GMによる新車のインターネット販売

T。 プロローグ

世界最大の自動車メーカー General Motors は独自に開発したインターネットでの新車販売システム
である バイパワー(GM BuyPower) を平成11年3月10日に発表しました。 最近 飛躍的に成長し
つつあるオンライン・ショッピング(電子商取引 ネット販売 サイバー・トレード e-commerce 
e-business など呼び方は色々)の中でも新車のネット販売は特に注目を集めています。 J.D.Power
& Associatesの最新調査によると 米国で1999年第一4半期に新車を購入した人の40%が何らか
の形でインターネットを利用しており 2000年末には65%に達するとみられています。
 
米国での新車のインターネット販売は 自動車メーカー系列に属さない独立系の AutoByTel社や
CarPoint社などが今まで中心となっており 自動車メーカーがどういう対抗措置をとるであろうかという
ことが注目されていました。 今回発表された GM BuyPower は自動車メーカーによる本格的な
対抗処置としては最初のものであり 独立系の新車ネット販売各社のビジネスにどういう影響を与え
また同様の対抗策を検討している他の自動車メーカーは どう追随するか興味深いです。 (自動車
メーカー独自による同様のシステムとして Ford社の FordDirect や DaimlerChrysler社の
GetaQuote なども既にありますが システム全体の完成度はGMよりかなり劣ります)

新車のインターネット販売が 今まで 独立系のAutoByTel社などを中心に行われ 自動車メーカー
独自の対抗措置が出遅れていた理由として 一般的には 「AutoByTelなどに対抗するシステムを 
自動車メーカーが独自に 消費者の視点に立って考え 公平な情報を提供するのは 既に膨大な設備
投資をした既存の流通システムの中では無理」 と言われ続けていました。 インターネット販売や
電子商取引の成功は これまでの「供給者主導のビジネスモデル」から「買い手主導のビジネス
モデル」へとパラダイムをシフトしたことにあります。 従いGM主導で開発したネット販売システム が
成功するかどうかは メーカーの視点ではなく消費者の視点に立って GM BuyPowerのシステムを
作れたかどうかにあります。 GMが満を持して発表した新システムはAutoByTelやCarPointなどの
独立系業者に脅威を与える内容と言えるのでしょうか? 

このページでは 無謀にも この検証を私の偏見を交え行うつもりです。 消費者の視点に立って
ネット販売システムを開発することは BUREAUCRACYで悪名高いGMには所詮無理なのか 天下の
GMとしては出来て当然なのか こうした観点からGM BuyPowerを評価できたら このテーマを取り
上げた私としては本望です。 

U. GM BuyPowerの概要

GMは米国内で1998年に461万台の新車を販売しました。 GM BuyPower導入による混乱は許されず
慎重を期して 1997年10月から California, Oregon, Washington, Idaho の4州でテストが行われ
顧客と販売店からのフィードバックを反映させた上でほぼ1年半後に全米での正式展開となりました。

GM BuyPower のシステム開発に加わったのは GM社内では消費者動向を専門とする Consumer
Marketing Initiative というグループであり 外部からは Sun Microsystems, Electronic Data
Systems社などの支援を受けました。

GM BuyPower はサターン部門を除く全てのGM車に適用されます。 GM傘下の7800ディーラーの内
GM BuyPowerを導入するのは 当初 73%のデーラーですが 準備(加盟するデーラー担当者の教育
や契約など)が整い次第 残るデーラーも全て近い内に加わるものとみられています。 GM傘下の
デーラーによる GM BuyPower への加入は無料です。

詳細を知りたい方はWebサイト(URL:http://www.gmbuypower.com/)を参照ください。
「The Future of Online Auto Buying」 を謳文句にしている GM BuyPower の概要は以下です。

