「全てのヒトの清算を・・・・」
Divine Arf
− 神聖闘機 L−seed −
第五話 「戦闘風景」
「命ある武器、命無き武器そして、自らを武器とする人間に言う・・・・」
「全ての武器と、その戦闘の意志を捨てて欲しい。」
「君たちが捨てなければ・・・・・
俺は・・・・・・・
全ての武器を破壊する!!」
「自らを兵器としている人間もろとも!」
マナブは起動していく、眼下のArfを見下ろしながら語る。
それが無駄ではないと信じながら。
「アル・イン・ハント?」
「全ての兵器を完全に根絶する事。
そして、それを使う人間も消し去ること。
なぜなら、それは既に人間ではなく、兵器の一つだから・・・・・・」
シオン鋼製戦闘人型「Arf」
現存していたあらゆる武器の頂点を極めようとしている最高の武器。
そのエネルギーは内蔵されている電源によるものが主であるが、
実際の戦闘で使われる電力は微々たる物である。
それは何故か?
その答えは、シオンの持つ特殊性にある。
シオンは先にも述べたように、もっとも近い人間をトレースするという能力がある。
それがArf内部に人間を登場させる形になった理由でもあり、
このArfのエネルギー使用量の少なさを意味する物でもある。
人間の動きを模倣する能力は現在に至るまで完全には解析されてはいないが、
例えば温泉の源泉が何であるかを知らなくとも、その効能を享受することが出来るように、
このシオンの能力は生かされ、その利用度を増した。
結果、
完成した、歴史上、
最高の発明、
そして、
最悪の発明。
かのアインシュタインが、
彼の理論で原子力という物が生み出され、
多くの血と叫びと不幸をもたらすことになろうことを知り得なかったように、
これを発明した者は、多くの富と名声を得ながら、
自殺を遂げた・・・・・・・・・
LINK−S
リンクシステム
人の心と神の力が交わった瞬間
いや・・・・・・
神の力なのだろうか?
たぶん・・・・
そうなのだろう
リンクシステム
別名「精神力感応装置」
シオンの特殊性を最大限とも言える形で利用し、
なおかつ兵器としての完成度を高める装置。
搭乗者とArf間のギャップ、
つまり体の大きさからくる誤動作を完全になくし、
繊細な作業から、大胆な破壊までその用途は限りなく広がった。
殺人から殺戮まで・・・・・
このシステムは、シオンの人の動きに対する反応を増加させ、
決して動かなくても指先や脳波の動きによりシオンに人の動きを感じさせる。
またArfが感じた感覚を搭乗者に与える。
この装置により、
搭乗者はArf内部に広い空間を作りそこで動かなければならないと言う、
恥ずかしい行為をしなくてすむようになった。
事実、このシステムの完成までは、
下腹部が一際、大きいというかなり不格好な物であった。
(コクピットはArfの下腹部上部、女性で言う子宮部分にある。)
LINK−Sの登場により、Arfの生産ラインは安定を見せ、
そして兵士の誰もが、Arf乗りになれる可能性がでた訳である。
そして、それは全ての人間が、簡単に他人を殺戮できる可能性をもたらした物でもあった。
**********
このLINK−Sに対し、マニュアル(MT−S)という物が存在する。
何のことはない、多くの人が想像するようなレバー等でロボットを動かすもの。
Arf内に巡らされた神経にも似た配線に、電力による信号で、刺激を与え動かす。
誰もが、Arfに乗り、LINK−Sを完璧に稼働させれる訳ではない。
むしろ完璧に稼働させることが出来る者などいないに等しい。
一つのArfに長く乗り、
集中力と感覚を掴んだ者が、
戦場で舞うようにして敵を破壊できるのである。
多くの兵士が、マニュアルとリンクの両方を兼用し、その割合を調整して戦っている。
**********
Arfを稼働させ、その後兵士たちはどうなるのか?
