公益法人改革で財団法人はどう変わるのか |
このページでは 公益法人改革が財団法人の運営に どういう影響を与えるかを考察します。 本件に ついては 私自身が公益法人の一つである財団法人に勤務中であり 渦中にある者として 強い関心を 持っています。 村上行革担当相の諮問機関「公益法人制度改革に関する有識者会議」が 平成16年11月19日に 最終報告書(全35頁)をまとめました。 その提案内容が 具体的な制度(民法改定と新税制)となり 実施されるまでには 紆余曲折が予想されますので 今後の進展について このページで適宜 update していくつもりです。 1.公益法人とは 公益法人とは 一般に 民法第34条に基づいて設立される社団法人又は財団法人を指し その設立には (1)公益に関する事業を行うこと (2)営利を目的としないこと (3)主務官庁の許可を得ること の3つを 満たす必要があります。 民法34条では 民法上の公益法人の設立について 「祭祀 宗教 慈善 学術 技芸 其ノ他 公益ニ関スル 社団又ハ財団ニシテ営利ヲ目的トセサルモノハ主務官庁ノ許可ヲ得テ之ヲ法人ト為スコトヲ得」 の如く 定めています。 社団法人と財団法人の違いは おおまかにいえば 社団法人が一定の目的のもとに 集合した「人」の集まりであるのに対し 財団法人は一定の目的のもとに拠出され結合されている「財産」 の集まりという点です。 社団法人には社員が存在し その会費をもって 総会の決定に基づいて運営 されます。 一方 財団法人には社員は存在せず 基本財産の運用益をもって 設立者が定めた 寄附行為によって 公益を目的とした運営がなされます。 これは原則であって 社団法人において会費のみ 財団法人において基本財産の運用益のみで事業を 行うことは困難となってきているので 実際には基金を有している社団法人や 会員制度を有している 財団法人が数多く存在しており その違いが分かり難くくなっています。 公益法人の数は 平成15年10月時点で 25,825法人(社団法人12,836 財団法人12,989)あり その内 国所管が7,009法人 都道府県所管が18,987法人です(合計数が一致しないのは共管法人がある ため)。 公益法人の設立許可と指導監督に関する権限は 主務官庁(内閣府および中央官庁)に与え られており その権限は都道府県に委任できます。 公益法人の全従業員数は約60万人です。 2.公益法人に対する税制の優遇措置 公益法人には 営利法人(一般企業)にはない 数々の税制上の恩典(優遇措置)が与えられています。 例えば 国税として法人税 所得税などがありますが 法人税は営利法人の全事業について30%課税 されるのに対し 公益法人は33業種に限定された収益事業についてのみ22%課税されるので優遇されて います。 所得税(預金金利収入など)は 営利企業に20%課税されるのに対し 公益法人には非課税 です。 地方税についても 学術研究を目的とする固定資産に対して 公益法人は非課税ですが 営利法人には 目的がどうあれ1.4%課税されます。 不動産取得税(4%)についても同様で 学術研究目的であれば 公益法人には非課税です。 公益法人の収益事業をいう場合 2つの異なる意味があります。 1つは 公益を目的とする事業と収益 を目的とする事業とに分けた場合の収益事業で 本来の公益事業を支えるため 資金の不足を補う 公益補助事業を意味します。 もう1つは 法人税法上の課税対象となる収益事業です。 法人税法上 の収益事業とは 政令で定める事業で 継続して事業場を設けて営まれるもの(法人税法2条1項13号) をいい 法人税法施行令5条1項において 33業種が定められています。 法人税法上で課税となる 公益法人の収益事業は 物品販売業、出版業 運送業 倉庫業 請負業など 33業種に限定されており これ以外の業種である農業 水産業などは 法人税法の上で収益事業に ならず また 新規事業である介護保険事業などは33業種に入るのか 良く分からないといった問題も 生じています。 公益法人が行なう収益事業は 33業種であれば何でも自由に行えるというものではなく 本来の公益 事業を支えるため 資金の不足を補う公益補助事業であることが大原則となっています。 公益法人の 収益事業は 同じ事業を行う民業を圧迫する恐れがあり この大原則を守ることが求められます。 