世界でいちばん

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kv強化月間z

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 悟空は木陰に寝そべって木漏れ陽がさしこむ緑の天井を眺めていた。
 修行とは別の汗をかいたばかり。ときおり吹き抜ける風が枝葉を揺らしている。
 横を向いて腕をおりまげ、隣によこたわる裸体を引き寄せる。
 悟空の右腕を枕代わりにしていたベジータが身をすり寄せてきた。まだ火照りの抜けきらない肌はほんのりと赤みを帯び、さきほどまでの情交の痕跡が色濃く残っている。
 無言のまま互いに向かい合い、息が絡むほどの近距離で見つめ合う。
 首筋を彩る鬱血に指をはわせると、くすぐったいのかその肩が小さくはねた。
「なんかさ、嘘みてぇだな……おめぇとこんなふうに――」
 返答の代わりに唇が押し当てられ、言葉がさえぎられる。言葉をかわすのが面倒なのか、あるいはこの状況をいまだ信じ切れないでいる悟空の不安をとりのぞくかのように。
 ついばむようなそれに悟空はすぐさま応えた。下唇を自分のそれで挟むようにして唇をかさね、幾度もあわい接触をくりかえす。
 たてがみめいた頭髪が頬をさらりと掠める。
 サイヤ人特有の癖の強い、けれどもつややかな黒髪に指を差し入れると、ベジータもまた手を伸ばしてきた。
 それはついさっきまで悟空の背にまわされ、痛いくらいにしがみつてきたのと同じ腕だった。乱れた息づかいがまだ耳に残っている。
 放せという命令も、やめろという拒絶すら受け流し、なかば強引に抱いた。言葉とはうらはらに彼が態度を決めかねていると感じたから。
 ベジータが本気でこばんだなら、悟空がいくら望もうとそう簡単にいくはずもなかった。
 地球が平和になってなおベジータが日頃の鍛錬をおこたることはなく、現世では禁忌とされている超サイヤ人3をもとうに体現している。
 誰よりもプライドが高く強情で、めったなことでは自分を曲げることのないベジータだったから、そうなれば自分は自制がきかないままに際限なく逆上し、取り返しのつかない事態になっていた。欲望のままに引き裂いて傷つけ、きっと力ずくで手に入れていた。
 だがベジータはなかば流されるように抗うことをやめ、すべてを受け入れた。その身を悟空にゆだねるように瞼を閉じ、やがて甘く吐息を乱したのだ。
 いまだ信じられない、それは予想外の出来事だった。
 欲したのは事実だが、受け入れてもらえるとは夢にも思わなかった。嫌悪もあらわに罵倒され、それですべてが終わるものと覚悟していたのだ。
 それがどうした理由からか、まさにいまベジータはこの腕の中にすっぽりと収まって、おとなしくしている。
 寝乱れた黒髪。熱にうかされたような瞳と、しっとりと汗ばんだ素肌。ついぞ目にしたこともない、無防備なようす。抱きしめ、くちづけをくりかえすうちに、また彼が欲しくなる。
「なあベジータ……オラのこと好きか?」
 仰向けた身体の上に身をのりだして、もう一度しよう、と言外に誘いかける。
 黒い瞳がまたたいて悟空を仰ぎ見た。
 そして妙にはっきりとした口調で答えが返ってきた。
「嫌いだ。いや、むしろ大嫌いだ」
 そう、すべてはベジータのこの一言から始まったのだ。