まず、兵士たちは最低限、Arfと数パーセント自力でリンクしなければならない。
これを「CHANCE・LINK%」と呼んでいる。
これは日頃の訓練や、集中力で何とかなる数値だ。
民間人でも、いきなり稼働させる者がいることもあるぐらいな・・・・・・
それからがLINK−Sの登場である。
「CHANCE」を掴み、Arfを動かす権利を得た人々は、
α−LINK−S(アルファリンクシステム)と言う装置につながる。
これはArfを戦闘に出すのに、最低限度のリンク%を維持するための装置である。
一般の訓練しか受けていない兵士は、ここの段階にとどまり戦うことになる。
この段階では、LINK−Sは、マニュアルの補佐にしか使われておらず、
本来、Arf、シオンがもつ特殊性を生かきれてはいない。
訓練を積んだ兵士、長い間一つのArfに乗り続けた兵士は、
ある時、このα−LINK−Sの上限を越えることがある、
その瞬間、β−LINK−S(ベータリンクシステム)がαに代わり動き始める。
このシステムが動くようになれば、
兵士たちは、マニュアルと半々でリンクし、
かなりの成果を期待できる「動き」を持つことになる。
この段階でようやく、Arfの能力を期待できる。
しかも、一度β−LINK−Sに入れば、
Arfを降りるか、自らリンクを切るかしない限り、それ以下になることはない。
そして、この上にあるのがγ−LINK−S(ガンマリンクシステム)。
これはαと全く、逆と考えてもらってかまわない。
電力の消費も少なく、
長期の稼働を可能にし、
なおかつ繊細な動き、
早い動きを実現する。
この段階の入れる兵士が一人いるかいないかで、戦場は大きく変わる。
しかし・・・・・・・・
リンクの%があがることは、即ち感覚の鋭敏さという「諸刃の剣」を研ぐことになっている。
それは、
触覚に密接に関係している痛覚が、より一層大きくなっていくのである。
優秀であればあるほど、
リンク%が高ければ高いほど、
そのダメージのフィードバックは大きく、兵士の死を招いた。
Arfのダメージは、LINK−Sを通り、パイロットの心に入り、後に肉体に到達する。
現在、機体に重大なダメージを負った時、
パイロット保護のためにリンクを一瞬で切る「KILL・スイッチ」、
パイロットの機体外に脱出させる装置等の装備がなされているが、
兵士の犠牲は決して少なくはなかった。
そして、それは優秀な兵士ほど死ぬ確率が高かった。
まるで北欧神話に出てくるヴァルキリー。
勇敢な兵士であれば、連れ去られてしまう・・・・・・
主神オーディンの住まう宮殿「ヴァルハラ」に。
そして、
そこは死の都。
**********
心は体と密接なつながりを持つ。
一つの例を出そう。
ある精神的な病の患者に、催眠療法を施した。
過去にさかのぼっていく際に、
その催眠は患者本人も忘れていたような幼い頃の事故をたどり着いた。
そして、催眠を解くと、患者の肌に完治したはずの傷の跡がくっきりと浮かび上がったのである。
ミミズ腫れになったようなまさしく傷の名残のような物が。
精神、つまりは心、それは肉体と密接に関係し合う。
体の痛みが後に、精神の傷となり、長くトラウマとして人間を苦しめるように、
心の痛みが体に具現化することもあるのである。
そこにもう一つのつながりを持っている者。
LINK−Sという装置によって繋げられた者。
それがArf乗りである。
戦場という、もっとも自分の生と死を感じられる場所において
Arfという武器と、
自分の心と体を繋げてしまった。
それがArf乗り。
自らを武器に変えてしまった人間。
いや、
その存在は
既に
武器そのもの
「何を言っているんだ?あの野郎!!」
「早くArfを起動させろ!ぶっつぶしてやる!!」
血気盛んな若い兵士達が次々にCHANCE・LINKを突破していく。
立ち上がるWachstum達、
その数はおよそ18体。
いくら量産型と言っても、これだけのArfを持てると言うことはかなりの資金力があるグループである。
それぞれが、レーザーガン、レーザーソードを持ち、
空中戦用のブースターに火を入れる。
戦闘のリーダーと思われる、すこし年輩の兵士が、情報収集担当の兵士に説明を求める。
「相手は一体か?他に反応は?」
しかし、相手の反応は彼の思惑よりもかなり遠いところにある答えだった。
「ありません、しかし、あのArfの存在も計器には出ません!!」
「たった一体で・・・?どういうことだ?!」
彼は困惑した。
一体と言うだけでも、かなり馬鹿げた話だが、
それ以前に、その一体さえにも索敵計器は反応を示していないのだ。
それは彼の乗るArfの計器も同様だった。
「おそらく何らかの妨害装置を使っていると思われます!!」
うわずった声で自分の限界の答えを言う。
「それはわかっている!!・・・・・・熱センサーも感知しないのか・・・・」
苛立ったようにリーダーは答えると、1人呟いた。
背中にべっとりと嫌な物が張り付く。
見えているのに・・・・・・・・
見えない・・・・・・・・・・・・・
「人か?」
その言葉は疑問形。
激しく彼は頭を振った、自分の中に芽生えた非現実的な思いを無くすために。
「全員、目視に切り替えろ!!索敵機能は役に立たないぞ!!」
そう命じると彼は戦闘に向かった。
圧倒的に、死の予感がする戦場へ。
フュウ!!
