忠誠の指輪10

01.11.30改



 今にも崩れ落ちそうなトプラキを肩で支えながら、リュズギャルはやわらかに、
 だが反論を許さぬきっぱりとした口調で告げる。
「俺は全部わかっているんだよ、トプラキ。」
 星域全体のサクリアバランスを回復させるには莫大なサクリアが必要となる。
「サクリアを解放した瞬間、俺の身体はサクリアに焼かれて消えてしまうだろう。
 それでも俺は行くつもりだ。
 自分が勇気を司る風の守護聖だということを、今ほど誇りに思ったことはない。」
 だから、お前もいさぎよく諦めてくれ。
 そう言って、リュズギャルは晴れ晴れと笑った。
 彼は、悲壮になっているところをみじんも見せなかった。
 これほど気高い魂の持ち主を、どうして犠牲にできるだろう。
 ジュリアスは、リュズギャルをここまで追いつめた状況の理不尽さに
 憤りのようなものを覚えずにはいられなかった。
 彼は我知らず激した口調になっていた。
「あなたが行かれる必要はありません、リュズギャル様。
 その役目は、首座の守護聖である私が引き受けるべきものです。」
 風の守護聖は、微苦笑しながら首を振る。
「ジュール、その志は尊いものだ。だがな、お前は未来からの大切な
 預かりものだろう? お前を犠牲にするわけにはいかないよ。」
 リュズギャルは幼子を諭すようにジュリアスに穏やかに説いて聞かせた。
 風の守護聖は自分の腕をつかんでいたトプラキの手を外し、あたかも
 祝福するかのように光の守護聖の頭に自分の手をそっと置く。
 彼の司るさわやかな風のサクリアが、手のひらを通じて伝わってきた。
「どうか覚えておいてくれ。
 守護聖は、宇宙のためならば、いつでも身を捧げる存在だということを。
 風の守護聖リュズギャルは、それを身をもって教えたことを。」
 ああ、このような人柄の風の守護聖だからこそ、
 自らこの運命を引き受けてしまわれるのだ――。
 ジュリアスの中に一種の諦観のようなものがわき起こった。
 リュズギャルの壮烈な最期をジュリアスは、この時点で既に見通してしまった。
 同じことを感じ取ったらしい地の守護聖が激しく泣き出した。


「リュズギャル、あんまりです。
 どうしても逝くというならば、私も一緒に連れていってください。」
「馬鹿を言うな。それでも知恵を司る地の守護聖か?」
 理性を司るトプラキには決してそのような真似はできないと見越した上で、
 風の守護聖は、たしなめる。
「守護聖が一人欠ければ、それだけ宇宙は不安定になる。次の風の守護聖が
 現れるまで、対であるお前が頑張らなければならないんだぞ。」
「あなたが死に急ぐからです! それだけでも酷い仕打ちだというのに…
 風と地の守護聖のかけがえのない絆が、私たちの代で切れてしまう。
 私は、私たちは、この聖地での長い時を、これからどうやって過ごせばいいのですか?」
 そう言って両手で顔を覆い、天井を仰いで嘆き悲しむトプラキ。
 身も世もなく悲嘆にくれる地の守護聖の姿に、風の守護聖の精悍な顔が
 わずかに歪んだ。
「そうだ、お前は俺にとって何者にも代え難い存在だった。
 お互い反目していた時も、俺たちの魂は奥底でいつも通い合っていた。
 俺は世界をめぐる風、お前は風の記憶を書き留める大地。
 互いの存在それ自体が生きる支えとなっていた。」
 それに続けてリュズギャルは、聞きようによってはこの上もなく
 残酷な言葉を吐いた。
「だから、せめてお前が俺のことを覚えていてくれ。
 地の守護聖の対である、最後の風の守護聖を。」
 いたたまれなくなったジュリアスは、彼らに背をむけた。


