Let’s 浴場パラダイス

 一人暮しの静かな部屋、ページをめくる音だけが聞こえるそんな静寂の空間に突然携帯のベルが鳴り響いた。
「はい、高瀬です」
 番号を知ってるのは仲間だけだからと、相手の番号を確認もせずに電話に出た天夜は自分の行為を一瞬にして悔やむ羽目になる。
「よう、天夜サン」
「…雨紋?」
 受話器から聞こえてきた声は、最近ちっとも連絡をくれない年下の恋人のものだった。
あんまりにもご無沙汰な相手の声に心臓が早鐘のように鳴り出す。雨紋からだと分かっていれば、もっと焦らしてから不機嫌な声を装って出てやろうと思っていたのにと、自分の軽率な行動に唇を噛んだ。
「突然で悪いんだけど、今、下に下りて来れねぇ?」
「えっ?」
 誰が見ているわけでもないのに赤くなった顔をパタパタと手で仰いでいた天夜は、その言葉に慌ててベランダに走り出る。
 ベランダの柵から身を乗り出すようにして階下を覗き見れば、白い息を吐きながら手を振っている雨紋が見えた。
「えっ、雨紋?!…待ってて、今、行くから」
 最近めっきり寒くなった気温に、バイクで来たのであろう雨紋の体を気遣って慌てながらもお気に入りのマフラーを手に取って部屋を飛び出した。
 エレベーターを待つのももどかしくて階段を一つ飛ばしで駆け下りる。マンションの入り口付近に、見慣れた雨紋のバイクとずっと逢いたかった恋人の姿を見つけた。
「うっ…雨紋!!」
 ゼイゼイと肩で荒い息を吐きながら、天夜が走り寄ってくる。
「よう、天夜サン」
 どう見ても階段を駆け下りて来た以外に見えないその様子が愛しくて、まだ呼吸が整わない天夜をソッと腕に閉じ込めるように抱きしめた。
「雨紋?…」
 優しく背中を撫でる雨紋の手に少しづつ呼吸が整っていくのを感じる。
 頬に触れる空気は冷たいのに、雨紋と触れ合っている箇所が熱を持ったように熱かった。
「そんなに走ってこなくたって、あんたの顔見ねぇで帰ったりしねぇぜ」
 さり気に自信過剰な年下の恋人の態度に、腹が立つ前にカッコイイと思ってしまう辺り、大概自分も腐ってるなと思わずにいられない天夜だった。
「エレベーターじゃなくて、走ってくるくらい俺様に会いたかったのか天夜サン?」
 わざわざ抱きしめていた腕を緩めてまで覗きこんでくる視線が恥ずかしくて天夜は赤くなった顔を隠すように雨紋の胸にぎゅっとしがみついた。
 そんな天夜の行動に目を細めると、目にかかるほどの長い前髪を梳き上げて、露わになったおでこにキスを一つ落とす。
「俺様は逢いたかったぜ、あんたに。天夜サン」
 額に触れたキスが鼻先に一つ、右の頬に一つ、左の頬にも一つ落ちてきて、天夜はそっと顔を上げると、雨紋が聞きたがっている言葉を口にした。、
「…雨紋に、逢いたかった」
 恥ずかしそうにそう告げて目を閉じる。
「好きだぜ、天夜サン」
 キスを待つ天夜の小さな赤い唇に待ち望んでいた口付けを与えてやる。
「んっ…はぁ…」
 本当ならもっと長い口付けを楽しみたいところだが、如何せんここは天夜の住むマンションの前で、幾ら暗いとはいっても何をしているかくらいは分かってしまう。
 名残惜しいと思いながらも雨紋は、そっと唇を離した。
「悪い、大丈夫か?」
 腕の中の天夜に気遣うように声を掛けると、目元を赤く染めながら恥ずかしそうにコックリと頷いて、雨紋の胸に摺り寄せるようにして頬を押し当ててきた。
「天夜サン、明後日ヒマじゃねぇ?」
