下タ沢会によせて(覚書)

切りタンポ

 半殺しで思い出したが、なんといっても半殺しの雄は、切りタンポだ。ただ面白 くないのは、この頃きりタンポに鍋がついたことだ。旅館でもホテルでも「切りタ ンポナベ」と称して、一人前の小さいナベがお膳の上でクツクツ煮えている。全国 どこでも名物料理と称して、何々ナベというのが、はやっているようだが、本来地 許の人は、自慢の料理に一々ナベをつけていってるだろうか。切りタンポ発祥の地 と自慢する私たちは、切りタンポとはいっても、切りタンポナベとはいわなかった。 鍋がなければ、煮炊きできないから、わざわざつける必要はない、鍋を食ふわけで はないのだから、と一人腹を立ている。

 大分前にNHKの昼の番組で、鹿角のきりタンポを取上げたことがあった。番組の名 前は忘れたが、今やっている「昼時にっぽん列島」とでもいう感じで、花輪の旧家 が舞台だった。鍋が気になるものだから、旧家の主人がなんというか気をつけてい たら、「切りタンポナベ」といった。なんちゅうことだと思ったが、もともとはそ う言ったのかもしれない、と少し自信をなくした。が私たちがスキヤキをやるとき、 スキヤキナベをやる、とはいわないよネー、これも負惜しみの一つか。

 それからもう一つ、20年くらい前(もっと前からかもしれない)八幡平に行って も十和田に行っても、「みそつけ切りタンポ」という旗を立てている。そこでまた、 一人で腹を立てた。切るから切りタンポで、そのままでは、ただのタンポだ、それ にミソをつけるから、「ミソつけタンポ」だ、と。そうしたら、マインランドがは じまった頃(昭和57年4月オープン)、マインランドでもそんな旗を立てていた。岩 手や青森ならいざしらず(といっても、鹿角はもともと岩手だが)、発祥の地と自 負する鹿角がなんだ、とまた一人で腹を立てた。その頃顔見知りの花輪のミツワの ご主人と一緒になることがあった。そこで、「あなたのところでは、『元祖みそつ けタンポ』の旗を立てているが、今どこへ行ってもミソつけ切りタンポだから、あ の旗は絶対下ろさないで頑張って下さい」とお願いしたことがあったが、私もいつ も観光地に行くわけでもないが、気がついたら「ミソつけタンポ」になっていた。

 私達は、切りタンポといっても、手数がかかるので、個人の家では中々やらなか ったが、ダマコモチは手軽にできるので、よくやった。これも、半殺しだ。  ダマコで思い出したが、どこの家でもニワトリを飼っていた。それは、タマゴに なり、肉になった。その骨たたきをよくやらせられた。高さ1尺くらいの木の切株 の台があって、それに骨をのせて、鉈の背中や刃で餅のようになるまでたたいた。 それをダマコのように丸めて鍋に入れた。つなぎに麦の粉を入れてあったかもしれ ない。今の子供達は見向きもしないどころか、食えないだろう。いくら細かくつぶ したといっても、骨は骨だ、が私達にとっては、大事な栄養源であったと思う。

 切りタンポは今では、商品として作っているので年中あるが、私達が若い頃は、 それは自分で作るものだった。大いていの家には、5分角くらいの、1尺5寸くらいの 柾目の杉で作った、いわゆるタンポ串があった。秋になって新米がとれ始めると、 待ちかねたようにタンポ会をやろうとなった。タンポは秋、新米で作るものだった。 なんでもありの今の時代は、切りタンポの季節感もなくしてしまった。

 私達の子供の頃は、山のものでも畑のものでも、その時期がこなければ食べられ なかった。そこに、待つ、という期待感があり、待つという楽しみがあった。それ が、私達に待つことの大事なことを、言葉や理くつでなく、体の中にしみこませた。 それが目に見えない自然の恵みである。太陽の光が知らず知らずのうちに、私達の 心を育ててくれていた、と思う。

 今の子供はすぐ切れるといい、若者達の惨虐な事件が後を断たない。専門家とか 学者とかいわれる人達が、いろいろいっているようだが、難かしい事は私にはわか らないが、ただ私は、子供達が待つということ、がまんするということを知らない で育ったからだ、と思っている。それは、あらゆる自然を征服しようという、自然 の恵を忘れた人間の思い上った傲慢な心の結果かもしれない。とエラそうなことを いい出したが、今更ら下タ沢にもどって、ブドウがいつうむか、カシマメのお尻が いつはなれるか、といった生活にもどるわけにもいかないが。

 よけいなことをいっていっているうちに、もう一つ忘れるところだった。半殺し といえば、「スイトン」があった。スイトンは、戦時中のミジメな代用食の代表の ようにいわれているが、私達はスイトンといったかどうか忘れたが、冷たいゴハン が余るとつぶしてスイトンをつくってもらった。私達というか、私にとっては、ご ちそうの部類だった。

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…… 鹿角の特色ある料理 ……
キリタンポ鍋
GLN企画普及室
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