Copyright © 1996 てきーらサンドム

■ アルパリーク冒険奇譚 ■

Next part (次の章)   Return (章選択へ戻る)


part6
 リパはまた考えごとをしていた。(あのおねーさんの胸おっきいなぁ。重いんだろうなぁ、肩こらないのかなぁ。・・あれぇ? なんか右と左とで大きさが違うような気がするけど気のせいかなぁ。ブラジャーの締めつけ方が違うのかな、それとも右は赤ちゃんにお乳を吸われてしぼんだとか・・・。もしかしてあの胸は詰めものしてて片方入れすぎちゃったとか? うーん謎だぁ)
 アサテリカは熱っぽい目でリパを見ながら、「大丈夫、わたしも最近魔法の勉強始めてて、トラップの解除と魔法攻撃からの防御は出来るようになったの。でもシラク山の洞窟には怪物がいてわたしの手に負えないの。リパくーん、怪物をやっつけてくださらない?」と甘い声で頼んだ。リパは自分の名前を呼ばれたのに気づいて「え? う、うん怪物なら倒せると思う」と答えた。デートナはもちろん「うーし、怪物ならまかせときんしゃーいだす」と胸をドドーンと叩いた。エマリーはいよいよ不安が大きくなったが、あからさまに断るわけにもいかず、結局4人でシラク山へ向かった。

 シラク山はサバレイスの西に広がる森を抜けた所にあった。山のふもと付近の雑木林を過ぎると、ぽっかりと口を開けた洞窟が見えた。洞窟を入ってすぐのところに魔力で封印されたドアがあったが、アサテリカが呪文を唱えると簡単に開いた。どうやら多少の魔法が使えるのは本当のようだ。
 洞窟の内部は魔法のトラップより怪物の方が多かった。怪物の種類はありきたりであったが、何かの薬か魔法で強化されていた。しかもデートナの姿を見ても全然臆する様子がなく、凶暴な牙をむいてデートナに襲いかかる怪物も少なくなかった。むろんそんな怪物はグチャッと潰されるかズバッと真っ二つにされるかの運命をたどった。リパとエマリーもデートナが褒めるほど腕が上がっており、強化された怪物であっても苦労するほどでは無かった。
 突然デートナが皆に注意を促した。「後ろからつけてくる連中がいるだす」デートナの経験では、こうゆう場所では怪物よりもむしろ人間の方が危険な場合が多い。身を持ち崩した冒険者の中には他人の集めた宝を狙って後ろからつけねらう奴もいる。

 リパ達が慎重に構えて待っていると、つけてきた連中が姿を現した。「エマリーさん、洞窟では大変失礼しました。今度は正式に結婚を申し込みに来ました」なんとイオルタがひげをそって背広を着ているではないか。バラの花束まで抱えている。背広もネクタイもセンスは良いのだが妙に中身の人間とマッチしてなかった。やはりこの男は洞窟の申し子、薄汚れた風体の方が似合っていた。エステーラが猫なで声で「どお? おにいちゃん身ぎれいになったでしょ。それにおにいちゃんは学術協会会長候補だもん。出世コースに乗ったエリートよ」エマリーはエリートと聞いて一瞬心が揺れたが(やっぱ男は顔よ顔)と思い直して毅然とはねつけた。
 リパは(あのおねーさん、やっぱり肌が出てるのかなぁ。肌色のジャケットではなさそうだけど・・・)などと考えている。アサテリカはリパがエステーラを見ているのに気づいて(あの美人がライバルになるとちょっとやっかいね)と思い「みんな、これは魔女の幻覚よ。やっつけて」と叫んだ。単純なデートナは「うおぉぉぉ」とおめくとババババンと軽機関銃を撃ちまくった。イオルタは今回は友好的に振る舞おうとして武器を持ってきていなかったので、すたこらサッサと逃げていった。

 洞窟の奥へ進んだが、やや道が入り組んでいるものの迷うほどではなかった。怪物もトラップも特にてこずるものではなかった。それよりアサテリカがリパにべたべたする方がエマリーにとって悩ましかった。もっともアサテリカの方もデートナに時々じろりと睨まれるので、あまり思いきったアプローチは出来なかった。そうこうしている内に魔女の住まいと思われる部屋に到達した。
 アサテリカが最後の魔法の封印を外すと4人は慎重に中に入った。部屋の中には割りと上品な中年の魔女がいた。「あら、こんなところにお客様が来るのは珍しいわね。どうぞお入りなさい、お茶を入れるわね」とにこやかに迎えた。どうやら悪い魔女ではなさそうだった。4人はほっとしてお茶が並んだテーブルについた。
 アサテリカがさっそくメルコの件を聞いた。「あらあら、夕暮れ時にこの付近をうろうろしていたから、早くお家に帰れるように加速の魔法をかけて上げたんですけど、一日で元に戻らなかったの?」「そうなんです。元に戻していただけます?」アサテリカがそう言ったとき、お茶を飲もうとしたデートナが茶の香りに危険を感じた。デートナは警告しようとしたが一瞬魔女の方が早く指をぱちんと鳴らした。次の瞬間4人は鋼鉄の椅子に鋼鉄の金具でがっちりと縛りつけられていた。
 「ほーほっほ、おばかな冒険者さんね。親切な魔女が洞窟の中に怪物を放しておくわけないでしょ。さーてお茶を飲んでいただくわ。心配ないわよ。飲んだらすぐに洞窟の中に放して上げるから・・。ほーほっほ」どうやら洞窟の中の怪物は冒険者の成れの果てのようだ。「どーしてこんなひどいことするの?」エマリーは無駄と思いつつ抗議した。「ほほ、復讐よ。私を捨た冒険者たちと、私から恋人を奪った女冒険者たちへの。ほーほほ」そう言うと魔女はティーカップをデートナに近づけた。しかしデートナが恐るべき筋力を振り絞ると、鋼鉄の椅子は一瞬しか抵抗できなかった。「ひぃー」魔女は一瞬たじろいで呪文を唱えるのが遅れた。その一瞬の隙にデートナは魔女の喉を締めつけていた。