「はぁ?」
 突然の話の展開に、天夜の目が点になる。
「いや、前に約束してた、ちょっとした遠出に出かけたいんだけど。あんたの都合が大丈夫かと思ってな」
「えっ、それってあの時の?」
 一瞬にして天夜の脳裏に雨紋との始めての時のことが走馬灯のように蘇ってきた。始めての自分を優しく抱きしめて、緊張が解れるまで何度もキスしてくれた。そうして甘い余韻が残る中二人っきりで遠出をしようと約束をした。あの時の甘い気持ちが全身を浸して、蘇えってきたトキメキが天夜の心を落着かなくさせる。
「どうした、天夜サン?顔が真っ赤だぜ。…もしかして具合、悪かったのか?」
 恥ずかしくて頬を染めている天夜の様子を、熱があるのではと勘違いした雨紋が、心配そうに顔を覗き込んでくる。
「……」
 真相を口にできるはずもなくて、俯いたままで左右に首を振る。
「部屋まで送ってく。ほら、行くぜ天夜サン」
 無言の天夜の様子を遠慮と取った雨紋は、庇う様に天夜の肩を抱き寄せると、そのまま有無を言わさずにマンションの入り口に向かう。
「ちょ…雨紋、雨紋ってば!」
 頬を染めた理由を勘違いした雨紋の行動に、抵抗を試みてみるが本気で抗うほどのことでもなくて、結局はいいようにエレベーターに乗せられてしまった。
「ほら、天夜サン。こっち向いて」
 ボタンを押すのももどかしい様子で雨紋の手が、戸惑う天夜のあごをグイッと持ち上げた。
「熱は、ねぇのか?」
 コツンと額を合わせて熱を見る行為に、更に天夜の頬が赤く染まる。
「おい天夜サン?本当に大丈夫なのか?立ってられないくらいなら、寄りかかって良いから」
 そう言いながら雨紋の手が天夜を優しく抱き寄せる。
 暖かい腕の中にいると、今が冬だと言うことすら忘れてしまいそうなくらい、心の中が温もりで一杯になる。
「悪かったな、天夜サン。具合悪かったのに無理言って…」
 背中を抱く手の逞しさにぽわ〜んとなっていた処に、頭の上で呟かれた声の落胆の色に天夜は慌てて顔を上げる。
「違っ…!違うよ、具合なんて悪くないって。ちょっと別の事考えてたのと、…雨紋が………」
 勝手に勘違いしたんじゃないか。とは言えなくて、無意識の内に手が、ギュッと雨紋の服の端を握り締めていた。
「俺が?…何?天夜サン」
 優しい声に促されて、口を開く。
「雨紋が心配してくれてるから…なんか、言えなくて」
 恥ずかしそうに心情を口にする天夜が可愛くて、唇の上にチュッと音だけのキスをすると、自分と比べると格段に細い天夜の腰に手を回して胸に抱き寄せる。
「えっ?うわっ!!雨紋!?」
 腕の中に捕らえられて何事かとオタオタしていると、ひざの裏を掬うようにして抱き上げられてしまった。
 足に力が入らない不安定な状態にバランスも取れなくて、つい雨紋の髪に指を絡ませてしまう。
「イテテ。大丈夫あんたを落とすような真似は絶対にしねぇから、おとなしくしててくれよ、天夜サン」
 漢の顔でそんなことを言われると、意味もなく大丈夫だと思ってしまう。
 誰とも会いませんようにと祈りながら、雨紋の腕の上で大人しくしている天夜の耳に、やっと目的の階を告げるチャイムの音が聞こえた。
「あっ…あのっ、雨紋?」
 一向に天夜を降ろす様子もなくスタスタと天夜の部屋の前へ向かうと、雨紋は無造作にドアのノブを握った。
「天夜サン?」
「うっえっ、何?」
