1999年4月の日記

ストロベリーのiMacが自宅に届いて2週間後にはホームページを開設。まったくの初心者だったのに自分ひとりの力でよくやったもんだと自画自賛しているうちに、アマチュア女装交際誌『くいーん』114号の女性ホルモン特集(後編)が原因で、『くいーん』及び女装会館「エリザベス」と訣別宣言。いろいろあった4月でした。(1999年9月1日記)

4月15日(木) ホームページの仮運営を開始した。
[日記]ストロベリーのiMacが届いた3月31日以来あまり外にも出かけず、iMacで遊んでばかりいる。気がついてみると2週間ホルモンを打ちに行くのも忘れていたほどだ。でもまあその甲斐あって、コンピューターのことなどほとんど何もわからなかったのに、1か月も経たないうちに自分のホームページを立ち上げることができそうだ。最初は緑川りのちゃに作ってもらおうと思っていたのに、全部自分でやってしまった。このあいだの日曜日にはルルや香澄と簡単な打ち合わせもしたし、あと一息。明日は久しぶりに新宿で夜遊びしようっと。
 P.S. と思っていたら、徹夜の突貫工事で仮運営が開始できる見込みになりました。よろしくね。
[回想記]当初このサイトは「トランスジェンダー銀河組」というタイトルでスタートしました。同じような性別違和(用語についてを参照)を抱き当時いつも3人組でつるんでいた盟友、深津ルルちゃんと芹沢香澄ちゃんの情報も発信する予定でした。緑川りのちゃんは女装会館「エリザベス」で知り合った若くて健康的なトランスヴェスタイト(用語についてを参照)。出版関係の仕事に従事しています。最も大切な友人のひとりです。(1999年9月1日記)

4月16日(金) 夕方から翌日の昼まで遊び倒した。
[日記]徹夜の突貫工事の甲斐あって、午前11時40分ごろホームページのアップロードが完了。いよいよ仮運営の開始だ。緑川りのちゃんのホームページの掲示板に書き込みに行ったりしてるうちに午後1時近くに。あわてて仮眠をとる。
目が覚めると3時。長*さん(銀河の彼氏)と4時に待ち合わせをしてるので、大急ぎで支度をする。最近は女装女装したフルメイクにミニスカートといった格好をする気になれないんで(なんだか妙な違和感を感じるんだよね)、パウダリーファンデで超手抜きメイクにパンツルック。長*さんがお仕事の関係でもらってきたチケットで、都内某所のお風呂屋の2階の広間で開催される寄席を見物に行く。2ヶ月に1回のペースで今回が2回目なんだけど、生のコントや漫才に大喜びしてる長*さんを見てるのがうれしい。銀河は、もとナンセンストリオの前田隣さん(元祖ビートたけしといったノリ)と若手の男女コンビのおこさまランチが気に入りました。
その後、新宿西口の居酒屋「嵯峨野」で簡単な食事をとってから、村田高美さんのお店「たかみ」へ。今日から当面のところ毎週金曜日は、銀河のお友だちの中澤清美ちゃん(まだ21歳の学生さん。このホームページの掲示板にも書き込みをしてくれてます)がヘルプで入ることになった。清美ちゃんはテキパキしてるし、よく気がつくし、とってもがんばってました。
いつもの常連さんたちとまったりと過ごしていると、1時過ぎに、山本さぎりさんとりのちゃんと芹沢香澄(銀河組組員。この娘は身内なんで敬称略)が「男モード」で登場。さぎりさんはエリザベス亀戸店の常連さんなんだけど大阪に転勤され、今日は出張で久々の上京。3人で六本木のニューハーフのお店「プチシャトー」に遊びに行ってきた帰りだという。香澄は会社帰りの格好だったんだけど、帰り際に「決心がついたらおいでね」って言われたんだって。
「男モード」のりの(大学の後輩なんで以下敬称略)は相変わらずのハイテンション。りのの彼氏のH氏が来てたにもかかわらず長*さん(銀河の彼氏)の物真似を始め、銀河はたっぷり可愛がってもらうことになりました。でも「さぶ」入ってます。3時過ぎに、南麻衣子さんも「ジュネ」(いわゆる「女装スナック」)経由で登場。
閉店後は、喫茶店で香澄のちょっとシリアスな悩みごとの相談にのってあげた後、長*さん、麻衣子さん、さぎりさん、りのと合流。6人で屋台村に行き二次会で盛り上がった。麻衣子さんとりのは半分寝てましたけどね。
朝7時半に帰宅すると、いろんな人がホームページに立ち寄ってくださっていたようで、超感激。掲示板の書き込みの返事を書いていたりしているうちに午前中がつぶれてしまったのでした。
なんか、長くなってしまったなあ。明日からはもっと短く書こう。夕方までには「エリザベス」に行かなくちゃならないんで、もう寝ます。
[回想記]当時の夜遊びの典型的パターンです。新宿ゴールデン街の「たかみ」(03-3209-7416)も歌舞伎町の「ジュネ」(03-3209-7491)も、アマチュア女装者及び女装者に興味を持つ男性を主たる対象にする飲み屋さん。この手の「女装スナック」が新宿には10店以上存在します。今の銀河は「女装スナック」に行くことはないでしょうが、両店とも趣味で女装をしている人にとってはとてもよいお店だと思います(料金も格安です)。なお、この日記に女性名で登場する人たちは特に断りがない限り生物学的には男性。お間違えないように。(1999年9月1日記)

