** お年寄りメニューのコツ **









お年寄りのいらっしゃるご家庭向けに、 お年寄りに食べやすい調理のコツをご紹介してみます。



ここでいう「お年寄り」は、単なる高齢の方ではなく、 固い物がかめなくなったり、若い世代と同じ料理では食べにくかったりする お年寄りのことです。 他の世代と同じ物が食べられる場合は、 このような注意は特に必要ありません。(というか、 別扱いよりも、同じメニューを家族みんなと食べる方が、 年をとった方にはうんと嬉しいかもしれない)

・・・で、注意点は下記の通りなのですが、ご本人の「好物」は すべて例外です。
お年寄りはその年齢に応じた体験の量だけ、 個性や趣味の差があるので、若い世代よりもうんと個人差がハッキリ出ます。
ここに書いてあることより、ご本人の個性や好みを大事にしてください。






<年を取ると食べにくくなるもの>
私の尊敬する料理人の湯木貞一さん(吉兆亭の初代のご主人)が、
「最近年をとり固いものが食べにくくなりましたが、 イカの刺身など息子が隠し包丁を入れておいてくれるので、 おいしくいただけます」 と書かれてるのを見て、
「味に厳しいこの人でも、若い頃と同じ物がずっと食べ続けられる訳ではないんだ!」
と、すごく驚いたことがあります。 まして一般人をや(こらこら)


年をとってくると、食べにくくなるものがいくつかあるようです。
* 酸っぱいもの  * 固いもの * 熱いもの *つかみにくいもの  *辛いもの
などは、特にそういう事が多いみたいです。

ご本人は食べにくいと気がつくことが少なくて、「なんとなく嫌いになったな」  と思ってたり、単に 「食べたくない」 と残したり手をつけなかったり なんていう事が多いみたいです。
体の具合は悪くなさそうなのに、こういう種類のメニューが残るようになったら、 加齢で食べにくくなったのかなと考えて、 ちょっと手間を加えてあげるといいかもしれません。


* 酸っぱいもの >> 酢の匂いでむせやすくなったり、 気管と食道の開閉機能が落ちてきて、気管に吸い込みやすくなります。  きつい酢の刺激が苦手になる場合もあります。
ご本人の好物だという場合をのぞいては、酢をだしで割って刺激を少なくしたり、 酢の物のメニューを和え物に変えるとかすればOK。

* 固いもの >> 顎の筋肉が弱ってくると、ものを噛む力が弱くなります。
食べるのにちょっと努力が必要になるので、好物ならどんな固いものでも 食べられるのに、ふつうのものは食べにくい・・・というような事になります。
特に食べにくいものは、生野菜やごぼう、れんこん、タケノコ、こんにゃく、 トロトロになっていないワカメなどの繊維質の多い野菜類、イカとか 赤身の肉、貝類の身などです。

固い物は 「繊維に垂直に切って噛みやすくする」 「カチカチに固まるまで 火を通さないで柔らかい段階で止める」 「軟らかく煮る(圧力鍋は 非常に役に立ちます。ごぼうやれんこんなども普通に煮るとずっと固いままですが、 圧力鍋だとほろりと崩れる程度に煮る子とができます)」 「小さく切る」  なんていう方法があります。

なお、顎が弱るということは、噛む回数もへります。 あんまり噛まずに 飲み込んだりするので、繊維のある物(野菜、特にネギなど)は 短いサイズに切るとか、小振りに切ると食べやすいみたいです。
ただ、あまり小さく切ると、今度は箸にひっかからなくて食べにくいので、 箸で扱える程度に・・・ 糸こんにゃくなど長いものは、2センチくらいに 切っておくと、腸の中でダンゴになって腸閉塞を起こすという事故も防げます。

消化力も若い頃ほどではないので、消化の悪いもの(こんにゃくや タケノコなど)は、あまり多くしない方がいいと思います。 (消化の悪いものをたくさんとると、消化不良になって下痢の元になって 大変です)


* 熱いもの >> 反射神経が落ちてくると、熱いものを食べるのが ちょっと難しくなってきます。
熱いうどんを吹いてさますのにも肺活量がいるし、 火傷しないように口に運んだり、熱くないようにうまく噛んだりするにも、 機敏な反射神経や判断力がいります。

固いものと違って、「熱くて食べられない」 という訴えはあまりないので、 なんとなく食べなかったり、冷えてから食べてたり、 冷たい物だけ食べてるとかの場合は、「もしかして熱いと食べにくいのかも?」  と考えてみてください。