この辺の問題を避けるために 公益法人に対する指導監督基準(正式名称は公益法人の設立許可及び 指導監督基準の運用指針)では 運用指針として以下の如く定めています。 (1) 公益法人の行う収益事業は 公益目的を実現する為の付随的な活動として認められるものである から その規模は過大であってはならず その支出規模は 可能な限り 総支出額の1/2以下に 留めるべきである (2) 収益事業の1/2以上の利益は 可能な限り 公益事業に使用すべきである (3) 内部留保の水準は 1事業年度における事業費 管理費および固定資産取得費の30%以下である ことが望ましい 上記の運用指針にある収益事業は 「法人税法上の課税対象となる収益事業」 という意味では必ず しもなく 収益事業であっても 公益性が高いと判断されれば 公益事業と見なされることがあります。 例えば 官公庁からの受託研究事業(33業種では請負業)は 法人税法上は収益事業ですが 公益性 が高いと判断されれば 指導監督基準では公益事業と見なされます。 「収益事業」の意味は 指導監督基準と税法で異なるので 混同して誤解されることがあります。 尚 指導監督基準は いわゆる指標であり 基準超過がすべて是正指導の対象になるということでは ありません。 3. 公益法人改革の背景 日本の公益法人制度は 明治29年の民法制定以来 100余年にわたり抜本的な見直しが行なわれて なく NPO法人(特定非営利活動法人)や中間法人など 新しい非営利法人制度が実施され 法体系が 複雑になった中で 時代の変化に対応出来なくなっています。 また 一部公益法人の不適切な運営が 国会 マスコミ等で取り上げられ 大きな社会問題となりました。 国会議員の逮捕にまで発展したKSD事件では 中小企業の経営者を対象に 労災保険などの事業を 行っていた財団法人「ケーエスデー中小企業経営者福祉事業団」(KSD)の古関元理事長が 公益法人 を私物化し その資金で政界工作を行っていたとして 平成12年11月 業務上横領容疑で逮捕され 国会議員の汚職事件に発展しました。 現在の公益法人制度に対する批判や問題の指摘として 主なものをまとめると以下です。 (1) 公益法人の設立許可基準や公益性の定義が明確でなく 公益性の判断が主務官庁の自由裁量で なされている。 (2) 公益の名の下に税金を免除されながら 公益法人として もっぱら収益事業に力を入れ 民間ビジネスを阻害(民業圧迫)しているケースもある。 (3) 主務官庁が設立を許可し監督するので 官僚ら公務員が天下る受け皿(官益法人) となり 補助金 や助成金が無駄に使われることにもなる。 (4) 行政と深く結びついた行政代行型の公益法人が多く存在し 法令で指定されて特定の事業を独占 したり 国家資格の試験の実施を独占するなど 民間企業との競争がないまま 大きな「特権」を 持たされ 非効率な経営になりがちである。 (5) 経営の透明性が少なく KSD事件などの不祥事を起こす温床にもなっている。 公益法人改革は こうした中で「行政改革」の一環として取り組まれた課題の一つであり 平成15年6月 に閣議決定された 「公益法人制度の抜本的改革に関する基本方針」で 公益性の有無に関わらず 準則(登記)で設立できる新たな非営利法人制度の創設 税制上の措置 移行措置について検討する ことになりました。 平成15年11月には 「基本方針」を受けて 行政改革担当相の下に 「公益法人制度 改革に関する有識者会議」 が置かれ 有識者会議(座長・福原義春・資生堂名誉会長)は 26回の会議 を経て 平成16年11月19日 今回の最終報告書をとりまとめました。 4.公益法人制度改革に関する有識者会議報告書の概要 「公益法人制度改革に関する有識者会議」が 最終報告書として 平成16年11月19日にまとめた内容 (以下 有識者会議報告書と略称)の概略は 以下です。 (1) 設立について 主務官庁の許可制だった公益法人制度を廃止し 登記(届出だけの準則主義)で 簡単に設立できる非営利法人制度を創設する。 新制度にNPO法人(33業種を除き原則非課税)は 含めないが 中間法人(原則課税の同窓会・業界団体など)は含める。 (2) 従来の公益法人を「一般的な非営利法人」とし その中から公益性を有すると判断される「公益性 のある非営利法人」を選ぶ 2階建ての仕組みとする。 (3) 法人税として 「一般的な非営利法人」には原則課税 「公益性のある非営利法人」には 原則非課税の優遇措置が与えられる。 新しい税制度は税制調査会が別途検討する。 (4) 公益性の判断は 特定の大臣の下に置かれた民間有識者からなる委員会の意見に基づき 大臣が 最終判断する。 (5) 公益性の判断基準は 今後の法案化作業に委ねられるが 積極的に不特定多数の利益の実現を 図ることを目的とし 公益的事業の規模は法人事業の過半を占め 営利企業の事業を阻害しない 収益事業の利益を原則として公益事業に使用 内部留保が不当に過大でない などが求められる。 (6) 移行期間として 新法の成立・公布から施工日に少なくても1年以上 また現行公益法人が新制度 に適応するには数年間の経過措置期間が必要。 今後のスケジュールとして 平成16年末に閣議決定し 政府・与党内の税制調査会で 新制度の税制 について検討し 2006年の通常国会に民法改正を含めた関連法案の提出をめざすことになります。 有識者会議報告書の具体的な内容は すべて今後の法案化と税制変更の作業で詰められます。 5. 公益法人改革で財団法人はどう変わるのか 結論を先に言えば 有識者会議報告に沿って法案化され税制が変更されても 既存の公益法人 (社団法人・財団法人)が 「公益性のある非営利法人(2階建の2階)」の如く判定されるなら ほとんど 影響を受けず 現在の状況と変わらないと思います。 しかしながら 現存する公益法人が 公益性のない「一般的な非営利法人(2階建の1階)」と判定される ことになるなら 税制の恩典を失うだけでなく 法人税などの税率が現在以上にアップするので 存続する こと自体が極めて難しくなります。 原則非課税であった既存の公益法人が原則課税になれば 法人所得 として寄付金 会費 助成金などの収入から経費や減価償却費を引いた差額(剰余金)に恐らく30%課税 されることになるからです。 公益法人改革で大きな影響を受けるかどうかは 1階(一般的な非営利法人)に留まらずに 2階(公益性 のある非営利法人)に上がれるかどうかです。 2階に上がるには 「公益性があると判断されること」が 前提条件となります。 公益性なしと判定され 1階に留まることになるなら 税制の優遇措置がない 営利法人(一般企業)と 恐らく同じ状態に置かれることになります。 公益法人改革で 社団法人と財団法人のどちらが大きな影響を受けるかは どちらの方が公益性ありと 判断される可能性が高いか次第です。 社団法人より財団法人の方が 多くの収益事業行なっている ことを考えると 公益法人改革の影響は財団法人の方が大きい気もしますが それは2階に上がってから の話で 1階に留まる限り 既存の社団法人・財団法人は 何れも存続を脅かされるほどの影響を受ける ことになりそうです。 公益法人改革は 「公益法人制度(社団法人+財団法人)を廃し 新たに非営利法人制度を創設する」 ことですので 社団法人・財団法人という名称そのものが なくなる可能性もあります。 しかし 私の推測 では 恐らく社団法人・財団法人という名称は残したまま 社団法人・財団法人それぞれについて 公益性有無の判定で 1階か2階の何れかに区分されることになるのだと思います。 6.まとめ(結論) 冒頭に書きましたように 公益法人改革で財団法人はどういう影響を受けるのか 某財団法人に勤める 私自身が渦中にありますので このページで論点を整理してみた次第です。 今回 有識者会議報告書の最終提案で 評価できる点は (1)登記(届出)だけで簡単に非営利法人を 設立できること (2)主務官庁制度を廃止すること の2点です。 一方 今回の提案で一番の疑問点(=問題点)は 以下の4点です。 (1) 公益性の定義を法律で果たして明確に出来るのか。 (2) 現在26000存在する公益法人の全てを 先ず「一般的な非営利法人」と決め その中から公益性有と 判断される「公益性のある非営利法人」を 個別に選別できるのか (3) 公益性の有無について 特定の大臣の下に置かれた民間有識者からなる委員会で判断(最終判断は 大臣)することになるが 民間有識者の委員会は機能できるのか。 (4) 「公益性のある非営利法人」と「NPO法人」は一本化されないが 差別することは公正か。 