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■ アルパリーク冒険奇譚 ■

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part1
 ここはフリーズロックシティのとある氷壁の上である。一人の美少年がもの憂げに遠くを眺めている。上品で美しい顔立ちは王侯貴族の御曹司と見まがうほどである。しかし彼は貴族ではなかった。彼の名はリパ・ダイナトーク。16才になる今日、冒険家として旅立たねばならなかった。
 リパは本当は冒険家になどなりたくなかった。冒険家というと聞こえはいいが実際にはヤクザな稼業である。他人の土地の洞窟に勝手に入って、中に納められているアイテムをかすめ盗ったり、文化財に指定された遺跡を荒らしたり、世間からはいい目で見られていない。しかも、いつ命を落とすかもしれない危険が付きまとう。
 それでも冒険家として稼がねばならないのは母フェリーレ・ダイナトークの美食のせいである。フェリーレは金持ちでも無いのに大貴族もうらやむほどの美食を重ねている。その食費も桁違いで、かつて父ゴールドも食費を稼ぐために数多くの洞窟から金品を取ってきたものだった。10年前に父が失踪してからは貯金で食いつないできたが、いよいよそれも底を尽き、リパが稼ぐしかなくなったのである。

 そんな少年の姿を後ろから静かに見守る少女がいた。名はエマリ−・ファルファシア、リパと同い年の幼なじみである。彼女は物静かなリパのことを慕っていたが、慎み深い性格が災いしていまだにリパとキスさえしたことが無かった。今度彼女も冒険家としてリパについて行くことにしたが、それはもちろん人気のない洞窟でリパに迫ろうという魂胆であった。
 「リパ・・・、そろそろ冒険者試験受けにいかなくっちゃ」とエマリーが声をかけたが、リパは依然として遠くを眺めていた。(きっとこれからの冒険者生活を思って、これから行くところを目に焼きつけているんだわ、もうちょっとそっとしておいて上げようかしら?)とエマリーは思った。
 しかしリパはそんなことは考えていなかった。(・・345ほーん、346ぽーん、・・・あれ?あの木は数えたっけな? うーん今日もウインライクの森の木の本数を数えそこねたなぁ、残念)
 エマリーがもう一度声をかけるとリパは静かに振り返って「行こうか・・」と一言言った。その憂いを含んだ顔にエマリーはまた恋心をくすぐられた。リパの口数が少ないため、いまだにエマリーはリパが大パカ物であることに気がついてないのであった。

 「んまぁ、リパちゃんどこ行ってたの? ママ心配してたわ」息子を溺愛しているフェリーレは相変わらずの調子で息子を迎えた。「今日は大事な試験だけどリパちゃん大丈夫?」不安なフェリーレの問いにリパはゆっくりうなずいた。いや、実はうなずいたのではなく、母の姿を上から下まで眺めて(かあさんまた太ったなぁ・・)などと考えていたのである。しかしエマリーは、静かなうなずきの中に秘めた闘志を感じて、またしても恋心を燃え上がらせるのであった。
 「まぁリパちゃん、ママ頼もしいわ。でも無理しないでね。そうそう、先生も息子のことをくれぐれもよろしく頼みますわよ」とフェリーレは試験官に念を押した。
 「うっし。まかせときんしゃーいだす」今回の試験官のデートナ・アイリーンがハスキーな大声を響かせた。27才になる彼女は筋骨隆々で、冒険者と言うより女格闘家と言った方がイメージに合っている。実際彼女は数多くの強力なモンスターをたたきのめしており、彼女が洞窟に足を踏み入れた瞬間に洞窟中のモンスターが夜逃げしたという逸話も1つや2つではない。
 余談はともかく、リパはフェリーレから「洞窟の生水は飲んじゃ駄目よ」とか色々な細かい注意を100以上聞かされてから、やっと試験洞窟に向かうことが出来た。