 「しまっただす。殺しちまっただす」デートナはちょっと痛めつけて、メルコにかけた魔法を解かせるつもりだったが、鋼鉄の椅子を引きちぎった後では力加減が難しかった。魔女が死んだためリパ達も椅子から解放されたが、アサテリカの座っていたところには全く別人の少女が座っていた。ぼさぼさの赤毛にそばかすの少女であった。胸の大きさはエマリーといい勝負である。「あー、あの魔女、わたしの姿替えの魔法を解いていたのね」声はアサテリカの物だった。みんなが不審な目で見ていると「姉妹二人が町を追い出されて生活するのって苦労が多いの。ちょっと稼ぎを良くするために美人に化けてたのよ」とアサテリカは舌を出した。
 その後魔女の部屋を調べていると色々な魔法書が出てきた。メルコを元に戻す方法も見つかった。リパも(そーか、そーか、姿替えの魔法をかけるときに加減を間違えて大きさが違ってしまったんだなぁ)と勝手に納得した。もちろんエマリーも一安心であった。

 リパ達はサバレイスに戻ってメルコが元に戻るのを見届けた。そのあと予定どうり南のライレール湖へと向かった。ライレール湖はアルパリーク大陸の中央に位置する巨大な淡水湖である。その昔学者が湖に入る河川の量と湖から蒸発する水の量を計算したところ、明らかに蒸発する方が多かった。しかしいっこうに湖の水位が下がらないため、今もって学者たちの頭を悩ましていた。
 湖に到着したところでエマリーはリパに念を押した。「わたし達あそこの大きな木の後ろで着がえるけど、のぞいちゃ駄目よ」もちろん本心ではない。エマリーは(こうゆう場合は、見るなって言うと見たくなるのが男性心理だって女性週刊誌に書いてあったわ)と期待していた。しかしリパは素直なよい子だったのでのぞくなと言われればのぞかなかった。それに、間違ってデートナの裸の方を見てしまったら、きっと毎晩うなされることになるだろう。
 リパ達は岸辺でしばらく遊んでいたが、デートナが潜水用具を取り出して、潜ってみようと言い出した。「ここには大判鮫とか黄金イカとかがいるから、いい稼ぎになるだす」と言うと、リパは母への良いみやげになると思って賛成した。

part7
 リパ達は湖底を目指して潜った。ライレール湖の水は透明度が高く、水中にいるリパはまるで宙に浮いている錯覚さえ覚えた。湖底についたリパ達はさっそく獲物を探した。さすがにここでは太陽の光は弱まっていたが、それでもたそがれ時の明るさはあった。
 リパとエマリーはデートナの授業で潜ったことはあったが、遊びとしては初めてであった。授業の時は景色を眺める余裕はなかったが、今は二人とも幻想的な湖底の景色に見とれていた。しばらくすると、デートナが酸素マスクを通して叫んでいる声が聞こえた。リパがそちらの方を見ると、なんと湖底に少女が横たわっていた。
 少女は上半身裸で酸素マスクはつけていなかった。身投げ自殺であろうか? リパ達が近づいていくと、少女がうっすら目を開いて悲しげにこちらを見た。「驚いたわ、まだ生きてるわ」エマリーが少女を抱き起こそうとして更に驚いた。なんと下半身はウエットスーツではなく魚のしっぽであった。人魚である。
 エマリーは「大丈夫? 言葉は分かる?」と声をかけてみた。少女は「えぇ、お腹がすいているけど大丈夫よ。貴方たちは敵ではないようね」と答えた。デートナがさっき捕獲した黄金イカを差し出すと、少女は生きのいいイカを美味しそうにもぐもぐと食べ始めた。

