For You 14
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まるで取り計らったように、偶然がある一つの未来に味方をしている。京にはそう思えてならなかった。 退院の次の日、父親は急な出張に出た。3日は帰らないという。そして母親もまた、何も問わず京の望むまま外出を許してくれた。 携帯を持つ手が震える。 一つ深呼吸をした後、意を決した指が押し慣れた短縮をなぞる。 いつもと変らぬ呼び出し音が鳴り始め、このまま永遠に続いて欲しいと願ったコールは、3度目が鳴り終わる前に愛しい人の声に変った。 『京?』 「うん・・・俺」 『退院おめでとう。どう?調子は?』 どこまでも優しい声に、涙が出そうになる。 「ありがとう。もう平気」 『そう。でも無理はしないで』 「ん・・・」 『・・・どうしたの?』 震えそうになる声を隠せば隠すほど、今ある京の身の回り全てが現実から切り離されてゆくようだった。 心と身体がバラバラになる。 そんな中でもただ一つ。揺るがずにしがみ付いているものは、一方的で途方も無い傲慢な願いだけ。 拓也の気持ちを充分過ぎる程解っていて、酷いことをしようとしている。 それだけがこれからする京の全てだった。 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・逢いたい」 ********** 恋人の願いを叶える為、拓也は待ち合わせ場所へと急いだ。 既にその場に来ていた京の姿を見つけると、その手を取り人目も憚らず抱き寄せた。そして京もそれを拒まず、それどころか自ら身を寄せ、拓也の背に腕を廻しその胸に甘えた。 温もりも手放しがたく車に乗り込むと、ギアを握る拓也の手に京の手が重なる。いつにない京の仕草に拓也は少し驚いたが、真っ直ぐに自分を見詰める黒い瞳が嬉しくて、思わず微笑みが零れた。 信号待ちで助手席の京が伸び上がり、そっと拓也の耳元に囁く。 「・・・はやく2人きりになりたい」 チェックインしたのは、街の中心部にあるシティホテル。 そっけないシンプルな扉を開け部屋へと入り、締まるのも待てずに二人は抱き合った。 数歩先のベットさえ遠く、早急に欲しがる気持ちを宥めながら、拓也は立ったまま京のシャツのボタンを外してゆく。 拓也が京の胸の傷にキスを落し、その横にある小さな薄紅の花に歯を当てると、のけぞった白い喉から微かな甘い声が漏れた。 「・・・ん・・・・」 唇を割って舌を絡め、拓也は必死でしがみ付く細い身体を抱きしめる。 「京・・・・京・・・・」 「拓也・・・」 薄い胸を激しく上下させ京が喘ぐ。 押し寄せる欲情の波を振り切るように2、3頭を振ると、京は拓也の前に跪き、前を寛げ、躊躇いも無くその熱い塊を唇に含んだ。 頬を窄め、濡れた音を立てながら柔らかな舌が絡み、京の指先が含みきれない部分に愛をそそぐ。 「きょ・・・う・・・・」 拓也の指が艶やかな黒髪を掴み、引き剥がそうとしたが、京はそれを聞き入れず、更に喉奥へと呑み込んだ。 「・・・いいの・・・?」 拓也の欲望に掠れた声に、京は小さく肯いた。 京の頭を両手で包み込み、ゆっくりと腰を動かしながら、拓也は充分過ぎる程の快感を追い詰める。 「・・・京・・・イイ・・・」 眉を寄せ瞳を潤ませながら奉仕する京の肌が、拓也の声で朱に染まる。 「離して・・・出る」 制止の言葉に京の頭が嫌だと横に振られた。 「・・・飲めるの・・・?」 今度は肯定。 「京・・・・愛してる・・・」 拓也は熱い滾りを放ち、京はそれを愛しげに飲み干した。 |
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唇を手の甲で拭う京の肩をそっと包み、立ちあがらせる。 「ありがとう、京」 手首を掴み、口接けた。唇を舐め、舌を吸い、抱き寄せると、熱い吐息が囁く。 「拓也……」 「してあげる……」 拓也は京の耳を飾る青い石ごと耳朶を噛み、耳の裏を舐めた。そして、肩を抱き、膝の裏に腕を通し、細い身体を横抱きに抱き上げる。 ……痩せたな。 抱きしめていた時に感じた細さは、抱き上げてさらに実感する。 ベッドに京を下ろし、はだけていたシャツを脱がせる。京によって広げられていた自分の衣服を脱ぎ、ベッドに乗り上げる。 伸ばされる細い腕を掴み、胸に引き寄せる。 「京」 「拓也」 それ以外の言葉が消えればいいのにと思う。そうしたら、自分たちは、とても幸せになれる。 