その4:職長会

 

職長室でのぼくの机は、入口の反対側の壁棚を背にした位置にあったので、割と人目を気にせずパソコンでの作業が出来た。ゲームをしてても仕事をしてる風に見えたかもしれない。

うち関係では4つ机の割り当てがあり、右隣に八石、向かいに羽屋志、右斜め前に懇村というレイアウトだった。八石の右には木元さんという職長さんがいて、この人がこの時職長会の会計をやっていた。

災防協(災害防止協議会)が毎月月半ばぐらいに行われて、大概の業者は、この時木元さんに職長会費を現金で持ってくる。ぱらぱらと少しずつ来てくれればいいのだが、わいわい争うように持ってこられると、さすがに気の毒に感じた。

職長会費の集金の他に、出納帳の記帳は当然として、吸い殻缶やトイレットペーパーなど備品の段取りとそれらの支払いや、懇親会、レクリエーションの段取りなんかをされていた。もちろん会長もいるし、なんもかんもせにゃならんということはなかったが、時間もだいぶとられるし、職長しながらやるのは大変だよなあと、そっと見守っていた。

ここに来てから何週間かたって、ぼくが事務的なことばっかりをしてるのが分かってきたのか、木元さんの熱い視線を感じ始めた。そのうち「会計やってよぉ」と笑いながらストレートパンチを繰り出し始め、間に挟まった八石も勧め出すに至ってはもう逃れようがないと観念した。まあ嫌じゃないけどめんどくさいのはめんどくさいよなあ。

「じゃあやりますよ」と言ってからの木元さんの行動は速やかだった。

すかさず木元さんの持っている職長会関連の資料を全てくれてざっと説明され、現金と通帳をぼくにくれた。ぼくが悪人だったらど〜すんのよと思って、ちょっと苦笑した。気が変わらない内にと思われたのだろうか...。

かくして職長会の承認を待たずして、半ばなし崩し的に会計を交替してしまったが、文句は出なかった。「自分がならなくてよかった〜」と、皆さん思われていたのかもしれない。


その時の会長北屋さんには、よく職長会関連の書類の作成を依頼された。パソコンとプリンターを持ってきてりゃ、そら頼まれるわなとも思ったが、原稿は書いてくれてたのでそんなに苦にはならなかった。

どちらかというと「しきる」タイプの北屋さんは、「会長」がよく似合った。時々ワンマンっ気が出て他の人と衝突することもあったが、基本的に全力を尽くす人だということを知ってか知らいでか、大方の人は頼りに思っていた。(はずだ)

時々飲みにも連れていってくれた。だいたい行くところは決まっていたが、自転車で日本一周した話からコンピューターの歴史の話まで話題が豊富で面白く、一緒にいて楽しかった。歌のうまさと、ちょびひげが印象に残っている。今も生えているんだろうか。ひげ。

北屋さんの持ってきたネームランドは、職長会では最も活躍した機械のひとつだろう。JVの事務所に行けば一応テプラはあるんだけど、職長の殆どは北屋さんのネームランドを使っていた。大体どの現場に行っても、この手のシールワープロは、絶対誰かが持っている。無ければ絶対誰かが買う。絶対あるということは、絶対の需要があるのだ。

ここでは北屋さんが持っていた。ただそれが個人の持ち物だったので、北屋さんがこの職長会を抜けた後、ちょっとパニックになった。

「あれ?ネームランドどこいった?」

「ありゃあ北やんのもんだからもう持って帰って、無いで。」

「え〜っ!!」

といった会話がしばらく聞かれた。


現場の夏は一際暑い。建物内部の風通しの良い所で作業するならいいが、そんな好条件の所ばかり選んで仕事ができるはずもなく、日射病・熱射病対策は毎夏必ず考えなければならない。

詰所には常時「梅丸」(梅干しがひとつひとつ袋に入っている)がストックされていて、冷水機も置かれていた。ただ、それでは作業場所で水分補給できないから、一班に一つはみんなそれぞれポットを持っていて、それに水や麦茶を入れて現場に持って行っていた。

「氷のストッカーを詰所に置こう」という声が出るのも自然の成り行きだった。本格的に暑くなる前から、北屋さんもJVに製氷機を設置しようとお伺いを立ててはいたが、衛生面で問題があるだろうとのことで、承認を得ることが出来なかった。冷水機が良くて、氷ストッカーがだめだというのがどうも納得いかなかったが、あまり悠長に考えている暇はない。夏が来てしまう。

朝買った氷が晩まで持てばいいが、いやその前に昼までにポットが空になるだろう。町中の現場ならいざ知らず、氷を買うには車で一旦島から出なければならない。みんながみんな島から出てたらそれこそパニックだ。

結局冷凍庫を買い、氷を買ってストックしておくという事で落ち着いた。氷は原価で売るのだ。無料にするという案もあったが、節操のない者がどんどん持ち出して収集が着かなくなっては困るというので却下。月末で締めて、各業者に請求する事にした。

販売するとなると、誰かが管理しなくてはならない。ああ製氷機なら楽なのに〜。原価もそんなにかからんし。と、ぶつぶつ言ってもやらにゃいけんことはやらにゃいけん。といって、やりだしたら結構楽しんでやってたりして。で、売れなかったら気になったりして。(笑)

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以下、月別出荷数です。(7月13日〜10月9日)

7月  149個

8月  558個

9月  384個

10月  36個

合計 1127個

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