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■ アルパリーク冒険奇譚 ■

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part11
 急降下を続けていたエレベータはドシンという衝撃と共に止まった。エレベータのドアは開いたが、制御パネルのボタンは相変わらず反応しなかった。エレベータから出てみると、エステーラの”後で迎えにいきますわ”というメッセージとお弁当が置いてあった。
 サワイはすっかり諦めてお弁当をつつきながら、「や、やつら何者ですか」と聞いた。リパはキラ−ン兄妹のことを話し、「エマリーはイオルタのプロポーズは受ける気はないみたいだよ」と人事のように話した。「そ、そんなゆ、悠長なこと言ってていいんですか?む、無理やりら、乱暴されたりとか・・・」頭の回転がよくなったとは言え、この手の話しに疎いリパは(そっかぁ、かわいさ余って憎さ百倍とか言うから、イオルタが逆上してペシペシ殴ったりするかもなぁ)と不安になった。サワイは追い打ちかけるように「エ、エマリーさんって純情なタイプみたいですが、ら、乱暴されたショックで自殺なんかし、しなきゃいいですが」と言うものだから、リパは(そーいやぁ、エマリーって顔にこだわってたなぁ。イオルタにナイフで顔に傷つけられたらショックだろうなぁ)と、すっかり心配になってきた。
 リパは居ても立ってもいられなくてエレベータを動かそうとしたが、全く反応は無かった。しかし、ふと気がつくとエレベータの横に”2号機”という文字が見えた。「サワイ、どっかに1号機のエレベータがあるんじゃないかなぁ」「ぼ、僕もそう思います。さ、探してみましょう」弁当をすっかり平らげたサワイは気合い十分で立ち上がった。

 廃坑はまるで迷路のように縦穴と横穴が走っていた。リパもサワイもあまり迷路は得意でなく、同じところをグルグル回っているようだった。リパは(いつもなら方向感覚の良いエマリーが誘導してくれるのに)と、今更ながらにエマリーの有り難さが身にしみた。
 廃坑には巨大化したミミズなど気持ちの悪い怪物が少なからずいた。図体が大きいため仕留るのに時間はかかったが、怪物の動きは鈍かったのでさほど苦労はしなかった。
 迷路をさまよっているうちに所々に食料や武器が入った非常箱が設置されているのに気がついた。おそらく落盤に備えて配置したものだろうが、長い年月が経っていたため弾丸は湿気って使えず、食料も干からびてしまっていた。しかし現在位置やエレベータホールの方向が示されており、リパとサワイはこれを頼りに進んだ。
 2時間は経ったであろうか。二人はようやくエレベータホールの入り口に着いた。何やら中からざわめきが聞こえるので、そっと入り口を開けて中をのぞいてみた。目を凝らしてみると、頭からフードをすっぽりかぶり、大きな両眼を光らせた小人たちがうじゃうじゃといた。「ま、まずいです。か、かれらは凶暴な地底人です」サワイは見覚えがあるらしかった。「迷路に誘い出して少しづつ始末しようよ」とリパ言うと「そ、それでは時間がかかりすぎます、ボ、僕が囮になって彼らをおびき出しますから、リ、リパ君は脇へ隠れて隙をうかがってエ、エレベータに乗ってください」とサワイが答えた。リパはぐずっていたが、「エ、エマリーさんのことが心配です。ボ、僕はベテランですから、心配ありません」とサワイが言うので勧めに従うことにした。
 サワイは入り口を勢いよく開けると、「う、うららぁ〜〜」と奇声を発し地底人の注意を引きつけた。地底人は一瞬静まり返ったが、「ジャワワ−ッ」という叫び声と共にサワイへ殺到した。サワイは巧みに挑発しながら地底人をエレベータホールから引き離した。リパは隙を見てエレベータに飛び乗るとでトラベルト地下まで昇り、すぐにエマリーの行方を探し始めた。