1. 新車購入を検討したい顧客はWebサイト「GM BuyPower」で 購入を考えているGM車と同じ
   セグメントにある競合他社の 車と 仕様 性能 価格について比較できます。 Automotive
    Information Center's (AIC) Auto Site という中立な第3者による比較であり信用できます。
2. 購入したい車型 仕様 ボデー色を入力すると 顧客の希望するディーラー又はGMが推薦する
   デーラーからベストプライスとしての見積価格が提示されます。 ディーラーからの見積価格には
   どの在庫車両に該当するのか Vehicle Identification Number が明示されます。
3. 希望する車がディーラー在庫に無い場合には デーラーからメーカーに注文して貰うことも可能
   です。
4. ディーラーでの担当者は GM BuyPower Manager というインターネット販売の専任者として
   GM本社でのトレーニングを受講し認定を受けた人で Webサイトに名前と電話番号が明記されて
   います。
5. GM BuyPower に加盟するディーラーは GMの定めた顧客対応規則に従うという契約をGMと
   結びます。 顧客対応規則とは 顧客にはディーラーのベストプライスを提示する GM本社で
   専任者のトレイニングを受講する 24時間以内に顧客に対応する 等などです。
6. 購入希望の車について 希望すれば テストドライブやGMACのファイナンス(割賦販売やリース)
   の条件提示を得られます。
7. デーラー在庫車両に顧客の希望するメーカーオプションが装着されていない対応として GMは
   Regional Distribution Centrers を新たに設け そこから供給します。
8. インターネットではなく 電話でのやりとりを希望する顧客には 毎日16時間の無料電話
   サービス(英語とスペイン語)という high-tech に代わる high-touchのアプローチも用意されて
   います。

V。 GM BuyPower の可能性

GM BuyPower の内容は 一見  自動車メーカー系に属さない独立系の新車販売仲介サービス業者
が先行し広く受け入れられつつあった インターネット販売システムと大差なく 新味も無いので 
これでは AutoByTel社やCarPoint社などの対抗処置にはなり得ないと思われるかも知れません。

暫く様子を見ないと正しい評価は勿論できませんが GM BuyPower は AutoByTelやCarPointに
とって脅威であり 生存さえ脅かす巧妙に考慮されたシステムであると 現時点で私は評価してい
ます。 天下のGMが 満を持して発表したインターネット販売システムの内容を オソマツなものと見く
びる(underestimate)べきではなく 内容を良く読むと サスガGMと思える長所が色々とあります。
私が高く評価する GM BuyPower のポイントは以下です。

1) GM BuyPower に加盟するGMの傘下ディーラーは 見積価格としてベストプライスを顧客に提示
   するようGMとの契約で義務づけられています。 GM BuyPower がベストプライスを提示するという
   ことは 単純に考えると AutoByTelやCarPointの利用では 同じGMの車についてGMディーラー
   から ベストプライスを得られないということです。 このことは重要なポイントで ベストプライスを
   出せないAutoByTelやCarPointは存在価値が少なくなるからです。 (蛇足: Bestというのは私が
   中学校で習った英語の理解では 一つだけであり  GM BuyPowerとAutoByTelの両方に加盟
   するGM傘下ディーラーが ベストプライスを提示することは出来ない筈です)   
2) 自動車メーカーがインターネット販売システムを独自に開発したということは インターネットを
   使って既存の生産から販売までのシステム全体を見直す用意があるということです。 既存の
   システムを全く変えずに存続させたまま インターネット販売システムのみ導入するということは
   インターネットの利点を活かせず考えられません。 GM BuyPowerは生産から販売までのリード
   タイムを短縮し デーラーに在庫を置かず 顧客からの注文に基づき生産し納車するシステムに
   将来発展させる余地を充分に残しています。 州によっては自動車メーカーの直販を禁じている
   ので GMの直販システムに一挙に進むとは考えられませんが 「供給者主導のビジネス
    モデル」から「買い手主導のビジネスモデル」へ システム全体を改善する決意をGMが固めた
    ように感じられます。 
3) GM BuyPower により GM本社は最新の顧客情報をタイムリーに全米レベルで収集できます。 
   収集した情報を社内の関連部署が分析し 顧客ニーズに対応できる製品開発や無駄のない
   マーケティング等も可能となり GMの競争力を高める上で重要な情報源となります。