 怪訝そうなと言うべきなのかそれとも怒っているというべきなのか、なんとも形容のしがたい声音で雨紋が天夜の名前を呼ぶ。
「カギ…掛けようぜ」
 雨紋の手に握られたドアノブが何の抵抗もなく開いた。
「……」
 一刻でも早く雨紋に逢いたかった天夜にしてみれば、鍵のことなんか完全に失念していて言われるまで思い出しもしなかったし、きっと一人でここに戻ってきても気にしないで素通りしていただろうと思う。
 なにも言わない雨紋に怒っているのかと思った天夜は、さっきまでのウキウキもドキドキもすっかり消えてしまっていることに気がついた。
「………」
 自分に逢うことを何より優先してくれた天夜を怒る気なんか最初から全然なかったのに、しゅんとしている姿がなんとも神妙でつい意地悪をしてみたくなる。
「さてと、鍵かけてなかったお仕置きをしねぇとな」
 勝手知ったるとまではいかないが、そこそこ把握している天夜の部屋に上がり込むと、さっきまで天夜が本を読んでいたソファの上に、天夜を膝に乗っけた格好で腰を降ろす。
「なににしようか?天夜サン」
 楽しそうな雨紋の声の響きに、背中がゾクリとして言葉が返せない。
「ん?大丈夫だって、痛てーことはしねぇから」
 そう言って笑う雨紋の手がスルリとシャツの中に滑り込んできて、冷たい指の感触に天夜の体が微かに強張った。
「っーー」
「…ぷっ、あはははは。悪りぃ天夜サン。お仕置きなんてウソだよ。ウソ。ちょっと苛めて見たくなっただけ。もうしねーから、そんな顔すんなって、な?」
 泣き出す前みたいな表情をする天夜の頭をグリグリと撫でて唇にチュッとキスをすると、それだけで頬を染める天夜をぎゅっと抱きしめる。
「雨紋って、生意気」
 揶揄われていたと知って天夜がプイッと顔を背ける。
「悪かったって、ごめん天夜サン」
 拗ねる天夜の頬に手を伸ばして手のひらで優しく包み込むと、本気で怒っているわけではない耳元に甘く囁きを呟く。
「あんたの泣きそうな顔が見たかったんだ。俺様しか知らないあんたの顔が」
「んっ」
 恥ずかしい雨紋の台詞に真っ赤になる天夜の、一番赤い唇に唇を重ねる。
 柔らかい唇の感触にこれ以上もしたくなって、でも今日はエッチなことをしに来たわけではない雨紋は、肝心なことを忘れてしまう前にと泣く泣く唇を離した。
「あのさ天夜サン、さっきの話の続きなんだけど」
 良いところでキスを止められた天夜の目が恨めしそうに話をする雨紋を睨んでいる。
「明後日、俺様と一緒に一泊旅行してくれる?」
 絶対に自分が「うん」と言うことを確信している雨紋の口調に、つい反対のことを言ってやりたくなるけど、一緒に旅行をしたいのは本当で、思惑通りになるのは癪だけど結局「うん」と頷いてしまう。
「サンキュ、天夜サン」
 嬉しそうに笑う雨紋につられて天夜の顔にも笑みが浮かぶ。
「さてと、それじゃ俺そろそろ帰るわ。明後日、暖かい格好してきてくれよな、天夜サン」
 玄関まで見送りに来た天夜にそう言うと、お別れのキスとばかりに小さく唇にキスをする。
「んじゃ。おやすみ」
「うん、気を付けてね」
 バイバイと手を振りながら雨紋の姿がドアの向こうに消えると、天夜は嬉しそうにグッと手を握り締めた。
「雨紋と一泊…。へへへ、約束忘れてなかったんだ」
 ウキウキしながらも言われたとおりドアに鍵を掛けようと手を伸ばした天夜は、ずっとマフラーを握っていたことに気が付いた。
「あっ!」
