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モモイロ吐息 | ||
湿ったようなベタ黒の夜空に、望月が煌々と輝いている。砂の大地を反映したような色をして、まるでシールでも張ったかのようにくっきりと浮かび上がるのは、濃いオレンジの満月だった。
開け放たれた窓から時折強い風と、少しの砂が舞い込んでくる。幅の狭いベッドが軋む度、声枯れた喉に風が滑り込む。喉を鳴らして僅かな唾液を飲み込んだベジータは、自分と繋がる男の肩に頬を乗せてゆったりとした上下の揺れを感じていた。
「……っ……は…」
何度も繰り返される挿出と、何度となく吐き出した精。快楽に痺れ続ける身体は汗で濡れていても、乾ききった喉ではその良さを表す声が表現しきれていない。揺さぶられるリズムに合わせてただ力なく漏れるだけだ。
「……ぁっ…あ…」
「なあベジータ…」
「………く…」
名を呼ぶ声は熱を孕んでまだ余裕があり、ベッドを軋ませている力も相変わらずだと気づいて何とか頭を上げる。
対面で背に腕を回され抱き上げられ、下から突き上げてくる相手に対して「何だ…」と返しながら、ベジータは自分の腰を強く押し下げた。
「あー……」
ベジータの温かな中で深く包まれる心地良さ、根元を揺すられる振動に暫し動きを止めて、堪能する。
「カカロット…」
受け入れる方が負担がでかいとか、そんなことは口にしたことは無い。加減されるつもりも無い。特に今日みたいな日は絶対にだ…
「あぁ…ベジータ」
抱かれる力が強くなり、胸の上で甘えたように額を擦られる。そして「ベジータ…」と上げられた顔を目を細めてよく見れば、瞳に映っているのは自分ではなく肩越しの月だった。
ベジータも振り返り外を仰ぎ見て……そしてまた上下にぶれ始めた窓枠を見て笑ってしまう。
昼の白い月と、夕焼けと今と、室内の色が変わるに任せて灯りもつけないまま抱き合っていた。イってもイかせても愉しみは尽きず、少し休んではまたどちらともなく圧し掛かって互いを求めた。もうどれだけの時間こうしているのか分からないが、いつになったら飽きるんだと自分達に呆れてしまう。
「おい…揺らすな…」
「半分はおめえだろ」
「そうだった」
窓枠が揺れて見えるだけでも笑えてしょうがないのは、獣じみた交わりが月のせいだと言えるほどの理由が無いからだ。
ベジータの腰を支えようと移動した悟空の指が、尻上の尻尾痕を掠めた。
「ん……」
「わりぃ、当たった?」
「あ…ぁ…お、押すな……」
丸く引きつれた皮を指で押されると、何故だか性感帯の様に感じてしまって声が震えた。ただの傷跡と同じ様に、普段気にもしていないそこは、こうして突っ込まれながら触られると不思議と性本能を刺激する。
「おめえの尻尾はどんなだったっけな…」
覚えてねえやと、双丘の谷からすくい取った液を痕に塗り込むようにグリグリ押されながら、熱い杭を打たれ続ける。
「普通の…」と思わず手を伸ばし悟空の手首を掴んだ。
「普通の、超エリート様の尻尾だ…」
「はは、どんなんだよ」
そのうち生えてくると思っていた尻尾が無くなってからもう随分経つし、当然満月を見上げても大猿にはならない。月が、力を引き出す為に絶対必要な条件でもなくなったし、それに…
俺はサイヤ人だと口にする事も、今はあまり無い。
口元が緩むベジータに気づいて、悟空もまた笑みを浮かべて、目の前で濡れて立ち上がる蕾に口付けた。
「あ……ぁ……」
苦い笑みの名残を眉に残したまま、悟空の息が肌にかかるのを見下ろす。
「月って…なんで色が変わるんかな」
白い時もあるもんな、と呟く悟空の顔は、強い月明かりで陰影が濃く浮かんでいた。光の加減で男臭さの増したその顔には不釣合いな、柔らかな笑みを浮かべたまま、ちゅっと先端を啄ばんでくる。赤みが増し、強く舐られ続けた名残りにヒリつくのに、それでも温かな舌で軽く弾かれるだけで身体が震えてしまうのを抑えられない。
「う…ん……ぁ……」