4月17日(土) 「エリザベス」はセーラー服パーティーで変だった。
[日記]目が覚めると午後3時。香澄に携帯で連絡を入れ、起きていることを確認。支度をして5時半に「エリザベス」亀戸店に到着。2週間ぶりだ。
今日の「エリザベス」はセーラー服パーティーとかいうイベントをやっていた。ふだんはセーラー服なんて着ない人や大先輩の方々までセーラー服や制服を着ていたので、すごく妙な感じ。でも南麻衣子さんはセーラー服を断固として拒否なさっていたし、香澄も「女装」する気になれないらしくて、なんかへんてこな部屋着のようなのを着ていた。下ははいてきたジーンズのままだったし。銀河は一応その場の雰囲気に合わせ、お友だちから借りたよくわからんコスプレの制服を着て女装者を演じましたけど、1時間もしないうちに疲れちゃいました。りの相原菜摘ちゃんは楽しそうでしたけどね。
二次会(「エリザベス」は午後10時で閉店で、「女装」のままでの出入りは禁止されているんで、「女装」を解いて二次会と称して有志で飲みに行くんです)は、Yさん(「エリザベス」の女装ルーム担当のスタッフ)が新たに開拓した「杉さく」という店に初めてお邪魔しました。隣にはなんとスナック「銀河」が。すぐ近くにはゲイスナック「かま姫殿」があるというロケーション。
睡眠不足のせいもあるんだろうけど、なんかかったるい1日でした。
[回想記]「エリザベス」というのは趣味で女装する人を対象にした健全な「女装ルーム」。飲み屋さんでも性風俗店でもありません。専門のメイクアップアーティストがいて、貸衣装もそろっていて、一度女装を体験してみたいという人には最適でしょう。創業20年の老舗でプライバシー保護もきちんとしていますので安心です。他の特殊な趣味の場合と同じで、常連客の間には一種のコミュニティーが形成されています。銀河の場合、自分の性別違和と真っ正面から向き合ってみようと決意した1996年9月にまず訪れてみたのが「エリザベス」でした。今にして思えば入り口を間違えた感もありますが、当時はプロのニューハーフさんになるか趣味の女装の店に行くかの2つの選択肢しか思いつかなかったのです。そこに集う趣味の女装者の方々に対しては違和感(自分とは違う種類の人たちだという感じ)を抱くことも多く、しばしば疎外感をも味わいましたが、その点を除けば、人格的に尊敬できる人たちも多く、スタッフも含めて和気あいあいとした雰囲気が結構心地よくて、2年半の長きにわたって常連客として通い続けることになったのでした。で、結局この4月17日が「エリザベス」に行った最後の日。最後がセーラー服パーティーで、正直なところ不快な気分を味わってしまったのも、「エリザベス」と私の関係を象徴しているような気がします。(1999年9月1日記)

4月18日(日) 一日中自宅で授業の準備をしていた。
[日記]明日から新学期が始まるので(銀河は予備校で大学受験生を相手に英語を教えているのです)、今日は一日授業の準備をしていた。予備校の講師ってペイもいいし、楽そうに見えるかもしれないけど、生徒に人気があるかどうかがまず第一だし、そのためには、大学に合格できる学力を効率よく身につけるためのプログラムをきちんと提供しなければならない(あるいは、きちんと提供していると思わせなくてはならない)。同じテキストを担当してても、教室が満員になる講師もいれば閑古鳥が鳴く講師もいる。過酷な競争社会なんですね。だけど勝ち組に入っていれば、トランスセクシュアルであっても何であっても許される。勝ち組からこぼれないようにするには、綿密な授業準備が必要。というわけで、銀河の場合、90分の授業を1回するためには、家で5時間程度の授業準備をします。明日は90分授業が3コマ。新学期最初の授業だし、とにかくツカミが大切。がんばろうっと。
 
