砥峰高原L(800m)  神河町   25000図=「長谷」


初夏の木道から見る動植物

 砥峰高原は、「県下有数のススキ原が広がる雄大な高原。高原内には各所に湿地が見られる。ススキ草原の 維持のため春に山焼きを行っており、春から夏、秋のススキまでの季節変化も楽しめる。」として、兵庫県レッドリスト自然景観のAランクに指定されています。
 草原と湿原に生きる貴重な生物を保護するために、歩道以外には立ち入らないで下さい。また、生物の採集を行わないでください。


砥峰高原の木道を歩く

 緑のススキが一面に広がる初夏の砥峰高原。ススキ草原の中には、小さな湿原が点在している。高原の木道を歩き、草原や湿原に生きる植物や動物を観察した。

 とのみね自然交流館を出て、草原内の木道に入った。道路から木道に入ったところには、ネジバナやニガナ、カタバミなど、里に咲く花が入りこんでいる。キツネノボタンの黄色い花びらがつややかに光っていた。

 木道に沿って密生しているのは、イワヒメワラビ。軸に毛が多いシダで、これはシカが食べない(不嗜好性植物)。シカはススキも食べないので、ススキ草原は森林よりシカの採食の影響を受けにくいが、それでもシカによって多くの植物が数を減らしている。
 シダ植物では他に、ゼンマイ、ワラビ、シシガシラなど。ワラビには、シカの食べた跡がはっきり残っているものがあった。

 背のやや高いミズオトギリの葉は、よく目立った。夏の終わりには、薄いピンク色の花を咲かせる。
 草原で鮮やかだったのはウツボグサの紫の花と、ノアザミの濃いピンクの花。ノアザミは、花の下(総苞片)を指で触れると粘ついていることがわかる。不思議なことに、花を離したあとは、その粘りが指にまったく残らなかった。

ウツボグサ ノアザミ

  木道を歩くと、足元から小さなバッタが音を立てて逃げていく。ツマグロバッタやコバネイナゴ。前へ前へと少しずつ逃げるものだから、しばらくその群れを追いかけることになった。

ツマグロバッタ  コバネイナゴ

 トンボやチョウも飛んでいた。トンボでは、シオカラトンボが圧倒的に多い。
 食べると塩辛いからシオカラトンボ!と言った人がいるようだが、それはちがうみたい。シオカラトンボの名前の由来は、オスが成熟すると胸や腹に青白い粉を帯びるが、それが塩をふったように見えることによる。
 この粉は紫外線を反射することが最近の研究でわかってきた。シオカラトンボは、人よりもずっと早くからUVカットを体に塗っているのだ。

シオカラトンボ♂

 モンキチョウが、ひらひらと飛んでいた。
 コキマダラセセリやウラギンヒョウモンが、ノアザミに止まって蜜を吸っていた。どちらも、初夏から夏の草原に多くて花のとても好きなチョウである。

コキマダラセセリ ウラギンヒョウモン♂

 木道の幅は、人一人が歩くのが精一杯。人とすれちがうために、ところどころが広くなっている。ススキの葉は大きく伸びている。背丈ほどの高さにもなったところがあった。
 アブラガヤはさらに背が高く、ススキの上に頭を出していた。ヤマアワが、ぼやっとした穂をつけていた。ヒゴクサやイグサが、足元低く生えている。チダケサシの花の薄ピンク色が、ススキの緑の中に見えた。
 木道の脇に、小さな池がある。水たまりと言ってもいいようないいような小さな池だが、水の枯れることはない。
 このほとりのススキの根元に、大きな白い泡のかたまりがあった。ふわふわのシュレーゲルアオガエルの卵塊。シュレーゲルアオガエルは、兵庫県レッドリストCランクに選定されている。

シュレーゲルアオガエルの卵塊

 ノハナショウブが、ところどころにポツンポツンと咲いていた。砥峰高原のシンボル。かつてのような群落はもう無くなってしまったが、毎年花を咲かせている。花期が終わろうとしているこの時期に見られたのがうれしかった。