   ◆◆◆

 組み手の場所にと選んだ、まばらな緑が点在する乾いた平原。
 ベジータは岩のひとつに腰かけて組んだ足にほおづえをつき、視界の彼方に青くけむる山脈を眺めていた。
 ちらりと盗み見る横顔は端正だが、こんなのときの彼は受け継いだ高貴な血のせいか、どことなく近寄りがたい雰囲気をその身にまとっている。だが出逢った頃の冷酷な印象は薄らいで、彼を取り巻く気配もいまは穏やかに凪いでいた。
「またその話題か? しつこい野郎だなきさまも」
 黒髪が風にあおられる。ベジータは遠くに視線をやったまま、振り向きもしない。
「なんだよそれ」
 そっけないではすまされない返答に悟空は気色ばんだ。
 毎度のこととはいえ、いい加減こちらも腹に据えかねていた。
 ベジータと最初に関係を持ってから、そろそろ一ヶ月がたとうとしていた。たぶんそのときになにかを間違えたのだ。
「きさまのことを好きかだと? 何度聞かれても答えは同じだ。そんなもの嫌いに決まっているだろ」
 嫌になるほどに辛辣な言葉。何度尋ねようが答えは変わらない。
 そのくせ行為には平然と応じるのだから、わけがわからなくなる。
 手を伸ばし、強引に引き寄せる。
 いましめるように両腕ごと捕まえて、自分よりひとまわり小さな身体を膝の上へと抱き込んだ。
 きつく手首を掴み、あごに手をそえてこちらを向かせる。抗議の言葉をくちづけることでふさいだ後、悟空はあたらめて問う。
「じゃあなにか。おめぇは好きでもない奴とこんなことするんか」
「好きもなにも、きさまが無理やり犯ったんだろうが」
 ベジータは抗うのはおろか、逃げるそぶりもなかった。声を荒げるでもない。憮然とした横顔は、いかにも面倒くさいと言わんばかりだ。
 胸元の布に手をかけて、服をひき裂く。
 邪魔な布をはぎ取って素肌に手をすべらせるとベジータが睨みつけてきた。
「きさま、服を破るなとあれほど」
「服のことなんかどうでもいいだろ。それに無理やりじゃねえ、おめぇ嫌がってなかったじゃねぇか」
「やめろと言った」
「そ、そりゃあ確かにそうだけどよ」
 悟空は口ごもった。やめろ、と抵抗するベジータを強引に抱いたのは事実だったからだ。
 だが本心からではないと思っていた。形だけの抵抗だと、自分に都合よく考えていた。
 いつだって憎まれ口をたたくものの、あれいらい特に嫌がるようすもないし、ときにはベジータから誘いかけてくることもあったからだ。
「それじゃあおめぇは仕方なくオラとしてるのか? 本当は嫌なのに我慢してるんか」
 ベジータは押しのけるようにして悟空の腕から抜け出ると、我が身を引き離した。
「面倒くさい野郎だな」
 溜息をつき、それから何を思ったのか慣れた仕草で服を脱ぎ始める。
 悟空に破られたばかりの白いTシャツの残骸と、右脇の切りかえに大きくCCのロゴが入ったグレーのハーフパンツ、そして下着。
 脱いだ順にそれらをぱっぱと地面に投げ捨てるさまは思い切りがいいうえに、色気もなんにもない。
「おめぇなにやってんだ?」
「なにって、見ればわかるだろうが」
 馬にでも乗るみたいにあぐらをかいた悟空の膝に正面からまたがって、両手を伸ばしてくる。
 こうするとベジータの頭の位置の方が高くなる。彼はわずかに身をかがめてうつむき、唇を重ねてきた。
 それから悟空の両肩にすがるようにして腰を浮かし、命令する。
「ほら、さっさと慣らせ」
「おめぇなあ……」
 してくれとか、触ってとか、もうちょっと他に言いようはあるだろうに。
 多少の不満を覚えながらも、悟空はたかぶる己を強く意識していた。
 最初に貫くときの抵抗と、きつく締め付けてくる感触。耳元に吹き込まれるあの声。情けない話だが、もうそのことしか考えられなくなっている。
 ベジータの膝の上に手を置いて、その手をゆっくりと脚の間へと伸ばす。
 すでにうっすらと反応を示している竿を握り込み指先で付け根を愛撫すると、ベジータは目を閉じて悟空の肩にもたれかかってきた。
 その身体を下から支えるように脚の間に手を通し、さらに奥へと進む。
 ひくつく後孔を撫で、やわらかな粘膜をめくるようにして二本の指を浅く沈める。
「もうちょっと脚ひらけるか? その方が奥までとどく」
 吐息めいた不明瞭な返答とともに、ベジータがうなずく。
 息をつめ、苦労して脚をずらすのを待って、悟空は指を潜り込ませた。
「……んぅ…ッ……」
 さっきまでの暴言に内心で腹を立てていた悟空は、ちょっとした仕返しを思いついた。
 挿入したばかりの二本の指で少しばかり乱暴に中をかきまぜると、ベジータは不快感に眉をしかめた。
「も、もういいっ……さっさと、い、入れ……」
 あっさりと根をあげるベジータに喉の奥で笑みをもらし、なおも指を出し入れする。
「カカロ…ッ……も、いいだ、ろっ……」
「どうかなあ……まだきつすぎると思うぞ。うん。これじゃ狭くて入らねぇって。もっと慣らさなくちゃだめだ」
 逃れようとする腰を掴んで引き戻す。
 とたんに肩を掴む手に力がこもった。ベジータは悟空の肩に手を乗せてしがみつき、うめき声をもらしている。
 普段の強気な姿からは想像もつかないが、こんなときのベジータは妙にしおらしい。
 それとも悟空の好きにさせているのは、こうして抱き合っているからだろうか。



