時にはファンタジーのように
















「ゲーム関係の人?」
 洋也をミツヤと呼び、対抗心というより、敵対視されているように感じられて、関係者としても友好的でないのは確かだろう。
「一応ライバル……かな」
 あまりライバルとは思っていないような口ぶりに、秋良はふうんと洩らした。
「向こうはすごくライバル視してたように思うけど」
 洋也はふっと笑う。
「売り上げ競争を避けるために、向こうとこちらで隔年で発売時期をかち合わせないようにしようという暗黙の了解ができているのだけど、今年こちらが出すはずのゲームが出なかったから、来年ぶつけられると思われているんじゃないかな」
「それだけ?」
 疑わしそうな秋良の口調に、洋也は苦笑する。
「売り上げとかも勝ってる?」
 苦笑したまま答えない洋也に、肯定の意味をくみとる。
 帰宅の道中を少しずらせて、散歩の距離をのばす。
 せっかくのいい天気なのだから、違う話題にしたいところだが、話を逸らせば余計に心配をかけるだろうからと、聞かれることにつきあう。
「どうして今年は出さなかったの?」
 秋良の心配はどうやら洋也の事情に移ったようだ。
「うーん、新しいハードに対応させたいから、というのが正しいかな。僕もちょっと忙しかったし」
「無理してるんじゃないよな?」
「全然。無理しないために、製作を見合わせたんだし」
 それで秋良はほっとしたようだ。
「もうあの店には行かないようにするよ」
 洋也をライバル視して絡む相手がいるような店では、秋良も落ち着けないだろう。
「でも、気に入ってたんだろう?」
 洋也を誘うことからも、秋良が気に入っていたことは事実だ。
「マスターが優しい人で、店の装飾はちょっとあれだけど、落ち着いていられる雰囲気がいいなと思ったんだけど」
「行けばいいよ。僕以外にあんなに絡むことはないだろうし」
「でも……」
 洋也に挑発的であったこと自体が嫌なのだろう。秋良は気が乗らないようだった。
「毎回会うわけじゃないんだろう?」
 マスターに呼ばれてすぐにカウンターに座った。常連のようだが、目的は案外単純なのではないかと思えた。
「僕も行った回数は少ないから。そのわりにはよく会うんだよな。毎日通ってるのかな、あの人」
 秋良は別所の目的に気がついていないようだ。
「ゲームが好きな人には面白い店だもんね」
 そういう面に疎いところが可愛い。
 洋也はくすっと笑う。
「何がおかしいんだよ。あ、そういえば、あの人が僕が賢者にぴったりって言った時にも笑ったよな。どうして?」
 むっとして突っかかられるのだが、その様子が可愛いのだから困ってしまう。
「秋良は自分がゲームに出るとしたら、どんな役がいい?」
「どんな? うーん……何がいいんだろう」
 首を傾げ、眉を寄せて考えている。
「じゃあ、賢者ってどんな役割だと思う?」
「あれだろ? ほら、炎とか氷とか、魔法が強くて、敵を倒すの」
「それは魔法使いだね」
「え? じゃあ、魔道師の方がそっちのイメージに近い?」
「そうだね。僕は敵キャラらしいけど」
 へぇぇと頷いて、秋良はじゃあ賢者は?と尋ねる。
「後方支援部隊かな。パーティーの前衛に防御魔法かけたり回復させたりとかね。敵を眠らせたり混乱させたりとかの役目も重要かな」
「えーーー」
 不本意そうな声が上がる。説明すれば秋良なら嫌がるだろうとわかっていたことだ。
「僕なら秋良にスピアを持たせるけどね」
「なに、それ。魔法のタクト?」
 どうやら賢者のイメージは、流行の魔法使い映画に近いらしい。
「スピアは細身の剣。攻撃力は弱いけれど、素早くて敵に踏み込んでいくタイプのキャラにはぴったりかな」
「へー、そうか。そっちのほうがカッコイイかも」
 秋良の外見だけを見ると、確かに賢者の役を与えたくなるのはわかる。けれど、誰かが自分のために傷つくくらいなら、自分が飛び込んでいってしまうという秋良には、魔法書を手に後衛で支援するのは歯がゆくてできないだろう。
 洋也にしてみれば、それこそ姫として、陣営の奥深くに隠してしまいところだが、それでじっとしているのではないのが辛いところだ。
「今度自分で言ってみようっと」
 ご機嫌を治した秋良と、今度こそ本当に楽しく会話しながら、休日の朝を堪能した。





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