間違いなく手練の書き手による作品。また、――”The Case of the Toxic Spell Dump”という作品に『精霊がいっぱい!』という邦題をつけてしまうのはどうかと思うが――訳者にも恵まれた作品といって良いと思う。原書は1993年にアメリカで出版。本書はその日本語版で、翻訳者は佐田千織。解説はSF評論家の高橋良平。文庫サイズ全2巻で、両巻合わせて約650ページの大作。
本書を簡単に分類するなら、ファンタジー小説のラベルを貼り付けるのが妥当だろう。とはいっても中世ヨーロッパを舞台にした剣と魔法の物語だとか、甲冑に身を包んで剣を振りまわす騎士などが出てくる類の話ではない。もし現代の科学技術が、「魔法」によって支えられていたら……神と精霊が実在していたら、毎朝出勤するときに利用するのが自動車ではなく、空気の妖精と契約した空飛ぶ絨毯だったら、というIFの現代を描いた作品である。