時にはファンタジーのように
キーボードを打っていた手が止まる。
新しいゲームのシナリオを書く前にと始めたプロットだったが、途中で思わず気持ちが乗ってしまい、台詞まで書き込んでいた。
いっそあらすじ風にノベライズして、企画書を出そうか。
タイトルは何にしよう。
和風なファンタジーロールプレイングを作るつもりで、なるべく日本語ばかりを使うようにしていたが、規模を地球に広げてしまったので、現存人類、進化人類といった言葉は、造語にするかそれらしい意味の外国語にしたほうが良いかもしれない。
まだ初稿なのでこんなものだろう。このままラストまで進めて、繰り返していくうちに体裁を整えていこうと思った。
うーんと背伸びしたところで、書斎のドアをトントンとノックの音がした。
はっとして時計を見る。
午前七時半。
休日の秋良が起きるには少し早い時間だ。
もう少ししてからベッドに戻り、起こすふりをして朝のまどろみを楽しもうと考えていた洋也の思惑は、綺麗に外れてしまった。
どうぞと返事をすると秋良がドアを薄く開けて、顔だけを覗き込ませる。
「おはよう、秋良」
洋也は立ち上がって出迎えに行く。
「おはよう。忙しい?」
仕事の手を止めたのを見て、秋良が部屋に入ってきた。
「すぐに朝食の用意をするよ」
お腹が空いたから起きてしまったと思った洋也だったが、秋良はううんと首を振った。
「まだ用意してないんならさ、モーニングを食べに行かない?」
「モーニング?」
あまり外食を好まない秋良の珍しい誘いに、洋也は不思議そうにする。
「うん。ちょっとだけ歩くんだけどさ。面白い喫茶店を鳥羽に教えてもらったんだ。きっと洋也は気に入ると思うんだよ」
「そう?」
「そうそう、見てのお楽しみだけどね」
楽しそうな様子に、別に出かけてもいいかと思い直す。
「秋良は行った事があるの?」
「あるよ。一度鳥羽と行って、あと、洋也がアメリカに行ってるときの休みの朝は、そこで食べたりしてた」
秋良の説明になるほどと頷いた。
一人の朝食は味気ないことは洋也もよく分かっている。
お気に入りの店ができたのは、秋良にとっても良いことだろう。
そしてその店に自分を誘ってもらえるのはとても嬉しいことだ。
「車で行く?」
「うーん、駐車場がないんだよなぁ。散歩がてら、歩いていこうよ」
「じゃあ、着替えるから待ってて」
秋良は既にパジャマを着替えていた。洋也が以前に買ってきた水色のシャツに藍色のジャケットを着ている。どちらもマオカラーの優しいデザインで、秋良によく似合っている。
「そのままでもいいのに」
黒のざっくりめのニットは、普段着にしているものなので、あまり外出向きではない。
「すぐに着替えるから」
部屋を出る時、「あ、そうだ」と足を止める。
「ん?」
秋良が振り返ったときに、どさくさにまぎれて抱きしめる。
「おはよう」
言いながら唇にキスをする。
「あっ、もう」
秋良は笑いながらも、洋也の頬におはようのキスを返してくれた。
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