 一方、イオルタは妹たちとともにエマリーをホテルのスイートルームに担ぎ込んだ。麻酔でぐっすり眠り込んでいるエマリーはぴくりともしなかった。スイートルームは3部屋続きになっていたが、イオルタはエマリーを一番奥のダブルベッドに寝かせた。イオルタは妹たちを追い払うとネクタイを緩め始めた。
 「眠っている間にいただくというのはいささか心苦しいが、暗がりにいて何もしないリパみたいな薄情な男よりはましと言うもんだ」イオルタは自分に弁解するようにつぶやいた。「さて、この日のために買っておいた本を・・・」イオルタは旅行バッグの底を探し始めた。「あれ? ない、”初夜の手引き”がないぞ」代わりに出てきたのは”おにいちゃんのえっちぃ”と書かれた紙切れ一枚だけだった。「げげ、エステーラが取ったな」考古学一筋のイオルタはすっかり途方にくれた。「こうなったら適当にやってしまおうか、いやいや、手順を間違えたら一生後悔するかもしれん」イオルタが迷っていると、ふとホテルの備えつけの本棚が目に付いた。「おぉ、さすがは高級ホテルのスイートルームだ。ウエーブスター百科事典が置いてある。これなら何か書いてあるだろう」イオルタは事典を調べ始めた。
 エステーラとチーズはドアの外から興味津々で様子をうかがっていたが、いつまで経ってもパラパラと本をめくる音しか聞こえない。エステーラがしびれを切らしてドアを開けた。「おにいちゃん、何もたもたしてるのよ」「あ、い、いや、物には順序があってな・・・」とイオルタが言い訳すると、エステーラはあきれて「えっ、順序? 結婚式上げるまで手をつけないつもり?」と聞いた。「う、うんまぁ婚前交際というのはどうも気が引けて・・・」「おにいちゃん固いのね。しょうがないわね。私が司祭やってあげるから今ここで式上げちゃいなさいよ」「そーだな(そっか式を挙げれば何やってもいいんだ)」
 エステーラは有り合わせの物で花嫁を飾りたてると、自分も司祭のローブ代りにカーテンをまとった。「汝イオルタはエマリーを妻として終生愛すると誓いますか」「誓います」「汝エマリーはイオルタを夫として終生愛すると誓いますか」「・・・」「拒否は無かったので誓ったものと認めます。では二人とも誓いのキスを」
 イオルタがエマリーに顔を近づけた。その時バタンと音がして、ドアを蹴破って入ってきた男がいた。リパだ。「な、どうやって廃坑から出られたんだ?」イオルタがあたふたしていると、息を切らせたリパがスッと近づくなりバシッとイオルタを殴った。リパは無言でエマリーを抱えるとそそくさと出ていった。エステーラはほれぼれして見送るだけだった。

 ホテルの外へ出ると、夜の冷たい空気がエマリーの目を覚ました。エマリーはリパに抱えられてると判ると、まだ夢覚めやらぬ声で「リパ、愛してる」とつぶやいた。リパはドキッとした。いままでエマリーを女性として見たことは無かったが、急にいとおしくなって体が熱くなるのを感じた。リパは優しくキスするとエマリーを下ろした。「サワイがまだ廃坑にいるんだ。助けなくっちゃ」
 リパとエマリーは地下へ向かった。地下への階段の所でデートナにばったりと出会った。「友達が地底人と戦っているんだ。手伝って」「うーし、まかせんしゃーいだす」デートナは軽く引き受けた。
 三人はエレベータで降下して廃坑に到達した。エレベータから出てみると、エレベータホールでは何やら儀式が行われていた。中央の柱に男が縛りつけられ、周りを地底人が火を持って取り囲んでいた。デートナは柱に縛られている男がサワイだと判ると、怒髪天をつく勢いで地底人の群れに飛び込んだ。「うぉぉー」デートナが喚きながら戦斧を振り回すと、瞬く間に2,3匹の地底人の頭骸骨がグシャッと割れた。さしもの凶暴な地底人も筋骨隆々の大女が狂ったように暴れるのに肝を冷やし、てんでバラバラに逃げていった。
 リパはサワイを柱から下ろしたがぐったりとして息は無かった。

part12
 「サワイ、しっかりするだす」デートナの大声が廃坑中にこだました。その大声でサワイの心臓はビクッとして動き始めた。「助かるわ、病院に連れていきましょう」リパ達はサワイを担いで病院へ向かった。
 病院で一通りの手当てはしてくれたが、医者は「心停止の時間が長かったら意識は戻らないかもしれません」と告げた。不安な一夜が過ぎたが、明け方になってサワイの意識が戻った。デートナはおいおい泣いて喜んだ。
 リパとエマリーは、サワイのことはデートナにまかせて病院を出た。「デートナの待ち合わせの人ってサワイのことだったのかしら」「うん、そーみたいだね。デートナを恋人にするなんて勇気あるなぁ」「あら、そんなこといっちゃ悪いわ」エマリーはリパの腕を取ってそぞろ歩きした。二人はいつしかトラベルトの地下入り口まで来ていた。リパは「二人だけじゃ地底人と戦うのはしんどいなぁ。鍵は後で探そう」と言って諦めた。「ねぇリパ、賢者の石塔へ先に行ってみない? 鍵を探す時のヒントが見つかるかもしれないわ」リパもなるほどと思って塔へ行くことにした。

 賢者の石塔に着いてみると、何とそこにはキラ−ン兄妹がいた。「わ、エマリーさん昨夜は大変失礼しました。な、なぜここに?」「石塔に入るための調査をしに・・・」「おぉ、そーでしたか。ならば昨夜のお詫びに石塔の鍵を開いて差し上げましょう」「え? 鍵持ってるの?」「実はエステーラが廃坑にお弁当を置きに行ったとき偶然見つけたのです。ささ、エステーラ開けて差し上げなさい」「開けてもいいけど、リパ君、わたしも一緒に連れてってね〜」エステーラはリパに媚びた。「う、うん」とりあえず中に入るのが優先するのでリパは承知した。
 エステーラは喜んで鍵を開けた。カチャッという音がしてロックが外れたと思った瞬間、ヒュッ、ヒュッと音がしてエステーラに矢が飛んできた。フッとエステーラの姿が消え、矢は今までエステーラの立っていたところにブスッと突き刺さった。「あーん、避け損ねたぁ」扉から5m離れたところにエステーラがうずくまっていた。どうやら1本の矢が足をかすめたようだ。
 それにしても恐るべき俊敏力である。リパは、(そーか、あれだけ肌を露出していても今まで無傷でいられたのは、あの俊敏力のせいか)と納得した。エステーラの傷はそれほど深くはなさそうだったが、イオルタは心配して病院に連れていった。

