Let’s 浴場パラダイス

 旅行当日。
 何時もの起床時間よりかなり早い時間に目を覚ました龍麻は、掛布団を跳ね上げると慌ててベッドから飛び起きた。
 遮光カーテンを勢い良く左右に開けると、まだ上りきらない太陽の微かな光が見えて龍麻は嬉しそうに微笑んだ。
「良かった、今日は晴れそうだよ」
 いそいそとカーテンを全部開ける。
 まだ部屋全部を照らすほどには明るくない光を招き入れると、んーっと伸びをしてバスルームに足を向けた。
 寝起きには少し熱めのシャワーが気持ち良くて、勢い良く熱い飛沫を全身で受け止める。
「んーっ、気持ちイ―」
 ワシャワシャと髪の毛のまで濡らしてしまってハタと手を止めた。
「げっ、髪洗うつもりなんかなかったのに…」
 支度は昨日のうちにできてるから時間はたっぷりあるんだけど、シャンプーの香りなんかさせてたら出かける前にシャワー浴びてきましたって言っているようで、なんとなく恥ずかしかった。如何にも気合入ってますって言っているような気がして。
「…濡らしちゃったから、洗うしかないよな」
 結局しっかりシャンプーとリンスとトリートメントまでしてしまった。
「俺って、馬鹿?…」
 ガシガシと濡れた髪の毛をタオルで拭きながら戻ってくると、部屋中が朝の太陽の光で一杯になっていた。
「うわっ、今日は一日晴天だ」
 日ごろの行いが良かったからかな。などと思いながら、今日着ていこうと思って用意していた服に手を伸ばす。が、ソコで龍麻の手がハタッと止まってしまった。
「…やっぱりこういう日って…新しいのの方が良いんだよな…」
 バスローブ一枚の姿の龍麻は当然下にはまだ何も身に着けてはいなくて服と一緒に置いてあった下着を見て何事かを考え出す。
「おろしてないやつ…あったよな…」
 なぜが顔を真っ赤にしながらタンスの引出しを開ける。
 無言のまま何個目かの引出しをあけた龍麻はそこに目的の物を見つけ出した。
「可笑しく、ないよな…」
 ビニール袋から出したばかりの下着を履きながら、誰にともなく呟いてしまう。
「…みてー」
 一泊旅行をするだけなのに、新しい下着を卸したり、待ちきれなくて早起きしたり、子供みたいと言うより女の子みたいで恥ずかしかった。
「………いいよ別に、女みたいだって。俺的には、やっぱりこういう日は新しい下着って、決まってるんだから」
 戸惑う自分に言い聞かせるように言い訳をすると、完全に狼狽している様子で服を身に着けていく。
 取り敢えず身支度を済ませると、まだ濡れた髪にドライヤーを当てる。
 耳元でゴウゴウと鳴る風の音を聞きながら髪を乾かしていると、段々と緊張が高まってくるのを感じる。
「うーっ…なんか、緊張してきた。」
 始めてエッチした時みたいに胸がドキドキして自然と顔が赤くなってくる。
「おっ…落ち着け。別に初めてってわけじゃないだろ?」
 バクバクする心臓の音にイラついて、せっかく乾かした髪をグシャグシャと掻き乱す。それでも落ち着かなくて、部屋の中をウロウロと歩き回る。
 高校生の一人暮しにしては広い部屋の中を右往左往していると、よっぽど緊張しているのか床においてあった学生カバンを蹴り倒してしまった。
「あっちゃー、なにやってんだか…あれっ?」
 ぶちまけてしまった中身を拾っていると、ずいぶん前に京一に貰った小箱が出てきた。
「これ『男の必需品』って、京一がくれたやつだよな?なんなんだろ?」