 この行為にまだ慣れていないベジータを、自分のペースでした方が痛みが少ないはず、とときふせ悟空はその腰を両手で掴んだ。
 最初のうちは躊躇していたベジータも、真下から押し当てると観念したのか、おとなしく腰を落とした。
 先端がくぼみにあたり、めりこむようにして重なり合う。その場所は熱く、そしてしめっていた。
「ほら、挿れてみろよ。ゆっくりでいいからさ」
 ベジータはちょうどいい角度を探すように自分から下半身を幾度かすべらせると、悟空の上へとさらに身を沈めてきた。
 なかばまで来たところで動きを止め、長々と息をはきだす。
「どうした?」
 そのまま動こうとしないベジータにじれて、悟空はその先をうながした。
「すこ、し……待て……」
 これ以上はつらいらしい。
 動けないでいるベジータを前に「さて、どうしようか」と考えて、もう少しの間、猶予を与えてやることに決めた。
 きれぎれの浅い息づかいが耳に心地よくて、やけに胸にせまってくる。
 つらぬき、押し入るのと違うその感覚は、もどかしさと不思議な充足感とがいりまじり、いっそう悟空を熱くさせた。
 なによりも自分のために無理をしているベジータというのは、いい。ものすごくいい。
 こわばった下肢とか、苦痛をこらえるように寄せられた眉根、歯を食いしばるようす。
 本人に言おうものなら間違いなく怒り出すだろうが、必死なところが特にいい。というかそそられる。
「こ、こんなものっ……少しも、よ、よくない」
 よほど苦しいのか、腹立ちまぎれに言う。
 そんなベジータになんだか愛しさが込み上げて、抱きしめずにはいられなくなる。
 背中に両腕をまわし、その身体をきつく抱き込むと、とたんにベジータががなりたてた。
「急に動かすな。痛ぇだろうが馬鹿野郎!」
 意外に口が悪い。だが普段のすました彼と違う物言いは、悪態をついているようでいて、どこか甘えた雰囲気もあわせもっていた。
「はは、すまねえ。まだ慣れてねぇもんな」
 こうして身体を重ねるのは何回目か。
 三回? それとも四回目? どちらにせよ、まだ片手の数ほどだった。
 ベジータはぶちぶちと文句を並べ立てなからも、どうにかすべてを体内におさめた。
 呼吸が荒さを増し、体力を出し切ったかのように肩で荒く息をついている。
「くそっ……何回かしてたら、そのうち良くなるんだろうな」
 さも忌々しげに言う。
 不満だらけかと思いきや、どうやらこの先もこの関係を続けるのに異存はないらしい。
「なるんじゃねぇか? わからねぇけど、たぶんさ」
「他人事だと思って気軽に言いやがって。本当に頭にくる野郎だぜ」
「そう怒るなよ。よくなるようにオラもがんばるからさ」
「くそったれ!」
 ベジータが舌を打つ。
「嘘だったら承知せんぞ……後で目にもの見せてやるからな」
「そりゃあ楽しみだな」
「おかしな意味にとるな」
「違うんか?」
「あたりまえだ」
「そっか。オラの勘違いか……けどよ、こんな奥までオラのをくわえこんで、違うって言われてもなあ……」
 手をのばし、つながった箇所に指を這わせる。
「いやらしい口だよな。けど、ちっときついな……まだ広げ足りなかったみてぇだな」 
 下からほんの少し突いてやる。するとベジータが慌てたように口を開いた。
「少し待てと言っているだろうが」
「なあ、動けよベジータ。オレのためにいやらしく腰ふってくれ」
「なんだそれは。ふざけてるのかきさま」
「生殺しだって言ってんだよ……もう、どうにかなりそうだ」
「ざまあみやがれ」
 にやり、と口の端で笑むと、ベジータは腰をひいた。抜けそうになる一歩てまえで動きを止める。
 すでに先走りで濡れた先端だけを身の内に沈め、浅い抽挿をくりかえす。ぬめった水音が重なった箇所から響いている。
 中途半端な深さと、まどろっこしいくらいのゆっくりとした動きに、悟空はたまらくなってくる。
「もっと奥まで挿れろって……じらすな」
「うるさい野郎だな。これくらいがちょうどいいんだ」
 不平をこぼしながらもベジータはゆっくりと腰を落とした。
 きつい部分をかきわけるように押し広げ、悟空はやがて最深へと到達した。火傷をしそうなくらいの熱が悟空を包み込んだ。包み込み、まとわりついてくる。
「……ッ…んっ……」
 再びベジータは腰を退いた。
 そして息を吐き出し、腰をうねらせるようにして深くくわえこむ。
 それから数秒の間を置いて、深々と悟空を受け入れた。再び引き出して、挿入する。
 気が遠くなりそうなほどのじれったい快楽。
 甘やかなそれに悟空は物足りなさを感じ、同時に湧きあがる強い欲求を満たそうと突き上げた。
「……んッ…ぁあ……」
 ベジータが声をうわずらせ、首筋にしがみついてきた。