GM BuyPowerの可能性として 即効性があるのは上記1のみですが 長期的には上記2と3の効果
が出てくるものと私は思います。 今回発表したシステムを絶えず見直し 絶えず変化する消費者の
ニードにGMは応えていくと GMはプレスレリースの中で明言しています。 又 GMはGM BuyPower
を成功させる為に メーカーの立場ではなく消費者の立場でシステム改善する必要性を認識している
とも明言しています。 今回 GM BuyPowerプログラムを推進したのは GM社内の販売や
マーケティング担当部署ではなく 消費者の動向掌握を専門とする Consumer Marketing Initiative
グループでした。 このことは GMがインターネット販売の本質を理解しているということであり 
GM BuyPower によりGMが劇的に変化し 更に強固な存在となる可能性もあります。

W。 エピローグ

米国でパソコンを製造・販売し大成功しているデルコンピューターという会社があります。 パソコンの
会社として 1999年の出荷台数750万台はコンパックを抜き首位にあります。 株価上昇率は
米国企業の中で1位 過去5年間の平均株価上昇率は152%というスバラシサです。 売上高と
利益も過去4年間でそれぞれ6倍 10倍と伸ばしています。

デルコンピューターが大成功した理由として 社長であるマイケル・デル氏の秀でた指導力が 勿論
ありますが 他社と異なる次の経営手法にもあります。 

1) インターネットを利用し デルコンピューターが顧客に直接販売する(即ち在庫を持たない)方式を
   1996年7月から採用。
2) 同時に店舗販売を全面的に廃止。
3) パソコンの生産は 個々の顧客が希望する仕様(具体的にはCPUやHard Discの容量等)に
   ついて注文を受けて行い 受注の4日後に納品する。

このような事業形態は 当初 ニッチ(隙間)市場を対象にすると見られていましたが 今では在庫を
持たない顧客本位の経営モデルとし ニッチではなく主流として広く受け入れられつつあります。 
「メーカーとディーラーに都合の良い生産・販売方式」ではなく 「インターネットを利用して 個々の
顧客が希望するスペック(仕様)の注文を受けて商品を生産し メーカーが直販する方式」 に切り替え
たことが デルコンピューターの成功理由です。 商品によりインターネットを使った望ましい事業形態
は異なるにしても パソコンだけでなく 自動車や衣服などの他の業界でも将来は同様の動き(顧客の
好みを個別に満たす生産)となると考えるのが常識的ではないでしょうか。

最近の話題として 音楽のインターネット配信があります。 CD音楽アルバム3千円 シングル千円
が音楽ソフト市場の相場ですが これをインターネットで配信すると一曲2百円から3百円程で得られ
ます。 音楽のインターネット配信が普及するようになるには 著作権保護 原版権の所在 関係者間
の利益配分など 未だ解決すべきことが色々と残されていますが 一番の問題はインターネット配信
により 日本に現在8千店あると言われるレコード店を含めた既存の流通網が崩壊しかねないという
ことです。 一曲当たりの販売価格を下げ増販により売上高を維持するのは 不可能であり 業界は
インターネット配信導入について 自分で自分の首を締めかねないと危惧していますが 音楽流通の
主役にいずれなるであろうというのが 一般的な観測です。

証券取引も一変しつつあります。 インターネットを使った株式取引手数料は従来型取引に比べ
10分の1に下がると言われています。 1998年 米国で個人の株取引の内 オンライン取引を利用
したのは3割 2000年には5割に達するという見通しです。 日本でも今年10月から株式売買の
委託手数料が自由化するので ネット証券取引が急増しそうです。

自動車は車検 定期点検 アフターサービスが必要といった商品の特性から メーカーが独自に開発
したインターネット販売を導入しても パソコンや音楽や株取引とは異なる流通システムに当然なると
私は思います。 ではどういう流通システムになるか Crystal Ball を持たない私には占えませんが 
一つ確かなこととして デーラー在庫からの販売という従来からの流通体系を全く変えずに存続させる
ことは あり得ないということです。 従来型の自動車販売は セールスマン一人当たりの平均新車
販売台数 1営業所当たりの平均販売台数(拠点効率) 台当たりのマーケティング費用を尺度に
セールスマン数 拠点数 マーケテイングコストの勝負でしたが インターネットの時代に このやり方
は通用しなくなっています。

