1.スタート 名桑→椋野
国道187号線、桑根小学校を少し過ぎた辺りでハンドルを左に切り、河原に引かれた取り付け道を下る。河原より50センチばかり高いセメントで固められた幅3メートル程度のプラットホームに車を止める。
目の前に比較的新しい吊り橋が架かる。このプラットホームは吊り橋建設の副産物だろうか。川岸の崖の上にひっそりと小さな駅が張り付いている。錦川清流線名桑駅。橋は駅と国道をつなぐ唯一の道だ。上流から2両繋いだ列車が入ってきたが、休む間もなく下流に向け動き始める。ホームに人影はない。しばらくすると今度は1両だけの列車が登ってゆく。やはり人影はない。目の前の吊り橋に横断幕がかかる。地元出身の国体選手か何かのの応援だろうか。
いよいよ待ちに待ったまぬけカヌークラブ錦川ツアーのスタートだ。桂・海野・僕の3人は、いつものようにまずはビールで乾杯。川へ来た喜び、下りゆく川への期待が膨らむ。。弁当で腹ごしらえをし、休む間もなくカヌーを組み立てる。たき火のにおいが鼻を突く。
1時45分。いよいよ出艇。11月の錦川は長靴越しにも冷たい。にもかかわらず桂と海野は素足に突っかけで足を川に浸す。見ている方が目をそらしたくなる。
閑静な川面を流れに任せカヌーはすすむ。澄んだ空気の中、両岸の木々が紅く染まるにはまだ早いようだが、秋の深まりを感じる。再び乾杯。缶ビールを3人が一斉に押し開ける。本日の配給燃料は、今開けたビールの他に「箱酒一代」2パック。日没が早いので3時過ぎには上陸する予定であり、2時間足らずの行程には過剰ともいえる量だ。
ビールを飲み干す間もなく、目の前に梁が現れ行く手を遮る。やむなくカヌーを担ぎ左岸から梁を越す。
落ち着いたところで川を見つめる。底の石に着いた無数のカワニナが目に留まる。水深は1.5メートルぐらいだろうか。「きれいじゃ!あー来て良かった」思わず笑顔がこぼれる。淵にさしかかると、体を大きく乗り出し食い入るように底に目を向ける。「見える!見える!魚じゃ。おるおる!」歓声が上がる。のんびり流れる3艇のカヌーは一層歩みを遅くした。
流れは極めて静かで危険な瀬などないのだが、この時は秋の日差しが我々の邪魔をした。
瀬に向かう我々の正面、まるで下からのぞき込むように、強い陽光が差し込んできた。川面が輝きまるで前が見えない。何処が安全なルートなのか、何処にに石が隠れているのか全く分からない。覚悟を決めて「えいや!」で突入。3艇とも底を削りながらも無事にクリアした。
「川が美しいと河原の石も美しい」雑誌「カヌーライフ」の記述がよみがえる。本当に河原の石は全て白く光り美しい。あまりに水が澄んでいるので、底に沈む空き缶などのゴミが妙に気になるが、決して多いわけではないのでまあ良しとしよう。