 ジュリアスはマントルピースの上のエナメル製の飾り時計を眺めていた。
 時計の針が、一秒一秒生命の刻を刻んでいく。
 その音がいやに耳について、ジュリアスの心は千々に乱れるばかりだった。
 リュズギャルがいなくなったあとのトプラキが、蝋燭の炎がロウの涙を流しつくして
 かき消えるように、消え入るごとく守護聖の座を去ったことをジュリアスは知っていた。
 光の守護聖は唇を噛んだまま、時を確実に刻んでいく時計を見つめていた。
 彼は、二人の守護聖に気づかれないようにひそかに瞑目した。
 悲しみにくれる地の守護聖に、風の守護聖はかんで含めるように言葉を続ける。
「なあ、トプラキ。一つだけ頼みがある。俺は無駄死にだけはしたくない。だから…
 その時が来たら、どうかありったけの地のサクリアを俺の中にそそぎ込んでくれ。
 それだけは約束してくれ。な?」
 トプラキは涙にむせんだまま、無言で激しく頭を振った。蒼白なトプラキの頬を
 涙だけが伝い落ちていった。


「クラヴィスを起こして正装させます。私もいったん私邸に戻り正装しましょう。
 風の守護聖リュズギャル様の門出のために。」
 ジュリアスは風の守護聖の決意に最大限の敬意を払い、威儀を正して告げた。
「ただ、陛下が…よく、このようなご決断をされた、それだけが驚きです。」
「それでこそ宇宙を統べる女王。我らの仰ぐべきお方だ。」
 リュズギャルはすうっと目を細め、一瞬どこか遠くを見つめると
 まだすすり泣きを続けているトプラキの肩を抱いて、
 闇の守護聖の私邸をあとにした。
 オイルランプに照らされた、目もと涼しい風の守護聖の面影は、
 その後ジュリアスの心に生涯焼き付いて離れることはなかった。


 カアァァ…ン、カアァァ…ン、カアァァ…ン。
 聖地には、さきほどから重苦しい鐘の音が鳴り響いていた。
 カアァァ…ン、カアァァ…ン、カアァァ…ン。
 これから宇宙に殉じようとする風の守護聖に捧げられた弔鐘が
 聖地のいたるところで鳴らされている。
 光の守護聖の純白の正装に身を包んだジュリアスは、王立研究院に向かう馬車の中で
 弔いの鐘が鳴り始めるのを聞いていた。ガラガラと回る車輪の音の合間を縫うように、
 真鍮の鐘が立てる音が馬車の中にも聞こえてくる。
「ねえ、ジュール。僕、眠いよ。」
 正装姿の幼いクラヴィスは目をこすりながら、向かい側の席に座っている光の守護聖に
 泣き言を言った。
「少し我慢してくれないか、クーリィ。研究院に着くまでは眠っていてよいから。」
 幼いクラヴィスは口をへの字に曲げたが、やがて肘掛けにもたれてうとうとし始めた。
 ジュリアスは、前髪をはらりと払う。緊張している時の、幼い頃からの彼の癖。
 馬車は、黒い影を落とす針葉樹の森をぬけて一路王立研究院を目指した。


 開け放たれた時空の門の前で、守護聖たちは風の守護聖リュズギャルを中心に
 円陣を組んで立っていた。正装に身を固めた彼らは、あたかも古代の祭祀場の
 巨石柱であるかのように押し黙っていた。
 守護聖たちは、これから長い歳月を共に過ごし、苦楽を分かちあった
 かけがえのない同胞の一人を宇宙のために犠牲に捧げるところだった。


 女王セラフィンは、宮殿の奥深くで先刻から、文字通り生命を賭けた
 リュズギャルの試みが成功するよう、長い祈りに入っていた。


(セラフィン様、どうか私にお力を、勇気をお与えください…!)
 ジュリアスは、怖ろしさに震え、ともすれば挫けそうになる心を叱咤しながら、
 必死の思いで彼の崇めてやまぬ女王セラフィンに呼びかけた。
 彼の守護聖が内心で呼びかけるが早いが、彼の心に一筋の光が差し込んだ。
 暖かく優しいセラフィンの気配が、慰めるかのように彼の心の中にふれる。
 その惜しみない無限の愛に抱かれて、ジュリアスは嵐の海のように騒ぐ
 自分の心が次第に鎮まっていくのを感じた。
 ジュリアスも、これから死地に赴くリュズギャルも、残りの守護聖たちも
 みな、女王セラフィンの祈りの中に包まれているのだった。


