第二話 「ポセイダル軍 来襲」





「大佐、何かあったんですか?」

アレックスがブリッジのモニターでターナの収容作業を眺めていると、後ろから声を掛けられた。

「ん‥‥ああ、大介君か」

声の主は、宇門大介ことデューク=フリードだった。ベガ星連合撃滅後、フリード星第一王子である大介は、妹マリア=フリードと供にフリード星再興の為母星に帰還していたが、今回至急の事態が発生した為、試験航海でフリード星に立ち寄った蒼天に便乗して来たのである。

「異星の宇宙船と衝突したんだ。今、オッダー達が乗員を連れてくる」

「異星の?」

大介の表情が曇る。

「大丈夫だよ、敵って訳じゃなさそうだから。これから、彼らから話しを聞くんだが、一緒に来るかい?」

「はい、お願いします」

ターナの収容作業が終了し、ダバ達がミーティング・ルームに案内されると、そこにはブルーナイツの全員と大介、マリアが集まっていた。

「ようこそ蒼天へ。俺がこの艦の責任者、アレックス=サカザキ大佐だ」

「ダバ=マイロードです。ペンタゴナ星系の惑星コアムから来ました。ダバと呼んでください。こちらの 二人は、友人のミラウー=キャオとファンネリア=アムです」

「よろしく。さて、早速話しを伺おうか」

「はい」

アレックスに促されて、ダバは自分達が太陽系に来た理由を語り出した。

「僕達のペンタゴナはオルドナ=ポセイダルと言う独裁者の支配下にあります。その独裁政治からの開放を願って多くの人々が戦っていますが、僕達もそのグループの一員です」

「つまり、レジスタンスってやつだな」

「そう考えて頂いて結構です――そのポセイダルが、今度こちらの星系への侵攻を企んでいると言う情報を入手したんです。そして、先発の部隊は既に出撃したとの事です」

ダバの言葉にどよめきが起きる。

「ひとつ、訊きたいんだが、いいかい?」

オッダ−が手を上げた。

「そのポセイダルてのは、これまでにも他の星系へ侵攻した事はあるのかい?」

「いえ、今回が初めてです。以前に計画していた、と言う話しも聞いていません」

「それが、いきなり太陽系へ侵攻と言う理由は何なんだろうな?」

「すみません、それに関しては何も解りませんでした」

そう言ってダバはすまなそうに俯いた。ダバの語った所によると、今回のポセイダルの侵攻は全くの突然だったそうだ。しかも、ペンタゴナ星系から太陽系まではかなりの距離があると言う。それにもかかわらず、ポセイダル軍の基幹たる13人衆の大半までも投入して来ているのだそうだ。

「う〜ん、そこら辺が良く解らんなぁ――とにかく事の裏がとれるまで、すまんがダバ君達には少し不自由をかける事になるが、我慢してもらえるかな」

「え〜、何よそれ!こっちは、わざわざ遠くから危険を知らせに来てやったって言うのに」

アレックスの言葉にアムが不満の声を上げる。

「よすんだ、アム。彼の処置は正しい」

「そうそう。いきなり現れた余所者の言葉を、あっさり間に受ける方がどうかしてるって」

ダバがアムを窘めると、キャオもそれに頷いた。

「理解してくれて、助かるよ。ま、そんなに長くはならないから、安心してくれ」

「えっ、それはどう言う事ですか?」

「うん?まあ、カンみたいなものかな――ウィル、ジェス、彼らを案内してやってくれ」

「「アイ、サー」」

ウィル達がダバ一行を連れて行くのを待って、ハンスが口を開いた。

「チーフ、彼等の話しどう思いますか?」

「少なくとも、あのダバ君は信用してもよさそうだな。いい目をしてるよ」

「はぁ、そんなモンすかねぇ」

「さてと――大介君、ペンタゴナと言う名前に聞き覚えは?」

「初めて聞く星系です。僕の知る限りではベガ星連合の中には存在しません」

「マック、彼らの船の航法コンピュータの解析は出来たのか?」

「ちょっと待ってくれ‥‥ああ、終わったみたいだな」

マックが情報端末を操作すると、壁の一面に設置されたディスプレイ・パネルに星図が現れた。

「うーんと‥‥あー、フリード星とは全然逆の方向だ。これじゃ、大介君が知らなくても無理は無いな。太陽系からは、だいたい1200光年てとこかな」

「成程ね。て事は、あっちとは無関係か。とすると‥‥」

そう呟くと、アレックスはそれっきり目を瞑って腕を組んだまま黙り込んでしまった。傍目には寝ているようにも見えるが、これが考え事をする時の彼のポーズであるのはブルーナイツ全員が良く知っている。(始めの頃は、叩き起こされたらしい)その後、5分程すると彼は目を開けて立ち上がった。

「よし、全艦に第二級戦闘配備発令、蒼天は月軌道付近まで進出。『四神』は即時出撃体制へ。情報班は太陽系内の全ての情報を二十四時間体制でチェックしてくれ」

その場を解散し、他の者がそれぞれの持ち場へと散って行くと、アレックスはオッダー、エイジ、D.D、大介、マリアを供なって艦橋へ戻った。艦橋に入るとD.Dがすぐにパイロット・シートに入る。