[回想記]銀河の場合、仕事上の能力に対するある程度の自信とその自信を維持するための努力が、トランスセクシュアル(用語についてを参照)な生き方を貫いていく上での土台になっているような気がします。自分で言うのもなんですが、仕事に関しては過剰なほど努力しているつもりです。私が女性のスタイル(つまり女性服を身につけお化粧をしてということ)で仕事をしていることを単に「環境に恵まれている」の一言で片づけたり、うらやましがっているだけの人たちには正直腹が立ちます。確かに「環境に恵まれて」はいますが、それも努力を惜しまずよい仕事をするという前提の上での話です。(1999年9月1日記)

4月19日(月) 新学期が始まった。夜遊びもした。
[日記]今日から新学期。気合いを入れて仕事したから疲れてしまった。空き時間を利用して、2週間ぶりに都内某所にホルモンを打ちに行く。仕事を終え、夜8時過ぎに帰宅。掲示板の書き込みに返事をしてから、シャワーを浴び、おめかしして夜遊びへ。
「たかみ」に到着したのは11時過ぎ。長*さん(銀河の彼氏)はすでに到着済み。今日は大好きなお友だちでインターネットの師匠でもある桂木美穂ちゃんを中心に、日本酒の会が開かれていた。銀河はお酒が飲めないので、高美さん手作りのとても美味しいおつまみを堪能しました。1時を過ぎるとお客さんが次々と帰っていき、高美さんと長*さんと銀河の3人で超まったりモード。ちょうどその頃、会社で徹夜で仕事しているりのちゃんから携帯に連絡が入り、しばらく話し込む。そう言えばここのところインターネットに没頭してて、りのとじっくり話をする機会がなかったなあ。3時過ぎに、珍しく月曜日に新宿に遊びにいらっしゃった南麻衣子さんがお疲れのご様子で登場。いつものことですが半分寝てらっしゃいました。4時過ぎに店を出たんだけど、麻衣子さん、半分眠ってるもんだから「たかみ」の急な階段から転落してしまって大変でした。幸いお怪我はなかったんだけどね。
長*さんと喫茶店「シエン」でコーヒーを飲んでから屋台村へ。しばらくしてから登場した「ジュネ」(老舗の女装スナック)のママの御一行と談笑してから、6時には長*さんと2人で歌舞伎町のレンタルームへ移動。どうせ10時までしかいられないんだから、この時間だったらホテルよりもレンタルームの方が安上がりなんだよね。で、(2週間ぶりに)いろいろあって、10時には無事レンタルームを出たのでした。のんびりお茶を飲んで自宅に戻ったら、テレビではすでに「笑っていいとも」が終わりかけていました。
ところで、りのちゃんと菜摘ちゃんと銀河って、同じ日に同じところで遊んでることが多いんだよね。それぞれのホームページの日記を読み比べると結構おもしろいでしゅ。
[回想記]今となっては懐かしい夜遊びの記録。相原菜摘ちゃんは緑川りのちゃんの最愛のパートナー。りのと菜摘ちゃんと銀河が同じ日に同じところで遊ぶなんてことも今後二度とないのじゃないでしょうか。(1999年9月1日記)

4月20日(火) 読書の一日だった。
[日記]さすがに寝不足。仕事は火曜と土日がお休みなので(だから毎週月曜に夜遊びができるというわけだ)、一日中寝たり起きたりしながら、授業準備とホームページの更新と読書に励んだ。買ったまま放ったらかしにしていたマーク・ピーターセンの『心にとどく英語』(岩波新書)を読む。『日本人の英語(正・続)』(いずれも岩波新書)に続く3作目。ある程度英語は勉強してきたつもりだが、どうもイマイチだという人には、3冊とも強くお勧めできる。英語を身につけるというのは、日本語と英語の置き換えをする技術を習得するのではなく、英語自体の論理と発想を身につけることなのだというのがよく理解できるはずだ。銀河自身の収穫としては、授業で使えるおいしいネタがたくさん見つかったというところか。
部屋の片づけと洗濯をやっていない。ヤバい。
[回想記]マーク・ピーターセンの岩波新書三部作は名著ではありますが、ある程度の英語力があることが前提になっています。最近出版された『岩波高校生セミナー12 英語感覚をみがく 表現とコミュニケーション』(岩波書店)はマーク・ピーターセンの高校生を対象にした講演会の内容を本にまとめたもので、英語に自身のない方にはこちらの方がお勧めです。もちろん、日本人が英米人と同じ英語を身につけることの是非はきちんと議論しなければなりませんけれども(日本人は日本人式の英語でかまわないと銀河は思います)。(1999年9月1日記)

