イタリア・ドライブ'97 (3) プーリア編 (1)

[6月8日](

10:30頃

ホテルをチェックアイト。荷物を預けてバーリの旧市街を散策。

12:00頃

バーリを発ってアドリア海沿いに約40q南下。

13:30頃

モノーポリ郊外のホテル、イル・メログラーノにチェックイン。15:00まで少し休憩。午後はカステラーナの洞窟、アルベロベッロを見学。

19:30頃

ホテルに戻り、20:30、ホテルで夕食。

バイク小僧のひったくりにご注意

 ひどい風邪もゆっくり寝たのでいくぶん楽になっていた。早く朝食をとってくれと催促の電話で(実際はもっと丁寧ないいかただったはずだが)起こされた。

 チェックアウトして大きな荷物を預かってもらおうとすると、レセプションのオジサンが、全部預けて行くべきだと言う。

「旧市街はバイクに乗った若いのが、観光客を狙っていて、ブォーと来て、ダーとひったくって、ブォーと逃げて行っちゃうぞ。危ないぞ。」

てなことを英単語混じりのイタリア語で忠告してくれているらしい。なかなか親切なオヤジである。

 実際、後日ひったくり未遂に遭遇するのだが、南イタリア、シチリアとその手の被害が多いらしい。バーリの旧市街では頼めば警官がガイドしてくれるサービスまである。どこでもそうだけど、歩き回るときは手ぶらに限るということだ。

 さて、旧市街のはずれに車をとめて、カメラ以外の手荷物はいっさいトランクに入れて歩きだそうとすると、隣に停まっていたメルセデスのオジサンがまたまた声をかける。

「バイクに乗った若者がくるから、そのカメラに気をつけたまえ。車の鍵はかけたかね。」

 なんだか観光シーズンを控えて、街をあげての「青少年ひったくり犯罪撲滅運動」でもしているのだろうか。そこまで言われると緊張しちゃうじゃないの。

迷路のようなバーリ旧市街

 まあとにかく、お城をまわってカテドラルへ。旧市街は路地が迷路のように入り組んでいて、確かにバイク小僧が轟音をあげて走り回っているが、それはイタリアのどこでも見られる光景であって、中には悪さをする奴もたまにはいるというだけのこと。それでもカテドラル前の広場にはポリッツァ(警察)の車が停まり、石段の上に何人か並んで広場警備にあたっているのだった。

 カテドラルはプーリア・ロマネスクの東方的な印象の美しい建物。三廊式の内部はとても落ち着いたプロポーションで構成されている。バラ窓と怪物の装飾がミスマッチで面白い。

バーリのサン・ニコラ聖堂 ちょっと路地を歩いて行くと聖ニコラ教会の前の広場に出る。ここにも警官が立っている。これも様式はカテドラルと同じ。小さな二連窓や単窓のあるファサードが印象的。バシリカ式の内部は基本の円柱がビザンチン様式で、後世にアーチやバロックの天井が付け加えられている。

 旧市街は海に着きだした岬のような部分を埋めて広がっている。車で海岸道路を回っていくと浜辺は海水浴の人々でいっぱいだった。そういえば今日は日曜日。強い日差しに気温がぐんぐんあがってくる。

南イタリアのカラビニエリは親切(ヒマ?)だった

 ホテル・イル・メログラーノは、モノーポリ市街の外れから1qほどアルベロベッロ寄り、一面のオリーブ畑の中に建っている。行くまではドゥオーモ町外れらしいということしか分からず、住所は分かっても、モノーポリなんて小さな観光地でもない街の地図はどこにもない。しようがないので地図を入手しようと一旦市街に入る。

 ところが街は既に午睡に入って、おまけに日曜日。インフォメーションも店も閉まっている。中心の広場にカラビニエリ(憲兵あるいは軍警察)の一団が、何の警備をしているのだか、ときおり車に「ここ入っちゃだめよ」などとやっている。彼らの中には大抵英語の出来る人がいるということは、一昨年の旅行で知っていた。聞いてみると、唯一の若い女性隊員が