 リパとエマリーは人魚を見るのは初めてであった。デートナはさすがに博識で、「ネプシラの住民だすか? どうしてこんなところに居ただすか?」と尋ねた。少女は食事しながらぽつりぽつり話した。「わたしミニル、ネプシラの王女なの。叔父が国王である父を暗殺して、その罪をわたしと兄になすりつけて反逆者として処刑しようとしたの」「まぁ、それはひどい、すぐに何処かの国に助けを求めた方がいいわ」「そのつもりで逃げ出したの、でも叔父はわたしを他国にまで反逆者として指名手配したらしいの。もう助けを求める相手もいなくて、追手の追跡も厳しくて疲れ果ててしまって・・・」
 エマリーとデートナは顔を見合わせて、他国のお家騒動に手を出して良いものやらと思案した。エマリーがふとリパの方を見ると、リパは裸のミニルの体を上から下までじっくりと見ている。エマリーはこめかみに青筋立ててリパの腕を引っ張った。「そんなに見ちゃ失礼でしょ」(もうリパったら、わたしの体は見てくれたことないのにぃ、失礼しちゃうわ)「ご、ごめん」
 ミニルはきょとんとして「あら、別に失礼なことないわよ」といい、形の良い胸を水中で揺らしながらリパに近づいてきた。「お願い、兄を救いたいの。手伝ってくださらない? このままだと数日の内に無実の罪で処刑されてしまうわ」リパは近ごろ腕を上げてきた自信と、(上半身は人間の肌と同じなのかなぁ、それとも肌色の鱗なのかなぁ)という疑念を放っておけず「手伝うよ」と答えた。デートナもまぁいいかというような表情でうなずいた。

 リパ達はミニルの後にしたがってネプシラの城に潜入した。まずは脱出してきた通路を調べてみたが、そこはすでに閉鎖されて通ることは出来なかった。「もうひとつ王座へ通じる秘密の通路があるの。でもそこは叔父の直属の兵士が厳重に護ってるの」「すかす、正面から入るわけにもいかないだす。兵士を倒して行くしかないだすな」デートナは、たとえ悪人の手下であっても名分のある側の兵士を殺せば国際法違反になることは承知していた。しかし、冒険者は常に己の信義に基づいて行動することを良しとしていた。
 ミニルは三人を秘密の通路へ案内した。ミニルが先頭を進み、リパ達が続いた。しばらく進んでいると、リパはどうしても疑念を晴らしたくなってついにミニルの腕を掴んで引き寄せた。と、同時に通路の影から槍が突き出され、危うい所でミニルは串刺しを避けられた。「偉いだす、リパ」デートナは一声かけると兵士と戦い始めた。
 水中での戦いは水の抵抗が大きいためとても緩慢に見える。しかし、逆に敵の動きを読んで一瞬でも早く行動を起こさないと敵の攻撃は回避できない。百戦錬磨のデートナは巧みに敵の攻撃をかわし、狩猟用の三つ又矛でズブズブと敵を倒していった。リパとエマリーも鋼鉄の矢を発射する水中銃で応援した。しばらく戦って敵を倒したときには、辺り一面血の海と化していた。

 リパは一瞬ミニルを掴んだ感触から(あれは鱗みたいだなぁ。でも、どうして上半身の色が違うんだろ。下半身みたいな青暗色じゃ不都合あるのかなぁ?)などと考えていた。好奇心の盛んな年ごろである。
 王座が近づくと精鋭の兵士が次々と襲いかかってきた。さすがのデートナもだんだん苦しくなってきた。リパとエマリーも水中銃の矢が尽き、銛を使って必死に戦った。ミニルは戦闘経験がなく、初めはおろおろしていたが、そのうち死んだ敵の武器を拾ったり矢を集めたりして支援してくれるようになった。

 リパ達は次々と兵士を倒し、ついに王座の間の入り口に着いた。しばし呼吸を整えて最後の戦いに備えていると、後ろの方から忍び寄る影があった。4人が気がついて身構えると、赤いもやをかきわけてイオルタが現れた。「エマリーさん、ご無事でしたか。プロポーズを受けてください」なんと、イオルタはウエットスーツの上に背広を着込んで、しっかりバラの花束も持っていた。エマリーはがくっとし、へたり込んでしまった。
 リパは目を丸くしていた。エステーラはトップレスで、下も申し訳程度の三角の布を着けているだけだった。エステーラはリパが魅入っているのに気を良くしてウインクした。リパはもちろん(信じられないなぁ、こんな冷たい湖底でウエットスーツ無しでいられるなんて)とか相変わらずのことを考えていた。
 エマリーはプツッと切れた。ふらっと立ったかと思うとニコッと笑ってイオルタとエステーラを手招きした。イオルタは喜んで、エステーラは意外な面持ちで近づくと、エマリーは隠し持った短刀で素早く二人の酸素ケーブルに切れ目を入れた。二人は目を真っ赤にしながらチーズを連れて逃げていった。

 「ふん、さぁみんな王座の間に突入するわよ」プッッツンしたエマリーは先頭に立って突入した。王座の間にはミニルの兄と叔父、それに近衛兵が数名いた。リパ達の突入で叔父の気がそれた隙に兄はミニルの方へ回り込んだ。近衛兵は雄たけびを上げながらリパ達に襲いかかった。叔父の側近の近衛兵はさすがに手ごわかった。しかし一人また一人と倒れ、最後まで激しく抵抗していた叔父もついにデートナの三つ又矛に仕留められてしまった。
 ミニルは兄のタライアに抱きつき「良かったわ。もう処刑されたかと思って心配してたの」「いや、それが変なんだ。連中は水位調整装置の仕組みをさかんに尋ねて、僕に色々操作させたんだ」「なんだすか、そりは?」「この城の地下に淡水を噴き出す装置があって、その量をここの部屋で制御しているんです。普通はライレール湖の水位が一定になるように自動調整しているのですが、連中は極端に水位を上げようとしてたんです」「まぁ、そんな大掛かりな装置があるなんて、ネプシラの科学って進んでいるのね」エマリーは驚いた。「いえ、古代人が作ったものでしょう。今仕組みが分かるものは誰もいません」

