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ケルト神話&伝説覚書


かつてケルト人はゲルマン人の「移動」以前にヨーロッパ大半島を支配していた民族であり、遠くブルガリアからスペインまでを文化の範囲として、ブリタニアでは先住の巨石建造民?や、ピクト人などを従えて権力を集中させる「悪しき」術を知らず、ヨーロッパ本土ではラ・テーヌやハルシュタットなどに大きな文明地をつくり、時間の潮流に敗退するまでは文化的にも高度なものを保っていた。

大陸のケルト神話は、ほぼ全てが散逸,又は破棄されていてユリウス・カエサル「ガリア戦記」やタキトゥス「アグリコラ」などの遺した「外国人の目」から見た構造及び、遺物しか残っていない。その事にはドルイド教が口承に頼り、文字による記録を禁忌にした事にも多くを負う。
ゆえに今日、ケルトの伝承と言えば、唯一大陸の「帝国主義者」ラテン人やゲルマン人の文化破壊を逃れたアイルランドの神話体系(聖パトリックは比較的異教文化の保存には寛容だった。)や、イングランド、スコットランドの、後代の異民族文化侵入により、変質した伝説群を指す事が多い。勿論、彼等の体系と消滅した大陸ケルトの神話にある程度の共有性が存在した事は別民族の神話に比べれば間違いないが、相違点も純然として存在した事を忘れるべきでない。(アイルランド人は、南方の陸地(スペイン?)から来寇したとされており、またブリテイン本土とアイルランドの間の交流、対立は決して単純なものではなかった。)

幻想的なアイルランドの神話は三系統に分けられ、おのおのが物語の筋の上で連続しているとみなす事ができる。しかし、各々の題材が後代のアーサーの時代における伝説に流用されたり、或はその逆に遥か以前の事件の装飾に利用されたりする事は神話伝説の常であり、敢えて統一を試みる文学者も少なく、ケルト神話の地方性が傾向に拍車をかける。

1・アイルランド・ミレ族侵入以前、トゥアハ・デ・ダナンとフィルボルグ族、フォモール神族の戦い。ダグダ、ヌアダ、ブレス、ルーグの統治。(モイトゥラMoy Tura、もしくはマー・トゥーラMag Tuireadhの戦い)スペイン?からのミレ族によるアイルランド征服とティル・ナ・ヌグ(12世紀に完成した「侵攻の書」(リャウール・ガヴォーラ・エイラン)による。後にグレゴリー夫人が児童文学?で紹介した)
2・アルスター王コンホヴォル・マッシニッサの統治時代。ク・フーリン率いる赤枝騎士団の功業、コノート王アリルとメイヴの仕掛けるクーリーの牛争い(トィン・ボー・クールニエ)
3・地方?のフィン王が率いるフィアナ騎士団の功業
但し、フィン王は「オシアン」(18世紀にスコットランド人マクファーソンMacpherson
が創作して偽った?)ではスコットランドのフィンガル王として古代神話における「豊穣の聖王」の役割を捨て、騎士的な勇者としてのペルソナを得ている。(後代の騎士道文学では、アーサー王がこの役割をフィンに代わって受けている)

この他にもスコットランドの「ミダス」であるコール老王の伝説群や、言わずと知れたアーサー王と円卓騎士団の伝説(ウェールズのマビノギオンMabinogion(四分枝篇)にその刻印は叙実に表れている)、コーンウォールのリオネス伝説やブルターニュ(小ブリテイン)のイス伝説など、ケルト的な過剰な幻想的装飾や輪廻思想を施された伝説は数多く存在する。この潮流はイングランドの征服時代にも底流に歴然として存在していた。

 アーサー王伝説とケルト神話の関係。聖杯伝説や騎士道物語、神秘主義や登場人物の類似(フィンとアーサー王、ディルムッドとトリスタン)などは挙げると切りがないが、本質的には、キリスト教と異郷文化の克服し難い相違点を、どのように打開していくかを考えるのは、現代において物質文明とキリスト教の伝統の協和(もしくは妥協)を提唱するのと同じようなものであっただろう。

ケルト神話紹介とロマン神秘主義
ケルト神話がクローズアップされるのは、古代異教復興運動の対象がギリシア・ローマ文明以外の何者でもなかった時期を過ぎて、理性の時代から憧憬の時代への過渡期に行われた。「オシアン」は(ゲーテの「ウェルテル」末節などに取り上げられている通り)、同時代人に諸手を上げて受け入れられたし、ナポレオン時代の反動による民族主義も各国の神話伝説復興に大いに貢献した。

アイルランドの本格的な復興はオリエンタリズムと共に進み、神秘主義はアイルランド民族意識の興隆と同時期に現れて、ブラヴァッキー主導による「黄金の曙団」の運動に賛同したW・B・イェイツの他に、ケルト的な作風をしたマッケン、ダンセイニ卿、フィオナ・マクラウド(ウィリアム・シャープ)、グレゴリー夫人などに支えられて興隆した。


重要なケルト神話入門

総論:
アーサー伝説とケルト伝説(日本語): 
http://www.chitanet.or.jp/users/10010382/Index.html-ssi
Celtic Magick and Deities「ケルトの魔術と神々」: http://www.darkcastle.net/COTAW/celtic.htm
Celtic Mythological Characters:
http://www.cybercomm.net/~grandpa/celtic.html

アイルランド:(侵略の書、クーリーの牛争い、フィアナ騎士団)
Complete Cattle Raid of Cooley「クーリーの牛争い(完全版)」:http://vassun.vassar.edu/~sttaylor/Cooley/
クーリーの牛争いと王の猟犬:http://members.aol.com/carrickman/cuchulainn1.html
イェイツWilliam Butler Yeats: Fairy and Folk Tales of Ireland「アイルランドの妖精物語と民話」 &グレゴリー夫人Lady Gregory: Cu-Chulainn Muirthemne 「ミュアサム原のク・フーリン」& Gods and Fighting Man「神々と武人」
http://www.harbour.sfu.ca/~hayward/van/glossary/cuchulainn.html
ジム・フィッツパトリックJim Fitzpatrick: Silver Arms「銀の腕」 & Erynn Saga「エリンの島のサガ」:http://www.jimfitzpatrick.ie/

スコットランド:(オシアン)
オシアンのリンク集:
http://titan.iwu.edu/~jfriedma/ossian.htm
スコットランドの民話と伝説:http://www.tartans.com/legend.html

ウェールズ:(マビノギオン)
Mabinogionマビノギオン:http://www.crosslink.net/~rhiannon/mabinogi.html

コーンウォル&ブルターニュ半島:(沈んだ都リオネス&イスの伝説)

コーンウォル伝説:http://www.gandolf.com/cornwall/index.shtml

参考文献
虚空の神々
ケルト神話
ケルト神話の神々


イメージ
オリヴァー・シェパードOliver Shepherd: 1864-1941彫刻家 ダブリン中央郵便局、ク・フーリン現代彫刻
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