 悟空の膝のうえ、ベジータが腰を使う。
 悟空もまたその動きに合わせ、幾度も腕の中の身体をゆすった。
 呼吸を合わせ、互いの肌が溶けあいそうなほどゆっくりと。
 揺らめく尻に手を添えて深く潜りこませ、手の中の身体をさらに猛った自身の上へと落とし込む。
 肌をこすり合わせる度に発せられる、くぐもった水の音。互いをつなぐ熱の楔が見え隠れしている。ベジータが腰を反らし、当たる角度を調節する。
 向かい合った二人の間、いつしかはりつめているベジータ自身をきつく握りこみ、先端に親指の腹をあてがう。
 いまにも溢れそうになっていた欲望のあかしがせきとめられ、ベジータは苦しげに息をつまらせた。乳白色のしずくが一滴こぼれて糸を引いた。
「う、あッ……」
 後ろをうがち軽くこすってやるだけで、いつもベジータはいくらもしないうちに達してしまう。まるで条件反射のように。
「もう少し我慢しろベジータ……もっとよくしてやる」
 乱暴ともいえる動きで、幾度もベジータを突き上げる。
 イキたくともいけない苦しさと、後ろを容赦なくこすられる痛みとでベジータは呼吸を乱し、甲高い声で叫び、すがりつく。
「……ッ……カカロ……」
 喉をそらせ、哀願するように名を呼ぶ声には、けれど確かに甘い響きが混じっていた。
 ベジータを抱いてみてわかったことがある。
 その身体はもちろん快楽さえも掌握し、彼をひととき支配できるこの行為に自分はひどく惹かれている。
 一度でも知ってしまったら、もう二度と手放せるわけもない。 
 だからこそ不満だった。 