 雨紋に貸すはずだったのにと慌ててドアを開けると、ちょうど来たエレベーターに乗り込む雨紋の姿が見えた。
「雨紋!雨紋、待って!」
 エレベーターが行ってしまっては大変とばかりに靴に足を入れるが、こういう時に限って焦りから上手く靴が履けない。
「わぁー!ちょっと待って、雨紋!」
 もう靴を履くのはいいとばかりに裸足で飛び出した天夜は、締まりかけたエレベーターに向かって走り出した。
「えっ!?天夜サン?」
 名前を呼ぶ声に振り返ると、裸足で駆けて来る天夜の姿が見えて、雨紋は慌ててドアを開くボタンを押した。
「う…雨紋!…っはぁ」
 閉じようとするドアをムリクリ押し開けて出てきた雨紋の胸に勢い良く飛び込んできた天夜が、嬉しそうに淡いブルーのマフラーを差し出した。
「これ…ハァ…バイクじゃ、寒いだろ?」
 照れくさそうに笑いながらマフラーを巻いてくれる天夜をそっと腕の中に抱きしめた雨紋は、ひょいっとばかりにお姫様抱っこの要領で腕の中の体を横抱きに抱きあげる。
「うわっ!雨紋、何?」
 突然のことに声をあげる天夜を無視して今来た道を戻る。
「何も、裸足で出てこなくても」
 呆れたような口調で呟いて、部屋のドアを開けるように促す。
 玄関のマットの上に天夜を降ろした雨紋は、後ろ髪を引かれまくりながらくるりと背を向けた。そのままドアを開けて帰ろうとする雨紋の背中に天夜がソッと腕を伸ばした。
 なんだかこのまま離れたくなくて、つい手を伸ばしてしまった。
「雨紋」
 ギュッと服を握る天夜の手に篭められた思いに気付いた雨紋は、小さく唸ると胸に天夜を抱き寄せて荒々しいほどに口付けをむさぼった。
「んっんん〜」
 突然の口付けに反応できない天夜の口唇を、強引に舌で割り開く。
「んっ…ふぅっ…」
 焦らしたりしない直接的な熱い口付けに、直ぐに天夜の体から力が抜けた。甘さよりも思いを注ぎ込まれるような口付けに、うっとりと体を預けて酔いしれる。
「んっ…」
 丹念に口腔をなぞる雨紋の舌にオズオズと天夜が舌を絡ませてくる。
 慣れないその仕草に愛しさが更に込み上げてきて、体を密着させるように天夜の腰を強く引き寄せた。
「あっ…うも…んっ…」
「だめ…マダだ…」
 息苦しさに離れた唇を追って一層深く雨紋の舌が絡みついてくる。
 開いた唇の形をなぞる様に雨紋の舌が輪郭を辿っていく。そのもどかしさに自分から舌を差し出すと、吐息で笑った雨紋がその差し出された舌を優しく歯で噛んだ。
「あんっ…」
 舌を甘く噛まれる刺激に天夜のオスがピクリと反応する。
「感じてんの?」
 密着した下半身に天夜の熱を感じて、雨紋が嬉しそうに耳元に吐息を吹き込んだ。
「やあっ…」
 敏感な耳元を弄られるとつい甘い声が漏れてしまって、恥ずかしさに天夜が口元を押さえる前に、降りてきた雨紋の唇にもう一度唇を塞がれてしまう。
「んんんっ…」
 ねっとりと絡み付く雨紋の舌に官能を引きずり出されて腰から力が抜けていく。
 立っていられないほどに感じている天夜の体を軽々と抱き上げると、きちんと整えられたベッドに運ぶ。
「あっ…」
 背中に柔らかなスプリングを感じた天夜が、行為を予感して小さく声を上げた。
「今日は、ここまで。俺様も我慢してんだから、あんたも我慢してくれよ、な?」
子供にでも言い聞かせるように優しくそう言うと、名残惜しげに髪を梳いて体を離した。
「なん…で?」
「なんでって、そりゃあんた…」