 貰ったときは忙しくて、中身を問いただすこともしなかったし、カバンに入れたままだったからすっかり忘れていたというのが一番正しいそれを、手にとって良く見るとCDの二文字が見えた。
「?」
 中を開けてみようかとも思ったけれど、雨紋が迎えに来る時間が迫っていたし、京一がくれる物と言ったらまず自分には、あまり縁が無さそうな物だろうと思ってしまう。
「『男の必需品』って言うくらいなら、雨紋のほうが使いそうだな。悔しいけど雨紋の方がそうゆうのに詳しそうだし」
 無造作に持っていた箱を、ポケットの中に押し込むと壁の時計を見上げる。
「少し早いけど、下に行ってようかな」
 早く雨紋に逢いたくて待ち合わせの時間までは後二十分もあるのに、イソイソと立ちあがるとバイクでの移動を考えて、少し厚手のダウンジャケットを着込む。手袋とマフラーと手を伸ばした先に、何時ものブルーのマフラーが無くて、一瞬頭に「?」マークが浮かぶ。
「えー…っと、あっ、そうか。昨日、雨紋に貸したんだった」
 ソコまで思い出して、その後のことも連鎖で思い出されてきて、龍麻は顔中を真っ赤にしてしまう。
 恥ずかしさにオタオタとしながら変わりのマフラーを取り出すと、一泊の荷物を詰めたリュックを持って玄関のドアを開けた。
「ようっ!ずいぶん早ええじゃねぇかよ」
「えっ?!…雨紋?」
 ドアを出たところで声を掛けられて、振り向いた先に立っていたのは、愛しい待ち合わせの相手だった。
「自分でも情けねぇと思ってんだから笑うなよ?」
 釘を刺すように言う雨紋に、同意の意味を篭めて頷いて見せる。
「アンタに早く逢いたいと思ったら、待ってなんていらん無くてさ。子供みてーだろ?」
 照れたときの癖で、左手で左のおでこを押さえるようにするその仕草と言葉に、雨紋も自分と同じ気持ちだったことを知って龍麻は嬉しくなってしまう。
「俺なんか、待ちきれなくて太陽が昇る前に起きちゃったよ」
 嬉しさを隠し切れない様子の龍麻を、そっと抱き寄せて触れるだけのキスをする。
「ちゃんとしたのは、後でな?」
「…うん」
 唇が離る時に囁かれた言葉に、頬を染めながら頷くと雨紋が嬉しそうに笑っていた。
「じゃ、行くか」
「うん」






 頬を切るような冷たい風に弄られて、雨紋が好きだという風景を見つめる。
日本海に近い場所で生まれ育った龍麻には見慣れた風景だけど、好きな人と見る好きな景色って言うのは感動するくらい綺麗で、始めて目にしたように見入ってしまった。
「綺麗・・だね」
「ああ、どうしてもアンタに見せたかったんだけど。アンタって海に沈む夕日が見れるとこに住んでたんだよな」
 周りを朱に染めながら海に沈んでいく太陽をじっと見つめていた龍麻は、隣で聞こえる声が暗く沈んでいくのに慌てて顔を上げた。
「雨紋?」
「なんか、情けねーよな、俺様。アンタにとっては見飽きてる景色を、見せたいなんて張り切って連れて来たりして」
 見上げた先に悲しそうに曇っている雨紋の顔が見えて、胸がズキンと痛んだ。
「違っ…飽きてなんか無いよ!そりゃ、毎年海に行くたびに見てるけど、それはただ綺麗だなって思うだけのもので。今日雨紋と一緒に見た海に沈む夕日は一生心に残るくらい綺麗で、この風景を見せてくれた雨紋がすごく好きだなって…。だから、情けなくなんかないよ!だって俺、雨紋と一緒にこの景色が見れてすごく嬉しいし、雨紋が一緒に見たいって思ってくれたのが俺で良かったって思うもん。えっと…後は、あっ…好きな人と見たのは始めてだから、全然見飽きてないよ」
