第三話 「シャングリラ攻防戦」





――スペースコロニー・シャングリラ


率直に言って、シャングリラ守備隊の対応は的確だった。侵入して来た正体不明の機動兵器に対し、投入できる全てのMSを出動させ、市街への展開。彼等は全てを迅速且つ的確に行って見せた。訓練ならば、満点が与えられるであろう見事な作戦行動だ。しかし――

「た、隊長、駄目です!武器が通じません!」

部下の悲鳴を聞きながら、MS隊の隊長は絶望感に襲われていた。自分の対応に誤りはなかったはずだ。敵の数8機に対し、自軍は12機。展開した陣形もほぼ完璧だった。ただひとつ、敵の機動兵器にビーム・スプレーガンが効かない事を除いては。

「畜生、こんな馬鹿な事が‥‥」

そう叫びながら彼の機が放ったビームは、敵の装甲に当たると拡散してしまった。




「これが地球のMSとやらか。大した事は無いな」

ギワザ=ロワウの命を受け、HM隊を率いてシャングリラ・コロニーに侵入したギャブレット=ギャブレーは余裕の表情だった。彼等の任務は本格的な戦闘では無く、取り敢えず地球連邦軍の実力の確認である。その為、A級HMはギャブレーのバッシュのみで他は全てB級のグライアだ。それでも、戦いはギャブレー隊が有利に進めている。

「お頭、地球の兵器ってのは、大した事ァ無いスねぇ。グライアにさえ、傷も着けられねェ」

部下のハッシャ=モッシャがをニ機目のGMVを破壊したところで通信を送って来た。

「ハッシャ、お頭では無い、隊長と呼べ。もう、我々は盗賊では無いのだぞ」

「へい、すいやせん親分」

た・い・ち・ょ・う・だーっ!

『何を騒いでいる、ギャブレー』

「こ、これはギワザ殿。な、何でもありません」

突然、通信スクリーンに現れたギワザに、ギャブレーはしどろもどろになって答えた。

『まあいい。それより、敵の増援が現れた。適当にあしらってから引き揚げろ』

「はっ、解かりました」




「チキショウ、誰だか知らねーが、俺達のコロニーで好き勝手しやがって!」

コロニー守備隊のGMVが次々と倒れていく様を、少し離れたビルの屋上から歯噛みをしながら見ている一人の少年がいた。ジュドー=アーシタ。先の戦いでは、ロンド=ベルの一員として強襲型可変モビルスーツMSZ−010 ZZガンダムを駆って勇戦したエースパイロットの一人である。戦後、ロンド=ベルを離れ友人達と供に故郷であるシャングリラ・コロニーへ戻ってきていたのだ。

「ちっきしょう、ZZがあればあんなやつら叩き潰してやるのに!」

「ジュドー、MSを調達して来たぞ!」

そう叫びながら階段を駆け上がってきたのは、ジュドーの友人の一人、モンド=アガケだ。

「ホントか?よーし、アイツら俺がぶっ飛ばしてやる!」

と、喜び勇んで階段を駆け下りたジュドーだったが――

「なんだ、こりゃあ!」

路上に停まっているMSトレーラーに載せられていたMSを見たとたん大声を上げた。

「おいビーチャ、ホントにこんなのしかなかったのかよ」

三台のMSトレーラーに載せられていたのはMSA−003ネモ、RGM−79R GMU、ザク改と言う旧式MSばかりだった。おまけにトレーラーの後方にはRX−75ガンタンクまでいる。たった今、これらよりはまだマシな性能のはずのGMVが手も無く捻られているのだ。これで勝てると思う方がどうかしているだろう。そんなジュドーの文句にMSを調達して来たビーチャ=オーレグが反論する。

「仕方ねえだろ。ジャンク屋から集めたんだ、こんなとこで精一杯だよ。これでも結構苦労したんだぞ」

軍人でも無い彼等がMSを調達しようとすれば、どうしてもジャンク屋あたりに転がっているモノ位しか無いだろうから、これは致し方の無い所だろう。そこら辺は、ジュドーも良く承知している。

「まあ、しょうがないか。よし、みんな行くぞ」

ジュドーがネモ、ビーチャがザク改、モンドがガンタンク、そしてエル=ビアンノがGMUにそれぞれ乗り込んで各機体の起動準備に入った。




戦闘区域から少し離れた森の中に、奇妙な形の機体が身を潜めて戦況を見守っていた。戦闘機の前半分に機動兵器の下半身をくっつけた様な姿をしている。

「リン姉、今の見た?」

『ええ、副長の懸念が当たってたみたいね。ビーム・ガンが全然通用して無いわ』

コクピットで通信スクリーンのリンと話しているのはブルーナイツRセクションのメンバー、メグ=フォレストフィールド少尉。そして彼女が乗っているのが可変式機動兵器AFC−01レギオスだ。MSZ−06 Zガンダムを参考にして制作された、アーモファイター(戦闘機形態)、アーモダイバー(中間形態)、アーモソルジャー(白兵戦形態)の3タイプに変形できる機動兵器で、現在はブルーナイツだけが装備している。メグの搭乗しているのはその中でもタイプΘ(シータ)と称される強行偵察型だ。