 離れていこうとする雨紋の首に手を回すと自分から深く唇を合わせる。
「何でだよ…もう、こんなんなってるのに…」
 すでに自分の手だけでは治まりが付かないほどに高ぶった体が、恥ずかしいと思う気持ちを押さえ込んでしまう。
 震える手で雨紋の首にしがみつくと、ピアスが飾られた耳たぶに唇を寄せた。
「雨紋…我慢、できないよ…」
 熱く囁く天夜の吐息に雨紋の雄も自己の主張を始める。
 本当ならば今すぐにでもその甘い誘惑に乗りたいところなのに、思うところがある雨紋は食い千切るほど強く唇を噛んで自分の欲望を押さえ込んだ。
「天夜サン、好きなものって先に食べるほう?」
 話をはぐらかすかのように、まるっきり今の状態と関係ないことを言い出す雨紋を、熱に潤んだ目で睨みつけてやるが、思いがけない真剣な目にかち合って、戸惑いながらも答えを口にした。
「最後…だけど」
「俺様もそうなんだ。ってことでさ、一番美味しいあんたは、旅行の時まで取っときたいわけ。本当は今すぐにでも全部食べてしまいたいくらい、俺様も限界なんだぜ。分かってくれよ、天夜サン。向こうでたっぷり、可愛がってやるから」
 そう言う雨紋の唇が敏感な天夜の首筋をくすぐる。
 我慢しろと言った唇で、弱い所を攻められた天夜は泣きそうになりながら唇を噛んだ。
「じゃあ、天夜サン」
 噛み締めた唇に優しくキスすると、今度こそはと雨紋は立ち上がった。
「………」
 今口を開いたら恥ずかし気もなく雨紋を求める言葉を口にしてしまいそうで、去っていく後姿を天夜は黙って見送った。
「………ったく、そんな目で見ねぇでくれよ。せっかく我慢してるってのに」
「えっ?…ええ?」
 困ったようにガシガシと髪の毛を掻き乱しながら戻ってくると、まだベットに転がったままの天夜にそっとキスをして、熱く熱を持ったソコに手を押し当てた。
「うっ…雨紋?」
 無言のままジーンズのファスナーを降ろす雨紋の手を、どうしていいか分からない表情で見つめている天夜の、戸惑いに気付いた雨紋が苦笑に似た笑みでその目を見上げる。
「分かってるって。良くしてやっから、今日はこれで我慢な?」
 見せ付けるように手の中に握りこんだ天夜の性器の先端にキスをする。ピクンと震える体の敏感さに気を良くすると、解放を待つペニスに愛撫を施す。
「あっ…やっ、ダメ、雨紋。…ればっか…んぅっ…」
 すぐにでもイってしまいそうなほど張り詰めたペニスの、根元を輪にした指で少しきつめに押さえると、それだけで精を吐き出せなくなった性器の先を音を立てて吸ってやる。
「んんっ…」
 激情を堰き止められた苦しさから天夜の目元に涙がうっすらと浮かび上がった。
「はぁっ…」
 先端を親指の腹でグリグリと刺激しながら、震える竿の部分に柔らかく歯を立てる。
「ひいっ…」
 噛み付かれると思ったのか天夜の体が硬直した。しかし、貪欲な欲望はそれすらも甘い刺激にすり替えて、快感を拾い上げる。
 一人だけ追い詰められる恥ずかしさと申し訳なさに雨紋の手を止めようとするのだけれど、一旦欲望の火が点いた体はそんな理性をも簡単に飲み込んでしまう。
「もっ…雨紋…かせて…あんんんっ…」
 イクことができないように押さえておきながら、容赦なく攻めたてる雨紋の舌に耐え切れなくて、天夜は無意識の内にペニスを戒める雨紋の指を引き剥がそうと下肢に手を伸ばしていた。
「ダメだって天夜サン。せっかく俺様がしてやってンのに、自分でしちゃだめだろ?」