 リパとエマリーは邪魔者が消えたのをこれ幸いと石塔に入った。ところがチーズまでついてきた。「あなたは危ないから外で待ってなさい」とエマリーが言うと、チーズは「としごろの男女を二人っきりにする方が危ないでち」と言い返してきた。エマリーは年に似合わないチーズの物言いに苦笑したが、一人にしておくわけにもいかず連れていくことにした。
 その時、ふと入り口を見ると一人の男が立っていた。茶色い防弾ジャケットを着た小太りな男であった。「わぁ、クマさんみたいでち」チーズはキャッキャとしながら男にじゃれついた。男はチーズに戸惑いながらも自己紹介した。「私はカレードと言います。ここへは捜し物に来たのですがご一緒してよろしいかな?」男の言葉遣いは丁寧だったが威厳のある命令調の響きがあった。リパはつい「はい」と言ってしまった。
 結局4人で石塔の中を探索することになった。エマリーは石塔の入り口にあったような凶悪な罠を警戒しながら進んだ。いや実際石塔内部はトラップだらけであった。中にはトラップを解除すると別のトラップが作動するという厄介なものまであった。
 しばらく進んでいるうちにエマリーは一つのトラップに引っかかってしまった。トラップが作動すると前後から凶暴な怪物が現れた。挟み撃ちである。リパとエマリーは前方の怪物を相手にするだけで精いっぱいだった。前方の怪物を倒して振り返ると、驚いたことにカレードとチーズは怪物の攻撃を防御していた。カレードはのたのたした動きで怪物の攻撃をバシバシ受けていたが、いっこうにダメージを受けた様子はなかった。どうやら小太りしているのは、防弾ジャケットや対爆緩衝材を山のように着込んでいるせいのようだ。一方、チーズの周りには輝くフォース・バリアが張られていた。学術協会には古代人の血を受け継いだサイキッカーがいると聞いていたが、チーズはその内の一人であるらしかった。しかし、二人とも攻撃は全然出来ないようだった。「早く怪物をやっちけて」と言うチーズの声で我に戻ったリパとエマリーはほどなく怪物を始末した。

 4人はその後もトラップに何度か引っかかり多少のダメージを受けたが、特に深手を負うことなく石塔の頂上についた。エマリーは最後のトラップを慎重に外して中に入った。内部はきらめく光の粒が空中を縦横に走っていた。「電子頭脳だわ、こんなに大きいのがあるなんて信じられない」エマリーが感嘆を漏らすと、光の粒が急速な動きを示し制御パネルに”侵襲者:第1種プロテクション発動”と表示された。エマリーはしまったと思いながら制御パネルに駆けつけて電子頭脳から情報を引きだそうとした。まだ、完全にプロテクションはかかってないはずだった。”真文明・・・阻害・・・を急げ”エマリーは持てる知識をフル動員してプロテクションを外そうとした。しかし後ろでバンと言う音がしたと同時に制御パネルが吹き飛ばされ全ての光が消えた。
 4人が振り返るとそこには二人の男がいた。一人は10年前にリパの父親とともに行方不明となったエマリーの父ダイナマであった。「お父さん!」エマリーは思わず叫んだが反応はなかった。「ほほう、ダイナマの娘か。まぁいい。カレード王子こっちへ来なさい」もう一人の男がカレードに呼びかけた。「シックス、きさま何しに来た。なぜ電子頭脳を壊したんだ?」カレードは見知っているようであった。「知れたこと。都合の悪い情報を聞いて欲しくなかったまでだ。カレード王子、あなたはまだガルピス帝国にとって必要な人間だ。そこにいる仲間を殺されたくなかったら大人しくこっちへ来なさい」
 カレードはしぶしぶシックスと呼んだ男の方へ行った。「お父さん!」エマリーはもう一度父に呼びかけた。すると「ふふふ、エマリーか、大きくなったな」と不気味な声を響かせた。「何故そんな人達の味方するの?」「ふふふ、私は崇高な使命を与えられたのだ。ははは、お前も協力するかい」目は完全に虚ろであった。どうやら洗脳されてしまっているようだ。

 シックスとダイナマがカレードを連れて出て行くと、「わーん、クマさんを取られたぁ」とチーズが泣き出してしまった。そこへちょうどイオルタがやってきて、「おのれリパ・ダイナトークめ、かわいい妹を泣かせるとは許せん」と怒鳴り込んだ。「イオルタおにぃちゃまぁ、クマさん取り返ちて」「く、く、まぁ?」リパは今までのことをイオルタに説明した。「うむむ、要はそのカレードという奴を助ければよいのだな? よし、かわいい妹の頼みだ。いくぞ」イオルタは妹たちを引き連れて出ていった。
 リパ達もダイナマを追う為に石塔を出た。ちょうどそこへデートナがやってきた。「ネプシラとキャメラッコから大変な情報が入っただす。ネプシラの反逆事件はゴールドという男が背後で糸を引いていたらしいだす。それとキャメラッコの地下に古代の制御装置があったらしいだすが、それが例の破壊された通路を通ってクァズロークの塔へ運ばれていたらしいだす。その上クァズロークの塔の司令官はダイナマと言う名前らしいだす」
 リパは賢者の石塔で起こったことをデートナに手短く話した。そして3人は連れだってクァズロークの塔を目指した。