 蝋燭を一本ずつ灯していくように。
 守護聖たちは一人ずつ、己の司るサクリアをリュズギャルの中に注いでいった。
 風の守護聖の正装である銀の飾りのある純白の甲冑に身を固めたリュズギャルは、
 せめぎあうサクリアを体内に押さえておくため歯を食いしばり、悲鳴一つ漏らさず
 苦痛に耐える。
 この時のために謹慎を解かれた水の守護聖スユと緑の守護聖イェシルが、
 沈痛な面もちでリュズギャルの前に祝福するかのように手をかざす。
 リュズギャルと同じ武官で、聖地の双璧として並び称された炎の守護聖アテシュが
 リュズギャルの右手を握り、熱い炎のサクリアを彼の動脈に流し込んでいく。
 やがて地の守護聖トプラキの番が回ってきた。彼はリュズギャルの背中に両腕を
 まわし、肩口にぎゅっと顔を押しつけた。トプラキの押し殺したような嗚咽が漏れてくる。
 守護聖たちは思わず顔をそむけ、そのうち何人はそっと涙を拭った。
 トプラキは、そのままいつまでもしがみついて離れなかったが、やがて
 鈍い金色の地のサクリアがリュズギャルの全身を包み込み、砂地に水が
 吸い込まれるようにすうっとリュズギャルの中にしみ通っていった。
 顔をあげたトプラキと、リュズギャルの目が合う。
「これで本当に…お別れなのですか?」
 トプラキの、か細い声。
「お前が、対の守護聖で本当によかった。」
 リュズギャルは、懐からナイフを出すと風の守護聖の紋章のついた肩章を切って
 トプラキに手渡した。風の守護聖たることを示すリュズギャル個人の紋章。
「これをお前に。俺がいつまでも共にいる、しるしとして渡しておく。」
 トプラキは、革製のその肩章を握りしめた。


 年長の守護聖たちの番が一巡し、最後に光と闇の守護聖がリュズギャルに
 サクリアを送る番がまわってきた。
 これまで不審そうに周囲の様子をうかがっていた小さなクラヴィスは、突然
 はじかれたような反応を見せた。
「なんなの、これ…みんなリュズギャル様をどうするつもりなの!?」
 幼い闇の守護聖は顔を引きつらせ、後ずさりした。
「まさか…いや、いやだ!」
 幼いクラヴィスの隣にいた鋼の守護聖デミルが、パニック状態に陥った彼を
 なだめようとしたが、クラヴィスはその手を振り払った。
「どうかしてるよ、みんな!」
「他に方法がないんだよ。」
「だからって、こんなのひどい!」
 幼いクラヴィスは悲鳴をあげた。
「リュズギャルも、僕らも、みんな苦しんで決断したんだ。
 さあ、君のサクリアを、クーリィ。」
「いやだっ!」
「クーリィ、どうか聞き分けてください。」
 水の守護聖スユが、クラヴィスの前に膝をついて彼の両腕を取った。
「そんなこと、できないよ! リュズギャル様を死なせるため
 サクリアを送るなんて、僕、できない!」
 クラヴィスは激しく首を振った。
「わがままを言うのはやめろ! お前もわかっているだろう。」
 炎の守護聖アテシュが一喝する。クラヴィスはきゅっと身を縮めたが、
 それでもサクリアを送ろうとはしない。
 素直でおとなしい幼いクラヴィスの初めての反抗だった。
 他の守護聖もクラヴィスを説得しに彼の前に集まってきた。
「宇宙を守るためなのだ、クーリィ。」
「宇宙がなんなの!?」
 クラヴィスは声を限りに叫んだ。
「こんなことをしなくちゃ守れない宇宙なんて、大きらいだっ!
 宇宙も、女王も、聖地も、守護聖も、みんなみんな、だいっきらいだっ!!」
 ジュリアスは、はっとしてクラヴィスを見た。
 幼いクラヴィスの紫色の瞳には、成人した彼が浮かべているのと
 同じ絶望の色が浮かんでいた。
(宇宙…? 守護聖の職務…? それがどうしたというのだ?)
 今と変わらぬつややかな黒髪、紫色の瞳。
(そこまでして守る価値があるのか、この宇宙は…?)
 いつの間にか心の離れてしまった、幼なじみ。
 ジュリアスの脳裏では、幼いクラヴィスの怯えた顔と、成人後のクラヴィスの
 すべてを諦めてしまったような冷笑とが二重写しになっていた。
「頼みます、クーリィ。どうかあなたの闇のサクリアを。
 この上は――リュズギャルの苦痛を長引かせないでください。」
 トプラキが、つぶやくように言う。
「いや、いや、いや!」
 クラヴィスは、顔を覆って床に座り込んだ。