「英語OKよ。なに? いいホテルじゃないの。あそこ泊まるの? 日本人? へえ、うらやましい!」

てな感じで答える。小柄でスリムな美人である。制服にサングラスがかっこいい。

 ところが、道順をどう説明しようかという段になると、その場にいた10人ほどのいかつい隊員が全員、好奇心丸出しで集まってくる。しばしイタリア語でああでもない、こうでもないと緊急会議が始まってしまった。

 おかげで「アルベロベッロ方面へ向かって、橋を渡り、1q行くと右側に看板がある」という見事に簡潔な結論が出たのでした。イタリア語で「分かりました。とてもとてもご親切にありがとさん。さようなら。」と告げると、一同至極満足そうににっこり。

極寒地獄のカステラーナ洞窟

 昼食を部屋の山盛りウェルカムフルーツと、朝食でガメてきたパン(貧乏くさい)で済ませて、アルベロベッロへと向かう。

 まてよ、アルベロベッロは街を見学する訳だから、多少遅くなってもいいじゃない。夕方閉まってしまいそうな所を先にまわろう。というわけでカステラーナの街に近い洞窟見物に行くことにした。

 とにかく詳細な地図がないので、起伏の多い丘陵地帯を標識だけをたよりに車を飛ばす。オリーブ畑と牧草地が広がり、ときおりトゥルッリの農家が点在している。トゥルッリとはケーキのモンブランのようなかわいい石屋根の民家で、この地方の特色。アルベロベッロは街の全ての民家がこれで出来ている。やがて「ゴーーール」てな感じでカステラーナ洞窟の横断幕。

 洞窟は1時間ごとにガイド付きの見学システム。30人ほど引き連れて地底を巡る。イタリア最大の鍾乳洞ということで見応えはあったのだが、とにかく寒い。巨大な地底冷蔵庫である。灼熱の日差しのプーリアでも洞窟は涼しいだろうな、などと半袖シャツ一枚でのほほんと構えていたわれわれは、完全に甘かった。

 45分後、青ざめた一団がエレベーターで出口へ向かう。風邪が悪化しそうだ。

アルベロベッロは清里状態だった

 念願のアルベロベッロ。トゥルッリが密集し、教会までがトゥルッリの屋根を持つ街。かわいい円錐屋根には不思議な魔除けの紋章が白く描かれている。やっと来れたぜ、アルベロベッロ。

 ところが、である。

アルベロベッロのサンタントニオ教会 街は軒並み土産物屋なのだ。絵はがき、トゥルッリの置物、安っぽい工芸品、手芸。そこを観光客がぞろぞろ歩く。呼び込みのオバサンががぜん張り切る。

「こんにちは」「こんばんは」「やすいよ」

 げぇ。日本語まで飛び出してくる。「イタリアでイタリア人が日本語を使うととたんに途方もなく胡散臭くなる」の法則である。家の内部も見たいので、ちょっと覗いて何も買わないと露骨に嫌な顔をされた。

 景気の悪い南イタリアにおいて観光で食えるのは幸せなのだし、しかたのないことなのだが、気分は複雑。もう少し静かな佇まいの中を歩きたい。

果てしなく広がるオリーブの樹海

アルベロベッロからモノーポリへの途中の風景 この日一番の風景はアルベロベッロからの帰り。丘陵地帯から海岸の平野部へ降りる高台の外れ。いきなり視界が開けて輝く海が見えた、と思った次の瞬間それがオリーブの樹海だったことに気付く。平野部を埋め尽くすオリーブが、いまだ強烈な夕方の日差しを受けて一面に輝き広がる。青い海はその遥か先に陽炎のように続いている。よく見ると建物が点在し、糸杉の連なりによってのみそこが道路であることが示されている。

 あまりの美しさに、しばし車を停め、2人言葉を失う。

 ホテルへ帰って夕食。ちょっと気取りすぎた北イタリア系の料理。ほとんど満室のはずなのに、2つのテーブルにしか客がいないのも気にかかる。美味しいのだけとやっぱり土地の料理がいいよね。明日は外に食べに行こうと話し合う。

 夜、市街地の方で花火大会らしい。時折、上半分が見える程度。

本日のお買い物

 なし!

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