 自分のせいで落ち込んでしまった雨紋を、何とか慰めようと龍麻が必死で言葉輪捲し立てる。
「………」
 そんな一生懸命な龍麻の姿に不謹慎だとは思っても笑ってしまいたくて、懸命に笑いを押し殺そうとするのだけれど結局我慢し切れなくて笑い出してしまう。
「…あははははは、アンタ、めちゃくちゃ言ってる」
「…うっ…だって…」
 自分でも言っていることが可笑しいことくらい承知しているのに、それを笑われては好い気がしない。プウッと頬を膨らませて、不機嫌を露わに示してやる。
「悪い、龍麻サン。慰めようとしてくれたんだよな?すっげー嬉しい」
 ガードレールに腰を降ろしているせいで、目の高さが同じになっている雨紋の笑顔を間近で見てしまった龍麻の、体の熱が一瞬にして上がった。
「ヘヘッ、アンタの顔、夕日に染まって真っ赤だぜ」
 そう言った雨紋の手が、赤くなった龍麻の頬を優しく撫でる。その頬を撫でる手の優しさに龍麻の目がうっとりと細められて、キスをねだるかのように唇がうっすらと開かれた。
「なに、キスして欲しいの。龍麻サン?」
 愛しさが溢れてきそうなくらい優しい雨紋の声に、一層赤く頬を染めた龍麻がコクリと頷いた。
「んっ…」
 両手で大切そうに龍麻の頬を包み込むと、薄く開かれたその唇にそっと唇を重ねた。溶けてしまいそうなくらい柔らかい龍麻の唇を、啄ばむようにして何度も唇を合わせてやる。
「あっ…」
「好きだぜ、龍麻サン」
「うん。俺も、雨紋が好…き」
 短い囁きが交わされると、少しでも離れていたくないというように、どちらからとも無く唇が寄せられる。
「…………暗く、なっちまったな」
「夕日、沈んじゃったね」
 重なる唇の甘さに酔いしれていた二人が、名残惜しそうに離れた時には、辺りはすっかり日が落ちてしまっていた。
「宿、行くか」
「そうだね。お腹も空いたし」
 甘いムードをぶち壊してしまうような、そんな龍麻の台詞に苦笑を漏らすと、バイクを押して歩き出した。
「着いたぜ龍麻サン。ここが今夜の宿」
「…えっ?」
 ちょっとした遠出。と言う雨紋の言葉から小さな安い旅館なんかを想像していた龍麻は、目の前にドンと構える由緒正しそうな純和風の佇まいに目が点になってしまった。
「どうした龍麻サン?もしかして、旅館とかってダメだったのか?」
「…こんな高そうなところ、大丈夫なのか雨紋?高校生のおこずかい程度じゃ、泊まれないだろ?」
 心配そうに見上げる龍麻の頬をそっと指で触れると、本当は隠しておこうと思っていた事柄をつい暴露してしまった。
「ええっ!?2週間毎日地下に篭ってたぁ?」
 おもわず素っ頓狂な声を上げてしまう。
「あっ…」
 自分の上げた声の大きさに慌てて口に手を当てて周りを見渡すが、幸い近くに人影は無くホッと胸を撫で下ろすとキッと雨紋を睨みつけた。
「まさか一人で篭ってたとか言わないよね」
 聞くと言うより否定を求めるようなきつい口調に、困ったように雨紋は頭を掻きながら明後日の方向に視線を巡らす。
「雨紋!!」
 さっきまで怒っていた龍麻の顔が急に泣きそうな表情になって、雨紋のシャツの胸元を掴み上げた。
「俺、雨紋と一緒なら、こんな立派なとこじゃなくても全然構わないから。だから、一人でムチャしないでよ、ね?」
「龍麻サン」
 シャツを掴む龍麻の手に手を重ねると貸すかに震えていて、その指先にそっと唇で触れると誓うように呟いた。