自動車メーカー独自のインターネット販売システムにより 一番可能性の高い将来の形態は 
メーカー直販が半分 残る半分がデーラー在庫からの販売(即ち従来の形態)という ハイブリッド方式
ではないのかというのが 敢えてする大胆な私個人の予想です。 メーカー直販というのは顧客から
の注文をメーカーが直接受け納車はデーラー経由ということに恐らくなり デーラーの営業所数が半減
することには必ずしもならないと思います。

ディーラー在庫からの販売という従来形態の問題は 顧客の希望するスペック(仕様)の車を必ずしも
選べないということであり メーカー直販はこの問題を解決します。 私は最近 トヨタの新車カリーナ
を購入しました。 1800CCエンジンを搭載したオートマティックのセダンには Siグレード(メーカー希望
の小売価格\180万)とGグレード(\194万)という2車型があり 異なるメーカーオプションがそれぞれ
に設定されています。 Gグレードにあるメーカーオプション(仕様)をSiグレード車に取り付けたいと
思っても無理であり 逆も同じです。 私はSiグレードの車にカーナビを装着したかったのですが
カーナビはGグレード車にしかオプション設定が無く 結果としてカーナビを取り付ける為に14万円
高いGグレード車を買わされました。 20万円のカーナビを取りつけるのに34万円(但し値引き前)払わ
されたということです。  こうした商品政策は メーカーとディーラーの立場からは賢いと従来から評価
されていましたが 消費者としては困ったことでした。 メーカー主導によるインターネット販売システム
は 今までは無理と思われていた商品政策(生産と販売の仕組み)に 顧客の要望を優先させる
柔軟性を持たせますので 新たな展開が可能となります。  

米国のWebビジネス情報 Planet IT(平成11年3月15日付け)による GM BuyPower の評価は
私の見方と似ており 次ぎのようなものでした:

 GM BuyPower did more than begin selling cars online.  The auto giant took a
 major step toward bringing build-to-order efficiency to the auto industry.  
 GM also has ambitious plans to link the Web applications directly into the back
 -end systems that run its enteprise. The new consumer site mirrors the
 agresssive work underway at GM and other manufacturers to automate the car
 industry suply chain using the Internet.  For now, GM's customer and supply-
 chain Internet efforts are separate, but they are clearly on course for
 integration。 In the near term, the BuyPower site aims to reassert the role of
 carmakers and their closely aligned dealers in the online buying process.
 Ultimately the site may set the stage for real-time manufacturing, whereby Web
 user preferences are fed right into the supply chain with reduced cycle times.

このページを読まれた方は 私の見方ではなく 米国の英文記事なら信用するのでは(?)と思い 
敢えて引用しました。

平成11年8月10日 GMは新車販売や部品会社との取引など インターネットに関連した世界中の
サービスや業務を統合た事業部 e-GMを設立しました。 GMはインターネットを利用し 新会社を
通じて部品受注から納車まで迅速に対応できる体制づくりと 自社のウェッブサイトを自動車関連の
企業間取引だけでなく他の企業同士の取引にも拡大予定です。。 従来EDI(電子データ交換)技術を
使って主要部品会社との取引をオンライン化していましたが EDIは拡張性が悪くコスト高という問題が
あったので 誰でも参加できるサイバー市場として開放し電子商取引の主役とするのが狙いです。 
(上記の英文記事でアンダーラインされた部分が今回実現されつつあります)

e-GMのホーガン社長は日経ビジネス(平成11年12月6日号)で 「e-GMはトヨタのガズーに
GM BuyPower を利用できないか担当の豊田章男氏と話し合いを進めている」という注目すべき
発言をしています。 ホーガン氏はGMとトヨタの合弁会社NUMMIにGMから出向していた経歴から
トヨタ社内に知己が多く 同氏がトヨタ首脳に提案している両社の情報システム統合が実現するかも
知れません。