4月21日(水) 一日中仕事をして疲れてすぐ寝た。
[日記]今日は初めて出講する校舎だったのでちょっと緊張した。おまけに、朝から夜まで仕事だったので疲れてしまった。明日も朝が早いから、日記はこのくらいにしておこう。
[回想記]銀河が勤務している予備校は都内及び東京近郊にいくつも校舎を持っているため、曜日ごとに出講校舎が違います。学期中の水曜日はいつもこの調子です。(1999年9月1日記)

4月22日(木) メンタルクリニックに行った。
[日記]今日も初めて出講する校舎だったが、お仕事は午前中で終わり。いったん家に戻ってから、午後5時に予約をとってあったメンタルクリニックへ。3月末から通い始めて、今日で4回目。アマチュア女装交際誌『くいーん』113号に女性ホルモン投与についてのインタビュー記事が載っていた精神科医針間克己先生の診察を受けている。今は自分の話したいことを銀河が一方的にしゃべっているだけなんだけど、針間先生のツッコミが鋭いんだ。こちらの言ってることが少しでもあいまいだったり論理的にあやふやだったりすると、すかさず突かれる。例えば、コンビニのレジで女の客を表すピンクのボタンを押されないと落ち込んでしまうという話をすると、「女に見られたい」のか、それとも「女になりたい」のか、あるいは「女でありたいのか」って訊かれるわけなのね。勃起した自分のペニスが不快だったから、ホルモン投与によって勃起しなくなったのがうれしいって言うと、「勃起するのがイヤ」なのか、それとも「ペニス自体がイヤ」なのかってね。通い始めた動機は、自分が性同一性障害としてガイドラインに沿った正規の医療が受けられるのかどうかを知りたいとか、ホルモン投与にお墨付きが欲しいとか、情緒不安定なのをなんとかしたいとか、そういうふうなものだったんだけど、今はとりあえず、針間先生とのやりとり自体が楽しい。人間って理屈じゃ割り切れないなんて言われたりするけど、論理的であるべきところは当然論理的でなければいけないのであり、そんなことを言う人は論理的であろうとする努力を怠っている言い訳をしているに過ぎない。少なくとも銀河は、論理的な整合性を常に保ち続けるために、針間先生とのスリリングなやりとりを貴重なものだと考えている。今日もいくつか課題を持ち帰った。
[回想記]針間先生は性同一性障害(用語についてを参照)に関しては日本でも有数の精神科医。上野にある川崎メンタルクリニック(03-3841-9020)に勤務なさっています。性別違和に悩み、女性ホルモン投与を行っている(あるいは行おうとしている)者にとって、この分野を専門とする精神科医の診察を受けることは不可欠です。(1999年9月1日記)

4月23日(金) 『くいーん』の最新号の記事に腹が立った。
[日記]仕事は午前中で終わり、しかも出講校舎は自宅から至近距離。金曜日は思いっきり遊べるように、教務に頼んで今年から時間割を組み替えてもらったのだ。池袋の東武で同僚の女性と春物のお洋服のお買い物をして、6時半に長*さん(銀河の彼氏)と高田馬場でお食事。いったん長*さんと別れ都内某所のライブハウスへ。10年以上前の教え子の女の子が毎月第4金曜日に出演しているのだ。この子は銀河に初めてお化粧の仕方を教えてくれた子で、隠し事なくなんでも話すことのできる親友のひとり。彼女を介して知り合った某有名AV監督たちと昔のロック(ドアーズとかイギー・ポップとか)の話題で盛り上がる。ライブが終わり、11時半頃新宿の「たかみ」に到着。先週に引き続き今週も、中澤清美ちゃんがスタッフとして頑張っている。メンバーはいつも通りの常連客たち。長*さんもすでに睡眠モードに入っている。遅くなってから、スーツにネクタイで素敵な好青年風の佐藤潮音ちゃんが登場。さらに、いつも素敵な南麻衣子さんが。
ところが、潮音ちゃんが持ってきてくれた『くいーん』最新号(りのちゃんが表紙)をじっくり読んでいるうちに(うちにはまだ送られてきてないのでまだ全然読んでなかった)、銀河はどんどん暗く沈んでいってしまった。前号に引き続きホルモン特集の後編が掲載されていたのだが、特に石川編集長を含む女性4人の座談会を読んでいると、なんだかすごく寂しい気持ちになったし腹も立ってきた。「ホルモンを使うかどうかは本人の自由」って言うんだったら、それ以上何も言わずに放っておいてくれって感じ。自分自身がセクシュアリティーやジェンダーの問題で悩んだこともない人間に無責任な放言をしてほしくはない。あんたたちの価値観を押し付けられる義理はないよ。ケンカを売ってるのかなあ。銀河は弱い人間だから、苦しみもするし悩みもするし、泣きわめきもする。だけど弱い人間であることに開き直ろうとはまったく思わないし、自分の人生の責任くらい自分でとれるんだからね。今手元に『くいーん』がなくて正確な引用ができないので、この件については改めてもう一度きちんと発言する。『くいーん』最新号の誌面は全体的にかなりTV(用語についてを参照)寄りにシフトしてるし、そもそも「女装」をする人のための雑誌なんだから、自分のことを「女装」をする人だとは思っていない銀河のいるべき場所でないのは明白なんだけどね。だけど、これほど愛情のない雑誌だとは思わなかったな。ルルの書いた文章だけが暗闇の中のともしびのように思えた。
「たかみ」がクローズした後、長*さんと2人で「シエン」(喫茶店)に行った。暗い顔して考え込んでいる銀河のことを心配してくれた。申し訳ない。疲れていると言って早々に帰宅した。
[回想記]『くいーん』というのは、女装会館「エリザベス」を経営しているアント商事が発行している隔月刊の雑誌で、「アマチュア女装交際誌」と銘打っています。来年には創刊20周年を迎える寿命の長い雑誌です。銀河は10年くらい前からこの雑誌を購読していました。「エリザベス」に通いはじめるのとほぼ同時に、自分でもこの雑誌に投稿するようになり、編集長から依頼された原稿を書いたり、巻頭のカラーページに写真を掲載してもらったり、『くいーん』の主催するフォトコンテストで大賞をいただいたり、表紙のモデルに起用してもらったり、何度も編集部に遊びに行ったりと、数々の楽しい体験をさせていただきました。編集長(女性)とも親しくさせていただいていただけに『くいーん』114号の女性ホルモンをテーマにした座談会の内容(女性ホルモン投与者に対する罵倒と言ってもよいと思います)にはショックを受けました。考えてみれば『くいーん』に単なる一読者の域を越えて深く関わりすぎたのが悪かったのかもしれません。これがあまり縁のない雑誌だったら黙殺するだけで終わったでしょうから。結局、一種のフリップフロップ現象だったのでしょうね。日記の方は感情にまかせて書きなぐってしまったので、今読み返してみると我ながら美しくないなと思います。(1999年9月1日記)。