ノハナショウブ

 道を渡って、木道をそのまま進んだ。水音が聞こえてきて、小川に出会った。ここで、砥峰高原をつくっている岩石を見ることができる。
 小川に転がっている石はすべて花崗岩(花崗閃緑岩)。これは、ここより上の流域はすべて花崗岩でできていて、他の岩石が分布していないことを示している。
 石の表面は、酸化鉄によってどれも茶色っぽい。7,8年前にハンマーで割った石がそのまま残っていて、その割れ口だけが砥峰高原の花崗岩のつくりを見せていた。
 砥峰高原の花崗岩には、磁鉄鉱がふくまれている。花崗岩が風化して真砂(まさ)になると、そこから磁鉄鉱が砂鉄として採れる。この砂鉄からたたら製鉄によって、鉄がつくられた。
 砥峰高原に残るいくつもの不自然な形の小丘は、真砂を掻き出したあとに残された花崗岩の硬い部分だと考えられる。

 水の流れのゆるくなったところでは、アメンボが泳いでいた。行ったり来たりをくり返し、ときには猛烈なスピードで石の間を抜けていく。アメンボの動きは見飽きない。
 小川の上では、流れに沿って涼しい風が吹き抜けていた。

高原を流れる小川 花崗岩(花崗閃緑岩)

 高原には、観光客がちらほらと見えた。木道の木陰になったところに、一組のご夫婦が座っている。なかなかいい感じ・・・。地元のガイドさんが、数人のツアー客を案内している。ツアー客の胸から上だけが、ススキの上を移動していた。

 木道に沿って、クサリが張られていた。クサリの中は、湿原性の植物が保護されている。茶色のオオミズゴケが地面をおおっている。その中に、小さな白い点がいくつか見えた。双眼鏡を取り出して木道からそれらを見ると、モウセンゴケの白い花のつぼみだった。

草原のツアー客 湿原のオオミズゴケ

 水の音がまた大きくなった。木道の近くを水が流れているが、ススキにかくされて見えない。再び小川を渡ると、高原真ん中の広い道に出た。
 この道を下った。池にさしかかったところで、道を右に折れた。敷かれた石がゴロゴロ飛び出した荒れた感じのする道。この道の先にも、小さな湿原がひとつある。その湿原に向かった。

 道端に、ノギランが咲いている。アリノトウグサやコケオトギリが道の石の間に葉を広げている。これらの植物も、もうすぐそれぞれの花をつける。
 近くでススキが大きな音を立てて揺れた。一頭のシカがそこから飛び出して、少し向こうでこちらを見て止まった。ゆっくりカメラをとり出してシカに向けようとすると、そこから飛ぶように逃げて行った。

 今年も、この湿原にモウセンゴケが見られた。葉の先から粘液を出して虫をとらえる食虫植物。小さな白い花は、おどろくほど可憐。ほとんどがまだつぼみだったが、一つ二つ花が開き始めていた。
 この湿原では盛夏になると、シロイヌノヒゲやムラサキミミカキグサが咲く。ハッチョウトンボも見られたことがあった。
 道の敷石が入りこんだ荒れた湿原だが、わずかな湧水がずっと続いていて、なんとか湿原の環境が保たれていた。

 モウセンゴケ(葉と花のつぼみ) モウセンゴケの花(2014.8.11撮影)

 池に戻った。池の上を何匹ものシオカラトンボが飛んでいた。オスは、青白い粉をふいている。メスは、麦わら色。
 脚まで真っ赤なショウジョウトンボが、枝先から飛び立った。しばらく池の上を飛んだかと思うと、また同じ枝先に止まって休んだ。

シオカラトンボ♂ ショウジョウトンボ♂

 池の近くに、花の白いウツボグサが一つ咲いていた。シロバナウツボグサ・・・、初めて見た。

 砥峰高原を歩き始めて、2時間以上たっていた。もうそこが、自然交流館。空を見上げると、むくむくと発達した積雲がゆっくりと動いている。 カッコウの声が、ずっと高原に響いていた。

シロバナウツボグサ

 ところで今回、思わぬところでカキランとミズチドリが見られた。二つとも絶滅危惧種で、兵庫県レッドリストでは、ミズチドリはBランク、カキランはCランクに選定されている。

ミズチドリ カキラン

 
山行日:2022年7月11日


砥峰高原木道入り口〜木道〜中央の広い道
 とのみね自然交流館の向かって左側、ヤマナシの木の先にある入り口から、高原内の木道に入る。木道を散策し、高原中央の広い道を下った。

山頂の岩石  後期白亜紀 川上花崗岩
 砥峰高原や峰山高原の岩石の説明については、岩石地質探訪「砥峰高原の地質と地形」や、登山記録「銀の波揺れる砥峰高原から縦走路を峰山高原へ」をご覧下さい。

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