第四話 「邂逅」





ブルーナイツの中で最初にHMと接触したのは、エイジ率いるEセクションだった。

「Eセクション、目標を3と5に設定。サム、目標3の右へ回ってLEVEL1で攪乱弾幕。エドとラルフは目標5に向かえ」

「203了解。5秒後に弾幕を張ります」

「202了解。ラルフ、目標の左へ回ってくれ」

「アイ、サー」

エイジの指示を受けて、3番機のサミュエル(サム)=トウゴウ中尉がビルの間を縫って目標に定めたHMの右側へ回り込む。彼らは知らなかったが、そのHMはハッシャのグライアだった。

「なんだ、ありゃ?」

ハッシャは突然現れた奇妙なメカを呆然と眺めていた。実は、ペンタゴナでは航空機はあまり発達していない。HMやホバー・マシンが特異的に高性能化した為、必要とされなかったのだ。この為、戦闘機から機動兵器に変形するレギオスは、彼の目にはかなり異様なメカニックとして映っていた。

「フン、まあ相手が何だろうとやる事ァ同じだがな」

少なからぬ場数を踏んでいるハッシャは、すぐに気を取り直し戦闘態勢に入る。と、相手の内の一機が左側へ回り込むのが見えた。他の機体は別のグライアへ向かって行ったようで、姿が見えない。

「よっしゃあ、こいつも貰った――おわっ!」

いきなり、外部スクリーンが真っ白になった。サムのレギオスが、ビーム・ランチャーを速射でハッシャのグライアの頭部に叩き込んでいるのだ。レギオスの装備するビーム・ランチャーは出力の調整で発射速度・威力を10段階に変化させる事が出来る。この為、一番出力の低いLEVEL1なら、機関砲並の発射速度が得られるのだ。無論、その程度の出力ではHMに傷を付ける事は出来ないが、センサーやモニター・カメラのある頭部に弾幕を張る事で視界を一時的に遮断する事が出来る。あわてて、ハッシャがそれを避けようとした時、機体を物凄い衝撃が襲った。

「こ、今度は何だ?」

計器板を見ると、右腕部の表示が全て“ALERT”になっている。外部モニターで確認すると、右腕部の肘から先が無くなっていた。反対側へ回っていたエイジの機が放ったビームがビーム・コートを突き破って破壊したのである。

「こりゃ、ヤベエな」

ハッシャの勘が、ブルーナイツが他と違い危険な相手である事を告げていた。

「こりゃ、そろそろ潮時かな――お頭、こいつは一寸まずい感じですぜ。一旦、引き揚げましょうや――お頭、聞いてます?」

しかし、ギャブレーの方はそれどころではなかった。新手の中に見覚えのある機体を見止めたのだ。それは白いHMだった。

「エルガイム!?ダバ=マイロードか!」

『ギャブレット=ギャブレーか!何で、ここに?』

「地球人の味方をするとは、何と言う恥知らずな!」

『そっちこそ、ポセイダルのやっている事が正しく無いと、何故解からない!』

「ええい、黙れ黙れ。貴様の様な輩には、私が引導を渡してやる。行くぞ!」

ギャブレーのバッシュはセイバーを抜くと、エルガイムに向かって切りかかった。エルガイムもセイバーを抜いてそれを受け止める。どちらもA級HMだが、全体の性能バランスではバッシュの方が上だ。しかし、ヘッドライナーとしてはダバが若干勝っており、戦いを幾分有利に進めている。

「ふーん、ダバ君も結構やるな」

この時、アレックスは自機をアーモダイバーに変形させてビルの屋上から戦闘区域全体を観察していた。無論、自軍が不利になった場合、すぐに支援する態勢を執っている。尤も、ブルーナイツの面々は作戦通り2対1の戦闘に持ち込んで状況を有利に進めているので、彼が手出しする必要はなさそうだった。

「ま、ウチの連中は放っておいても大丈夫なんだろうが‥‥」

ダバの方は、幾分有利とは言えほとんど互角である。ギャブレーはHMの性能に頼っている部分が多いが、そのエルガイムとバッシュの性能差がダバとギャブレーの腕の差をかなりの割合で縮めているのだ。

「あっちは、ちょっと具合が良くないか――010、グレース、聞こえるか?」

『はぁ〜い、こちら010ですぅ。なんでしょうかぁ、チーフ』

「ダバ君の戦い、どう見る?」

『テクニック対機体性能と言えると思いますよ〜。ダバさん、パイロットとしてはかなりの技量ですねぇ。でもぉ、相手の方の機体はかなり高性能な様ですからぁ、パイロットがダバさんじゃなければぁ、エルガイムではとっくに負けているでしょうねぇ』