 散々焦らしておきながら楽しそうにそんなことを言う雨紋を意地悪だと思うけれど、そんなところもやっぱり好きで、恥ずかしいけれど一番欲しい刺激を我慢できなくて、おねだりを口にしてしまう。
「しないから。自分でなんかしないから、雨紋の手で、イかせてよ。もう、我慢できない」
「手のほうが良いの、それとも口でイかせて欲しい?」
「…口が…いい…」
 恥ずかしくて死んでしまいそうだと思いながら、淫らな欲求を口にした天夜はこれ以上ないくらい赤くなった顔を両手で覆った。
「良いぜ、イかせてやるよ。あんたの望み通り、口で」
 その言葉を証明するかのように、もどかしいだけの愛撫しかくれなかった雨紋の舌が、明らかに解放を促すように追い上げる。
「んーっ!…うも…ん、雨紋…やっ…あああーっ!」
 先っぽをキツク吸い上げられただけで天夜は熱い奔流を雨紋の口腔に迸らせた。
「……」
 気だるい解放感に包まれていた天夜は、自分の放ったものが飲み干される音を耳にしてハッと我に返った。
「ご…ごめん、雨紋。俺…俺ばっかり…あ…」
 雨紋だって我慢してるのに。罪悪感にさいなまれた天夜は、謝罪の言葉を口にするとそれっきり俯いてしまう。
「…おいおい、なに誤ってんだよ、天夜サン」
 天夜の罪悪感など分かっていると言いたげに雨紋の手が俯いた頤に伸ばされる。
「だって…俺一人で…」
「分かってるって。俺様が良いって言っただろ?それとも良くなかったのか?」
 そんな風に言われて天夜はぶんぶんと首を左右に振った。
「だったら良いんじゃねぇ?俺様の分は、明後日まで取っとくさ。そのほうが美味いってもんだしな?」
 わざと明るくそう言う雨紋の気遣いに今は乗せられることにして伏せていた顔を上げる。
「分かった、明後日は雨紋の好きなこと、してあげる」
 テレながらそう言うと赤くなった頬に唇が触れた。
「期待してる」
「うん、期待しててよ。俺、頑張るから」
 解放の余韻で羞恥心が麻痺している状態だからこそ言えるその言葉を笑って聞きながら、ポンポンと頭を撫でて立ちあがる。
「じゃあ、おやすみ。天夜サン」
「おやすみ、雨紋」
 唇に触れるだけのおやすみのキスをすると、今度こそ雨紋が立ちあがった。
「鍵、新聞受けに落としとくから、アンタ寝てて良いぜ」
「…うん…」
 ぐったりしている天夜の体をベッドに寝かすと、机の上に置きっぱなしになっている鍵を手にした。
 今にも眠ってしまいそうになっている天夜の姿に愛しさが込み上げてきて、煩悩を立ちきるかのように頭を振って玄関に足を向けた。
 後ろ手に天夜の部屋のドアを閉じると、長いため息が漏れる。
「良く我慢したぜ、俺様」
 あんな可愛い姿を見せ付けられて、よく寸止め出来たものだと自分を誉めてやりたい気分だった。
「うっ…やべっ…」
 思い出すだけで大変なことになりそうで、新聞受けに天夜の部屋の鍵を落とすと足早にその場を後にした。

 えーっと、雷主です。(^^;;
本当は本にしようと思って書いていた話しなんですけど、
色々あってHPに載っけることにしました。
うちのダーリン’sの中で、唯一まともな彼です(^^)
好きです、雨紋くん。ラブ。
あんまりお仲間さんがいないんで寂しいんですが、
細々と頑張っていこうかと・・・。
これから先に、お待ちかねのアノシーンがあります(笑)
えっ?待ってないって?
おかしいなぁ(笑)
では、続きを待ってくれると嬉しいな♪