 ともかく反逆騒ぎは収まって、ネプシラの国はタライアが引き継ぐことになった。ミニルはとっても喜んで「皆さんありがとう。大したお礼は出来ませんが、ご馳走を用意しましたので、たんと食べて行ってくださいね」と、みんなをディナーテーブルに案内した。たしかにすごいご馳走だった。みんな生きのいい魚ばかりで、皿の中で跳ね回っていた。にこにこ顔のミニルをみるとエマリーは断りずらかったが、デートナはあっさりと食べ物の習慣が違うからと断った。もちろんミニルはがっかりしたが、こうゆうときは断るのが良いのだ。ミニルがそれでは気が済まないというので、デートナは「黄金イカの殻骨か大判鮫の頭蓋骨が欲しい」と言った。ミニルは目を丸くした。「そんなものでいいんですの? ゴミ捨て場へいけば山のようにありますけど・・・」

 かくしてリパ達は黄金の骨を山のように持ってフリーズロックシティに帰還したのでありました。ひとまずはめでたし、めでたし(前編完)。

part8
 フェリーレは息子の持ち帰った宝をみて狂喜した。「んまぁ、んまぁ、リパちゃんすごいわ、偉いわ。こんなに黄金を持ち帰るなんて」母は涙を流してリパが立派に成長したことを喜んだ。リパは、これだけ黄金を稼げば当分母の食費には困らないと思ってほっとした。
 久しぶりに冒険から解放されたリパはエマリーと町中をプラプラしてみた。あまり変わりばえのしない街並みであったが、ビヤダル銃砲店が開いていたので寄ってみることにした。驚いたことに霊眼があった、いや、居た。「いよー、リパとエマリーじゃないか、ずいぶんたくましくなったな」ビヤダルはいつもの軽い調子で声をかけてきた。「ふーん、霊眼を捕まえたんだ。使えるの?」エマリーが聞くとビヤダルは真っ青になって「パカ、捕まえたんじゃなくて、来ていただいてるんだ。それに呼び捨てはいかん。霊眼様だ」と言うと霊眼の入ったカップにお湯を注いだ。霊眼は渋い声で「うむうむ良い湯じゃ」と悦に入っている。この調子じゃ当分ビヤダルは小間使いね、とエマリーは思った。

 エマリーはリパと二人きりになれるところを探したがなかなか見つからない。トラレナイ渓谷は学術協会が封鎖したようだし、シラク山はツリーフィズ姉妹がちゃっかり住まいにしていた。その他の場所はどこへ行っても他人の邪魔が入る。エマリーは、また冒険に出かけるしかないかなと思い、冒険者協会本部のフェリーレを訪れた。
 フェリーレは珍しく考えごとをしているようだった。エマリーが声をかけると「そうだわ、なんで気がつかなかったのかしら、リパちゃんが最適だわぁ」と突然明るい声で言った。リパ達がきょとんとしていると、「実はキャメラッコ王国の知り合いから、城の地下に凶悪な怪物が出るから腕の良い冒険者を派遣してくれって頼まれたの。リパちゃんならきっとやれるわぁ」リパはもう冒険者稼業は一休みしたいなと思っていたが、エマリーは「そうですわ、リパ君はとっても腕上ったから大丈夫ですわ」と褒めちぎって即座に引き受けた。

 リパ達はひとまずキャメラッコ城下の商店街で装備を買い揃えることにした。キャメラッコ城下にはアルパリーク大陸でも有数の商店が並んでいて、武器や防具も豊富に揃っていた。リパ達は十分な黄金を持っていたので最高の装備を買うことが出来た。
 二人は一通りの買い物が終わったので酒場に入って一休みすることにした。以前はいかにも子供っぽかった二人だったが、今はリパもエマリーもたくましくなり門前払いを食らうことはなかった。
 酒場に入るとデートナと目があった。「ど、どうしてここにいるだす?」デートナは普段の落ち着きを失っていた。エマリーは軽い冗談のつもりで「あら、男の人と待ち合わせですかぁ」とにこやかに言うと、デートナは顔を真っ赤にした。エマリーはにこやかな顔のままで凍りついてしまった。「で、でようだす」3人はばつの悪い思いをして酒場を出た。
 リパがここへ来た理由を話すと、「そうだすか、どうせ待ち合わせしているヤツは来そうにないから手伝ってやるだす」と言った。エマリーは二人きりになれなくてがっかりしたが、これも下手な冗談を言った自分のせいだと諦めた。