「長引きそうだな」

『私も、そう思いますぅ。因みにぃ、相手の方は剣を振り上げる時に隙が出来るようですねぇ』

「あんまり、ああ言う戦いの邪魔はしたくないんだがな‥‥」

アレックスは、溜息をひとつつくとレギオスを上昇させてアーモファイターに変形させた。

「ダバ・マイロード、いい加減に己の非を認めろ!」

「そっちこそ、ポセイダルに加担するのはよせ!」

二機は既に鍔迫り合いの状態になっていた。接近戦になってしまった為、ハンドランチャーのような飛び道具は使用できない。両機のセイバーがぶつかり火花を散らす。

「ぬう、中々やるな」

「ギャブレー、もう剣を引け!」

「そうは、いかん!」

戦闘は膠着状態になりかかっていた。その時、

「ダバ君、下がれ!」

突然、アレックスの声が割り込んで来たかと思うと、上空から降ってきたビームがバッシュの右腕を吹き飛ばした。直後、二機の間をアレックスの青いレギオスが飛び抜けて行く。

「ぬう、援軍か――ハッシャ、援護しろ。私はダバ・マイロードを倒さねばならん」

「何呑気な事言ってるんですか、お頭。こっちは総崩れになっちまってるんスよ!」

「な、何っ!?」

ギャブレーがあわてて周囲を確認すると、確かに配下のHMは殆どが動けない様な状態になっており、その他の機体も無傷な者はいないと言う有様だった。

「こ、これはどうした事だ!?」

「後から来たヘンな連中ですよ。こっちの一機に対して二機の連携で来やがるし、戦いにも慣れてやがる。ここは、一旦引き揚げるべきでやしょう」

「むウ――ええい、仕方が無い。撤退だ!」

ギャブレー達が引き揚げるのを確認して、アレックスも部隊に撤収命令を出した。

「よーし、何とか帰ってくれたな。ブルーナイツ全機、撤収する――メグ、ご苦労さん。君も上がってくれ」

「011、了解。帰艦しまーす」

ブルーナイツが引き揚げて行くのを、アムロ達は呆然と眺めていた。はっきり言って、ロンド=ベル隊は何もしなかったのと同じである。と言うより、手を出すヒマが無かったと言っていいだろう。

「アムロさん、あの連中一体何者だい。あんなに手際の良い戦い方は初めて見たぜ」

「俺にも解からないよ、ジュドー。ただ、あの機体と言い、際立った戦闘と言い、只者じゃなさそうだ」

丁度この時、メグの黒いレギオスが林の中から飛び立ち、本隊の後を追って行ったのにクリスが気がついた。

「アムロさん、あの黒い機体、さっきの戦闘中にはいませんでしたよ」

「そうだな。と言う事は、予めあそこに潜んでいて戦闘の様子を見ていたのか。成程な」

「どう言う事です?」

「最初に敵の戦力を見極めて、その情報を元に作戦を決定する。出来そうで中々出来ない事だよ。これは、相当な戦闘経験を積んだ部隊の様だな」

(そう言えば、そんな部隊を聞いた事がある様な気がするな。何と言う部隊だったかな‥‥)

「アムロさん、取り敢えずこちらも撤収しましょう」

「あ、ああ、そうだな、エマ。よし、全機トロイホースへ戻るぞ」

エマに促されて、アムロは思考を中断し撤収命令を出した。


――シャングリラ周辺宙域


アムロ達ロンド=ベルMS隊はシャングリラを離れ、トロイホースに帰艦した。ジュドー達も同行している。彼等は、MSでの戦闘に参加しなかったジュドーの妹リィナと、もう一人の仲間イーノ=アッバーブを途中で回収していた。

「久し振り、ブライトさん」

「ジュドーか、本当に久し振りだな。他の皆も元気そうでなによりだ」

かつて共に戦った仲間の突然の来訪にブライトも心なしか嬉しそうだ。

「ところでブライトさん。さっきの連中は何者だい?」

「さっきの連中?あの正体不明の敵の事か?」

「それもそうだが、あとから戦いに割り込んできた可変MSの事だよ」

ジュドーの問いをアムロが引き継いだ。

「可変MS?そんなものがシャングリラにあったのか?」

「多分、さっきシャングリラから出て行った戦闘機隊じゃないですか?二十機位いたみたいですが」

益々混乱するブライトにトーレスが横から助け舟を出した。

「トーレスさん、そいつらは何処へ行ったんだ?」

ジュドーが噛み付かんばかりの勢いでトーレスに迫る。

「そう勢い込むなよ、ジュドー。途中までは追尾できたんだが、コロニーの陰に入られて見失ってしまったんだ」

「そっか‥‥」

「その可変MSがどうかしたのか?」

「とんでもない連中でしたよ。俺達より後に飛び込んできて、アッと言う間に敵を蹴散らしたんですから。おかげで、こっちは良いとこ無しですよ」

GP−01Fbを傷つけられ、しかも一矢も報いる事が出来なかったコウはご機嫌ナナメである。

「連邦軍のマークは付けていましたが、見た事の無い機体でした。機体のコンセプトはZガンダムと同じでしょうけど、もっと戦闘機としての性能を充実させてある様に見えましたね」