4月24日(土) 『くいーん』及び「エリザベス」とは縁を切ろうと思った。
[日記]一日中気分が沈んだまま。「エリザベス」亀戸店に行く予定だったが、いろいろ考えて遠慮する。『くいーん』誌や「エリザベス」は「女装」をする人のための世界。一方銀河は決して「女装」をする人ではない(少しニュアンスはずれるが、TVではないと言い換えてもよいだろう)。つまり、本来銀河が存在すべき場ではないということ。少なくとも銀河のための場所ではないとは言える。しかも今回の『くいーん』の記事を読むと(銀河が誤読していないのならば)、場合によってはセクシュアリティーやジェンダーの問題に真剣に悩んでいる人間の敵にすらなりうるのだ。振り返って自分自身がなぜ『くいーん』に投稿したり「エリザベス」に通い続けていたのかを考えてみれば、それは間違いなく人と人とのつながりがあったからだ。肌触りの違い(とりあえず大ざっぱにTVとTG/TSとの違いと言い換えてもよいが)を乗り越えて、あるいはそのような違いとは無関係に理解し合える豊かな人間関係を築くことのできる場所だったからだし、銀河自身多くのかけがえのない友人と出会うことのできた場所だった。同じ種類の人間だけで群れているだけじゃ仕方がないものね(銀河が自助グループの活動への参加に踏み切る気になれない理由のひとつがそこにある)。しかしながら結局、『くいーん』=「エリザベス」=アント商事から「ここはお前のいるべき場所ではない」って一方的に言われたようなもんなんだよね、今回の記事って。正直迷ってる。人間関係を捨てるのはつらい。だけど、望まれてもいないし必要でもないものとの関わりからはそろそろ卒業すべき時期なのだろう。自分自身が依って立つべき場所をもう一度吟味し直す時期なのだろう。つらいけど決断はしなくてはならない。
気分転換にこれから長*さんとお茶でも飲みに行こうかと思う。この日記は基本的に気分のままに書いている半分私的なものなので、この件については改めてきちんと発言し直そうと思う。
[回想記]TV/TG/TSという言葉の意味は用語についてを参照してください。この日の日記も文章がぐちゃぐちゃで、美しくないと思います。きちんと発言し直したのが、私が『くいーん』と「エリザベス」から離れる理由。ご興味がおありならお読みください。今にして思えば、自分の中の「アマチュア女装界」に対する違和感(自分は「女装」をしているのではないという感じ)が飽和点に達しつつあったときに、タイミングよく(悪く?)登場したのが『くいーん』114号の女性ホルモン特集だったと言えるのかもしれません。自分の性別違和をごまかすことなく、TSであることを自覚し、SRS(用語についてを参照)までを射程に入れた人生設計を組み立てるに至ったのは『くいーん』114号に対する怒りがきっかけだったのですから、ある意味で感謝しています。(1999年9月1日記)