 試験洞窟はフリーズロックシティの東はずれにあるディアマンコス山の中腹にあった。入り口のドア越しに中の様子をうかがうと、ズルズルと怪物がうごめく音や、ギャオーとかいう咆哮がこだましていた。リパは怖じ気づいて震えたが、それはエマリーには武者震いに見えた。
 リパの様子をみてニヤッとしたデートナは洞窟の入り口を勢いよく蹴破り、「でーとなぁ参上!!」と大音声を発した。もちろん、洞窟は静まり返った。「さすがおねーさまの名声はすごいわ」とエマリ−は心にもないお世辞を言った。(こうなる前にリパを口説いて引退しなくっちゃ)と思うエマリーであった。
 洞窟内は薄暗かったが、コケ類の燐光で一応周囲の状況が見て取れた。それでもリパは心細く下をうつむいて歩いていた。「リパ、足もとばっか見てると壁にぶつかるわよ」そうエマリーに言われてはっとすると、まさに壁の直前であった。リパは照れ隠しに何か言おうとしたが、先にエマリーがかん高い声を上げた。「あらー。エコノミーメイト(食料)が落ちてじゃない。あ、エコノミーメイトに蟻が群がってる。そっか、リパはこの蟻の行列を追っかけてたのね。さすがリパって何ごとも見逃さないのね」エマリーは感心したように言う。リパは何がなんだか分からなかったが良しとした。

 試験洞窟をしばらく進んだが敵は出てこなかった。所々に大きなカタツムリがのたのたうごめいていたり、人なつっこい大きなコウモリが餌をねだってくるぐらいな物だった。奥へ進んでいくと、遺跡のような場所に出てきた。デートナは教官らしく冒険者の心得を色々講釈しはじめたが、リパは全然聞いてなかった。エマリ−は嫁き遅れの可哀想なおねーさまの顔を立てて、一生懸命相づちを打っていたが、ついつい「こんな博識のおねーさまになんで旦那さんが来ないのかしら」と禁句をもらす場面もあった。その都度周囲の雫がつららになったことは言うまでもない。
 遺跡に入ってからは少しづつ怪物が出てきた。もともと試験用に冒険者協会が飼い慣らしたものなので、さほど凶暴性はない。そのうえ今回はデートナが後ろから目を光らせていたので怪物達は及び腰になっていた。リパとエマリーは楽々怪物を撃退して腕を上げた。
 リパ達はいよいよ遺跡の最深部に到達した。ここの宝箱に冒険者証が入っているわけだが、リパが宝箱に手を伸ばそうとしたとき、後ろからガサッ、ゴソッという音ともに強力な怪物が現れた。デュアルメタルバットだ!! 宝箱の前に細工がしてあり、人が立つと怪物が目覚める仕掛けになっていたのだ。
 デュアルメタルバットは「ガゥォォー」という咆哮とともに飛びかかってきた。リパは慌てふためいて銃を撃ちまくったが有効なダメージを与えられなかった。これまでも多数の受験者をはたき落としてきた誇り高き怪物は、(今回のやつらも落第させてやるわい)と意気込んで大きな口をぱっくり開けた。
 あわやリパがガブッと食われると思った瞬間、怪物は後ろで眼光を光らせている人物に気がついて凍りついてしまった。怪物は今まで眠っていて、まさかデートナが一緒とは思わなかったのだ。その隙にエマリーが怪物の口に銃を撃ち込み、大きなダメージを与えた。デュアルメタルバットは、デートナに睨まれたショックもあって、たてがみを真っ白にして逃げていった。
 ついにリパ達は冒険者証を手に入れた。