part13
 リパはクァズロークへ行く道すがらサワイの容体を聞いた。「医者がびっくりするぐらい回復してるだす。今退院の手続きをしてるところだす」リパはサワイを地底に残したことを気に病んでいたが、たいしたことなくてほっとした。
 クァズロークの塔に着くと入り口にはキャメラッコの衛兵がいた。入り口を開けることは出来たものの、中の怪物が手に負えないということだった。リパ達は気を引き締めて塔へ入った。塔へ入るとすぐに怪物が襲いかかってきた。衛兵のいったとおり怪物はすさまじい攻撃力を持っていたが、リパとエマリーはここのところ格段に腕を上げていたし、今回は名だたるデートナが加わっているので、さしたる苦労も無く怪物を倒せた。
 リパ達は、怪物を始末しながら塔をどんどん登っていった。リパ達が頂上の一つ下の階まで来たとき、前方からドドドドンと大口径ライフルを撃ってきた影があった。良く見るとリパの父ゴールドであった。「父さん、目を覚まして」リパは叫んだが虚ろな目をしたゴールドは「ははは、私の崇高な目的を邪魔する奴は生かしておけないな」と言うと銃口をリパに向けた。リパはフェイントをかけて右に移動した。ゴールドの銃口はリパを追いかけたが、その一瞬の隙にデートナが突進し、ゴールドの銃を跳ね飛ばした。デートナは続いてパンチを浴びせた。
 ゴールドは数メートルも吹っ飛んだ。「いってー、誰だぁ、こん畜生・・・、あれ? ここはどこだ」なんとゴールドが正気に戻ったようだ。「父さん、僕が判る?」「・・もしかしてリパか? 幾つになったんだ。俺に似て色男になったじゃねえか」「えと16才だけど」「そうか10年経ったのか」「今までのこと覚えてる?」「うーん・・・、そうだ、この上にダイナマがいるんだ。早くやつを止めないとこの塔が動いてしまう。詳しい話は後だ。いくぞ」
 リパは再会の感動に浸る間もなく父親とともに塔の最上階へ突入した。そこには複雑な制御パネルがあり、ダイナマが何やら操作していた。「ダイナマ、目を覚ませ!」ゴールドが呼びかけたが返事の代わりにナイフが飛んできた。「しょうがねぇ、ちっと衝撃を与えるか」ゴールドはドドンと大口径ライフルを撃った。しかしダイナマは避けた。弾は制御パネルにあたり、バチバチとショートしながら制御パネルが燃え始めた。すぐに辺り一面を煙がおおったかと思うとゴゴゴゴと言う振動音と共に塔が動き始めた。「やべー、脱出だ」
 ゴールドは父を探すエマリーを引きずって制御室から出た。ゴールドは窓から飛び降りるつもりだったが、すでに塔は地中に潜っていた。「どうなってるんだす?」「この塔は古代人の作った掘削機で、直径100メートルの穴を開けながら地中を進むんだ」「えー、どこまで進むの?」「そいつは機械に聞いてくれ」リパがうろたえていると、塔がガクッガクッとしてついに止まった。
 「ふー、どうやら制御パネルが壊れたんで一時的に暴走しただけみたいだな」ゴールドが制御室を覗くと煙はおさまっていたがダイナマの姿は無かった。よく探してみると脱出口のようなところがあった。「しまった、逃げたか。ま、行き先はガルピス帝国しかないけどな」

 4人は脱出口を通って塔の外に出た。地下30メートル、塔の通った周囲は圧縮された土砂で岩盤状に固まっていたが、ハーケンを打ち込めば登ることが出来た。地上へ出ると一息入れて今までのことを話し合った。
 「心配するなエマリー。俺がすぐに正気に戻ったくらいだからダイナマもすぐに戻るさ」ゴールドが慰めるとエマリーは明るい顔を取り戻した。「そうですわね。ところでおじさまって芸術家なんですよね。抽象画を拝見しましたわ」冷静さを取り戻したエマリーはさっそく将来の舅にお世辞を言った。「おぉ、あの絵は自信作だったんだ。高く売れたかい?」「それが・・」エマリーはフリーズロックシティでのいきさつを話した。リパは(あれは地図じゃなかったのか。言わなくて良かった)と心の中で赤面した。
 しばし思い出話をした後、ゴールドはあくびして「さーて、アルパリーク大陸が水没しない内にシックスを倒しにいくか」とのんきに言った。「水没?」リパが聞き返すと「あぁシックスの奴、何の目的かはしらんがそのつもりらしいぞ。ネプシラの装置で水位を上げようとしたし、今回は掘削機で外海までの水路を造ろうとしたみたいだ」「えー、そんな大事なこと早く言ってよ」