4月25日(日) 銀河とルルと香澄。2週間ぶりに3人揃った。
[日記]朝、ルルと香澄に電話して急遽3人で会うことになった。銀河が今回の『くいーん』の記事について2人の意見を訊きたかったこと。香澄の精神状態がよくなくて早急にケアが必要だったこと。ルルが大学のテキストを買う用事があって千葉の奥地(本当に奥地なんだ、これが)からお茶の水まで出てくる予定になっていたこと。このような事情が重なって直接会おうという話になったのだ。ちなみにルルはこの4月から某大学の通信教育部に入学。なんと哲学を専攻している。
1時少し前にお茶の水で集合。ご飯を食べ、お茶を飲み、5時過ぎまでいろんなこと(ジェンダーの問題から職場のこと、読んでいる本や趣味の話まで)を語り合ってまったりとした時間を過ごした。ちょっと面白かったのはルルが買い込んできた本を見せてもらった時のこと。竹田青嗣の『ニーチェ入門』があったので(銀河も読んだことがある)訊いてみたところ、「これは大学のテキストじゃなくて、趣味の本なんですよ」だって。おいおい、ニーチェが趣味なのか。みんなルルの外見の可愛いことにばかり目を向けているようだけど、すごく頭がよくて読書家なのだ。
『くいーん』の記事については、ルルは、読んでるうちに自分の気持ちがどんどん引いていく感じがしたそうで、銀河の意見はその通りだけど、どうせそのうち買わなくなる雑誌だからあまり相手にする気はないとのこと。香澄は、考え方が違うから仕方がないと思ったらしい。熱くなってたのは銀河だけだったみたいだ。でもね、自分や自分にとって大切な人(例えばルル)を無自覚に侮辱する者に対しては、断固戦わなければならないと思うんだよね。
「エリザベス」については、ルルは、別に行きたい気持ちにはならないし、来ている他のお客さんともあまり会話らしい会話をすることもないから、行くとしてもサマーパーティーのときくらいだと言っていた。香澄は、そもそもこの2か月ほど行く気にならないのに惰性で来ていただけで、「エリザベス」で「女装」すればするほどどんどん辛くなるから、少なくとも数か月は行かないつもりだと言う。この2人は無神経なTVたちのおせっかいな発言で相当傷ついたりもしてるからね。銀河も、惰性で行ってたというのは香澄と同じで、ルルや香澄に会えない「エリザベス」なら行く価値はないし、そもそもルルや香澄とだったらこうやって外で会ってた方が楽だしねぇ。
ルルも香澄も、そして銀河も、本当に幸せな気持ちでいられるのは、「エリザベス」で「女装」する時でも、新宿の女装スナックにいる時でも、女装関係のイベントで遊ぶ時でもなく、こうやってふだん通りの姿(ルルや銀河の場合はお化粧してパンツルックという格好だけど)で同じ価値観を共有するかけがえのない仲間とまったりと過ごす時だ。今日は3人ともそのことを再確認した。「エリザベス」にいる時はあんなに暗い顔をしていた香澄が、今日は明るい顔でルルと一緒に千葉方面行きの電車で帰っていった。
明日からまた1週間仕事だ。これからちょっと仮眠して明日の授業の準備に取りかかろう。
[回想記]3人揃って会ったのはこの日が最後でした。別に喧嘩したわけでも仲間割れしたわけでもありません。ルルと香澄とはそれぞれ別個に連絡を取り合っています。ただ、それぞれが緊迫した状況と向き合っていかなければならない時期にきたのです。自分の置かれている状況には自分の力で対処していかなければなりません。もたれあったり傷口を舐めあったりしてはいられないのです。ところで、ルルと香澄に対する一部の「エリザベス」の客(趣味で女装する人)の態度には非道いものがありました。「ホルモンを使っていないかどうかチェックする」と言って襟元から手を突っ込み裸の胸をわしづかみにしようとしたり(セクハラですよね)、「男の格好の時は男らしくしろ」と説教を始めたり、なかには2人を性的対象と考えホテルに誘おうとした者すらいました。2人ともひどく傷ついていました。以上のことはこの際だからここに書いておくことにします。「エリザベス」のような趣味の女装者のための場所にはTG/TS(用語についてを参照)が紛れ込んではいけないんだと言われればそれまでなのですが。なお、この後すぐにルルも『くいーん』と「エリザベス」から離れることになりました。結果として銀河の決断がルルに影響を与えることになってしまいました。(1999年9月1日記)