part2
 さて、冒険者証を手に入れたリパ達は意気揚々として母フェリーレのもとに帰ってきた。「まぁリパちゃん、偉いわぁ、こんなに早く取ってくるなんて。怪我はしてない? お腹すいてない? お風呂に入る?」とフェリーレは相変わらずの調子で息子を迎えた。ともかく息子が立派に成長して食費を稼げるようになったのがとてもうれしいようだ。
 リパは(うーん、早く父さんを探し出して食費稼ぎをしてもらわなくっちゃ)という気持ちで一杯であった。そこで早速、探索に出かけようと言い出したがフェリーレに「リパちゃん、いきなり探索は危険だわ、もう少しデートナ先生に鍛えてもらった方がいいわ」と止められた。デートナも「うーし、鍛えてやるだす」と目をきらめかせた。しかし、エマリ−は早くリパと二人きりになりたくて「あらおばさま、デートナおねーさま、リパ君は試験の時立派に戦いましたわよ。もう探索に出かけても大丈夫ですわ」と言い返した。
 リパもデートナの怪力でしごかれてはたまらないと思い「後は実地経験を積むから・・」と言い放った。この一見頼もしい言葉にエマリーは再び乙女心をかき立てられるのであった。「おばさま、この近くに適当な洞窟とかありませんの?」「そうねぇ・・・そーだわ、洞窟じゃないけど恐ろしい地下倉庫があるけど行ってみる? 実は昔、荷物整理のために地下倉庫に入ったのだけど余りの恐ろしさに荷物をほうり投げたままにしてあるの」
 リパは背筋が寒くなったがエマリーは毅然として引き受けた。デートナはしぶしぶパーティから外れた。

 母のいる冒険者協会本部を後にしたリパは、噂の地下倉庫の入り口まで来た。しかし恐怖の地下倉庫と聞いてはすぐに入る勇気がなかった。「ちょっと昼寝してから行こうよ」と言うと、エマリーは頬を染めながら「地下倉庫のどっかに寝る場所くらいあるわよ・・・」と消え入りそうな声で言いながら、リパの腕を引っ張って地下へ降りていった。
 立て付けの悪いドアを開けて地下倉庫に入った。地下は思ったよりも暗かった。照明が所々にしかなく、あっても暗い電球しかついてなかった。やっと目が暗さに馴れてくると、何やら壁にうごめく物が見えた。
 「きゃぁぁーーーー」エマリーの絶叫が地下に響く。「ゴキ、ゴキ、ゴキブリーいやーん」エマリーのうろたえる姿をリパは呆然と眺めるしかなかった。
(そういや昔ゴキブリの触覚を取って遊んでた時、かあさんも絶叫してたなぁ)とリパは感慨にふけっていると、エマリーが我を忘れてリパにしがみついてきた。リパははっとしてエマリーを見ると、おもむろに右腕をエマリーの肩に回し、左腕でエマリーのひざを抱えて抱き上げた。
 突然のリパの積極的な行動にエマリーはとまどったが、ゴキブリの恐怖はどこえやら、期待に胸を震わせて目を閉じた。リパはエマリーを抱きかかえながら、(やっぱり・・・そうだ。最近のエマリーって重くなってる。最近お互い背が伸びてきたもんなぁ)などと考えていた。リパはすぐにエマリー下ろすと優しく言葉をかけた。「これチャバネゴキブリだよ。洞窟で出てくる怪物と違って害はないよ」期待を外されたエマリーはちょっと怒って「あら、そう? だったら一人でゴキブリ始末してちょーだい」と言葉を返した。

 ともかくリパがゴキブリを始末すると後は普通の倉庫だった。結局二人は探索のつもりが掃除をしただけであった。フェリーレから頼まれた荷物を全部大広間に片付けて、二人は一休みした。と、その時突然グラグラッと地震が来た。エマリーはこれ幸いとキャーキャー言いながらリパに抱きついたが、リパは(ふーん、エマリーはゴキブリだけじゃなく地震も嫌いなのかぁ)と思っただけであった。
 地震はすぐに収まり二人は地上に出ようとしたが、入口に通じる立て付けの悪い扉は開かなかった。どうやら地震のせいで扉が枠に食い込んでいるようだ。リパは思いっ切り蹴っ飛ばしてみたが全然びくともしなかった。ただ蹴ったショックのせいで上から鍵が落ちてきた。「あら、これってさっき開かない部屋が一つあったけど、そこの鍵じゃないかしら?」エマリーは興味が出てきた。リパは興味なかったが、扉が開かないことには外に出られないので、とりあえずエマリーについて開かずの部屋に向かった。
 エマリーが鍵を差し込んで回すと、かちっと錠があいて鍵はポキリと折れてしまった。「まぁずいぶん脆い鍵ねぇ」とエマリ−は言ったが、リパは折れたカギを見ながら(エマリーって重くなっただけじゃなくて、力もついてきたんだぁ)と感心した。
 ともあれ開かずの間を調べてみたが、出てきたのは抽象絵画だけであった。「あれ? とうさんのサインがある・・」「本当だわ、これ50年代の抽象派技法で描かれているわ。リパのお父さんって芸術家だったのね」エマリーがキッパリと言うものだから、リパはこれが地図に見えたとは言えなかった。しかし、父ゴールドの描いた物であることには違いなく、父の失踪と何か関係があるのかもしれない。そう思ったリパは母の所に持っていくことにした。