 リパ達は城の受付へ出向いて怪物退治に来たことを告げた。衛兵はデートナのごっつい姿を見て安心した。衛兵は「皆さん不覚を取ることはないでしょうが、一応規則ですのでこの書類に記入してください」と、死亡時の遺品送り先書をリパ達に渡した。衛兵は三人の書類を確認していたが、突然リパの方を向いて「ダイナトーク? まさか父親はゴールド・ダイナトークかい?」と質問してきた。「えぇ」とリパが答えると衛兵はニヤリとして、「あの有名なゴールドの息子なら歓迎しますよ。国王の間でお茶を差し上げますからついてきてください」と言った。お茶と聞くと三人はシラク山を思い出してぎくりとしたが、紛れもない王城で変なこともあるまいと思い、衛兵についていった。
 謁見室を抜けて国王の間に入ると、老齢の国王と王妃がロイヤルティーを飲んでいる光景が目に入った。衛兵がゴールドの息子が来たことを告げると、国王は矢継ぎ早に質問を浴びせてきた。「おぉー、おまえがゴールドの息子か?、儂らの息子の行方を知っているか? いや、ゴールドは今どこにいる?」リパはちと混乱したがエマリーがすかさずフォローを入れた。「リパ君のお父さんはゴールドですけど、お父さんは10年前に失踪しているんです」「うむむ、そうか。となると儂らの息子の行方も知るまいのぉ」「あの、話が見えないんですけど・・・」リパはすっかり混乱して聞いた。

 「そうか、聞いておらんのか。では話してやろう。あれは21年前のことじゃった。儂らには世継ぎの息子が一人おっての、当時17になった息子はちょうど遊びたい盛りで時々城を抜け出そうとしていたのじゃ。その時は幸い未然に防いだのじゃが、わしは息子の性根をたたき直そうと思って当時売り出し中の冒険家ゴールド・ダイナトークに銃術師範を頼んだのじゃ。それが間違いじゃった。ゴールドの奴め、息子を洞窟に連れて行って鍛えるとか言いながら、実は色街へ息子を連れて行って遊んでいたのじゃ。ゴールドが根っからの遊び人だと分かったときには息子はすっかり女狂いになっておって、ある日のこと、酒場女に誘われるままふらふらと駆け落ちしてしまったのじゃ。以来息子の行方は全然分からんのじゃ。手掛かりになるゴールドも失踪とあっては、もはや諦めるしかないかのぉ。・・・おぉ、そうじゃ、リパ。ゴールドの代わりにおまえに責任を取ってもらおうかのぉ」

 リパは緊張した。ゴールドの身代わりとして処刑されてしまうのだろうか。不安そうに震えるリパを見て国王は「ふぉっふぉっふぉ、安心せい。責任と言っても良い話じゃ。お前を養子にして、息子の代わりに次期国王にしてやろうというのだ。国王はよいぞぉ、民衆の敬愛を一身に集められるのは気分が良いものじゃし、蓄えた財宝もザックザックある。それに宮廷に仕える家柄の良い美女も選びほうだいじゃ・・・」と言うと、王妃がゴホンと咳払いして、「あなた、また悪い癖が出ましたね。良い餌で釣って、その実ビシビシとスパルタ教育したために今まで何人の養子に逃げられたことか・・・」「ええい、余計なことは申すでない。それに今回はただの養子ではない。ゴールドの息子ならそれくらいの責任は取って然るべきじゃ」
 エマリーは最初は唖然として聞いていたが、美女を選びほうだいなどと聞くと落ち着いていられなかった。(リパが国王になんかなったら、わたしは身分違いとかで結婚できなくなっちゃうじゃない。絶対阻止しなくっちゃ)
 リパはだんだん話が分かってきた。(財宝ザックザックかぁ。それなら母さんの食費も一生気にしなくて良さそうだなぁ。冒険に行かなくても済みそうだし、良い話だなぁ)
 リパがすっかり承知する気でいるとエマリーが先に口を出した。「リパ君は立派な冒険家なんです。王宮に閉じこもれるような性格じゃないんです」エマリーがキッパリ言うものだからリパも自分の性格ってそうだったのかなぁと悩み込んだ。王妃も相づち打って「そうですよ、あなた。自分の勝手で人の生活を曲げたり、縛ったりするのは良くありませんよ」と言う。リパは別にいいんだけどなぁ?と思って承知しようとしたが、国王が先に「何を生意気な、冒険者など盗っ人も同然の稼業ではないか」と怒鳴った。しかし王妃が目をつり上げて睨むと、さすがの国王もたじたじとなって、「むむ、ならば冒険者の資質を試してやろう。地下の怪物を全部始末した上、怪物が徘徊するようになった原因を突き止めてくれば、優秀な冒険者と認めて養子の件を諦めてやろう」
 リパは何がなんだか分からない内に国王の間を追い出された。エマリーは、「リパ頑張ろうね」と励ました。よく分からないけど、がんばろうねと言われると素直に頑張ろうと思うリパであった。

part9
 リパ達は城の地下へ入っていった。地下は薄暗く、コケが生えてじめじめしていた。「ここはできてから相当年月が経っているわね」「そう、これはやっかいだす。足音が響かないから怪物が近づくのが判りにくいだす」デートナは五感を最大限に研ぎ澄まして怪物の気配を感じとろうとした。
 ほどなくデートナが警告を発した。リパとエマリーは素早く自動小銃を構え、飛び出してきた怪物にババンと撃ち込んだ。一瞬やっつけたかと思ったが、怪物はまるで何ごともなかったかのようにビシビシッと攻撃をかけてきた。リパは回避が間に合わず激しい衝撃を受けた。なんと言うことだ。城下で一番高価な防弾ジャケットと対爆緩衝スーツを着込んでいるにもかかわらず大ダメージを受けた。
 「発煙筒だす」デートナが叫んだときにはすでにエマリーは発煙筒を投げていた。シュポッという鈍い音がしたかと思うと辺り一面煙でおおわれた。怪物はめくらめっぽう攻撃をかけてきたが、エマリー達には全然当たらなかった。逆にエマリー達は怪物の咆哮を頼りに弾を撃ち込み、十分な効果を上げた。煙が晴れたときには飛び出してきた怪物を全て倒していた。
 リパは立つのがやっとと言う感じでよろめいていた。エマリーはさっそく介抱した。「驚いたわね。ここの怪物ってスピードも攻撃力も今までの怪物と比べ物にならないわ」リパは痛みをこらえながら相づちを打った。