テストパイロットをやった事があるだけに、クリスは目の付け所が違う。

「その辺は後で調べてみる事にするか。よし、一旦ロンデニオンへ戻ろう――ジュドー達はどうするんだ?」

ジュドーはそれまで何か考え込んでいたが、ブライトに訊かれて口を開いた。

「その事なんだけど――俺も一緒に戦わせてくれないか?」

ジュドーの言葉に、皆驚いた様な顔をしたが、ビーチャ達は“ああ、やっぱり”と言う顔をしている。

「いいのか?せっかくの平和な暮らしを捨てる事になるんだぞ」

アムロの問いに、ジュドーは大きく頷いた。

「どうせ戦争になったら、こっちにその気がなくても、さっきみたいに向こうから攻めて来ちまうからな。それにDCも復活してるんだろ?ケリはきっちり着けておかないと、寝付きが悪いよ」

最後の方は冗談めかしていたが、ジュドーの目は真剣だった。

「まあ、君達がそう言うのならこちらとしては有難い事だが‥‥」

ジュドーは元々ロンド=ベルでもアムロに匹敵するエース級のパイロットではあるし、他の面々もニュータイプの素質を強く出している。ロンド=ベルにとっては相当な戦力強化になる事は間違え無い。ブライトにしてみれば、願っても無い事だ。

「そう言う事なので、また宜しくお願いします、ブライトさん」

そう言ったのがリィナだったので、今度はジュドーがあわてた。

「リィナ、何言ってるんだ。お前はシャングリラに残るんだ」

「あら、お兄ちゃんも今言ったじゃない、向こうから攻めて来るって。だったら何処にいても危険なのは同じよ。それなら、ここにいた方がお兄ちゃんも守ってくれ易いでしょ?」

「う‥‥そ、そりゃそうだけど‥‥」

尚も何か言いた気なジュドーの肩を、アムロが笑いながら叩いた。

「ジュドーの負けだな。彼女の言う通り、無防備なコロニーよりまだトロイホースの方が安全かもしれない。なあ、ブライト」

「ふ、そうかもしれんな。よし、皆また宜しく頼むぞ」

ブライトの言葉で場が収まった時、トロイホースのレーダーに接近する艦影が映った。

「艦長、こちらに接近する艦があります。方位310、艦数1」

「敵か?」

「いえ、連邦の識別信号が出ています。10分後に視界に入ります」

やがて、コロニーの間をゆっくりと接近してくる艦が見えて来た。

「あれは‥‥アーガマ!?」

それは、正に以前ロンド=ベルが母艦として使用した事もあるアーガマ級強襲巡洋艦だった。但し、ロンド=ベルの使っていたアーガマと違い、青を基調とした塗装が施されている。

「ブライト艦長、向こうの艦から通信が入っています」

「繋いでくれ」

トーレスが回線を開くと、スクリーンにアレックスが現れた。

『連邦軍第101独立機動遊撃隊“ブルーナイツ”隊長アレックス=サカザキ大佐です。そちらの指揮官は?』

「第13独立部隊“ロンド=ベル”指揮官ブライト=ノア大佐だ。何か?」

『初めまして。ロンド=ベルの勇名は以前から伺っています。直接お会いして、少し話しがしたいのですが、宜しいですか?』

話しなら通信でも出来るが、わざわざ“会って”と言うアレックスの真意にブライトは一抹の疑問を抱いた。しかし、同じ連邦軍の独立部隊と言う事で多少の興味も沸く。(あたりまえだが、独立部隊などそう多いものではない)

「いいだろう。本艦はこれからロンデニオンに寄港するので、そこで宜しいか?」

『了解です。こちらもロンデニオンに入ります。では後程――』

そう言うと、アレックスは通信を切った。

「第101独立機動遊撃隊“ブルーナイツ”――あっ、じゃああの艦が‥‥」

突然、クリスが声を上げた。

「クリス、知ってるのか?」

「詳しく知ってる訳じゃありません、ブライトさん。何でも、アーガマ級巡洋艦『アクエリアス』を母艦にしていて、敵の後方を攪乱するのを得意としている部隊だとか‥‥」

クリスの話しに、アムロも手を打った。

「ああ、思い出した。DC事件やインスペクター事件の時に、敵の補給線を片端から潰して行った部隊だ。あの時は、ウチが正面で当たっていたから、彼等は目立たなかったらしいけどな」

「と言う事は、実力的には‥‥」

「相当なもの、と言う事だな」

「ふむ、会ってみる価値はありそうだな」

前方には、ロンデニオンのポートが見えて来ていた。




第三話

第五話

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