 もう一度地上への扉の所まで来ると向こう側でデートナの声が聞こえた。リパがデートナに声をかけると、「うーし、今あけるから後ろに下がっているだす」と答えがあった。デートナが「うりゃぁぁ」と気合いを入れて扉を蹴りつけると、憐れ鋼鉄の扉は20mも吹っ飛んでしまった。リパも危うく飛んできた扉にぶつかるところだった。「デ、デートナおねーさま、そんなに力入れなくても・・・」エマリーは改めてこうはなりたくないと思うのであった。
 リパは母のもとに抽象画を届けた。「まぁまぁリパちゃん、恐怖のゴキブリをやっつけてくれたのね。えらいわ、頼もしいわぁ。手は洗った? 昔みたいにゴキブリで遊んだりしてないわね?」フェリーレはいつもの調子で息子を迎えた。抽象画については母も知らなかったが、「そう言えばゴールドが最後に出かけたときに、戻ってこなかったら開かずの間を開けてみろって言ってたわね。ゴキブリ騒ぎですっかり忘れてたけど」と徐々に思い出してきた。エマリーは絵を眺めながら「そっかぁ、もしものことがあったらこの絵を売って生活の足しにしなさいってことなのね。でも当時は高く売れたかもしれないけど今は抽象画って流行らないわねぇ」
 リパは一瞬(あれが地図なら、あれをたどれば父さんの所に行けるかも)と思ったが、フェリーレが「記念に大事にしまっておくわ」と言ったため、それ以上は口を出さなかった。

 翌日、気分を改めてリパとエマリーは今度こそは探検だぁと張り切っていた。まずは情報を集めるためにフリーズロックシティの酒場へ入って行った。しかしスリットドレスのおねーさんに「ここは未成年のくるとこじゃないわよ〜ん」と軽くあしらわれてしまった。他でも探検の口がなかなか見つからない。エマリーは「未成年ってだけで一人前の冒険家として見てくれないなんて不公平だわ。ちゃんと冒険者証だってあるのに」と、ぶつくさ言った。リパはすっかり諦めて、ビヤダル銃砲店に遊びに行くと言い出した。「えー?、あの変なおじさんの所で昔の冒険談聞くのぉ?」エマリーは乗り気ではなかったが、ほかに行く当ても無く、リパについて行くことにした。

 銃砲店では折しもビヤダル店長が店を閉めようとしていた。「あ〜あ、ついに倒産したの?」エマリーが軽口叩くと「お、坊や達ちょーどいい所に来た。これからカデンツァ遺跡へ行くぞ。いっしょにどうだ?」とビヤダルが誘ってきた。エマリーは”坊や達”と言う部分に皮肉を感じたが、せっかくの冒険のチャンスであったので承知した。リパはもちろん何も考えなく承知した。

part3
 カデンツァ遺跡までの道のりの間、リパとエマリーはビヤダルから遺跡の状況を聞いた。「実はな、最近仲間から聞いた情報によると霊眼があるらしいんだ」「れ、れいがん?」「わぁ、古代の武器よね?」「そうだ。古代史学術協会の連中が他の出土品と一緒に調査してたんだが、一応調べ終わったんで全てを遺跡に戻したらしいんだ」「あらそう? 霊眼って手のひらに乗る程度の大きさでグレネード・ランチャーより威力があるんでしょ?」「おう、エマリー良く知ってるな。あの目玉に睨まれて生きていられるやつはざらにはいないぜ」
 リパは捜し物が幽霊の目玉と分かって背筋が寒くなった。(うーん、行きたくないなぁ)リパはすっかり怖じ気づいて「遺跡を荒らすのは良くないと思うけど・・・」と言った。エマリーは(わぁリパって立派。私なんてお宝盗ることしか考えてなかったのに)と、改めてまじめなリパに惚れるのであった。ビヤダルはしどろもどろで「そりゃ遺跡は古代史学術協会の管理下にあるけど、俺たちにだって調査するぐらいの権利はあるさ。そう、後でちゃんと元に戻せば荒らしたことにはならねーよ」と心にもないことを言った。