公益性の定義を 例えば「積極的に不特定多数の利益の実現を図っていること」などと明確に定めても 26000ある個々の公益法人について 民間有識者からなる委員会で判断し「公益性のある非営利法人」 を選別するのは 実際問題として 極めて難しいと思います。 公益法人には約60万人もの職員(全銀行員の倍)が居り 民間有識者からなる委員会の判定次第で 雇用にも大きな影響が出ることを考慮すると 「雇用に大きな影響の出ない経過措置」を考えることが 重要になります。 また 原則非課税で設立された既存の公益法人に対し 当事者の了解なく いきなり 原則課税に出来るかも疑問です。 「雇用に大きな影響を出さず」かつ「いきなり原則課税にしない」経過措置を考えるとなると 現在26000 ある公益法人の全てを 2階(公益性のある非営利法人)に先ず上げ その中から公益性なしと判定 された法人に対してのみ 一定期間内に1階に下りてもらうことにするのが 最も穏当で妥当な経過措置 になると 私は思います。 このやり方が 最も現実的と思いますが 「先ず2階に上げ 後で1階に下りて 貰う」のは 逆のやり方より 説得するのに難しいというのが難点です。 新制度への移行は 雇用への影響を考えるとソフトランデイング 改革の実を早期に挙げるにはハード・ ランディング の何れかの選択しかなく 極めて難しい選択を迫られます。 ここまで辛抱強く読まれた方から 「それで お前の勤める某財団法人は 今後どう備えるのか?」 というストレートなご質問があるのではないでしょうか。 Good question ですが very difficult to answer です。 有識者会議報告書にある今回の最終提案は 総論であり 具体的な内容(各論)は すべて今後の 法案化と税制変更の検討作業で詰めることになります。 従い 民法の改正内容や税制調査会による 新税制の提案など 具体的な内容が更に明らかになるまで 財団法人・社団法人としては 備えようが ないと思います。 想定質問に対する私の答は こうした状況から 「何も備えず 暫く静観する」です。 「泰山鳴動して鼠一匹」という言葉があります。 特殊法人改革は 大騒ぎした割には認定法人を含め 「独立行政法人」という看板の付け替えだけに終わったという見方が強くあります。 公益法人改革に ついても 26000ある公益法人が 「公益性のある非営利法人」という新しい器(2階)に移されるだけに 終わるなら 看板の付け替えだけという批判を受けかねません。 公益法人改革の本来の目的は 「営利企業や行政では満たせない 社会のニーズに対応する自由で 自発的な民間非営利活動を促進すると共に 現在の公益法人制度に内在した弊害をなくす」 ことに あります。 市民社会を担う民間の非営利活動を充実させる展望を持たないまま 課税や規制強化を 優先させるなら 公益法人「改革」ではなく「改悪」となります。 この点に注目しながら 今後の進展を 見て このページ内容をアップデートしていくつもりです。 7.その後の進展: 政府税制調査会は平成17年4月15日 平成18年にも新設される「非営利法人」に関する税制の検討を 始めた。 法人が納める法人税のあり方と非営利法人への寄付の優遇措置が焦点となる。 6月に 基本方針をまとめた上で平成17年末の税制改正で詳細を決め 平成18年の通常国会に関連法案が 提出される予定だ。 平成17年4月15日の会合では 「公益性のある法人」については現行の公益法人 と同様に法人税を非課税とし 33の収益事業に対して課税する方針を確認した。 時代にそぐわなく なってきた収益事業の範囲と税率が一般企業より軽い22%である点を見直す方針だ。 (平成17年4月16日 朝日新聞) 政府税制調査会は「非営利法人制度」の税制の枠組みを固めた。 「公益性がある非営利法人」は すべての寄付金を控除対象とし 現行の「原則非課税 収益事業のみ課税」を維持する見通し。 課税対象の収益事業を見直し 現行の33業種に限定せず「対価を得る事業」の如く包括的なものにする 可能性がある。 「公益性のない非営利法人」にかかる法人税は「原則課税」に近い形にし課税対象を 広げる可能性がある。 非営利法人制度は 民 法改正などの関連法案が2006年通常国会へ提出され 2008年にも導入されるる見通し。 今 後 具体的な公益性認定の仕組み作りが焦点となる。 |