 倒した怪物を調べていたデートナが二人を呼んだ。「これは普通の怪物じゃないだす。人工細胞と機械器具を組み合わせたもので、俗に細胞具と呼ばれているものだす」「さいぼうぐ?」リパもエマリーも初めて聞く言葉だった。いやそれもそのはず、デートナですら実戦で使えるほどの高度な細胞具を見たのは初めてだった。「あれ? 人工細胞と機械器具ってことは誰かが作ったものだよね。誰が作ったんだろう?」リパにしては珍しく当を得た疑問であった。どうやらさっきの衝撃が逆に幸いして頭の回転が上ってきたらしい。
 エマリーは「誰が作ったかを突き止めるのが今回の仕事のようね」と事も無げ言った。「そうだすな・・・」デートナは嫌な予感がして歯切れが悪かった。細胞具は並の科学力では作れないのだ。
 ひとまず3人は城下町へ戻って発煙筒や救急箱などを十分買い込んだ。再び地下へ戻ると3人は慎重に歩を進め、細胞具が出現すると即時アイテムを使用した。それでも細胞具のめくらめっぽうの攻撃がまぐれ当たりすることが何度かあり、3人の生傷はだんだん増えていった。

 城の地下は昔の国王の墓地につながっており、墓を盗掘から守るために多数のトラップがしかけられていた。リパ達は細胞具の攻撃に悩まされながらも、注意深くトラップを外していった。
 しばらく奥に進んだ後、ある扉の前でエマリーが皆に注意した。「この扉のトラップ、ほんのちょっと前に外されてるわ」リパは「細胞具が外したってことはあり得るかい?」と尋ねた。デートナはリパがまともな質問するので面食らったが、「いや、細胞具の脳のキャパシティは限られているだす。特にここにあるような複雑なトラップは外せないはずだす」と答えた。
 3人は扉を静かに開けて、臨戦態勢で中へ入った。次の瞬間、部屋の中に明るい照明がともった。「エマリーさん、今度こそプロポーズを受けてください」なんと、またしてもイオルタ・キラーンが出てきた。ただ、さすがに彼も細胞具の攻撃に悩まされたらしく、ジャケットの上に着た背広はぼろぼろで、バラの花束もほとんど花びらが残っていなかった。エマリーはあかんべーしてはねつけた。
 一方エステーラは胸をぷるぷる揺らしながら「どう? 味見してみない?」と積極的にリパを誘った。相変わらず肌が露出していたが、イオルタと違って傷一つなかった。これには頭の回転がよくなったリパも悩み込んだ。さらに、チーズが姉のまねをして体をくねらさせながら、「あたちばぁじんよ、あぢみちてみない?」と誘ってきた。
 エマリーは髪の毛を逆立て、問答無用で自動小銃を乱射した。エステーラとチーズは未練たらしい兄を引きずって逃げていった。エマリーはキラ−ン兄妹を撃退して少し気分が良くなったが、「すごい迫力だったね、デートナみたい」というリパの賞賛を聞いて、一万メートルの深海まで沈んだ気分になった。

 3人は気を取り直して奥へ進んだ。リパ達は初めのうちは発煙筒に頼りきっていたが、次第に細胞具の攻撃スピードになれてきて、発煙筒を使わなくても戦えるようになっていった。そして、いよいよ奥まったところの石室にたどり着いた。石室の扉は特にトラップはしかけてなかった。3人は静かに中に入った。
 石室内部はけっこう広かったが、そこに並んでいたのは石棺ではなく人工細胞の培養槽や完成したばかりと思われる細胞具であった。まるで化学研究室の様相を呈していた。リパ達はあっけに取られて装置を眺めているたが、ふと気がつくとやせ細った不気味な老人がこちらを見ていた。「お、おまえ達はどこから入ってきたんだ」「どこって入り口ですけど?」とリパが石室の入り口を指すと、「ひぃーっ、て、敵だぁ」と叫ぶなり老人は制御盤のスイッチを押しまくった。すると石室内部に並んでいた細胞具が突然動き出してリパ達に襲いかかった。
 広い石室とは言え多くの細胞具が一度に動き出したものだから、石室内部はぐちゃぐちゃになった。めくらめっぽうの攻撃で培養槽は破壊され、不気味な人工細胞が流れ出した。リパ達はありったけのアイテムを使って次々と細胞具を始末した。最後の一体をちょうど倒したとき、石室の奥側にあるドアがプシューという音とともに閉まった。リパ達は急いで奥の扉に駆けつけたが、ドアは固く閉じて開かなかった。今度ばかりはデートナが気合いを入れて蹴っても開かなかった。
 デートナは「手荒なこともやむえんだす」とグレネードランチャーを取りだしてドアに狙いを付けた。ところが先にドアの奥でズドドーンという爆発音が聞こえた。デートナはしまったと思いながらグレネード弾を発射して、ドアを爆破した。リパ達はドアの奥へ入ろうとしたが、通路は爆破され土砂で埋まっていた。これ以上は進みようが無いため、リパ達はここまでの状況を国王に報告しに行った。