 ともあれビヤダル一行はディアマンコス山の南にあるカデンツァ遺跡に入った。遺跡の中はやや肌寒かったが、照明は明るく、ホコリは堆積してなく綺麗であった。「どうやら学術協会の連中が掃除したみたいだな。寒いのは中の物が腐りにくいように冷房しているんだろ」ビヤダルはトラップを警戒しながら、慎重に歩いた。
 いくつかの部屋の中を調べたが特にめぼしいお宝は無かった。祭壇とおぼしきところに古い壺が飾ってあった程度である。学術協会が管理室に使っていたと思われる部屋もあり弾丸100発を見つけた。「こいつぁ忘れもんだな。俺が学術協会に届けるとしよう」そう言ってビヤダルは弾丸をポケットに入れた。

 しばらくうろついていると廊下の奥に何やらうごめく影が見えた。冒険馴れしたビヤダルは早くも自動小銃を構えている。リパとエマリーも慌てて拳銃を構えたが、その時にはすでに怪物の攻撃が始まっていた。さすがベテランのビヤダルはバンバンと銃を撃ちまくって手際よく怪物を倒していった。リパとエマリーにとってはこれが初めての本格的な戦いであり、不慣れなため際どい戦いをしていた。ここの怪物は試験洞窟の怪物と違って容赦のない攻撃をかけてくる。リパとエマリーだけであったら怪物の餌食になっていたかもしれない。
 数分の後、やっとで全部の怪物を始末した。「ちっ、調査済みの遺跡にこんなに怪物がいるってのはどう言うことだ?」「おじさん見て、怪物の足に学術協会のリングがついてるわ」目ざといエマリーが見つけた。「けっ、冒険者対策かよ。この分じゃ霊眼に近づくほど怪物の数が増えそうだな」

 ビヤダルが予想したとおり、遺跡の奥に進むに連れて怪物が多くなってきた。リパとエマリーは最初の方は苦労して戦っていたが、だんだん手慣れて手際よくなってきた。リパもずいぶん腕が上がって当初の気弱な気持ちは消えていた。
 三人はいくつかのトラップを解除しながら慎重に奥に進んだ。そして、ある部屋の中を調査しているうちに、古い落書きを発見した。”愛の誓いを交わした記念に印を残す。ダイナマ&パミル”なんとエマリーの両親の落書きであった。日付はエマリーの生まれる前の年であった。「そっかぁ、お父さんとお母さんってここで愛を交わしたのね・・・」エマリーはリパの腕を取って意味深に言った。リパはそんなことに気づかず「17年も前の落書きが残っているなんて感動だなぁ」などと言った。エマリーはそのうち後ろでニヤニヤしているビヤダルに気づいてリパの腕を放した。

 その後は順調に進み、三人はついに霊眼が安置されている部屋にたどり着いた。「へっへっへっ、いよいよ霊眼の箱を開けるぞ。二人ともうっかり目をのぞき込まないように注意しろよ」ビヤダルはうれしくてたまらないといった調子で言った。
 ぎぎぃ〜という音とともに箱が開いた。「こいつが霊眼かぁ」ビヤダルは感慨深げに言う。「不気味な形してるわね」「いきなり眼光が光ったりしないかなぁ」リパは心配そうに言う。「俺の聞いた話だと、これを使うには湯を入れたカップが必要らしい」そう言ってビヤダルは霊眼を手のひらに載せた。
 と、その時どこからか声が聞こえてきた。「・・キ・タ・ロ・・・」さらに霊眼がもぞもぞっと動いた。びっくりしたビヤダルは霊眼を落としてしまった。「キタ・ローハ・ド・コジャ」今度はハッキリ聞こえた。霊眼が喋っているのだ。三人が唖然としていると霊眼はぴょこぴょこ歩き出してドアから出て行ってしまった。はっと気がついたビヤダルは「ま、まてー。せっかくの獲物を逃がしてたまるかっ」と、飛び出していった。

