その3:現場入り
翌日は朝の7時前ぐらいに家を出て、広島には10時前くらいに着いた。とりあえず車を会社の近くの駐車場に入れて、躯体工事室に向かった。
広島市の中区にある4F建てのビルに、うちの会社は丸ごと入っている。1Fには管理部が入っているがなぜか近寄りがたいオーラを感じる。2Fには営業部と会長・社長がいる。3Fに建設部と広島支店、そして躯体工事室があり、4Fには建設室と土木課・積算課がある。ちなみに屋上にはペントハウスがあり、作業服なんかのストックがある。夏は灼熱地獄、冬は極寒地獄と化す。総務の宮樹君はひとたび依頼があれば1Fから屋上までダッシュを繰り返すタフなヤツだ。
さてはて、その日は会議が入っていて、巖口室長は躯体工事室にいなかった。昼頃にちょっと顔を覗かせて、「もうちょっと待っとってくれ」と言ってまた消えた。結局3時頃になってやっと室長に会え、契約の形態や請求書の流れ、そして向こう (徳島) の状況を10分ぐらいでざっと説明してもらい、すぐに広島を後にした。そんな短い説明ですむなら、さっさと徳島に行って後から電話ででも聞いたらいいと思われるかもしれないが、なんせ初めて行く所だし、少しでも不安要素を無くしてから行きたかったのです。( もっとも「今から広島を出る」と八石に3時過ぎに電話を入れたら「なにィ〜? 遅いのォ〜」と言われたが。)
お好み焼きを食べて出ればよかったかなと高速に乗ってから気がついたが、いちいち高速を下りるのも面倒くさかったのでそのまま走り続けた。ちょっと後悔。途中小腹がすいたのでSAで天玉そばを食べた。いつも思うのだが、うどんは関西のだし、そばは関東のだしがうまい。でも、天玉そばは、どっちでも好き。(どうでもいいって?)
広島から2時間位で瀬戸大橋の手前まで来た。実はこれまでぼくは四国に足を踏み入れたことがなく、もちろん瀬戸大橋を渡るのも初めてで何だか嬉しい気分になり、思わず橋を渡ってる途中実家に電話をした。(彼女に、というのでないのが悲しい) でも留守だった。ちぇ。
橋を渡って四国に入りしばらく行くと、坂出で一旦料金所を通過する。通過してさらにもう少し行くとジャンクションがあり、右へ行くと愛媛・高知方面、左へ行くと高松・徳島方面となっている。ぼくは左。後になって、坂出ICで下りて美馬に抜ける道を知るが、この時は高速で高松西まで行った。高速がいっそ徳島までつながっていたら楽なのにと思うが、ないものはしょうがない。
高速終点の高松西で下りたとき、「香川と言えば讃岐うどんだよな」と、ふと思い、ちょっとしまったと思った。天玉そばを我慢して、高速下りてからうどん食べればよかったか?でもまあ香川は広島とかに戻るときにまた通るからチャンスはあるか、とあきらめて、後ろ髪を引かれる思いで徳島道方面へと車を走らせた。
脇町ICから徳島道に乗り、徳島にもうじき着こうかと言うところで、八石から「今どの辺おるんな」と電話が入った。場所を伝えると、「あと1時間くらいか。阿南市に入ったら電話せえや。」との事。そんなに時間がかかるとも思ってなかったが、なるほど徳島道の終点徳島で高速をおりて、市内でしばらく渋滞につかまってしまい、結局それぐらいかかった。阿南市に入ってからはちょくちょく連絡を取り合って、何とか迷わず宿舎まで辿り着いた。八石は宿舎の車の出入口の所で待ってくれていた。
荷物を運ぶのは、八石と福長が手伝ってくれた。部屋は6畳で基本的に二人部屋なのだが、ぼくが行ったときはまだ少し部屋に余裕があったからか、一人にしてくれた。羽屋志、懇村、それから赤多企業の杜君ら前の発電所のなじみのモンらが部屋に顔を覗かせてくれて、いよいよまた現場事務員生活が始まるんだと気持ちが引き締まった。
その日は疲れてたこともあって早くに眠れた。
朝は7:20頃に宿舎を出発する。だいたいボンゴ2台に社員が乗り、大型バス1台に業者が乗って現場に向かう。バスの運転手は大型の免許を持っている羽屋志か懇村が運転し、この2人が都合で居なかったりする時は、互輪興産の池多さんがハンドルをにぎる。初日はボンゴにノートパソコンとプリンターを積み込んで現場入りした。
宿舎から現場まで6km位の距離だが、やはりラッシュがあるので着くのに20分位かかる。ぼくが行ったこの頃はまだそうでもなかったが、秋冬になって現場に入場する人や車が増えたとき、帰るのに1時間位かかる時もあった。あまりに渋滞がひどいので、「走って帰った方が早いんじゃないか」と皆が思い、うちの畑山が帰りに途中からボンゴを下りて走ってみたら、本当に走った方が宿舎に早く着いた。(笑) この後、入場車両を制限したり、途中の信号のタイミングが変わった事もあってか、ひどい渋滞は緩和された。
さて、トンネルを抜けると橋があり、その橋を渡ると現場である。とにかく大きい。橋を渡った所はひとつの島なのだが、その島の半分ぐらいが現場なのだ。まあ区画されてるし迷うことはないだろうとは思ったが。
2階建てのプレハブの詰所に着き、1階の中にある職長室で机をひとつもらってパソコンとプリンターをセットした。気になっていた電源は、ぼくの机の真後ろにあってとりあえずひと安心。安全靴が無かったので初日の朝礼には出られなかったが、そのあとすぐ島内にある売店で、さしあたり長靴を買った。小さな売店だが、安全帯とかひと通りの作業用具から文具、カップ麺、パンまで揃っている。だからここはいつも繁盛している。店に置いてない物でも頼めば注文してくれるので、現場から出ないで済むというのもあって、とても重宝していた。
この現場では一部を除いて各業者毎の部屋というのはなく、職長が皆ひとつの大部屋に集合していた。だから外部に漏れてはいけない話とかはできなかったが、JVの監督さんが職長室に来てそれぞれの業者とタイムリーに打合せをするので、関連することには口を挟んだりして、横のつながりはとにかく良かったと思う。
ひとつの部屋にずっと一緒にいるということで連帯感があったし、業者間で打合せをするのにわざわざ相手業者の部屋に行くというロスがないので、その分スムーズに仕事にかかれたとというのはある。もっとも、仕事以外の面でもなにかと横のつながりがあったけど。
そんな中である日、職長会の会計をやってくれないかという依頼が来た。パソコンをたたいている人が、職長室にはその時ぼくのほかにいなかった(と思う)ので少し予感はしていたが、やっぱりやるとなると面倒くさい。というか自分の仕事に影響がなきゃいいがと思った。結局八石の勧めもあって、なし崩し的にやることになってしまったが...。