特に食べるのが難しいのは、できたて熱々のうどん(すすらなければならない) とか、熱々の茶碗蒸し(トロトロでなかなか冷めなくて熱い)です。  鍋物はちょっとマシですけど、やはり熱めかも・・・

少しぬるくなってから出せばすべてOKですが、うどんなど 「冷めるまで 待ってたら、のびてしまっておいしくない」 ものの場合は、 味付けしたダシだけを少し別の器に冷やしておき、 ふつうにうどんを作って熱いダシと器に入れてから、 先に冷ましてあった冷たいダシを器の中へ足します。
一瞬にして温度が下がりますので、「このくらいなら食べられそうだ」  と思う程度まで、冷えたダシを追加していって温度を下げると、 そんなに熱くないし、のびてまずくなるまで待たなくてすみます。


* つかみにくいもの >> 年を取ると、指先の器用さや、 箸で割りほぐしたりつかんだりする力が落ちてきます。  食べ物を箸でつかまずに、くちを寄せてかき込むような食べ方になっていたら、 箸が使いにくくなっていると思ってください。
すべりやすいもの、小さくて取りにくいもの、重い物や大きい物、 長いものなどが特に扱いにくいようです。  冷蔵庫で冷えていた煮魚 も、場合によっては 「身が固く、骨にくっついて離れない」  場合があって、これもかなり食べにくそうです。

ヌルヌルして箸ではさみにくいもの(煮豆など)はスプーンをつける、  細かく刻んだ野菜類などは溶き卵でまとめて具を扱いやすくしたり、 汁物の場合は卵とじの他に、乾燥岩のりをほんの少し入れると わりと具がからまって、しかも固くならないのでラクです。

また、ヌルヌルしたものは噛みにくいのでちょっと苦手、という人がいます。 (ナットウやおろし山芋やオクラ、モロヘイヤなど)  ダシで割ってヌルヌルを薄くするとか、 他の物と混ぜて粘度を落とすと、少しマシな場合があります。

入れ歯の場合 >> 入れ歯の間にものが挟まってしまって、噛むと痛いので 好きでなくなる・・・という場合があります。 おせんべいが代表的なものですが、いりゴマの粒々はかなりの難物です。
ゴマ自体は香りが良くて、和え物などでもわりと好まれることが多いので、 少し指でつぶすとか、あたりゴマにすれば痛くないし、おいしく食べられてナイス!

大変に危険なもの >> お餅は好きな人が多いのですが、 のどにひっかかった場合にかなりキケンがあります。  特に、飲み込む機能が衰えてきてたり、気管に詰まりやすくなってたりも しますから、時々事故があります。
かといって、好きなモノを食べるなというのも楽しくないですから、 念のために、お茶などを飲んでノドを湿してから少しずつ食べてもらったり、 できれば同じ部屋にいて、もしのどに詰まったら指で引き出すなり、 救急車を呼べるように待機していると、ちょっとだけマシかも・・・?

餅と同じくらい・・・というか、もっと危険なのは「こんにゃくゼリー」 タイプの物です。
一口で口に入る上に、かなり弾力があってかめないのと、容器から吸い込もうとして 気管に詰まってしまうというような事故がありました。
どうしてもこの味が好きで食べたいという場合は、 できれば容器から出し、食べやすいサイズに切ってあげる方が安全だと思います。

別の意味で危険なのは「酢」で、むせた時に、咳き込んで外に出す力が弱いので、 肺の中まで入ってしまう事があります。
肺に炎症が起きたり、肺炎のようなトラブルになる事もあるようなので、 酢の物を作るときなどは、あまり酢の刺激が強くなりすぎないように、 ダシで酢を割ると、少しむせにくくなります。


* 辛いもの >> 理由はよくわからないのですが、 辛いもの(香辛料・・・コショウやカラシ、ワサビ、ショウガ、カレー粉など) を敬遠することがあるみたいです。 熱いものと同じく何か食べにくいか、 舌への刺激が強調されておいしく感じないのかもしれません。  あるいは唾液の分泌量が少なくなってるので、 少し食べただけで、いつまでもずっと辛いのかもしれないです。
苦手そうな場合は、少し控えめにするか、入れないかします。