4月26日(月) 南野未奈美ちゃんに睾丸摘出手術の話を聞いた。
[日記]授業は2週目に入った。どのクラスも先週よりも人数が増えていた。他のクラスの生徒が評判を聞いて潜り込んできているのだ。うれしくてちょっと多めにサービスする。仕事は順調。体調もよい。ついでに気分も爽快だ。
帰宅がいつもより遅くなったので、夜遊びに繰り出したのは夜中の12時過ぎになった。例によって「たかみ」に直行。長*さん(銀河の彼氏)はすでに到着して睡眠モードに入っていた。今日は偶然、南野未奈美ちゃんが「たかみ」に遊びに来ていた。未奈美ちゃんは1年前まで名古屋の「べっぴんメイト」(森山恵利香さんのお店)で働いていて、銀河はその時に彼女と知り合ったのだが、この4月から東京に出てきたのだと言う。掲示板に彼女がしてくれた書き込みにもあるように、3日前に大阪で睾丸摘出手術を受けてきたばかりだ。ちょうどメールを書こうと思っていたところだったので、思いがけない再会に感謝した。3日前に手術した割には意外と元気そうだったので驚いたが、さすがにお酒は飲むわけにいかないようだ。話し好きなところは相変わらずで、手術の話をいろいろと聞かせてくれた。費用は意外に安く10万円程度。手術の前にカウンセリングがあるそうだ。睾丸摘出手術は以前から銀河も受けたいと思っていたが、具体的な情報を得たことで、自分も受けるかどうか現実的に検討してみることにした。すでにホルモン投与で血中男性ホルモン濃度は成人女性並みにまで低下しているので(このことは女性ホルモン体験記に書いた)、睾丸を摘出するメリットはもっぱら精神的なものだと思う。きっとすごく気分が楽になるんだろうなあ。そのことを考えただけでワクワクする。ルルと2人で大阪まで行こうか。ちょっと本気で情報をいろいろ集めてみることに決めた。
今日は久しぶりに足立区(本当はサチコって名前なんだけど、足立区に住んでいるのでそう呼ばれている女装の子)にも会えた。「たかみ」がクローズした後、長*さん、未奈美ちゃん、足立区と4人で屋台村へ。「ジュネ」のママたちも後から合流。長*さんと銀河はその後「シエン」でコーヒーを飲みながら仮眠。帰宅したのは11時だった。
[回想記]睾丸摘出手術についてはその後具体的に動き始めました(現時点ではまだ手術を受けるには至っていません)。公表してもかまわないと判断できる時期になったら(そんな時期は永遠に来ないかもしれませんが)、Web上でお知らせします。(1999年9月1日記)

4月27日(火) リンクに関する方針。
[日記]火曜日はお休み。これまでは「エリザベス」に行く日だった。これからは原則として一日家にいて、普通の「生活」をする日になるんだろう。授業の準備をし、ホームページを更新し、洗濯と掃除をし、少し本を読み、夕方にはちょっとだけ外に出て高田馬場で長*さん(銀河の彼氏)とお茶を飲んだ。今テレビでライオンズの松坂くんを見てる。タイプです。見終わったらもう寝ます。
ところで椎路ちひろちゃんからホームページ開設お祝いのメールを頂いたので、ちひろちゃんのホームページを見に行った。コスプレとかに関しては銀河と趣味は違うが、そこにあった
リンクに関する方針というのには共感した。立花隆の『インターネット探検』や『インターネットはグローバル・ブレイン』(いずれも講談社)を読んでもわかることだが、WWWのページ間のリンクは無条件で自由でなければならない。リンクに制限があることはインターネットの思想を明らかに踏みにじる行為である。インターネットを始めて1か月にも満たない初心者でもそのくらいのことはわかる。
[回想記]椎路ちひろさんのホームページの「リンクに関する方針」に触発されて書いたのが、リンクと著作権について。ところでライオンズの松坂くんにはすっかり夢中になってしまいました。彼が登板する試合がテレビ放映されるときは、極力観戦するようにしています。(1999年9月1日記)

4月28日(水) 疲れたから早く寝る。
[日記]朝から夜まで仕事だったので疲れてしまった。明日も朝が早いから、日記はこのくらいにしておこう。
実は上の文章は、先週の水曜日の日記からコピー&ペーストしたもの。水曜日って毎週これかなぁ。明日は祝日のはずなのになぜ朝が早いのか。それは銀河の仕事にはゴールデンウィークがないからなのだ。なぜなら......まぁその話は明日にしよう。最近夜中にすぐ目が覚めるから、2時か3時に起きてホームページの更新でもするんだろうな。
[回想記]夜中の2時か3時に目が覚めてそのまま朝まで眠れなくなってしまうという状態は、今でもずっと続いています。昔ある作家(誰だったか忘れてしまいました)が、夜中の2時3時は「死に最も近づく時間」だというようなことを書いていましたね。(1999年9月1日記)