 リパ達はすぐさまガルピス帝国を目指して出発した。途中ネアバンクでキラ−ン兄妹に出くわした。リパが不審に思って聞くと「ガルピス城の城門を突破できんのだ」という。ゴールドは「そりゃそうだ。このカードが無いと城門は開かんぞ」とカードをひらひらと見せた。その時突然エステーラが涙目で「お父さん」と叫んだ。ゴールドはギクギクッとして「う、もしかしてエステーラか?」と冷や汗をかいた。「えー、お父さんって僕のお父さんじゃないの?」今度はリパが泣きそうな声で聞いた。「いや、実はだな。17年前までエステーラの母親と同棲してたんだ。そこへお前の母フェリーレが昔の責任取れって押しかけてきてな、結局フェリーレと正式に結婚したんだ」「昔の責任って?」
「う、うん。21年前キャメラッコ城に出入りしてたとき当時の宮廷料理長の箱入り娘に男女のいろはを教えたんだ。それがフェリーレだったんだ」「おじさま、それってABCのCまで教えたってこと?」エマリーがスバッと聞いた。
「ま、そう言うことだ」ゴールドは冷や汗たらたらだった。エステーラはハッと気がついて、「じゃあ、わたしとリパ君て異母姉弟なの? あーん、それじゃ結婚できないわ」と泣き出した。

 いやしかし意外な過去だった。リパは祖父が宮廷料理長だったと言うことを初めて知った。母が美食家なのも納得できる。リパはイオルタに向かって「お兄さん、今までのことは水に流して仲よくしましょう」と言った。しかしイオルタは「ん?、我ら兄妹はみな父親が違うんだ。お前と兄弟関係はない」と言い放った。そして首にかけたロケットを開いて父の写真を見せた。リパとエマリーはまたしても目を丸くした。ダイナマの写真であった。ゴールドは汗を滝のように流していた。「おじさま、どうなってるの?」とエマリーは詰問した。
 「うん、実はダイナマは21年ほど前に酒場女と駆け落ちしてな、その子供がイオルタなんだ。ダイナマはイオルタが生まれる前に女と分かれて出て行ってな、俺はイオルタを抱えて途方にくれてる女がかわいそうで面倒見てたんだ。ダイナマの方は冒険三昧してたけど、17年前にエマリーの母のパミルと出会って結婚したんだ」ゴールドの話を聞いて、今度はイオルタが泣き声を上げた。
「おぉ、なんと過酷な運命。エマリーさんとは異母兄妹なのか」
 リパはふとキャメラッコ国王の話を思い出してゴールドに尋ねた。「もしかしてダイナマってキャメラッコの王子なの?」ゴールドは観念したようにうなずいた。いやはや、とんでもない関係であった。

 これでおしまいと思っていたらまだあった。今度はチーズがロケットの写真を見せたが、それは明らかにサワイだった。リパとエマリーは黙っているだけの分別を持っていた。デートナは(そういえば6年前に出会った当時、彼は年上の女性と付き合ってると言ってただすなぁ)と思い起こした。
 ゴールドは泣いてるイオルタ達を慰めるつもりで「母親は元気かい?」と尋ねた。しかしイオルタは怒って「あんな女のことは知るもんか。自分は何もせずに子供に生活費を稼がせていたんだ。僕は10才の頃から工事現場で働かされたし、エステーラなんか8才で夜の酒場に働きに行かされたんだ」ゴールドはぎくっとした(10年前だな? おれの仕送りが切れたせいか?)。
 イオルタは更に続けた。「チーズが産まれた後、おふくろはチーズを放って家を出てしまったんだ。チーズは僕たちが親代わりで育てたんだ。おふくろは風の便りでシラク山にいるって聞いたけど会いたいとは思わないよ」今度はデートナがぎょぎょっとした。自分がシラク山で殺した魔女はキラ−ン兄妹の母親だったのか。良い母親ではなかったとは言え、これは黙っていた方がいい。リパとエマリーも目でうなずいた。

part14
 ゴールドは噴水のように汗をかいていた。リパ、エマリー、デートナはうしろめたい感じで黙りこくっていた。イオルタとエステーラは、まだ泣いている。ただ一人チーズだけがきょとんとして、「早くクマさん取り返ちに行こうよ」と言うと、ゴールドも「そ、そーだな。ダイナマも助けなきゃならんし、アルパリークが水没したら結婚どころじゃないしな。細かい話は後にしよう」となだめるように言った。ゴールドはカードを2枚持っていたので二手に分かれることにした。リパ、エマリー、デートナはサワイを待つことにし、ゴールドとキラ−ン兄妹が先に行くことにした。
 リパ達がネアバンクの町で装備を整えていると、ほどなくサワイがやって来た。「どうも遅くなって済みません。医者が後遺症が無いか精密検査したいと言うものですから」サワイは全然どもらずに喋った。リパ達は顔を見合わせたが、悪い後遺症では無いようなので良しとした。
 4人は早速ガルピス城へ向かい、城門をくぐった。城内には人影はなく、代わりにロボットや細胞具がうじゃうじゃといた。4人は物陰に潜んでしばらく様子を見ていたが、デートナが一旦戻ろうと言い出した。「あのロボットは戦多駆機だす」「せんたくきぃ?」「そう、戦闘用多関節駆動機械、略して戦多駆機だす。たくさんの関節を駆動して武器を四方八方に瞬時に向けることが出来るだすから、隙が無いだす。へたすたらこっちが先にやられるだす」サワイも相づちを打ち「そう言えば、さっきから城の上からグレネード弾の炸裂音がひっきりなしに聞こえるな。たぶんゴールドさん達だろう。あの調子だと相当な数のグレネード弾を準備しないと危ないな」と言って戻ることを勧めた。