 リパとエマリーはしばし呆然としていたが、ここにいてもしょうがないので出ることにした。「ねぇリパ、さっきの落書きの所へいかない?」エマリーはやや顔を赤らめてリパを誘った。「でも二人だけだと怪物倒すのが面倒だなぁ。お腹すいたし。」とリパは乗り気がなかった。エマリーも銃の弾が乏しいことに気がついて諦めることにした。
 霊眼の部屋まではかなり長く歩いた気がしていたが、帰りは意外と早かった。二人ともかなり腕を上げたようだ。エマリーも、この調子なら次ぎ来たときは安心して楽しめるわねと思いながら、次回リパと二人で来た時のことを思い浮かべた。しかしながらエマリーはフリーズロックシティで残念な情報を聞いた。学術協会が侵入者に気づいて警備を強化したのだ。二度とカデンツァ遺跡には入れそうになかった。

 翌日、リパとエマリーは隣町のハルバートレバへ出かけて冒険の口を探してみることにした。冒険者協会の支部とか一通り当たってみたが、この町には良い場所はないようだった。しかたなく公園でぷらぷらしていると、年配の身なりの良い紳士が近づいてきた。「君たち防弾ジャケットを着ているようだけど冒険者かい?」「そうです」「なら仕事を頼みたいんだが引き受けてもらえるかな?」「もちろん引き受けますとも」エマリーは初めての依頼がうれしくて軽く引き受けた。「じゃ、空井戸の掃除を頼むよ」「え、ちょっと待ってよー、掃除なんか冒険者の仕事じゃないわよ」「む?、さっき引き受けると言ったようだが」「ぐ・・・、わーかりました。引き受けますわ」
 紳士は詳しい話をはじめた。この町には大きな空洞につながる空井戸があって、今度その空洞をコンサートホールに使おうという企画が出た。そこで空洞を整備する手始めとして掃除を始めたのだが、ちょろちょろと怪物が出てきて仕事がはかどらない。ついては怪物を撃退しつつ掃除の手伝いをしてくれ、という依頼であった。「ほ、一応怪物が出るのね。ただの掃除じゃ冒険者証が泣くところだったわ」エマリーはひとまず安心した。

 二人はさっそく空井戸に入って様子をうかがった。ほどなく怪物が現れたが、カデンツァ遺跡で腕を上げた二人は難なく退治できた。「この程度の怪物だったら、先に全部始末した方が手っ取り早いわね。空洞の奥の方へ行ってみましょうよ」エマリーは奥の薄暗いところでリパに迫ろうと考えて、リパの手を取ってズンズンと進んでいった。いよいよ奥まったところの大空洞に出たとき、突然足もとがガラガラッと崩れた。二人は深い地の底へと落ちていった。

part4
 「うわあぁぁぁ・・」ドスンッ。リパは地底に叩き付けられた。続いてエマリーもリパの上に落ちてきた。二人とも防弾ジャケットの下に対爆用緩衝材を入れていたが、さすがに20mも落下するとダメージが大きい。
 「お、重いよぅ」リパが苦しそうにいう。「ご、ごめん。わたし最近太ったのかしら?」リパはうなずいて(やっぱりエマリーって重くなっているんだ。きっとそれで地面が崩れたんだ)と思った。幸い周囲は暗くてエマリーはリパがうなずいたのを見なかった。