「ウワァ!」
ガガーーーーーーン!!!!!!
L−seedは、振るった!!
濡れるような紅い剣を、燃えるようなガラのそれは敵を全て切り尽くした。
通常のレーザーソードとは違い、熱で溶かし切るのではなく、
スピードと力でまさに「切る」というモノ。
シオン綱で出来たArfの装甲を熱を使わずに切断すると言う行為。
これだけで、普通のArfではない。
剣の材質が違うのか?それともパイロットが並じゃないのか?
青白く、時に紅く光る拳は容易に、Arf達の装甲を貫く。
目視に切り替えようが、何をしようが、全て無駄。
このArfの前では全てが無駄だった。
所詮は相手は量産型のArf「Wachstum」、
そう言ってしまえばL−seedの実力を過小評価することもできるだろう。
だが、そんなことが今、何になろう?
そのWachstumに乗っている彼ら、
この死にゆく彼らに、慰めになるだろうか?
L−seedは、彼らにとって強すぎた。
それこそ、神と人との戦いのように、歴然として・・・・・・
**********
「くそう!!」
ガキン!!
レーザーソードがL−seedにヒットする。
右横からの攻撃で、レーザーソードはL−seedの肩のパッドのようなところに当たる。
恐竜の物のような、巨大な爪が張り付いている肩のパッドは小気味のいい音を発した。
それは自分の味方が、幾人も犠牲になりながら、ようやくたどり着いた結果だった。
はっきり言うならば、彼の奇跡はこれ。
この一瞬。
L−seedにレーザーソードを当てれたという快挙!!
しかもWachstumで。
「やった!!」
まだ若い兵士は素直に喜んだ。
それが例え何らのダメージをL−seedに与えていないとしても。
L−seedの剣の先にはArfがぶら下がっている。
だらんと力を失い、垂れ下がる手が中のパイロットの生存を否定しているように見えた。
そのまま、ぐいっとL−seedの顔が横を向く、
Arfの目を通して、彼にはL−seedの顔がはっきりと見えた。
L−seedの奥の瞳が、ゆっくりと動く、
人間と同じように。
何故だろう?
ただのArfの顔のはずなのに・・・・・
それは泣きそうなほど、悲しそう・・・・・・
一瞬の静寂
「何故!!自分を兵器に変えるんだ!!!!!」
そんな声が、彼のコクピットに響いた。
その意味を理解できず、彼は自分の前のモニターが迫ってくる様子を見るしかなかった。
モニターの後ろには青白く光る何か。
みしみしと音がして、壁が彼に迫った。
無造作に、右腕を払ったのだ。
そして、それは的確に彼のコクピットにヒットしていた。
吹き飛ぶ・・・・奇跡を起こした兵士は吹き飛んだ。
自らの命を兵器とした彼は・・・・・・・破壊された。
**********
「何と言うことだ・・・・」
リーダー呟いた。
彼らのグループが誇るArf達は、
彼の目の前で何の成果も上げられずにシオン鉱石の固まりとなっていく。
彼の放つレーザーガンは、目の前の敵にはなんのダメージも無い。
「救援を求む!!強力な敵に遭遇し、部隊は壊滅状態!!」
あれだけの動きを見せて、LINK%も高いはずのArf乗り。
攻撃を受ければ、少なくとも中にいる者もダメージを受けているはずだ。
そんな甘い願いをうち砕くようにして、青白く光るArfはゆっくりと背から、レーザーガンを出した。
その動きに、中のパイロットの痛みは感じられない。
ヅギューーーーーン!!!
発射された光に、思わずリーダーは目をつむった。
今までの戦場ではそんなことは決してしなかったのに、
今は、ただ恐怖だけが彼を覆っていたのだ。
しかし、いつまで経っても衝撃は来ない。
それもそのはずだ、光の軌跡は大きく彼をはずれて飛んでいく。
ヅギューーーーーン!!!
二撃目も若干彼に寄ったが、当たらない。
リーダーは逃げもせずにそれを見ていた。
逃げても無駄と言うことはわかっている。
彼の中には、疑問だけ。
何故あれほどの動きを出来るのに、当てないのか?
