に行きたいと思いはしましたが、今からでは無理。このまま岩国まで行き、錦川の旅を終えることにしよう。

 


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