フォードは平成11年9月20日 マイクロソフト傘下にある自動車のネット販売大手であるカーポイント
と合弁会社MSNカーポイント(マイクロソフトが株式の過半を保有)を設立し共同で事業を展開すると
発表しました。 メーカー独自のネット販売システムをサンマイクロシステムズの支援を得て開発した
GMに対し フォードはマイクロソフト傘下の独立系ネット販売会社とも協力するスタンスであり どちら
のやり方が北米で成功するか注目されます。 カーポントは Raynolds and Reynolds という
コンピューターによるディーラーの経営や顧客管理システムを扱う会社とも提携しており フォードは
アウトソーシング(外注)でシステム全体を完成させる方向に対し GMはインハウス(内製)の方向
というのも興味深いです。 フォードは競売大手プライスラインとも提携し全車種をネット競売する計画
を発表 フロリダ州からテストを開始しています。 ポータルサイトとの関係では GMはAOL  フォード
はヤフー と提携し 自社サイトに加え それぞれのポータルサイトからもネット販売を行っています。
フォードは GM BuyPower に対抗するネット販売システムとして 「フォード・ダイレクト・ドット・コム」
(http://www.forddirect.com)を平成12年8月25に発表しました。 先ずカリフォルニア州から
スタートし平成13年度中に全米で展開するそうです。

まとめとして 自動車メーカー独自のインターネット販売システムが行くつく究極は 「顧客の希望する
メーカーオプション(仕様)をどの車型にも自由に選べるようにし デーラー在庫にない車はメーカー直販
にして デーラー経由で納車する」 ということになるのではと思います。。 
GM BuyPowerが この方向にいち早く進むのか GM以外の他の自動車メーカーの方が早いのか 
又は この推測そのものが全くの誤り(英語で Bull Shit と呼ぶ内容)なのか 興味を持って見守る
つもりです。

インターネット販売の将来を考える上で 自動車という商品がどうなるかは他の業界への影響力も高く
controversialな(議論となる)テーマかも知れませんが 興味深いので 敢えてこのページで取り上げ
ました。 

P.S.  GMバイパワーを日本で導入する為に GM スズキ 富士重工の3社は平成13年9月に
共同出資して運営会社「日本オートウェッブサービス社」を設立しました。 しかしながら 利用者数が
伸びず 採算確保できないことから平成15年9月に同社を解散しています。


皆さんからのご意見ご感想などメールでいただければ幸いです。

V.  付録

(宇佐美進典氏の調査レポートを紹介)

このページを読まれた 有限会社イージーネットの宇佐美進典氏(mailto : usami@eznet.co.jp
URL : http://www.eznet.co.jp)から GM BuyPowerについて、XML(eXtensible Markup Langage)
という視点から書かれた 下記内容のレポートをいただきました。 私の内容と一部重複しますが
貴重な情報として ご本人の了解のもと 以下 紹介させていただきます。

--■■■--------------------------------------------------------------
--■■■-- アメリカ自動車業界における電子商取引への取組 --------------
■■■

アメリカでは既に業界を挙げてXMLに取り組み始めている。今回は、その中でも自動車業界における
取り組みを取り上げたい。

元々、自動車業界では、膨大な関連産業を取りまとめることを目的としてCADデータを含む主に部品
の調達部分のEDIが進められてきた。 (下記図の(1)の部分)現在、北米の自動車産業の業界団体
であるAIAG(Automotive Industry Action Group)がANX(Automotive Network Exchange)と呼ば
れるエクストラネットを構築している。 AIAG(Automotive Industry Action Group) http://www.aiag.
org/  ANX(Automotive Network Exchange) http://www.anxo.com

このANXは、フォード、ダイムラークライスラー、ゼネラルモーターズの3大自動車メーカーやベルコア、
そして約1000の部品供給業者をインターネットで結んでいる。これによって、北米の自動車業界では、
一台当り76ドル、年間で約11億ドルのコストを削減することが出来た。