ヅギューーーーーン!!!
そんな考えも、三撃目で終わる。
彼の胴体部を光が通り抜けた。
リーダーは最後に思った。
当てないんじゃない、当たらなかったんだ、と。
あのArf乗りは決して兵士ではないと・・・・・
何となく、彼は答えがわかった気がして、気持ちが良かった。
「はぁ、はぁ、はぁ・・・・・」
コクピットの中で、息を荒くして俯くマナブ。
手にはグッショリと汗をかき、何度も球体の中のレバーを握りなおす。
彼の外、つまりはL−seedの外には、累々とArfの屍が倒れている。
その中には、戦闘を知った「φ」のWachstumも何体か見える。
ただ、動くものは何一つ無い。
「大丈夫ですか?マナブ様。」
横のモニターから、サライが話しかける。
その目は、不思議と感情が見えない。
「ああ・・・・」
マナブはそう呟いただけ。
またあの嫌な後味を感じていた。
「全ての兵器は破壊されました。お戻り下さい。」
「ああ、わかったよ、サライ。」
からみついてくる何かを振り切るようにして答えた。
**********
「如何でしたか?Prof.ヨハネ。」
回線を切ると、サライは横のヨハネに感想を聞いた。
「ううむ、レヴァンティーンは発症の前じゃからのぉ、本来の力は発揮できん。」
マナブの発進前とはうって変わり、明らかに渋めの顔をしている。
モニターには、先ほどの戦闘の様子をが流されている。
左手で剣を持ち、右手で相手を殴っている。
「デッド・オア・アライヴに至っては、使ってもおらん。困ったもんじゃな。」
ヨハネは、L−seedの背に付けられたままの長い棒を指して言う。
マナブの戦いは、明らかに力任せだった。
攻撃は受ける一方、防御は考えず、ただ突き進むのみ。
L−seedのスマートな外見からは、およそ想像が難しい汚い戦い方。
レーザーガンを使った攻撃などは、その典型。
「確かにそうですね・・・・・でも、いずれは・・・・」
サライは言いかけて止める。
そして、その意味を知るヨハネも次を期待するしかなかった。
「そうじゃなぁ、いずれじゃな・・・・」
当主と呼ばれた男、同様・・・・・・
彼らにとっても、この戦闘の成功は当然。
喜ぶのは、まだ先・・・・・・
いや、
この先に喜びなど・・・・・・・・・・・あるのだろうか?
豪奢な造りの部屋に男が1人たたずむ。
部屋の片隅に、ビリヤード台がある。
その横には、木製のボードが置いてあり、数字が書き込まれている。
ぼぅっと窓の外を見ているその蒼い瞳には、何も見えていない。
コンコン!!
「開いている。」
静かだが、よく通る声で返事をする。
「失礼します。」
丁寧な物腰で、1人の男性が入ってくる。
φの軍服を来た彼の襟章は三佐。
彼が立ち止まると同時に、窓を見ていた男は振り返る。
「聞いたか?ルインズ三佐。」
「はい。蒼と白の天使・・・・ですか?」
「私は、逆十字を背負う悪魔と聞いたがな。」
「L−seedと言う名前が報告されています・・・・・」
レルネは静かに言う。
金色の髪を太陽に反射させながら、ゆっくりと男は振り返った。
「そうか・・・エルシード・・・・・・・戦闘跡地の様子はどうだった?」
レルネは一瞬考えるとこう言った。
「理由になれるArかもしれません。」
「そうか・・・・・」
ルシターンは、レルネの言った意味を理解したのだろう。
顔の表情を、少しも変えずに、レルネの目を見て言う。
「頼めるか?ルインズ。」
「わかりました。」
レルネはそう言うと、きびすを返してドアに向かう。
その背に、声はかけられた。
部下ではなく、友人に。
「レルネ、ゲームの続きは何時にする?」
二人の目線の先は、ビリヤード台に向けられていた。
何処とも知れない部屋の一室。
明かりは天井に青く輝く地球。
二人の男が対峙していた。
1人は青みがかった長髪の男。
その表情は、普段でも見せないほど、厳しい顔。
いつもの瞳の鋭さに加え、苦悩の色が濃い。
イスにゆったりと腰をかける男は、心を感じさせないような声音で言った。
顔は影になり、よくは見えない。
「リヴァイ・・・・「アーク」の発動の時期だな。」
その声に、リヴァイはピクリと体を動かす。
「WA(ダブルエース)はまだ一体、完成していない。」
ゆっくりと否定の言葉を紡ぐ。
「あれは宇宙戦用。別に完成を待つ必要はない。」
「しかし、まだ早いのでは?」
「リヴァイ・・・・君は見なかったのか?あの機体を。」
「蒼と白の・・・ですか?」
「そうだ、あれは地球産でありながら、
おそらくは・・・・地球の、いや衛星も月も、その全てに対して脅威になる存在だ。
男は天井の地球を見ながら言う。
「そして、それは我々の計画の脅威ともなり得る。」
「そうだろうか?私たちの造ったあのWAを凌ぐ、Arfとは思えないが。」
蒼い髪の男、リヴァイはその瞳をいささかも変化させずに言った。
「そうだな・・・・今は。」
それはこの男も同様だった。
「今は?何か知っているのか?」
「いや・・・あれが「Arf」なら問題はない。」
「Arfだろう?」
リヴァイは当然の疑問を投げかけた。
「今は・・・・そう見えるな。」
「また、「今は」か?何を知っている?!