「機関部、こちらブリッヂ。縮退炉の点検は終了してるのか?」

『全て良好です。いつでも、いけます』

「て、事ですチーフ」

「OK、じゃ行こうか。」

しかし、事態は彼等の予想を上回る速度で動き出していた。

『ブリッヂ、アルはいるか』

「どうした、マック?」

『今、地球圏で発信された緊急電を傍受した――“ワレ、識別不明艦ノ攻撃ヲ受ケ交戦中。至急、救援ヲ乞ウ”以上だ』

「発信者は解かるか?」

『連邦軍の巡洋艦アンソン、第78警備隊の所属艦だ』

「78って言うと、ザーンの守備隊だな。いきなり、コロニーを攻めて来たか。しかもザーンとはな」

ザーン(サイド1)にはロンド=ベルの活動拠点、ロンデニオンがある。知っていての事であれば、かなりあからさまだ。

『それと、相手の船のらしい映像が入ってきてるぞ』

通信スクリーンに映し出された宇宙船は、アレックス達の見た事な無いタイプのものだった。

「大介君、見覚えは?」

「初めて見る型ですね」

「私も見た事がないわ」

大介の言葉にマリアも同意した。

「ダバ君達に確認してもらうか?」

「そうだな――エイジ、彼等を呼んで来てくれ。それから、ハンスとリンにもこっちへ来るように言ってくれ」

オッダーの提案で、ダバ達が艦橋に呼ばれ、同時にハンスとRセクション・リーダーのリン=マオ中尉も艦橋に上がって来た。リンの指揮するRセクションはブルーナイツでは唯一、女性だけで構成されている。

「ダバ君、この船はポセイダル軍のかい?」

アレックスに示された映像を見たダバ達は、一様に驚愕の表情を浮かべた。

「ダバ、こりゃあポセイダル軍のプラネット・クルーザーじゃないか?」

「ああ。しかもこれはサージェ・オーパスだ」

「サージェ・オーパス?じゃギワザの?」

アムの言葉に頷くと、ダバはアレックスの方に向き直った。

「このサージェ・オーパスは13人衆のbQ、ギワザ=ロワウの艦です。まさか、ギワザが自ら出て来ているとは‥‥」

「つまり、ポセイダル軍の大幹部のお出ましって訳か」

更にダバは、プラネット・クルーザーが彼等の使用する機動兵器ヘビーメタル(HM)やレーザー砲塔を多数搭載している事等を説明した。

「結構、厄介な相手だな」

「それと、もうひとつ」

「なんだ、エイジ」

「収容してるときにちょっとダバ君達のHMを調べさせてもらったんですが、どうもHMは対ビーム兵器防御膜――ビーム・コートを持ってるみたいなんです。多分、GMシリーズのビーム・スプレーガン位じゃ抜けないと思いますよ」

「そりゃ、まずいな」

コロニー守備隊の主力はGMVだ。これでは、HMに全く歯が立たない事になる。

「大介君、グレンダイザーは使えるのか?」

「いえ、光量子エンジンの出力調整にもう少し時間がかかりそうです」

大介の愛機グレンダイザーは、フリード星を出発する際に光量子エンジンが不調を起こしてそれを調整中だった。しかし、何分にも地球のものより遥かに進んだ技術で造られている為、作業がなかなか捗らないのだ。

「グレンダイザーは戦力として貴重なんだがな。ま、仕方が無いか――よし、戦闘配備を第一級へシフト。リン、Rセクションは『朱雀』で先行、状況の確認をしてくれ」

「イエス、サー」

「他の者は準備が整い次第『青龍』で追従する。ダバ君達も同行してもらおう。HMとの戦い方をレクチャーしてもらわなければならないからな――D.D、進路2−0−2、地球圏へ向け発進する」

「アイ、サー。進路2−0−2、蒼天発進します」


――空間要塞ルナツー宙域


アンソンからの緊急電は、DCとの戦いを終えたばかりのロンド=ベルでも傍受していた。

「何者かは解からないが、このままではまずいな」

ブライトの言葉にアムロが頷いた。もしロンデニオンに何かあれば、ロンド=ベルの以後の活動に深刻な影を落とす事になり兼ねない。

「ああ。ブライト、急いでザーンに戻ろう。どうやら、ルナツーからの補給は受けられそうも無い」

シーマ隊との戦いで少なからぬ損害を受けたロンド=ベルだったが、ルナツーもかなりのダメージを受けており自分達の事で手一杯な有様だった。

「そうだな。トーレス、進路をロンデニオンへ」

「了解、トロイホース発進します」

「アムロ、各機の損傷の様子はどうだ?」

「キースのガンキャノンとバーニィのザク、それにファのメタスがかなりやられたな。すぐには出撃出来そうも無い。それから、クリスのNT-1とコウのGP−01も少しやられたが、こちらは大した事は無いから応急修理をすれば出撃できる」

流石にアムロはほとんど無傷だったが、戦力的にはほぼ半減だ。

「とにかく、相手の戦力が確認できない以上、出られるものは全機出撃するしかないだろう」

「ああ、そうだな」

「ところでアムロ、新人の様子はどうだ」

「機体の性能を差し引いても、彼女の腕は大したものだよ。さすがにコーウェン中将の推薦だけはある」

「ほう、そいつは頼もしいな」

やがてトロイホースはザーンの宙域に到着したが、既にサージェ・オーパスの姿は見当たらなかった。

「トーレス、付近に敵艦の反応は?」

「ありません。もう、引き揚げたんですかね?」

「そんなはずは無いだろう。索敵を続けてくれ」

その後も、暫く付近を調べてみたが、敵艦の姿を見つける事は出来なかった。ところが――

「ブライト艦長、シャングリラ・コロニーの守備隊から連絡『正体不明の機動兵器がコロニー内に侵入、現在交戦中』との事です」

「しまった、内部に侵入されたのか!アムロ、稼動機を全機出撃させてくれ」

「了解だ、ブライト」

アムロはヘルメットを取ると格納庫へ向かって走り出した。ロンド=ベルとポセイダル軍との戦いが、今幕を開けようとしていた。




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