実際にこのANXの中でXMLが利用されているということは明らかにならなかったが、元々がSGMLに
よる取引を行っていたことから、現在ではXMLへも取り組んでいると思われる。

*自動車が出来るまでを情報流通手段に着目して分類すると、以下のようになる。

部品メーカー
↓(1) EDI/エクストラネット
自動車メーカー
↓(2) EDI
ディーラー
↓ ↓(4) インターネット/電子メール
↓(3)対面営業 新車見積サービス事業者(*)
↓ ↓(5) インターネット/電子メール
消費者

また、つい2〜3年前までは、各ディーラーから消費者へは(3)対面販売がほとんどで、(4)(5)ネット
を通じて新車の見積りを依頼すること自体考えられなかったが、(4)(5)での販売は、全米シェアで
17%に上り、2001年までに50%に至るという調査結果もある。

これらのネット上での新車見積サービスを展開しているような企業では、各社の新車情報として膨大
なカタログデータを入力/メンテしているが、これらはまだまだ自動車メーカーからのデータとして受け
取ってはいないようだ。

車のカタログを見ればわかると思うが、ほとんどの自動車のカタログには価格・色・馬力数・排気量
などが書かれているが、これらは各メーカーによって記述方法は異なっている。

これらの記述方法がもし、XMLで統一され、デジタルデータとして各メーカーのサイトで公開される
ようになれば、上記のような新車見積サービスを展開している企業では、こういった新車情報を
カタログから手で入力するといった煩雑な作業から解放されることになる。

しかし、これはまだまだ遠い夢である。現実的には当分の間(1年〜2年)は自動車業界による車
スペックの標準化及びそのデータのWEB上での公開は進まないだろう。

個別企業ではあるが、上記に関連して興味深い動きとしてはゼネラルモーターが運営する GM 
BUYPOWERがある。 これは、Auto-by-telやCarPointなどのネットでの新車見積りサービスに対抗
してGMディーラーのみを集め、ネット上で新車見積りサービスを展開するものである。 ここには、
全米のGMディーラー約7800のうちの73%以上が参加している。

ちなみにここでは、以下のことが可能だ。
・GM車のベストプライスの見積り及び試乗の手配
・ファイナンスのシミュレーション
・パーソナライズ画面でディーラー情報や車情報をストック など

GMにとってのメリットは
・顧客情報をメーカーが握ることが出来る
・新車情報のアップデートが楽。
・DELLのような受注生産体制への第一歩

ディーラーにとってのメリットは
・顧客開拓

顧客にとってのメリットは
・BestPrice
・単なる価格の安いディーラーの紹介だけでなく、購買プロセス全体へのフォロー

こうして見ると、GM-ディーラー-顧客の関係は、Win-Win-Win関係にも見える。 しかし、このように
メーカーが最終消費者を掴むようになってくると将来的には、中間業者であるディーラーの淘汰が始
まり、自動車販売で収益を上げるのではなく、販売後の保守メンテでの事業収益をあげられるような
ビジネスモデルをいち早く構築できたカーディーラーのみが生き残れるのかもしれない。

なお、GMのchief technology information officerであるDennis Walsh氏は「我々は商品の開発・
製造のサイクルを減らすことは何でもやっている」とCMP NET内での記事内で語っている。
http://www.interactiveage.com/news0399/news031299-7.htm となれば、GM内でも上記を実現
するため将来的にはこのシステム内にXMLを取り入れてゆくと考えられる。

では、GMBUYPOWERのどこにXMLを利用できるだろうか? それは車の詳細なスペック情報では
ないだろうか。 いわゆる他の新車見積り業者は、現在自動車メーカーが発行するカタログを元に手で
DB入力しているが、GMBUYPOWERの場合にはこのデータを社内的にXMLの形式で取得すればよ
いのだ。

この場合には、上記であげたAuto-by-telやCarPointなどとは違い、自社だけの基準で構わないため
いち早くカタログデータを電子化することが可能となり、カタログ情報のメンテナンスが非常に楽になる
であろう。                                  (C) Shinsuke Usami

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