 エマリーがライトを点灯して周囲を見ると、意外なことに人工の壁が見えた。古代の遺跡ではなく比較的新しく作った建物のようだ。「こんな地下に誰が建てたのかしら」「悪の秘密結社かなぁ」「そうだとしたら早く脱出した方がいいわね」エマリーは落ちてきた穴を登ろうとして調べて見た。どうやらピッケルとザイルがあれば登れそうだが、冒険馴れしてない二人は用意してなかった。
 しかたがないので二人は建物の奥へと進んだ。ここが凶悪な悪人の巣窟だとしたら生きて出られる保証は無い。二人は祈るような気持ちで恐る恐る進んで行った。しかし悪人や怪物は出てこず、通路が迷路のように入り組んでいるだけであった。方向感覚のいいエマリーは迷路はお手のものだった。

 通路は徐々に登り坂になって、もうすぐ地上へ出るかと思われる所まで近づいてきた。二人がやや安心していると、通路の脇から見たことのない怪物が出てきた。「なぁんだ、ちっちゃな怪物だなぁ」リパは自分より背の低い怪物にすっかり油断した。ところが次の瞬間、怪物は目にも止まらぬスピードで体当たりをかけてきた。リパは大ダメージを食らった。エマリーはすぐに拳銃で反撃したが、怪物は恐るべきスピードで弾丸をかわしてしまった。リパも撃ちまくったが全然当たらない。リパが弾倉を交換する一瞬の隙に再度怪物が体当たりしてきた。リパはすさまじい衝撃で意識が薄れるのを感じた。
 エマリーは自分たちが絶命の危機にあることを悟った。「こんなときにデートナがいてくれれば・・・、そうだデートナの授業でこんな場合・・」。エマリーは素早く発煙筒を投げた。シュポッと言う音ともに付近は一瞬で煙に包まれ、案の定怪物は右往左往しはじめた。エマリーは怪物の声のする方向にパンパンと拳銃を撃ちまくった。ドサッと言う音が聞こえて怪物の声が途絶え、しばらくして煙が晴れてみると頭をぶち抜かれた怪物の死体があった。

 「リパ、大丈夫?」「う、うん」立て続けの衝撃でかなりまいっていたが、骨にヒビが入いるっている様子は無く重傷ではないようだ。リパは、これ以上あの怪物が出てはたまらないと思い、すぐに起き上がって歩き始めた。
 しばらく歩くと通路の横にドアが見えた。エマリーはトラップが無いか調べてみたが特にないようだった。しかし中からは異様なうめき声が聞こえる。リパとエマリーはこのまま無視しようかと思ったが、へたに放置して後ろから襲われたらたまらない。そこでそっとドアを開けてのぞいてみることにした。
 そこに見た物は・・・、二人はあまりの恐怖にドアをバシンと閉めた。それと同時に中からどなり声が聞こえた。「こらリパ、エマリー、トイレはノックして開けるだす」そう、筋骨隆々のデートナがきばっていたのだ。その恐怖の姿を二人は生涯忘れることが出来なかった。
 その後二人は2時間あまりマナーについて説教された。「しかし、ここへはいつ入っただす? ここは中級冒険者証の試験場だすよ」「えー? それって冒険経験1年以上の人が受ける試験のこと?」「うす、そうだす、これ以上奥に進むとあんた達じゃ危険だす」「私たち奥から来たみたい・・・」エマリーは空井戸の掃除を引き受けた件を話した。「そうだすか、きっとこないだの地震でここの天井の地盤が緩くなっただす。その上に重いものが乗ったから崩れたんだす」リパはやっぱりエマリーが重いと思った。

 地上に出てみると、そこはフリーズロックシティの冒険者協会本部だった。「んまぁ、リパちゃんすごい、中級者試験をクリアするなんて、ママ感心しちゃうわ」相変わらずリパの母は息子に甘い。「そうそう、こんなに冒険上手になったのならトラレナイ渓谷の遺跡に行ってみない? こないだの地震で新しく発見された所だから、まだ古代史学術協会も手をつけてないと思うの。リパちゃんならきっとうまく探索できるわぁ。ママ宝物を期待してるわぁ」リパはさすがに今日はダメージの連続だったので一晩休んでから行くことにした。