 ネアバンクに戻った4人はグレネード弾をたくさん買い込んだ。ただ、エマリーはグレネード・ランチャーを扱えるほどの腕力が無く、なにか軽くて強力な武器は無いかと探していたが、ふと、霊眼のことを思い出した。「霊眼ならわたしでも使えると思うわ。ビヤダルの所へ行ってみない?」とエマリーが言うとデートナやサワイも賛成した。
 ビヤダル銃砲店に行くと、相変わらずビヤダルが霊眼にこき使われていた。「これ、食事はまだか」「へい、霊眼様、ただいまお待ちを」ビヤダルはリパ達が来たのさえ気づかない様子で右往左往していた。エマリーが声をかけるとやっと気がついて、「おぉー、エマリーか、筋骨隆々になったじゃないか」と軽口をたたいた。「今日は何の用だ?」「おぢさん、霊眼を、いえ霊眼様を貸してくださらない?」エマリーがそう言うとビヤダルは内心ほっとして、「そーだなぁ、俺は霊眼様にここに居てもらいたいんだが、余り一所に縛りつけるも良くないなぁ」と言った。霊眼は「いや、ここは居心地良いぞ。一生でも居てやるぞ」と言ったが、デートナが睨んでいるのに気がついて「しかし、ここは女っ気が無いからのぉ。たまには若い美人の娘と旅してみるかのぉ」と言い直した。
 「きゃー、ありがとう」エマリーは美人と聞いて嬉しそうに霊眼の入ったカップを手にとった。数百年を生きてきた霊眼にとっては、若い美人とはデートナのことで赤ん坊同然のエマリーのことでは無かった。しかしあまりにもエマリーが喜んでいるので、霊眼はまぁ良いかのぉと思って苦笑した。

 ガルピス城に再度潜入したリパ達は次々と戦多駆機や細胞具を倒していった。さすがに霊眼の威力は凄まじかった。霊眼が大凶眼光をほとばしらせると一瞬で敵がばたばたと倒れた。それでも倒れない敵はリパ達がグレネード弾でとどめをさした。
 ガルピス城はキャメラッコ城の5倍の広さがあり、リパ達はかなり手間取った。幾つもの小部屋あり、カレード王子とシックスを探したがなかなか見つからない。すでにこの城から離脱したかも知れないと思い、リパ達は城の背後の高山へ続く出口へと向かった。
 城の出口付近には広い一室があり、制御装置がびっしりと並んでいた。あたりには飲みかけのティーカップなどが散乱し、つい今しがたまで大勢のオペレータが居た雰囲気があった。ふと気づくと一人だけ残っている人影があった。シックス・ライモンであった。
 「はーはっはっはっ、遅かったようだな。このスクリーンを見ろ、今水路のポンプを起動したところだ」「水路ですってぇ?」シックスが指さした壁には幾つかのスクリーンがあり、アルパリーク大陸の各所の風景が映っていた。その内2つは、ウインライクの森付近とハルバートレバの裏山のようであった。たんなる風景じゃないか?と思った瞬間、各所の崖が突然崩れ、水が吹き上った。「何をするつもりだす? アルパリーク大陸を水浸しにする気だすか?」とデートナが詰め寄った。「ふふふ、ははは、水浸し? そんな生易しいことは考えてないな。あの水路は外海から海水を引いているんだ。この大陸を完全に水没させるまでは止めんぞ。ふははは」
 シックスは狂っているとしか思えなかった。アルパリーク大陸は周囲を6千メートル級の山脈で囲まれている。山脈に切れ目はないので、ここに水を貯めたら今ある町や城は海底深く沈むことになる。この惑星で唯一の大陸の文明を破壊して何になるのだろうか? エマリーは何を言っても無駄と思い、制御装置に飛びついて水路を閉じようとした。しかし制御装置は全く反応しなかった。「ふははは、停止装置はここには無いな。諦めろ」「くそぉ、停止装置はどこにあるんだぁ」リパはそう言うと銃をシックスに向けた。「ふふふ、そんなちゃちな武器で俺を脅迫できると思っているのか?」シックスはマントの下に隠していたガトリング銃を構えるとリパ達を撃ち始めた。
 リパ達も銃で応戦したが、シックスのマントは特殊なシールド作用があり弾丸がはじき返されてしまった。デートナがグレネード・ランチャーで攻撃すると、さすがに爆発の衝撃でシックスはよろめき始めた。デートナがもう2,3発撃って痛めつけようとしたとき、シックスは発煙筒をばらまき姿を隠した。煙が晴れたときにはシックスの姿はどこにも見当たらなかった。