「やっぱり、A装備じゃないとHMには対抗出来ないみたいね」

『そうでも無いかもしれませんよ〜』

横からグレース=ウリジン少尉が、いつもののんびり口調で口を挟んで来た。

『どう言う事、グレース?』

『近距離からのビームが当たった時ぃ、僅かですけどぉ、装甲板の反射スペクトルにゆらぎが出てました〜。だからぁ‥‥』

『読めたわ!ある程度の出力以上のビームには、ビーム・コートは耐えられないって事ね?』

いきなり話しに割り込んで来たのは、四人目のRセクション・メンバー、ミーナ=ライクリング少尉である。

『ハイですぅ』

スローモーな喋り口調な為そうは見えないが、グレースの情報分析能力はブルーナイツでも一・ニを争う。おそらく、軍情報部をも凌ぐだろうとも言われているほどだ。

『グレースの予想通りなら、連邦軍にも活路があるわね――メグ、さっきロンド=ベルのMSチームが中に入ったわ。RX−78−2がいたみたいだから、ビーム・ライフルを持ってるハズよ』

「それが効果あるか、ね」

『ええ。それから本隊も間も無く到着するそうよ。そのまま監視を続けて』

「了解」



ロンド=ベルのMS隊が戦闘区域に到着したのは、ジュドー達がMSを起動したのとほぼ同時だった。前の戦闘で破損した機体がある為、今回出撃出来たのはガンダム、ゲシュペンスト、ガンダムmkU、NT-1、GP-01Fbの5機である。

「ガンダム?アムロさんか?」

MS隊の中にガンダムを確認したジュドーが、アムロに通信を入れて来た。

「ジュドーか?どうしたんだ、そのMSは」

「へへー、ちょっとね。それより、あいつらは何モンだ」

「我々もSOSを聞いて飛んで来たんだ。良くは解からないが少なくとも友好的な連中じゃなさそうだ」

「そんな感じだな。アムロさん、気をつけてくれ。さっき、GMVのビーム・ガンは全然効いてなかったみたいだからな。しかも、向こうも結構強力なビーム砲を持ってるみたいだぜ」

「了解だ――各機、聞いた通りだ。充分注意しろ」

ジュドーの助言を受け、ロンド=ベル各機はビルに隠れるようにしてギャブレー隊に近づく。ジュドー達もそれに続いた。無論、ギャブレー達もこれには気が付いている。

「ほう、今度の連中は少しは考えるようだな」

「お頭――じゃない、隊長、どうしやす」

「決まっている。正々堂々と迎え撃つのだ」

「はあ(やっぱり、言うと思った‥‥)」

「ハッシャ、何か言ったか」

「いえ、別に‥‥」

ギャブレーとハッシャが掛け合い漫才をやっている間に、ガンダムmkUとGP−01Fbが他のグライアと戦闘に入った。両機供にGMVのビーム・スプレーガンよりも強力なビーム・ライフルを装備している。

「いっけぇ!」

コウの気合と共にGP−01Fbがビームを放つ。しかし、それはグライアのビーム・コートに弾かれてしまった。まだ、間合いが遠いのである。反対に相手の放ったビームはGP−01Fbの肩部装甲を貫通してしまった。

「あーっ、修理したばっかりなのに!」

「今度は私がっ!」

更に接近したガンダムmkUの放ったビームが、グライアの装甲の一部を削ぎ落とした。

「やった!アムロさん、近づけば何とかなりそうです」

「うまいぞ、エマ。よし、みんななるべく接近して攻撃するんだ」

しかし、実際には近づいて何とかなる程の威力を持っているのはガンダム、ガンダムmkU、GP−01Fbのビーム・ライフルとゲシュペンストのニュートロンビーム位で、他の機体の武器ではグライアに抗し得なかった。だが、いままで無傷だった味方に損傷(と言っても、カスリ傷だが)が出た事にギャブレーはショックを受けたようだ。

「むゥ‥‥地球にもHMに傷を負わせる兵器があるのか」

ここで不用意にHMを失いでもしたら、ギワザに叱責されるのは目に見えている。撤退か否か。ギャブレーは迷っていた。ギワザに判断を仰ぐ事は出来ない。そんな事をすれば、自分の指揮官としての資質を疑われる事になり兼ねないからだ。(最も、ギワザはそこまでギャブレーを買ってはいなかったが)



「グレースの言う通りだったわね、リン姉」

戦闘の様子は、メグから逐一リン達へ伝えられていた。メグの任務は、先行偵察により相手の戦力を把握する事。故に、例え味方が危機に陥っていても、決して動く事は許されない。これは、時としてかなり辛い任務であり、相当な忍耐力と判断力を要求される。しかし、彼女はこれまで良くこの任務をこなして来た。ブルーナイツの勝因の多くは彼女の功績と言っても良い。

『そうね――グレース、相手の防御力はつかめた?』

『は〜い。凡そですけどぉ、レギオスのビーム・ランチャーでしたらぁ、LEVEL8のチャージで300mから400mと言うところですねぇ』

「成程ね。ところでリン姉、本隊はまだなの?」

『すぐそこよ』

リンの言葉とほぼ同時に、戦闘区域に一群の戦闘機が雪崩れ込んできた。アレックス率いるブルーナイツのレギオス隊である。

「何だ、あの戦闘機は?」

アムロが驚いたのも無理は無い。レギオスはまだ配備されたばかりでその存在自体、連邦軍の中でもあまり知られていないのだ。

「アムロさん、何だいありゃ。連邦のマークを付けてるけど」

「俺も初めて見る機体だよ、ジュドー。守備隊のものじゃなさそうだが‥‥」

アムロ達が呆気に取られて見ている間に、レギオスは低空へ舞い降りると次々に機動兵器――アーモソルジャーに変形して行く。

「001より各機へ。リンからのアドバイスだ。チャージ・モードをLEVEL8へ、ミドルレンジからのサッチ・ウィーブで行く。撃破は考えるな。取り敢えず、HMの攻撃力を見るのと、ここから追い出す事に専念しろ」

「「「「「了解」」」」」

アレックスの指示を受け、各機が素早く散る。シャングリラ・コロニーでの闘いは、第二幕を向かえようとしていた。

付録




第ニ話

第四話

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