「もう、いい。」
 リュズギャルは、穏やかに口を開いた。
「クーリィが、これほど嫌がっているんだ。
 もう、いいじゃないか。」
 周りの守護聖たちの間に、動揺が走る。
「ですが――。」
 エストレ星域のサクリアバランスの正常化には、すべてのサクリアが必要である。
 クラヴィスの闇のサクリアが欠ければ、効果は半減してしまうだろう。
「だが、クーリィは、まだこんなに小さいんだ。
 無理強いしては、かわいそうじゃないか。」
 風の守護聖は、しゃがみこんだクラヴィスに思いやりに満ちた眼差しを向ける。
「大丈夫だ、クーリィ。
 誰も、お前のサクリアを無理矢理もぎ取ったりできないからね。」
「いいえ、できます!」
 ジュリアスの声があたりに響き渡った。
「光の守護聖である私ならば!」
 ジュリアスは、言うが早いかクラヴィスを引きさらうように腕の中に抱え込んだ。
 彼はそのまま、幼いクラヴィスの身体に、激しく輝く純粋な光のサクリアを
 刃でえぐりとるように押し込んでいった。
 生皮を引きはがすように、クラヴィスから闇のサクリアを強引に引き出していく。
「ぎゃあああぁぁぁっ!!!」
 幼いクラヴィスは痛みに耐えかねて絶叫した。
 あざなえる縄のように渦巻く光と闇のサクリア。
 ジュリアスは渾身の力を込めて、それを、リュズギャルの胸元に叩きつけた。
 その勢いで、思わず後ろへ二、三歩よろけるリュズギャル。
 サクリアをはぎとられて身動き出来ない状態のクラヴィスと、同じくらい体力を
 消耗して荒い息をついているジュリアス。
 リュズギャルは二人に祝福するように手をかざし、対である地の守護聖トプラキに
 二言三言ささやいて、時空の扉の中に消えた。
 風の守護聖は、時空の扉の先にある惑星セミラミスからただ一人
 無人のシャトルに乗り組んで、エストレ星域のただ中へ、二度と戻らぬ旅に向かった。


 あとには八人の守護聖が残された。
 リュズギャルが向かったエストレ星域の様子を見守る六人の守護聖と、
 床の上にうずくまって火がついたように泣きじゃくっている幼いクラヴィス、
 そしてジュリアス。
 …外界の時間でどれだけが過ぎただろう。
 やがて一きわ激しい衝撃と共に、風の守護聖の気配が宇宙から消えた。
 彼の魂にふさわしい、まばゆい輝きを残して。
 歴代の風の守護聖の中でもひときわ秀でた、武人の華とうたわれた人の最期だった。
 エストレ星域の映像が、涙で潤んだように揺れる。
「『宇宙は、守護聖の涙でできている』…あなたの言った通りですね、
 リュズギャル。」
 それまで虚脱状態だった地の守護聖トプラキが、悪い夢から覚めたかのように
 手元に残されたリュズギャルの肩章に向かって、そっとささやきかけた。