 「どこへ逃げたのかしら?」「うーん、アルパリーク大陸が水没しても生き延びるつもりなら、高山だと思うけどなぁ」「僕もそう思います。高山へ登ってみましょう」リパ達は一旦ネアバンクで装備を整え、ガルピス城の後ろにそびえ立つ高山を登り始めた。さすが6千メートル級の山となると1日では登りきれない。リパ達は二日目の夕暮れには5千メートルに達したが、この辺りから根雪がいたる所に残っていた。リパ達は、本当にシックスはこの山を登ったんだろうかと言う疑念に悩まされていたが、デートナが雪の上に比較的新しい足跡を発見したのでシックスに間違いないと確信した。
 三日目、いよいよ後千メートルを登るだけとなった。ここらの高度になると気温はかなり低く、空気も希薄で息が苦しい。酸素ボンベは持っているものの頂上まで持つか不安になってきた。
 息を切らせながら登っていると、頂上まで後わずかのところに建物があった。リパ達は中へ入ってみた。内部は空調されていて空気は十分濃く、気温も外ほど寒くはなかった。奥へ奥へと進むと広い格納庫のような所へ出た。左右には高さ5メートルほどのドアがいくつも並んでいた。
 リパ達が格納庫の中央まで歩いていくと、奥からシックスの笑い声が聞こえてきた。「ふははは、はーはっはっ、死ぬためにこんな所まで来るとは酔狂な連中だな。はーはっはっ」「シックス、もう逃げ場は無いだす。観念するだす」デートナが凄みのある声で言ったが、シックスは笑いながら手を振った。その次の瞬間、格納庫の左右の扉が開いて6体の巨大なロボットが飛び出してきた。

part15
 6体の大型ロボットはリパ達を取り囲むとバルカン砲を撃ってきた。リパは死ぬかと思ったが弾丸は当たらなかった。気がつくとリパ達の周囲に輝くフォース・バリアが張られていた。サワイが「今の内に始末してください。バリアは長く持ちません」と言うと、エマリーはすぐに霊眼を使って正面のロボットを攻撃した。ピカッと大凶眼光がきらめくと、さすがの強装甲のロボットも煙を噴いて倒れた。しかし残るロボット達は防御用の盾を巧みに使って霊眼の攻撃をかわした。デートナとリパはグレネード弾を乱射して、ロボット達を攪乱しつつ攻撃した。しばらくすると格納庫は硝煙で充満した。エマリーは更に発煙筒を使って姿を隠し、ロボットの後ろに回り込んで霊眼を使った。結局、ロボット達は次々と倒れ、ついに残るはシックスのみとなった。
 「おのれ、ここまでやるとは迂闊だった。こうなれば最後の手段だ」シックスが一声おめくと、シックスの体の筋肉が盛り上がり血管が膨れ上がって醜怪な怪物に変身した。人工細胞で体を改造したようだ。ふっと、シックスの姿が消えキーンという音がしたかと思うと、リパとエマリーの体が衝撃を受けてはじき飛ばされた。「ふははは、超音速で移動する俺の姿は見えまい。ははは、ゆっくりとなぶり殺しにしてやる」格納庫内にはキンキンと音が反響した。サワイの精神力も尽きバリアは消えていた。リパはこれまでかと覚悟した。
 また、キーンと言う音がしたかと思うと今度はズバッという異様な音がした。「ぎゃあぁぁぁ」と言う断末魔の悲鳴を上げてシックスが倒れた。よく見るとシックスの心臓にデートナの剣が突き刺さっており鮮血が噴き出ていた。リパは以前デートナが超音速で走っているメルコを見極めていたことを思い出した。それにしてもあっけない幕切れであった。