ふと、そう感じて、拓也は何をと思う。 これから自分たちは幸せになれるのにと思い直す。 そっとベッドに押し倒し、キスを交わしながら、京のジーンズを脱がせる。 下着も一緒に脱がせて、現われた淡い茂みの中から、愛しい分身を掌で包み込む。 「ん…………」 ゆっくりと掌で上下に育てながら、唇に含む。京が拓也の髪を掴み、踵がシーツを蹴る。 拓也は京の膝を立て、後ろの蕾に指をずらす。会わない時間の長さを物語るように、そこは固く拓也の指を拒否しているようだった。 「京、ちょっと待ってて……」 クリームを取ろうと起き上がった拓也に、京がしがみつく。 「いや」 「京……」 「離れないで」 「京、だってね」 肩を抱き寄せ、宥めるように背中を撫でる。こめかみにキスを繰り返し、辛いだろ?と囁く。 「いい、……いいから」 腕を掴む京の手が震えているのに気づき、拓也は膝の上に抱き寄せる。 「京、大丈夫。傍にいるから」 「…………ん」 しがみつく腕の愛しさに、拓也はキスを繰り返す。 「辛くてもいいの?」 「いい……。強く、抱いて」 唇を吸い、舌を絡め、拓也は細い身体を折れるほどに抱きしめた。一瞬、京が消えてしまうような感覚に襲われたのだ。 「離さないよ」 深いキスの合間に、拓也は京に告げる。 「何があっても、離さない」 それが二人を繋ぐ確かな糸になると信じて。 ベッドに京を寝かせ、拓也は京の足首を持って左右に大きく広げる。 その中心で存在を主張する京にキスをして、拓也はまだ固いままの蕾に舌を這わせる。 「んん……!」 京は背中を駆け昇る快感に息を飲み、熱い息を吐いた。 くちゅっと、音が鳴る。 「京……」 指を挿し入れ、襞を舐める。 先走りの出た茎を、それを絡めながら、大切に扱く。 太腿の内側を強く吸う。淡い紅色の花が浮かぶ。 「や……、拓也……、きて……」 京が首を振って、拓也に両手を差し伸べる。 「ダメだよ、京。先に気持ち良くなって」 「や、……早く欲しい」 涙に滲む目で見つめられて、拓也は京をもう一度口に含んだ。 |
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早急に拓也を身の内深く欲しがる細い身体を宥め、口に含んだ熱を煽るように音を立てて拓也は京を愛する。 しっとりと汗ばむ内腿の柔らかな部分を指の腹で刺激しながら唾液で潤う後庭へと廻し、狭すぎる入り口へと再びゆっくりと指を埋め込んでいった。 京の口から苦しげな喘ぎが聞こえたが、それを甘い物へと変える為にも止めてはやらない。 「京・・・力抜いて・・・」 「ん・・・・ぁ・・・たく・・や」 「そう。いい子だ」 僅かに緩んだ呼吸に合わせ、指をゆっくり出し入れすると京の細い腰が浮いて僅かに揺れた。 「や・・・も・ほ・・し・・・ぃ」 「もう少し・・・慣らしてから・・・ね」 「い・・・ぁ・・・」 欲しがる気持ちと、久しぶりに合わせる肌への緊張からくる不調和のせいなのか、なかなか完全に勃ちあがったまま保とうととしない京の中心を拓也は唇で強く吸い上げ、まだ辛いだろう狭い場所に2本目の指を添えた。 どうしても強ばってしまう身体をにキスを落しながら、傷つけないギリギリの強さで捻じ込んでゆく。 「あ・・あ・・・・ぁ・・」 「お願いだから・・・一度・・・イって」 指先に掠めるしこりを強く刺激する。 「あぁっ!」 白い喉が逸らされ、悲しいほど薄い胸が喘ぐ。 「た・・・拓也・・・拓也・・・!」 刺激の強さに、身も世も無く泣き縋る京の腰を抱き込み、更に刺激を与え続ける拓也の脳裏にふと最後に彼を抱いた記憶が蘇った。 「京・・・?」 「・・・イヤ・・・離さないで・・・抱いて・・・ね・・抱いて・・・お願い・・」 刺激を止めた拓也に、京はその先を哀願する。 僅かな戸惑いさえも不安なのだと、京は拓也の唇へ自分のそれを重ね、舌をねだり、唾液を欲しがった。 あくまで優しく自分を扱う拓也に焦れたのか、京は涙も拭わぬまま拓也の腰を自ら跨ぎ、灼熱の猛りをその場所へと宛がう。 「京・・・!?」 「いや?駄目?・・欲しい・・・拓也、欲しいお願い・・・っ」 「・・・京・・・!」 まるで酷くして欲しいと願うような京の要求に、拓也は困惑する。 だが、縋り付くか細い温もりの愛しさにその身を掻き抱くと、抱きしめる力と共に愛しい身体を自分の上に引き落とした。 「あっ・・・ぁっ・・・」 「キツ・・・緩めて・・・京」 先が入り込んだだけで、それ以上苦しくて受け入れられないのだろう。