「ごめんな、龍麻サン。アンタを悲しませるようなことはもうしねぇから。だからそんな顔しねぇでくれよ。俺様、どうしていいかわかんねぇだろ?な?」
 宥めるようにそう言いながら、細い指先に一本づつ口付ける。
「…う〜、そう素直に誤られると俺がわがままな子供みたいじゃないか。けど、許してやるよ。だって、俺の為だろ?怒るのはお門違いだよね」
 雨紋の憂いを吹き飛ばすようににっこり微笑むと、自分の手を握っている雨紋の手に同じようにキスをする。
「さっ、早く行こう。これだけ立派なとこなら、露天風呂くらいあるんじゃない?それとも檜風呂かな?」
「う〜ん、露天風呂ねぇ」
 以前一度来たきりの旅館の記憶などあやふやで、期待に満ちた目を向けてくる龍麻に分からないと言うように首を振って見せる。
「取り敢えず、行けば分かるんだし。早く行こう」
 風呂好きな龍麻に引っ張られるようにして、雨紋は旅館の中に足を入れた。
「こちらがお客様のお部屋になっております。お食事は……」
 畳の廊下を延々と歩いた先に二人の部屋が用意されていた。
 八畳はありそうな広い室内に高級そうな黒檀のテーブルが置いてあって、その隣の部屋が寝室になっているようだった。
「それでは、なにかありましたらご遠慮なくお申し付けください。失礼いたします」
 丁寧に頭を下げて仲居さんが部屋から出て行くと、待ちきれないといった風に龍麻が、室内を探索し始めた。
「うわっ、凄い。ここから海が丸見えだ。わっ、内風呂が露天風呂だ。雨紋凄いよ、ここ。本当にお金大丈夫なのか?」
 可愛らしく小首をかしげた格好で覗き込んでくる龍麻の唇に掠めるようにキスすると余裕綽々な笑みを浮かべる。
「心配すんなって、大丈夫」
 もう一度触れるだけのキスを唇にしながらそう言われて龍麻は安心したように微笑んでその広い胸に顔を埋めた。
「えへへっ、なんかすっごい嬉しい。雨紋が俺の為にこんなにしてくれて」
 無邪気に喜びを表す龍麻を、ぎゅうっと抱きしめようと雨紋が手を伸ばした時、廊下から仲居さんの声が聞こえた。
「失礼いたします。お夕飯をお持ちいたしました」
 部屋に入る前のもう一つ向こうの戸が静かに開けられる音がして、二人はそっと体を離した。
「わっ、美味しそう」
 海が目の前にあるだけあって、新鮮な魚介類を中心とした夕食のメニューに龍麻は、嬉しそうに目を輝かせた。
「お給仕いたしますね」
「あっ、大丈夫です。自分たちでしますから」
 親切な仲居さんの申し出を丁寧に断ると、二人で顔を見合わせて小さく笑った。
「やっぱり、こういう時は邪魔されたくねぇよな?」
「そうだね」
 二人っきりで夕食のお膳を囲む。
 食べきれないほどの料理を取り合ったり、食べさせあったりするのが楽しくて、気が付くとあんなにあった料理は、すっかり二人の胃袋に収められてしまっていた。
「腹いっぱい」
「俺もーっ」
 食べるだけ食べた二人は、行儀が悪いと分かりつつもゴロリと畳に転がる。
「はーっ、幸せ」
「お手軽だな、龍麻サン」
「なんだよー、いいじゃん。人間美味いもの食べると幸せになるって決まってんの!」
 からかう雨紋の言葉に向きになって龍麻が言い返す。
「なんだよそれ、誰が決めたんだよ?」
「俺!」
「言うと思った。ほんとアンタって可愛いよな」
「馬鹿にしてるな?本当なんだからな。美味いもの食った時ってのは幸せなの!」
「…そうだよな、美味いもの食った時は幸せだよな」
 自分の言葉に同意して頷いている筈の雨紋の顔に、ニヤリとした笑いが浮かんだのを見てしまった龍麻は、イヤな予感に眉を寄せて身構えた。