 「早く水路の停止装置を探しましょう」エマリーは格納庫の奥のドアへと進んだ。ドアには特に鍵はかかっておらず、エマリーは慎重にドアを開けた。
 「すごい・・」ドアの内部は光が渦巻いていた。目が慣れると、それは巨大な電子頭脳であった。「賢者の石塔のよりはるかに大きいわ・・・」エマリーが感嘆の声を漏らすと光がはじけたように交錯した。「ダレだ?」電子頭脳が喋り始めた。「水路を閉鎖する装置はどこにあるんだ?」リパが叫んだ。「マダ所定の水位に達してイナイ。お前たちはダレだ?」「わたし達はアルパリーク大陸の住民よ。あなたこそ何者なの? 人類の文明を破壊してどうするつもりなの?」「ワタシはアルパリーク。人類の文明を復活させるプロジェクトの為に作らレタ電子頭脳だ」「文明の復活? そりは何だすか?」
 電子頭脳はしばし光を明滅させていたが、古い記憶を思い出すように喋り始めた。「約3千年前、コノ惑星に彗星が衝突した。彗星の衝突によって極冠の氷が融けて全文明が海底に没することが事前に予見サレタ。人類は冷凍睡眠装置の中で眠りに就き、再び大地がモドルのを待つことにしたのだ。人類は大地をモドス色々な方法を考えたが、極冠を元の状態に戻すには十万年の歳月が必要だった。土地を隆起させる方法は量が限られており、一部の文明シカ復活は出来そうになかった。ソコで大きな水瓶を作って、そこへ海水を貯める方法を選択シタのだ。ソノ水瓶がアルパリーク大陸だ」
 リパ達は信じられない面持ちで話を聞いた。「ワタシは文明が水没した後、水瓶の縁になる山脈を隆起させ始メタ。必要な高さになるのに3千年かかると計算デキタ。そして2千年前に一部の人類を蘇生シタ。ワタシは隆起作業のような大きな仕事は出来たが、水瓶に海水を導くための水路を造るためには人類の手が必要だったノダ。蘇生した人類はリム人と言い、文明復活の意欲に燃えてイタ。来たるべき復活の日に備えて、掘削機の製造などに着手シタ。ワタシはその状況に満足して眠りに就いた」
 リパは幼いときに聞いたおとぎ話を思い出した。「確かにリム大陸の先史文明伝説とか、そんな話は伝わっているけどなぁ」「ワタシのミスだ。人類の蘇生が早すぎたノダ。十数年前、ワタシが目覚めたときには昔の記憶を伝承した人間は極わずかしか残って居なかった。シカシ、ワタシは使命を果たさなければならなかった。ワズカに残った人間を手足として使い、水路建設に着手した。洗脳によって人材を集め、人手不足を補うため細胞具の研究も行わセタ。最近ではネプシラの淡水供給装置やクァズロークの掘削機も使おうとしたが失敗シタ。ダガ、一応の数の水路は確保できた。2ヵ月あればアルパリーク大陸を満杯に出来るハズだ」
 「そんなことをさせてなるものか。水路を閉じろ、閉じないとお前を破壊するぞ」リパは電子頭脳を脅かした。「イケナイ、ワタシを破壊したら人類が蘇生できなくなってシマウ」「わたしたちだって人類よ。わたしたちにも2千年の文明の歴史があるわ。先史文明にそれを潰す権利なんてないわ」エマリーの言葉に電子頭脳はしばし沈黙した。「分かった、水路は・・・今閉じた。ダガ、蘇生を待っている人類をどうすればイイ? 見殺しにスルノカ?」「いや、僕らの科学が進めばきっと助けられる日が来るはずだ」「ソレはいつのことだ?」「いつとは言えない。でも僕らは今の文明の未来に希望を持っている。お前はその時まで眠っていればいい」「シカシ・・・」電子頭脳はまだ何か言いたげであったがリパは電源を落とした。

 リパ達は外へ出てふもとの状況を見た。標高3百メートルの所まで水没しているようだった。遠くにキャメラッコ城の城壁やシラク山の山頂が見えた。どうやら完全な水没はまぬがれたようだった。
 その後のアルパリーク大陸は平穏に復旧が進んだ。ネプシラの住民も水没したものを引き上げるのに協力してくれた。最初はネプシラ人は淡水人魚と思われていたが、上半身と下半身の鱗が淡水と海水でそれぞれ適切に機能すると分かって、どちらでも活動できた。リパの疑問もこれで少しは晴れた。
 デートナとサワイはチーズ・キラーンを引き取って家族として生活を始めた。「しかしサワイの神経はすごいなぁ。デートナを奥さんにするなんて」今度はサワイ本人がいる前でリパが言った。「はは、でもね、出会った当時はエマリー程度には可愛かったんだよ」「む、わたし程度ってどういう意味よ。・・・え? と言うことはわたしも数年後にはデートナみたいになっちゃうの」「まぁ、そう言うことかな。冒険家を続ければだけど」サワイはちょっと意地悪に言った。「いやー、もう冒険家なんてやめるわ。リパ、お嫁さんにしてくれるんでしょ」「う、うん」
 エマリーの両親のダイナマとパミルは、ゴールド達に助けられて洗脳も解かれた。ただダイナマはキャメラッコへは帰らず、代わりに息子のイオルタ・キラ−ンがキャメラッコの後継者として選ばれた。キャメラッコ王はイオルタが天才と聞いて喜んだ。イオルタも王宮にしとやかな箱入り娘がたくさん居たので大満足だった。
 エマリーもプリンセスとしてキャメラッコ城で生活することになった。リパはその配偶者として王族の一員となり、生活費の心配は無くなった。母フェリーレもゴールドと共に里帰りし、久々に宮廷料理長だった父の料理を堪能した。
 エステーラは最初ちょっと寂しそうにしていたが、チーズに紹介されたカレード王子が意外と渋くて良い男だったので、今ではすっかり惚れ込んでいる。カレード王子はガルピス帝国を引き継いで王となり、シックスに荒らされた国内の再建を始めた。ともかく大団円である。

 それから数ヶ月がたった。
 キャメラッコ城の城壁の上で、一人の美少年が遠くをもの憂げに眺めていた。後ろから少女が声をかけた。「リパ、今度はシラク山の木でも数えているの?」「やぁ、エマリー。いや、何となく冒険者生活を思い出していたんだ。なんだか冒険者も悪くないなぁって」「うふふ、じゃあまた冒険してみる? わたしも行ってみたい気がするわ」「でも、腕が太くなっちゃうよ」「あら、もちろん怪物はリパが全部倒すのよ」「はい、はい」
 アルパリーク大陸は今日も快晴であった。(完)


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