腰の下ではグチュと滑りのいい水音を立てて硬いものが抜き差しされている。放たれたものが中から溢れ互いを濡らし、肌の重なり合う音を更に高らかにさせていた。耳で拾うまでも無く、狭い室内に響き渡るのが胸を熱くさせる…自分達の痴態に恥を感じない程長い時間、これに溺れている……
「月…どんな色だった…」
「黄色っぽい…、赤と黄色が混じったみてえな…」
悟空の話す途中で「なあ」と呼びかけ、胸から離れた唇に自分のを重ねた。
触れただけのキスで、何でこんなに満ち足りるのか…身体は疲れているのに浮き足立つような気分にさせる。
目を閉じたベジータの脳裏に、満月が浮かんだ……
使い慣れない光球を手当たり次第その辺の奴にぶつけた。
一つの星に二つの種族。もう何度となく繰り返してきた陣取りの戦いに、初めて参加した夜だった。
あちこちから上がりはじめる地響きのような咆哮。隣の男の体が倍化していく姿。牙を剥き、言葉ではない雄叫びを上げるそいつの視線を追って自分も天を仰ぐ…腕の傷口から一瞬強く血が噴き出して止まり、体中の血がグラグラと沸くような感覚に目を剥いた。
めったに来ない、惑星ベジータの満月の周期がその日だった。
初めて目にした月は、真っ赤な色をしていた。
頭に血が上ってそう思えたのか、足元で崩れ落ちる小さな男の返り血が目に入ったのかもしれない。エネルギー弾で消し飛ばすのとは違う、自らの爪を皮膚にめり込ませ、引き裂いた体から勢いよく吹き出す血を見て無我夢中で吠えていた。月の恩恵を受けて世を統べるのは自分達だと、暴れだす意識の中で足元の装甲車を蹴り掃う。
強さというのは、力を持つというのは何て素晴らしく楽しい。この星に生まれ、サイヤ人として生きる事以上の悦びなど無いと思えた。
「オレンジみてえに見えるよなあ…」
「は…ぁ…っ…カカロット……」
ぬるぬると痕を弄ばれる感触と、続いている胸への愛撫、そして擦られる内部が快感をもたらす。
「尻尾、生えてこねえかな」
「全部の服に穴を開けるのは面倒だ…」
「手伝ってやるよ」
「生えたらな…」
満月の日には、昔の事ばかり思い出す。
ガキの頃一度だけ見た母星の満月に、自分が戦闘民族に生まれた悦びを与えられた。
「満ちた月は…赤になるんだと思っていた頃がある…」
「赤いのは見た事ねえなあ」と考える唇に指を乗せると、舌が絡み口内で転がされる。
「…カカロット……なあ、カカロット……」
人差し指を舐められていると、爪に食い込む肉の感触が蘇ってくる。こうして抱き合っていると、あの時の悦びを思い出す。
サイヤ人だと歓喜した過去を、懐かしく思い出す。
「お前といると俺は、地球の満月も赤く見えるんだ…」
…広い掌が、ベジータの背を軽く撫でた。
種族の証はもう無くなっていても、生き物を壊していく事を楽しみとしなくなった今でも、月の満ちる晩には牙を剥き、荒れ狂う叫びを上げるサイヤ人でありたい。
「おい、集中しろ…浅いぞ…」
加減されるつもりはないし、先に音を上げるつもりはもっと無い。
悟空の口内から指を抜き、男の胸の尖りを押し潰してやる。「う…」と声を詰まらせた相手は指の腹でぬるぬると胸を押されながら、ベジータの尻肉を割り拡げる様に揉み込んだ。
「これで…どうだ…」
「あっ…あ…」
突き立てられた昂ぶりが奥を擦ってドクンと脈打つ。
「く…っ…ぁああっ…」
中で硬度を増したそれが激しく抽挿し始めると、ベジータの身体が何度も跳ねて自重でまた深く入り嬌声が高まる。
「ぁああ…あっあ…」
揺さぶられ見下ろすと悟空が顎を上げて「ほら」と促す。差し出された唇を噛むように口付けて貪りあう。悟空を掻き抱いて腰を押し付け、自分達の腹の間で露を滴らせる自身を擦りつけた。高らかだった肌を打つ音がくぐもる程互いを押し合い、深く深くえぐられる。
「っう…!っああぁ…はぁぁっ…」
ベジータは唇を離して悟空の髪に顔を埋め、胸辺りで荒く息つく声を聞いていた。
また中で熱く弾けるのだと思うと堪らなくなり、男同士なのにやることやって満足する理由も、もうどうでもよくなってくる。
「ハァッ……ハァッ……」
「あっ…あ…っはぁカカロッ…あっ…」