<記憶で食べる>
年を取ると、舌が受ける刺激に感受ムラが出てくるようで、 食べ物の味がわかりにくくなるみたいですが、 味については記憶がサポートしてくれるようで、昔から食べているものとか、 おいしかった記憶のある物は、ずっとおいしいと感じる事が多いようです。
逆に、おいしかった記憶が蓄えられていない新しいメニューは、 実際においしいものや、ご本人の好きそうなものでも、 記憶のサポートが使えないので、 食べておいしいと感じられなかったりするみたいです。

昔からよく知ってるパッケージや、おなじみのメーカーの商品、 よく知ってる調理法や盛りつけ方法のもの、見た感じが知っている物と同じもの、 知らない材料や知らない調味料が参加していないもの・・・ などが、 記憶のサポートがよく働いて、舌の感覚が少し鈍ってきても、 昔どおりのおいしさが感じられるタイプの物です。

上に書いた「年を取ると食べにくいもの」も、 記憶のサポートが効いて「これは好きだ」と思った物なら、 昔どおりに食べられることが多いみたいです。
「最近脂っこい物は食べたくないと言っていたのに、好きなトンカツだけは 食べられる」とか「固い物は食べられないはずなのに、ピーナッツは バリバリ食べる」というような事が出来ます。
ご本人がそんなに苦にならなくて、お医者さんから止められてもいないなら、 おいしいと思うものは食べた方が、人生が楽しいと思います。



塩分を制限されている場合 >> 高血圧などで 「塩分は控えめに」  と言われている方も多いと思います。 以下の方法はいかがでしょうか?
「野菜を茹でるとき、湯に塩を入れないで茹でる」
「塩分を減らして、(嫌いでなければ)酢の物やスパイスを使ったり、 レモンを絞る。」
「焦げ目のつく調理法(塩分の軽減にかなり有効です。 串焼きやオーブン焼きでもいいし、グラタン風に焼くなどすると 香ばしくなります。ただしバターや油分のカロリー過剰に注意!) にする」
「汁物は具を多めにして、 味をつけていないかつおや昆布ダシを加えて塩分を薄める。」 (麺ダシ用のカツオなどで濃いめのダシをとって使います。  苦みが出る場合はカツオを入れる時の湯の温度が高すぎます。 中くらいの鍋なら、沸騰してからカップ1杯の水を入れ、 温度を下げてからカツオブシを入れれば苦くなりません。  なお、ホンダシなどのインスタント系は、 塩分が多量に入ってるので、減塩としてはむしろ逆効果です。  インスタントのダシは、”ダシの風味のついた塩”  として考えた方がいいようです。)








<おまけ/年配の人に呼びかける時>
お年寄りや、それなりの年齢に見える年配の方に呼びかける時、  「おばぁちゃん/おじいちゃん」 は、家族以外の人は、 あまり使わない方がいいかもしれないな、と思う事があります。

40歳で孫がいる人も、100歳で見るからにお年寄りの人も、 家族以外の人から 「おじいちゃん/おばぁちゃん」 と呼びかけられたり、 いかにも年寄り扱いされるのは、しょうがないと思ってはいるものの、 あまり楽しくないみたいなのです。

ケースバイケースなんですけど、名前を知ってるなら、名字で呼ぶのがベスト じゃないかなと思っています。
病院とか、なんとか教室みたいなカルチャーセンターとか、 そういう場所では特に、名字で呼ぶ方が、 年齢に関わらずピッタリくるみたいです。

年上の人に、「**さん」 と名字で呼びかけるのが失礼な感じなら、  「奥さん」「ご主人(こちらは場合による)」 などが使えますし、 もう少し親しみをこめたい場合は、「おばさん」「おじさん」  という一般的な名称が使えます。 (おじさん/おばさん は 応用範囲が広く、「おじいちゃん/おばあちゃん」 を使うよりも、 年齢の高い方への失礼度が、かなり下がります。)

うんと年をとった方でも、こちらの呼びかけに応じた態度で 返事をしてくれるみたいです。

行動や言葉が危なっかしく見えたり、子供に戻ったように見えても、 幼児語での呼びかけじゃなく、礼儀正しく普通に話して欲しいと思っています。  たとえベッドに寝たきりで、身体や言語や記憶が不自由でも、 もし自分だったら、幼児語を使って話しかけられたら悲しい気分になると 思いますし、年配の方々は、とりわけ言葉遣いに敏感なように思います。







2001.8.1.



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