押すことも引くことも出来なくなってしまった腰を頼りなく震わせながら、痛みの方が強い事を隠し切れず、濡れた唇が擦れた悲鳴を放つ。 拓也は髪を撫で、舌を与え、抱えた背から下ろした両手で双丘を揉みし抱き、京を宥める。その辛抱強い助けを借りて、京は引き攣れる感覚を必死で逃しながら拓也を呑み込んでいった。 痛みが伴う繋がりがどうしても京は欲しかったのかもしれない。そんなものは、拓也を想えば何の償いにもならない事は解っている。なのにもう止める事が出来ない。それが愛するものの証を、己の身体に刻みこみたいという身勝手な欲望だと気付いてはいても。 身も心も、拓也でなければ補えない「何か」が欲しかった。 「も・・すこし・・・」 「・・・ん・・・ぁっ」 「京・・・愛してる・・・愛してるよ。京だけだよ・・・」 「拓也・・・拓也・・・・・・拓也・・・・!」 「京・・・っ・・・」 |
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灼熱の溶岩に包まれたように、全てが京の身体の中に沈んでいく。 燃え盛る熱い塊が身体の中に分け入ってくる。 ……熱い、 …………熱い。 総てを飲み込み、埋め込み、二人は見詰めあった。 「京……」 拓也の呼ぶ声に、京は涙を零す。 「……辛い?」 心配そうに尋ねる拓也に京は首を振る。そのまま拓也の首に腕を回して抱きつく。 「ん……」 自分の身体の動きに、思わず声が漏れる。 「いい?」 「もっと……、強く……」 京の肌から立ち上る、汗の匂い。それは紛れもなく、京の匂い。爽やかで、清潔な香り。 「京」 拓也は京の腰に手を掴み、持ち上げる。 「あっ……、ああっ!」 京は白い喉を見せ、熱い声を放つ。 「ああっ、もっと……」 拓也の肩を掴み、快感に眉を寄せ、拓也の手に合わせ、京は激しく揺さぶられる。 「もっと……、もっと感じて……」 京の腰が自然と揺れる頃、拓也は片手を京の前に回した。腰の動きに合わせて、強く上下に擦る。 「いやっ……、そこ……、あっ!」 拓也の手を離そうと、京の手が絡んでくる。だが、その力は弱く、虚しく滑るだけ。 白い胸、鎖骨の窪みを強く吸いながら、拓也は京を愛撫する。優しく、強く……。 「はっ……、京……」 「んっ、……あぁ」 互いの息さえ絡むほどに喘ぐ。こんなにも、こんなにも、相手が、恋人の熱が欲しかった。 「京……、京!」 「拓也……、イッて、……ね、イッて」 京の声とともに強く締めつけられ、拓也は目を閉じ、快感を堪える。 「一緒に、……京……」 「ああ! ……拓也…」 繋がった部分に、拓也のもう一方の手が伸びる。きつく締まった部分を指先が確かめる。前の昂ぶりは、これでもかと、強く擦り上げられ、京は背筋を昇ってくる快感に震える。 「あ、……ああっ」 「京!」 中に熱い奔流を感じた。爪先へ、指先へ、髪の一本一本までに……、拓也を感じた。 こんなにも……、こんなにも……。拓也が好き……。 だから……。 ぐったりもたれてくる京をしっかり抱きしめ、拓也は指先を濡らした京の白濁を見つめる。 「愛してるよ、京……」 繋がったまま、拓也は京の耳にキスをした。 |
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遂情した自分に、京はここにきて尚尽きない自分の強欲さを知り涙が溢れた。 あの時、どれだけ愛されても一度も達くことの出来なかった自分の身体を、京は心の底から恨めしく思い、己の身勝手さを認める度、このまま消えてなくなってしまいたかった。 京が流す涙の意味を知らぬ拓也が、癒すような慰めを、愛の言葉と労りを惜しげも無く与えてくれる。 満たされてゆく。こんな罪深い自分が。 こうしてこのまま拓也の傍に居れば、京は全てを許され守られてゆくのだろう。 それを望む気持ちと罪悪と。両の狭間で京の心が悲鳴を上げる。 「・・・アス・・・」 「・・・ん?」 熱い息が首筋を掠め、唇で優しくピアスを噬まれ、背筋が震える。 まだ自分の中にある拓也の熱が、再び硬さを取り戻し、次第に自分の中を満たしてゆく。 絶え間無く押し寄せる小波のような快感に負けてしまう前に、京は・・・言わなければならないのに。 「拓也・・・」 「愛している・・・京」 「拓也・・・・・・・・・・・・・・ピ・・・アス・・・を」 |
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