 それまで床に転がっていた幼いクラヴィスは、ゆっくりと顔を上げた。
 肘をついて起き上がった彼の顔は、暗い憤怒に燃えていた。
 クラヴィスは、自分の側にまだ光の守護聖がいることに気が付くと
 肩を怒らせ仁王立ちになった。
 彼は、ジュリアスに指を突きつけ、怒りに任せてこう叫んだ。
「ジュリアスなんか大きらい! お前なんかもう友だちじゃない!」
 ジュリアスは凍り付いたように動けなかった。
(ああ、これだ。これが、クラヴィスと私の決別。)
 クラヴィスは、泣き叫びながら王立研究院を走り出ていった。
 ジュリアスは咄嗟に彼の後を追おうとしたが、夢の守護聖リューヤに止められた。
「今お前が出ていっても、話がこじれるばかりだよ。
 私が探しに行く。」
 ジュリアスは、リューヤの言葉を受け容れるしかなかった。
 足早に遠ざかっていくリューヤの足音。
 ジュリアスは、思わず顔を覆った。
「ジュール。たとえ、お前が闇の安らぎに見放されても。
 炎の強さが代わりにお前を支えるだろう。」
「アテシュ様…。」
 ジュリアスは、はっとして炎の守護聖アテシュを振り返った。
 強さを司る守護聖アテシュは、光の守護聖に尋ねた。
「何か思いあたることがあるようだな?」
「はい…。」
 炎の守護聖は、ならばいい、と言うとマントを翻し去っていった。


 その時、ジュリアスに彼方から呼びかける声がした。
(ジュリアス…ジュリアス! 戻って来い…。)
 幻聴が聞こえる、とジュリアスは自嘲の笑みを浮かべた。
 対である闇の守護聖に拒絶されたのがよほどこたえたのか。
(私の声が届かぬのか、ジュリアス…?)
 虚空にこだまする悲しげな声。
「今さら、私がどこへ帰るというのだ?」
 その時、女王セラフィンの声が彼の脳裏に響いた。
(それでも、あなたは帰らなければならないわ。)


(時空の扉が開くわ…行きなさい、ジュリアス。)
 女王の声は、雲の切れ間から差し込む光のように天上から降り注ぐ。
 他の守護聖にも女王の声が届いたらしく、みな一様に虚空を振り仰いでいる。
(あなたの果たすべき役目は終わりました。)
「セラフィン様…!」
 ジュリアスは衝撃を受けてその場に立ちつくした。
「帰れとおっしゃるのですか?
 私を待っている者など一人もいない、あの寒々とした聖地に?」
 ジュリアスは必死で訴えた。
「私…私は…!」
(運命の輪は再び回り始めます。何びとも引き留めることはできません。)
 凛とした揺るぎない女王の声音。
 私は、あなたを愛しているのに…
 女王は、ジュリアスにそう口にすることさえ許そうとしなかった。
(さあ、行きなさい。今すぐにです。)
「せめて、一目あなたにお目にかかることも許していただけないのですか、
 セラフィン様!」
 ジュリアスは、苦悩に満ちた声をあげた。
(あなたは私を覚えている。私もあなたを忘れない…。)
 セラフィンの声はわずかだが震えていた。


 その時、時空の扉の彼方から、ジュリアスに呼びかける新たな声が届いた。
(この宇宙を救うために。
 ともにこの宇宙を救う手だてを考えるために。
 この宇宙が終わる時、扉を閉ざし、
 新たな宇宙が始まる時、扉を開くという使命のために。
 我々に進むべき道を示すために。
 我々のもとへお戻り下さい、ジュリアス様。)
 朗々たる声音は、紛れもなく炎の守護聖オスカーのものだった。

(続)




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