悟空をしゃぶったままの後孔が、更なる刺激を求めて収縮する。息荒くベジータの名を呼び、欲しがるそこに悟空は穿ち続ける。奥に挿したまま更に強く中に捻じ込まれ、互いに波がせり上がってくる。魂が揺さぶられるような熱い波がせり上がってくるのを感じる。
「ベジータ…っ…月…」
「あぁぁ…っあああ…っはぁ」
赤い満月を瞼に浮かべて、誰のおかげで今もサイヤ人でいられるかを思い知るのだ。
「ぁっ…あああっ…カカロット、カカロット…っ」
「満月…っ、実はオラ…」
今まで言わなかったけど、と続けて、そして緩く首を振られてベジータは悟空の髪から顔を上げる。軽く口付けられて耳元に唇を寄せられる。そして、
「おめえと見る月は、ピンクに見える…」
笑って囁き、そのまま声を詰まらせた。熱い迸りが弾け、奥に撒き散らされながらベジータは全身を痙攣させて達し、「気色悪い」と答えてまた髪に顔を埋めた……――
「お前の尻尾は見たことがないな」
「オラのが生えたら、おめえも尻んとこ穴開けんの手伝ってくれよ」
窓から入り込む風が部屋の中を通り抜け、狭いベッドに横たわる身体を撫でる。
ピンクに見えると言われた満月は、強く輝いて全ての星の輝きを消していた。闇にぽっかりと濃く浮かぶ黄金色を横目で確認すると、ベジータはゆっくりと身体を起こして悟空を見る。肩で息をしている男を見下ろすように腰の上に乗り上げ、一度ゲホッと咳をしてからベッドサイドのボトルを開けて水を飲んだ。
「色が濃く見えるのは水蒸気や塵のせいだ」
悟空はふーん、と言いながら渡されたボトルを受け取る。ガブガブ飲まれて、止める間もなく一気にカラになったのを「ほい」と返され、言葉も無く口をぱくぱくしていると「もっかいヤろう」と開いた口に指を突っ込まれた。
「こ、このやろう~…」
ボトルを捻り潰して投げ捨てた。
「ああ、ヤろう。だが次に先にイった方が、水を取りに行くってルールでな」
「ついでに窓も閉めてくれよ」
「俺が負けるみたいに言うな。この下級戦士が…」
手首を掴んで、ベジータは掌を舐めてやった。笑う悟空の肩に舌を這わせれば、口の中に汗の塩分が広がって余計喉が渇く。
「クソッタレ…」
飲み干された水への恨みに喉を鳴らし、絶対に負けられんぞと意気込むベジータの髪が風に靡いて…悟空の指がその髪に絡まる。
「早くしねえと来ちまうぞ…」
「言われなくても分かってる。それにしても何がピンク…」
頭を引き寄せられて言葉途中で口付けられた。
砂の多い荒れた土地で、おかしな色に染められた月を笑いながら、もう何時間抱き合っているだろう。大気に細かな塵が混ざっているから、月の色は変わるのだけれど、そんな理屈はもうどうでもいい。今自分達にとって必要なのは、その遠くで巻き上がっている塵…いや砂嵐が、今日か明日にでもここに着いてしまうということだ。
「風が強くなってきてるぞ…」
「じゃあもう挿れちまうか…」
早く閉めてきてくれねえと砂まみれになっちまう…
膨れ上がった欲望で尻をつつかれ、「引き分けの場合は勝つまで続行だからな」と答えながらギュッと掴んで窄まりに押しあてた。
「もしそうなったら一緒に風呂入ってくれよ」
悟空はベジータの腰を持ち、ベジータは少しずつ腰を落としながら口角を上げる。
もしそうなったら、今度は風呂場の窓から見えるアホな色の月を肴に一戦交えてやろう。
熟れた入り口をすんなり通り抜けた自身を、ゆっくり先へと埋め込みながら、悟空はベジータの背を押して抱きしめた。
「サイヤ人って、皆おめえみたいにスケベなんか?」
「…俺は普通に…超エリートなだけだ」
はあ?と笑う悟空に「光栄だろうが」と言って、ベジータは「始めろ」と唇を押し付けた。
「まあ普通に、オラもスケベだけどな…」
ズルリと一旦抜け、次に内壁をえぐる様な熱が一気に突き立てられる。
「一緒にイって、一緒に風呂入ろう…」
悟空の砂っぽい髪に鼻を埋めて、亡国の王子は下級戦士を強く抱きしめる…そしてサイヤ人としての、歓喜に満ちた声を上げるのだった…―――
END
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