「特に、アンタを食ったときなんか、サイコーの幸せ感じてるぜ、俺様」
「っ、なに恥ずかしいこと言ってんだよ!」
 寝転がったままの姿勢で自分を見つめる雨紋の視線に、体が熱くなるのを感じる。
「本当のことなんだろ?アンタが言ったんだぜ、美味いもの食った時は幸せだって」
 揚げ足を取るみたいな雨紋の言い方に拗ねるように頬を膨らませるとフイッと顔を背ける。
「ほら、アンタはどこも美味しいぜ」
「んっ!」
 向けた背中に覆い被さるようにして雨紋が乗っかってきたと思ったら、膨れている龍麻の頬をペロリと舌で舐め上げた。
「なにっ…」
「ココも…こっちも…」
「んっ…やっ…」
 背中を向けた龍麻を仰向けにすると、抗議の声を上げようとしていた唇を、味わうように舌でなぞる。
「…もっと欲しいとこだけど、食べる前には綺麗に洗わねぇとな」
 嬉しそうに弾む雨紋の声にハッと気が付いた時には、すでに龍麻は雨紋の腕の中に抱えられていた。
「えっ?なに?なにすんの?」
「洗うの、アンタを。俺様が、美味しく頂くために。OK?」
 状況を把握していない龍麻の唇に、チュッとキスをする。
「オ…ケー?って言われても!それって…エッチ…するってこと?」
「そう、良く出来ました。ってことで、一緒に風呂、入ろうぜ」
「えっええ?」
 有無を言わさず龍麻を抱き上げると、大股で露天風呂に向かった。
「おおっ、いい所じゃん」
 戸を開けると遠くに潮騒の音が、頭の上に満天の星空が広がっていて、思わず感嘆の声が漏れる。
「ね、雨紋。本当にするの?」
「なに、イヤ」
 振りかえった雨紋の視線に龍麻の頬が真っ赤になる。
「イヤって言うか、なんて言うか…」
 歯切れの悪い言葉を不思議に思って覗き込むと、困ったように眉を寄せる龍麻の顔があった。
「なに?龍麻サン」
「うーっ、だってお風呂ですんのって…なんか、恥ずかしいだろ?」
「は?」
 消えそうな声で呟かれた言葉に、雨紋は不思議そうに声を上げた。
「は?って。だから、お風呂でエッチすんのってビデオみたいで…なんか、イヤだなって…」
 更に小さくなっていく龍麻の声に笑ってしまいそうになる。
 お風呂でエッチから、どうしたらアダルトビデオに発展するのか聞いてみたくて、雨紋は俯いた龍麻の顎に手を伸ばした。
「なあ、ビデオってなに?」
「えっ?…ええ!あっ…」
 笑いを含んだ雨紋の瞳に見つめられるのが恥ずかしくって、何とか視線を逸らそうとするのだけれど、唇が触れそうなほど近くに雨紋の吐息を感じた体は龍麻の意志とは別に、力が抜けたようくったりとしてしまう。
「龍麻サン」
 甘く囁かれる自分の名前にうっとりと瞳が閉じられる。
「あっ…前に見たアダルトビデオで…やってたんだ…お風呂で、だから、なんか思い出して…」
 恥ずかしそうに告白する龍麻の、赤い頬にキスをすると柔らかく耳たぶに歯を立てた。
「あっ…」
「いいじゃん、アダルトビデオみたいだって。俺達は別にウソでやってるわけじゃねぇだろ?それに…・」
 アンタの体、俺様の手で綺麗にしてやりてぇんだ。腰を抱く手に力を篭めながら、雨紋が呟いた。
「それでもイヤ?龍麻サン」
 唇をついばむ雨紋のキスに思考が奪われる。
「いいよ。、雨紋の手で、綺麗にして」
「美味しく食べて、って言ってくれっと、もっとサイコーなんだけどな、龍麻サン」
 わがままな雨紋のお願いに体の熱が一気に上がるのを感じる。