 終わった後、持参したカプセルから着替えを出して背を向けるベジータを悟空はぼんやりと眺めていた。
 やることをやってしまったら相手のことなどすっかり忘れ去ったかのようなそっけなさで、ベジータは次々と服を身につけていく。
 悟空は溜息をついた。
 好き勝手に憎まれ口をたたいたあとで気まぐれにその身をさしだして、ベジータはすべてをうやむやにしてしまった。
 これで満足だろう、と言わんばかりにだ。
 ふざけるな、と返したいのをこらえ、悟空は脳天気な声で提案する。
「なあ、カプセル持ってるんだろ。せっかくだから今日は泊まっていかねぇか?」
「ことわる」
 不機嫌な顔をしてベジータが即答した。
 負けじと悟空は言葉を重ねる。
「一緒にめし食って風呂入ってさ、それから一緒に寝るってのはどうだ。そういうのまだしたことねぇだろ」
「はあ?」
 器用に片方の眉だけをつり上げ、振り返る。
「なんだってきさまと、そんなことをせねばならんのだ」
「おめぇがめし食ってるのを眺めて、風呂でいたずらして、それからベッドに行っておめぇを抱くためだ。あ、朝までたっぷりとな」
 ベジータのきまぐれに付き合うのは嫌だった。
 どうせなら全部を手に入れたい。心も体も。
 この行為に気乗りがしないのなら、その身体に快楽を刻みつけ、自分なしではいられなくしてしまえばいい。心の底から求めずにはいられないほどに。
「あれくらいじゃ全然足りねぇよ。なあ、いいだろベジータ、うんと気持ちよくやるからさ」
「冗談じゃない。誰が、そんな……」
 さっきまでの行為がふいによみがえったのか、ベジータは掠れた声で言う。
 さんざんにこすられた甘い痛みと、身体の奥をねっとりと濡らす白濁。服を着たとはいえ、その肌はいまも生々しく痕跡をとどめている。 
「嫌ならべつにかまわねぇよ。オラとするのも本当は気乗りしねぇけど成り行き上、仕方なく付き合っているんだろ」
 突然、手のひらを返し、立ち上がる。
 素肌をさらしていたベジータと違い、前をくつろがせただけだった悟空は帯を整えた。身支度はそれだけで終わった。
 額に指を当て、いつものように悟飯の気を探す。
 ちら、と視線をやると険しい表情のベジータと視線がぶつかった。唇を固く引き結んで立ち尽くす姿は、まるで取り残された子供みたいだ。
 気を凝らし、飛ぶ。
 同時にベジータが腕に掴みかかってきた。



「おめぇなんてことすんだ。危ねぇだろ」
 誰かを伴って瞬間移動するときは細心の注意を払うよう、この技を伝授してくれたヤードラット星人は言っていた。まんがいち途中ではぐれれば、その者は異空間に飛ばされて命を落とすことになるだろうと。 
「こんなこと二度とすんな」
「だまれ」
 悟空の腕を握りしめ、ベジータが大声を出す。眉間には深いしわが刻まれ、唇は相変わらず真一文字に引き結ばれていた。
「仕方なくじゃない」
 ベジータが言った。
「自分の意志でやっているに決まってるだろう。いいか、カカロット。このオレに何かを強要できるなどと思うなよ」     
 賢明にも悟空は黙っていた。
 ベジータの背後には円形の家と家庭菜園、まっかに熟したトマトを手に悟飯が目をぱちくりさせている。
 悟空はにっこりと笑った。
「おめぇ、なんだかんだ言っても本当はオラのこと好きなんだ」
「そんなわけあるか!」
 半分裏返った声でベジータが一声叫び、次の瞬間、どん! と衝撃がきた。
 うなりをあげて気がふくれあがり、足下の地面が陥没する。
 ベジータの姿はすでにない。家庭菜園もきれいに消えていた。
 無事なのは悟飯が持っていたトマトひとつきり。それさえ埃まみれになっていて、食べられるかどうかは疑わしい。
「わりぃな悟飯、この埋め合わせは後ですっからさ」


   ◆◆◆

 ベジータは高速で飛行していた。
 腹がたって仕方がない。カカロットの態度にも、自分の馬鹿な行動にも。
「くそったれ!」
 そんなつもりじゃなかった。瞬間移動しようとするやつの腕に掴みかかったのは、条件反射のようなものだ。 
 あれじゃあまるで、つれない恋人に取りすがる……
 そこまで考えて、ベジータは首を振る。
「なにが、本当は好きなんだろ、だ。ふざけ――」
 独り言は強制的に打ち切られた。
 突然、壁にぶちあたるような衝撃に息が詰まる。
 反射的に瞼を閉じて、最初に視界に飛び込んできたのは派手な山吹色だった。
 呆然としたまま視線を上げると、見知った顔にぶつかった。額に当てた二本の指。
「つかまえた」
「……きさま!」
 逃げ場は完全に失われていた。
 背中に腕がまわされて、締め付けるようにして引き寄せられる。
「やっぱり泊まってこうぜ。一緒にめし食って風呂でおめぇにいたずらして、それからベッドでおめぇが何度もイクように、いろいろ試してみるってのはどうだ?」
 さっきの提案と微妙に違っている。
 胸の前で両腕を組み、ふん、と横を向く。ベジータは口を尖らせ、そして言った。
「きさまがどうしてもと言うのなら、まあ付き合ってやらんこともない」
 前途多難な日々は、こうして順調に進んでいく。



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