 国王は「犯人を逃したとは言え、怪物の発生源を叩き潰したのじゃから、冒険者として認めざるをえんのう。」と不本意ながらもリパ達の実力を認めた。リパ達は城下町へ戻って一息ついた。「ねぇリパ、あの逃げた男の行方が気になるわね」「そうだね。あの崩れた通路がどこにつながってるか見当つけばそこから調べる手もあるんだけどなぁ」「当ては無くはないだす。石室には細胞の培養槽はあっただすが、組み立て途中の機械部品はなかっただす。他で組み立てられたとすると、この近くではトラベルトの町にある兵器工場が一番怪しいだす」「そっかぁ、とりあえずはトラベルトの町で聞き込みしてみようかなぁ」とリパが言うとエマリーも賛成した。
 リパとエマリーはトラベルトへ向かった。デートナは待ち合わせがあるので同行できないと言ったが、エマリーはその方が都合がよかった。トラベルトに着いた二人は、まず情報集めのために地下の酒場へ入った。リパ達が酒場へ足を踏み入れると中にいたごろつきどもがどよめいた。その中の一人がふらふらとリパ達に近づいてきた。「へっへっ、かわいいじゃないか、楽しい遊びをやってみるかい」とならず者が声をかけた。エマリーはそれを無視して、「頭の中央が禿げたやせ細った老人を知らない?」と聞いた。ならず者は「そりゃ、兵器研究員のバンデッジのことかい? 奴なら兵器工場にいるぜ。へっへっへ、会わせてやってもいいぜ。ちょいと俺たちと遊んでくれればな」
 気がついてみるとリパとエマリーは周りをならず者に囲まれていた。

part10
 リパとエマリーを取り囲んだならず者たちは、にやにやと笑っていた。「さあ、こっちへ来い」最初に話しかけた男がリパの腕を取った。「綺麗な坊やだな、久しぶりに楽しませてもらえそうだ」男達の視線はリパに集まっていて、エマリーはてんで無視されていた。エマリーはムッとして「ちょっとあんた達ホモなわけ?、離しなさいよ」と男の手を払った。「しらねーのか? ここはム ホウモノの町だぜ。男同士が気楽に遊べる町さ」げらげらと周囲で笑いが起きた。
 エマリーはとんでもない所へ来たと悔やんだが手遅れだった。周囲を取り囲まれては武器を取り出す前に押さえつけられてしまう。エマリーが一か八かで武器を取ろうとしたとき、酒場の奥からどもった声が聞こえた。「き、君たち乱暴はいけないよ。乱暴する気なら、ぼ、僕は、ぼ、冒険者だから、ぼ、坊やたちの身方をするよ」
 奥を見ると一見頼りなさそうな男がいた。体つきはけっこうごっつい感じだが、頬が痩せて骨張っており、おずおずとした暗い感じのする男だ。ならず者たちはすっかりなめきって、「うるせー、口出しすんな」と殴りかかったが、あっと言う間に2,3人のならず者が床に叩き伏せられていた。リパ達はその隙に奥の男の後ろに回った。エマリーはすぐにショットガンを取り出すとズドーンと撃った。ならず者達はサブマシンガンで応戦してきたが、リパと謎の男が大口径ライフルをドドドンと撃ち込むと蜘蛛を散らすように逃げていった。

 「ありがとう、助かったわ」エマリーが礼を言うと、謎の男は自己紹介をした。「ぼ、僕はサワイ・サワノスっていいます。実は、ぼ、僕もバンデッジを追ってたのです。どうやら彼は兵器工場にいるみたいですけど、ボ、僕と一緒に探しに行きませんか」リパ達は念の為にサワイの冒険者証を確認したが、冒険暦10年のベテランと判ってよろこんで同行を承知した。
 兵器工場の正門はトラベルト1階にあるのだが、もちろんそんなところからは入れない。幸いサワイは地下から兵器工場へ入る裏口を知っていた。3人は装備を十分整えて裏口へ向かった。
 裏口には幸い警備兵はいなかったが、鋼鉄の扉は内部からロックされていて開かなかった。「こ、こうなったら力ずくで開けましょう」サワイは一呼吸息を吸い込むと「ど、どりゃぁぁ」と気合いを入れて蹴った。ズシーンと腹に響く大きな音はしたが扉はびくともしなかった。
 音を聞きつけて警備兵がやってきたらしく、扉の内側からぶつぶつ聞こえた。そのうち「誰かいるのか」と誰何してきたので、エマリーがとっさに「警備お疲れ様です。差し入れに来ましたので扉を開けてくださいな」と猫かぶりのかわいい声で言った。しかし中からは「そんなものいらん、帰れ」とすげない声が返ってきた。
 リパはしょうがないなと思いつつ「あの、差し入れ物って僕なんですけど。おぢさん達と遊びたいんですが」と言うと、中から「おぉ!」と言うどよめきが聞こえて扉が開いた。扉の中では銃を構えた怖そうな男達が警戒の目を向けていたが、リパがにっこりと微笑むと「うおー、上玉だぜ」と歓声を上げた。
 エマリーとサワイはその隙を逃さず銃を撃ちながら中へ突入した。中にいた連中は混乱して逃げ惑ったが、リパ達3人に全員倒された。