4月29日(木) 連休なのに仕事だ。
[日記]風邪薬を飲んでから寝たせいか夜中に目覚めることもなく、気がついたら朝の6時だった。ノロノロ支度してお仕事へ。世間は連休に突入しているので電車も空いている。この時期は予備校にとっては新学期が始まったばかり。カレンダー通りに休んでいたのではせっかく軌道に乗り始めた受験勉強の習慣が途切れてしまうという理屈で、連休中も土日以外は浪人生のクラスの授業が強行される。
午前中で仕事は終わり。香澄と連絡をとって、2時半に新宿で落ち合う。ホームページで公開するプロフィール用の原稿を作りながら、御飯を食べたりお茶を飲んだり。香澄の精神状態が安定しているのでホッとする。近いうちにまた「エリザベス」に顔を出すそうだ。安心した。香澄と銀河は別人格なのだから、銀河の決意には何の影響も受けることなく、香澄が行きたい時には行くのがよい。香澄が必要としているものもまだまだあそこにはあるはずなのだから。
[回想記]香澄はこの後、月に1回ぐらいのペースで「エリザベス」に顔を出しているようです。(1999年9月1日記)

4月30日(金) 美也子ちゃんのお部屋。
[日記]仕事は午前中で終わり。同僚の女性と池袋でお食事をし、給料日だったのでついお洋服を買ってしまった。今日は都美也子ちゃんのお引っ越し。重い荷物は運べないまでもなんらかのお手伝いをしようと思い、急いで新宿へ向かう予定でいたのだが、美也子ちゃんから携帯に連絡が入り、急いで来なくても大丈夫だと言われ、いったん自宅に戻る(句点までちょっと長過ぎた)。ところがいつの間にか眠り込んでしまって、結局美也子ちゃんのところに到着したのは午後9時半になってしまった。
すでにご存じの方も多いと思うが、美也子ちゃんが店長をしていたグッピーグループのメイクアップルーム『ベース』が、グッピーグループの都合で2週間程前に閉店になったため、急遽新しいメイクアップルームを立ち上げたのだ。立ち上げるにあたっては、銀河も裏でいろいろと協力させてもらった。今度のルームはお商売ではなくて有志によるサークル形式(大阪のスタジオSwitchと同じだ)。美也子ちゃんの自宅の一部を解放するという形をとっている。広さは旧『ベース』と遜色はないし、使い勝手もよさそう。会員制だがビジターの利用も可能。ただし美也子ちゃんの自宅も兼ねるため、場所は非公開となる(新宿1丁目ということだけは言ってもよいだろう)。そうそう、メイクアップルームの名前は「猫館」とかいろいろ案があったが結局「CDサークルChange」となった。CDってのはクロスドレッシング(異性装)のことです。
さて、そのChangeに到着してみると、会員さんと(何故か来ていた)あのキャンディーさんでとても賑やかな様子。キャンディーさんとしばらく世間話と昔話で盛り上がった。美也子ちゃんは銀河のホームページを見てくれていたようで、『くいーん』に端を発するここのところのあれやこれやについてとても心配してくれていた。申し訳ない。そして、ありがとう。2、3日中に必ず考えをまとめてホームページ上で発表しますから。
キャンディーさんは美也子ちゃんの荷物の中の戦闘機関係の資料に夢中。銀河は少しウトウトした後で、長*さんからの催促の電話も入ったため12時半過ぎに「たかみ」へ。フィリピンへの出張から戻ってきたばかりの佐藤潮音ちゃんと話がしたかったんだけど、銀河は「たかみ」でもほとんど寝てました。明け方にはいつもの金曜日と同じで南麻衣子さんも登場。店員の中澤清美ちゃんもがんばってました(Changeでキャンディーさんの本物を見ることができて喜んでいた)。
閉店後、いつも通り長*さんと2人「シエン」でお茶を飲み、6時過ぎにホテルへ。10日ぶり。で、いろいろあって、11時にはホテルを出て「ルノアール」でモーニングセット。自宅に戻ったのは12時半頃でした。
[回想記]メイクアップアーティストとして自立してやっていきたいという都美也子(=結城友希)ちゃんの意向に共感して、「CDサークルChange」立ち上げの際にはできるだけの支援をさせていただきました。美也子ちゃん主宰のメイクアップルームについてくわしく知りたい方は、「CDサークルChange」のホームページをごらんになってください。会員制ですが金曜土曜はビジターの利用もできます。(1999年9月1日記)


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