あれがArfでは無いというならなんだ?」
「・・・・・・・・」
「シオンじゃないという事か?」
「・・・・・・・」
全く、要領の得ない男の言葉に、若干苛立ちを持つリヴァイ。
「どちらにせよ、ルイータが見つかってからと言う約束のはずだ。」
ルイータ、その名前を出したときだけ、
彼の表情が痛みを帯びたのは気のせいではないだろう。
「・・・・・・・・・」
「それだけは譲れない。」
確固たる意志で、目の前にいる男に言い放つ。
その目、その顔には、憎悪とも悲しみとも取れるものが浮かび上がる。
「・・・・・・・・」
「・・・・・・・・」
二人に沈黙が流れ、部屋に夜が訪れたようだ。
天井からの光は何ら変わらないのに。
「わかった、約束は守ろう。ルイータの発見までは、「アーク」の発動は待つ。」
あまり抑揚を感じさせない声で男は言った。
「・・・・・・」
ゆっくりと頷くリヴァイ。
「ただし、あの機体が私の思うモノだったときは・・・・・
「アーク」の発動を早めさせてもらう。」
今度は、男の目がきつく、光る。
何かを心の中で押し殺したような声。
「思うモノとはなんだ?」
「君も見れば分かる。
だが私としても、思うモノではないことを祈りたい。」
「あなたから「祈る」と言う言葉が出るとは思わなかった。」
その言葉には少しの皮肉も混じらない。
本当に、そう思っている言葉だった。
「そうだな・・・・叶えるモノがいないのに、祈りは不要だ。」
男の言葉もまた、本当に思っている言葉に見えた。
**********
リヴァイが立ち去り、部屋に再び静かなときが訪れる。
イスの男は微動だにもしない。
「ロキ様。」
ふと部屋に声が響く。
大人の女性の声。
それは声からもわかるほど、艶やかな響きがあった。
部屋の影から、地球の明かりに照らされている部分に出てくる。
コツコツ
まず真っ赤なハイヒール、続いて黒いストッキングに包まれた脚が現れる。
続いて上半身が出てくる。
その姿は、妖艶とも取れる程に美しい、そして艶めかしい。
モデルと言われても、確かに納得できるプロポーションを持ちながらも、
その姿は、どんな男も反応を示してしまいそうになるような肉感的な魅力を備えていた。
顔もまた、同様にして美しい。
魔性の女
そう表現するのが一番適当かも知れない。
紅いルージュに、紅いスーツ、紅いミニスカート。
彼女がいるそこだけが、まるで炎が燃えているようだ。
「フレイヤ、聞いていたな?」
「はい。
デイジーの準備も出来ています。」
その声を聞き、男は何を意味するのか?
「始まりだ。」
フレイヤは、妖艶な微笑を浮かべる。
「全てはここから始まり、ロキ様の御手で終わりましょう。」
「・・・・・・・・行け。」
「わかりました。
ルイータ捜索の件も見当が付きました。」
「わかった。」
二人の会話はそこで終わる。
地球が青く輝き、二人を照らす。
二人の金色の髪がキラキラ光る。
フレイヤは、ゆっくりロキと呼んだ男に近づくと、その唇に唇を重ねた。
男はまるで何も無いように、反応を示さない。
それが当然なのか、
フレイヤは動揺もせずに自らの服のボタンを取っていった。
娼婦のように、艶めかしく・・・・・・
悦びに溢れた表情で・・・・・
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