 リパ達はバンデッジを探して兵器工場内部をうろついたが、しばらくして警報が鳴り、「侵入者、B1西ブロック、射殺せよ」という放送があった。そして続々と警備兵が現れた。警備兵達は軽機関銃はもちろんのことガトリング銃までも持ち出してきたため、さすがのリパ達も苦戦した。しばらく銃撃戦が続いたが、ベテランのサワイが体を張って援護射撃をしてくれたおかげで何とか警備兵達を始末することが出来た。
 リパ達が工場をくまなく探していると兵器研究室と書かれた部屋が見つかった。中へ入るとバンデッジがいた。「ひっひっひ、ここまで来るとは大した者たちじゃのう。その体、研究材料として大事に使ってやるぞ」バンデッジは不気味な声で3人を迎えた。サワイは激情を抑えた低い声で「お祖父ちゃん、気は確かですか。何故母さんたちを生体実験に使ったのですか」と問い詰めた。リパ達は祖父と聞いてびっくりしたが、バンデッジはうつろな目で「崇高な研究の前には血縁など無意味だ。ひっひっひ、そろそろ始末してやろうか」と言うと体全体の筋肉を盛り上げた。「ば、ばかなことを。お祖父ちゃん自分の体を、じ、人工細胞で改造したんですか?」サワイは驚いて聞いたが、バンデッジは問答無用で殴りかかってきた。
 リパ達はやむなく銃で撃ったが、恐るべき俊敏力によって弾丸を軽くかわしてしまった。逆にサワイはバンデッジの破壊力のあるパンチでよろめいてしまった。リパはデートナの授業を思い出し、重いライフルを捨てて鋭いナイフで接近戦に挑んだ。このところ頭の回転が上ってきたリパは、ダブルフェイントでバンデッジの空振りを誘うとナイフで腕の筋を切りつけた。何度かバンデッジを切りつけると、彼は全身血塗れになって動きが鈍ってきた。「お、お祖父ちゃん。もうや、やめてください」サワイが叫んだが、バンデッジはうなり声をあげると全身の筋肉に目いっぱい力を入れた。しかし、プシュッという音とともにドッと血が噴き出し、よろよろっとしたかと思うと倒れてしまった。

 リパ達が近づいてみるともうバンデッジは虫の息だった。サワイは「む、昔はとても優しくて、い、良いお爺ちゃんだったのに何故・・・」とつぶやいた。バンデッジは悲壮な目をして「賢者の石塔へ行け、廃坑に鍵が・・、・・の野望を・・・のだ」と言い残して死んだ。
 サワイはリパとエマリーに身の上話をした。バンデッジはガルピス帝国の優秀な科学者で、元々は怪我で失った手足などを人工細胞によって再生する研究をしていた。しかし10年くらい前から、人工細胞を使った強化人間や細胞具の研究に狂ったように没頭して、ついには自分の娘婿夫婦、つまりサワイの両親までも生体実験に使って死なせてしまった。その後バンデッジは行方不明となり、サワイはバンデッジを探す為に冒険者になったのだ。
 「そんな過去があったのか。しかしバンデッジの最後の言葉が気になるなぁ」「そうね、賢者の石塔ってやはり10年くらい前に突然封鎖された石塔よね。お祖父さんが変わってしまったことと何か関係ありそうね」「ぼ、僕もそう思います。ともかく、は、廃坑へ行って鍵をさ、探しましょう」
 3人は事件の背後に大きな陰謀を漠然と感じた。

 廃坑はトラベルトの地下深いところにある。元々はここで取れる金属資源を加工するためにトラベルトの町が建設され、機械産業が発達した結果軍需工場まで作られるに至ったのだ。今ではここの地下の資源は採り尽くしてしまったが、町の工場は他の鉱山から資源を仕入れて操業を続けていた。
 リパ達はトラベルトの地下から坑道へ入り廃坑へ向かった。どこかに縦穴のエレベータがあってそこから廃坑に入れるはずであった。しばらく坑道をさまよっていると前方にエレベータらしき物が見えた。リパとサワイはすぐにエレベータに乗り込んだが、ふと気がつくとエマリーの姿が無い。あれっと思った瞬間、エレベータのドアが勝手に閉じた。リパとサワイは制御パネルのボタンをあれこれ押してみたが全く反応がなかった。そうこうしていると外から声が聞こえた。「リパ・ダイナトーク、自分から罠に飛び込むとは愚かな奴」「その声はイオルタだな。何のつもりだぁ」「ふ、エマリーさんは今夜いただくぞ。その間おまえたちには地下で大人しくしていてもらおう。心配するな、後でエステーラがおまえを迎えにいく」イオルタがそう言い終わると、エレベータがガクンと動き始め急速に降下していった。


Next part (次の章)   Return (章選択へ戻る)