時にはファンタジーのように
















 放課後、秋良の携帯がメールの着信を知らせる。
 メール画面を開くと、悪友からの着信だとわかった。
 件名は【作戦会議】 中身は【HP回復所で待つ。傭兵より】
 訳すると、喋ろうぜ。喫茶店「ポーション」で待ってる。鳥羽より、だ。
 マスターの鳥羽に対する印象が傭兵なのだ。どうやら勇者には年が行き過ぎているということらしい。
 本人も「勇者なんてガラじゃねぇ」とわかっていて、傭兵といわれて嬉しかったらしく、大笑いしていた。
 秋良はとりあえず、【場所を変えて】と返信したが、【もう店にいる】と返されたので、仕方なく喫茶「ポーション」へ向かった。

「よう、賢者殿。待ってたぜ」
 メールといい、挨拶といい、ここにいるときの鳥羽はハイテンションだ。
 よほどこの店の雰囲気が好きらしい。
「ゲームオタク」
 ボソッと呟くと、ごちんと頭を叩かれた。聞こえていたらしい。
「痛いなー、もう」
「そんなに強く叩いてねーっての。お前こそもっとゲームの良さを理解しろって、いつも言ってるだろ?」
「だって、難しいし、最近のゲームは見ているだけで酔いそうになるし」
 大きな画面で主人公の目線で飛び跳ねられると、どうにも車に酔っているようなグラグラ感が襲ってくるのだ。
「なさけねーな」
「あ、すみません、ミルクティーを」
 クスクス笑いながら、マスターが水とおしぼりを持ってきてくれた。
「この前のお友達、お気を悪くされていませんでしたか?」
 申し訳なさそうに聞かれて、秋良はいいえと首を振る。
「すみませんでしたって、謝っておいてください。今度いらしていただいたら、サービスしますので」
 オーダーを取って下がっていくマスターに、お友達って?と鳥羽が小さな声で聞いてくる。
「洋也だよ。ここの常連さんが仕事のライバルらしくって、少し絡まれちゃったんだ」
「はーん、それでお前、違う店にしろっていったのか」
 うんと頷く。
「で、洋也さんは何って言われた?」
 興味津々という態度で聞かれて、秋良は苦笑するしかない。
「魔道師だって」
「うーん、そうかなー」
 鳥羽を首を捻る。
「じゃあ、なんだと思うんだ?」
「ラスボス。いや、ラスボスさえ操っていた、裏ボスってとこかな」
「裏? ラスボスを倒せばゲームは終わりなんだろ?」
 キョトンとして聞くと、鳥羽はちっちっちっと人差し指を出して横に振る。
「わかってないね、秋良君。フツーにゲームをやって、フツーにボスを倒して終わったりしたら、プレイヤーは面白くもなんともないだろ? アイテムをコンプリートさせたり、ボスより強い究極の敵を出したり、なかなか飽きさせない工夫が必要なんだよ、ね、マスター」
 ちょうど秋良のミルクティーを運んできたマスターに、鳥羽が同意を求める。
「そうですね。あっさり終わってしまうと、何か裏があるんじゃないかって、コードを探したりします」
 オタク同士の会話は意味不明だ。
「あ、ただの魔道師じゃなくて、敵の魔道師だった」
 思い出した事をそのまま口にする。秋良の会話が反れることなどいつもの事なので鳥羽は気にすることもない。
「だからラスボスなんだって」
「この前のお友達の方ですか?」
「そうそう。外見はラスボスで、内面は裏ボスって人なんですよ」
「言われてみれば、そんな雰囲気もある人でしたね」
 ノリノリで話している二人に、秋良は帰ったらばらしてやろうと企む。
 二人が楽しそうに笑い、秋良が一人で熱い紅茶と格闘していると、店のドアが開いた。
「いらっしゃいませ」
 さすがにマスターは話をやめて、にこやかに客を出迎える。
 入ってきたのは別所だった。
 別所はマスターが話していたのが秋良たちだとわかると、あきらかに嫌そうに眉をひそめた。





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