 それでも龍麻は、結局わがままを訊いてしまうのだ。
「…雨紋の手で綺麗にして、美味しく…食べて」
「すっげー、龍麻サン。今ので俺様、イキそうになっちまった」
「バカ…」
 重なってくる雨紋の唇にゆっくりと目を閉じる。濡れた雨紋の舌に唇をなぞられて小さく唇を開くと、スルリと滑り込んできた舌に舌を絡め取られた。
「んっ…んん…雨…紋…」
 キスしたときにうっとりと名前を呟く龍麻が好きで、その声が聞きたくて、何度も口付けを繰り返す。
 甘い唇を吸いながら、龍麻が着ているトレーナーに手を掛ける。
「手…上げて」
 唇を触れ合わせたまま囁く雨紋の言葉に唇の動きだけで、うん、と答えるとすっぽりと服が剥ぎ取られた。
「雨紋」
 服を脱がされるときに離れた雨紋の唇を追って、自分より少し高い位置にある唇に甘く噛むように口付ける。
「んっんん…」
 差し込んだ舌先を捕らえられて、溢れる唾液が口の端から首筋へと流れていく。
「っ…」
 密着した体の隙に滑りこんできた雨紋の手が、シャツのボタンを一つづつ外しては、露わになった肌に指先を滑らせる。
 脱がされていく行為が恥ずかしくて、首にからませていた手を雨紋のシャツに移動させると、キスに溶かされて上手く動かない手でボタンを外す。
「…んふっ…」
 直接オスを刺激するような龍麻の声に、耐えきれなくなってズボンのベルトに手をかけた。
 カチャカチャ。
 ベルトの金具が外される音と共に龍麻の下肢を覆っていた布が消えて、冷たい外気が肌を刺すように撫でていった。
「んっ…」
 羞恥と寒さに体を強張らせる龍麻を懐に優しく抱きしめると、片手だけで器用に脱ぎかけのシャツとズボンを取り去ってしまう。
「ズルイ、俺が脱がせてやりたかったのに」
 整わない呼吸を無理やり押しやって、恥ずかしさを誤魔化すための文句を口にする。
「脱がせてもらうのもイイんだけどよ。今は、アンタが早く欲しいんだ」
「…バカ」
 歯が浮きそうな台詞をまじめに囁かれると、どうしていいか分からなくなる。けど、嬉しくないわけじゃなくて。
「アンタが好きなんだからしょうがねぇの。それより…いい?」
「んんっ…」
 弱いと知ってる耳と首筋をくすぐるように唇で触れながら言葉を待つ。
「龍麻サ…っと、なんだ、コレ?」
 足元にまとわりつく脱ぎ散らかした衣類から硬いなにかが出てきて、見覚えのあるその箱を雨紋は手に取った。
「龍麻サン。なんでアンタがこんなモン持ってんだ?」
 詰問口調の雨紋の声に、やっぱり自分には必要ないものだったのかと顔を上げた龍麻は、予想に反して怖い顔をした恋人の姿に身を竦ませる。
「えっ、京一が『男の必需品』ってくれたんだけど、俺良くわかんないし。雨紋の方が使うかなって、思ったんだけど。そんなに怒るような中身だったのか?」
箱を手にして固まっている雨紋に、困惑気味に声を掛ける。
「あんた、これがなんだか分かってないのか?」
カタカタと目の前で振られる箱に、本気で心当たりが無いから分からないという風に肯いて見せる。
「開けてみな。いくらあんたがそういう事に鈍くても、中身を見りゃなんだか分かんだろうし」
ポンと渡された箱を手に取ると、恐る恐る中身を空けてみる。
「えっ?」

 ふううっ、続きです。
箱の中身、それはね、ひ・み・つ(笑)
しかし、次はエッチとか言っときながら、
またまたひいてしまいました(^^;;
つ、次こそはっ・・・。

では、続きを待ってくれると嬉しいな♪

2000-08-22