2.サッカー日韓戦の行方 椋野 → 二鹿谷(青い吊り橋)

左手から流れ込む支流小郷川との合流の少し手前、若い男女が車で河原に乗り入れバーベキューを楽しんでいる。彼らから熱い視線が注がれる。にやけるのをぐっとこらえてクールを決め込む。

この時ちょうど午後3時。僕はライフジャケットのポケットに入れていたラジオのスイッチを入れボリュームをあげた。サッカーワールドカップ予選の天王山、日韓戦のキックオフだ。直後に「ゴーール、名波ぃー!」絶叫が静かな川面を走り抜けた。

本日の目的地、青い吊り橋まであとわずかというところに再び梁が現れた。桂と海野は右岸から、僕は左岸からカヌーを担ぎ運ぶ。梁を越え再度乗り込もうとするが、そこは瀬の入り口で流れが比較的速い。桂は何事もなく行ってしまったが、海野は乗り込みに失敗しカヌーを横転させた。カヌーの中に水が容赦なく流れ込んでいる。

僕は、「お先に」と苦しむ海野を軽くパスしたものの、その先に石に引っかかっりカヌーが完全に止まってしまった。ここまで何度となく石に向かって突進するケースがあったが、緩い流れに助けられ事なきを得ていた。ここでも大丈夫だと思ったが、たちまち艇は横向きになり流れに押され大きく傾いた。

「まずい、沈したら大変だ!」とカヌーから飛び出したものの、そこの水深は膝下まであり長靴ぎりぎりだ。流れが速くこのままでは再乗艇できないので岸に向かう。カヌーは体より上流側にあり、水圧をまともに受け止め重くのしかかる。バランスを崩しかけるが必死に持ちこたえる。しかし次の一歩、大きく左足を踏み出すした場所はこれまでより深く、あっけなく水は長靴を越え、僕は膝まで水に浸かってしまった。ふがいない限りだ。海野は左半身ずぶぬれのようだ。

再び3艇が合流し落ち着きを取り戻し、ことの顛末を話しているうちに、青い吊り橋が目に飛び込んできた。「橋の手前でキャンプだ」と桂が一声あげた。その時、川岸の国道を白い車が通り過ぎ、少し間をおいて手を振る人影が現れた。遅れていた久保田の到着だ。ジャストタイミング。これで難なく名桑まで車を取りに行くことができる。その時、呂比須が2点目をゲットした。

今回は十分な機材に十分な食料・酒を備えた大名キャンプ。本日の夕食はカニ鍋。体が温まる。

11月に入り、これまでの暖かい日が嘘のように冷え込みが厳しくなった。日が暮れると一気に冷える。あらん限りの衣服を身にまとうが、それでも寒い。耐え難い寒さだが思わぬ副産物をもたらしてくれた。月のない澄み切った夜空に無数の星が瞬く。天の川が見える。美しい。星空を肴にワインを口に含む。甘みが口の中に広がる。焚き火で火照った顔を寒気が冷やす。心地の良い夜である。11時、明日への期待を胸にテントに潜り込む。