 翌日、リパとエマリーはハルバートレバで装備を十分整えてから南の渓谷に向かった。トラレナイ渓谷に着いたリパ達は注意深く渓谷を調査した。すると、絶壁の一部に深い亀裂が出来ており、人が入れる場所が見つかった。
 二人は亀裂の中に入って、しばらく瓦礫の中を歩いた。たまに怪物に出っ食わしたが何とか撃退できるレベルだった。そのうち遺跡の入り口らしきところにたどり着いた。「ずいぶんホコリが積もっているわね・・、ん? 足跡がついてるわ。これ新しい物よ」エマリーが調べると足跡は3人分であった。「もう誰か冒険者が入ったのかな?」リパは宝のことが心配になった。「そんなに時間は経っていないようよ。急げば間に合うわ」
 二人はトラップに注意しつつ出来るだけ探索を急いだ。遺跡の内部は思ったより荒らされてなかったが、貴重なものが入っていたと思われる宝箱は空であった。二人は宝箱を調べるのはひとまず置いて足跡の追跡に専念した。遺跡の奥に進むに連れて怪物の凶暴度が上ってきたが、二人はめきめきと腕を上げたため難なく撃退できた。しばらくすると広い空洞に出た。

 「かなり広いわね、向こう側が全然見えないわ」エマリーは周囲にライトを当てて見たが壁が見えなかった。足元も遺跡の敷石から瓦礫に変わっており、もはや足跡を追跡出来なかった。
 しばし二人が当てども無くライトを色々な方向に向けていると、突然正面から誰かがライトを照らしてきた。こちらも相手にライトを当ててみると、どう見ても5,6才くらいの小さな女の子がいた。「おばちゃま達冒険者なの?」と女の子が言うと、エマリーはムッとする心を押さえて「そーよ、おねーさん達は冒険者よ。あなたはご両親と一緒にここに来たの?」と言った。「ちがうわよ。お兄いちゃまとお姉えちゃまときたの。ここはわたち達古代史学術協会の物だから冒険者は入っちゃいけないのよ」「学術協会ですって? あんたみたいなチビがなれるわけないじゃないの。うそ言ったらおねーさん怒るわよ」エマリーが強い調子で言うと女の子が泣き出した。
 言いすぎたかなと思っていると、女の子の後ろから男と女が現れた。女の方はショートパンツにタンクトップといういでたちで、かなり肌を露出していた。男の方は、黒縁眼鏡で不精ひげぼうぼう、衣服はよれよれの泥だらけであった。この男の風采は、まさに洞窟で存在するのにピッタリ合っていた。
 「これこれチーズ、何泣いてるんだ」「イオルタおにぃちゃまぁ、あっちのおばちゃん達がいじめるのぉ」「何? 妹をいじめるとは許せんやつら、何者だぁ」「ベ、別にいじめたわけじゃ・・、わたし達冒険者なの」「ぬわにぃ、遺跡を荒らす盗賊どもか、なおさら許せ〜ん。僕は学術協会主席調査員候補のイオルタ・キラーンだ。極悪非道な悪党どもめ名をなのれ、成敗してやる!」「ちょっとぉ、わたしエマリー・ファルファシアだけど極悪非道なんて決めつけないでよぉ。こっちの彼はリパ・ダイナトーク、ねぇリパも何とか言いなさいよ」エマリーがリパの方を振り向くと、リパはじぃ〜とショートパンツの女の子の方を見ている。女の子の方もその視線に気がついて(あらぁ良く見たら美少年じゃない。いただいちゃお)「うふ、わたしはエステーラ・キラーン、18才よ。冒険者やめて私たちの手伝いしない?」とリパに声をかけた。
 エマリーは急に心配になった。エステーラはお嬢様風の美人で、プロポーションもいい。しかもさっきからリパが魅入ってるようだ。エマリーは表情を固くして、意を決してエステーラに言い返した。「リパはね、・・・」

part5
 「リパはね、わたしの恋人なの。気安く声をかけないでくれる?」エマリーはリパが否定しないことを祈りながらドギマギして言った。しかしエステーラはぎこちない態度を見抜いてしまった。「ほーほっほ、恋人ですってぇ。どう見てもあなたバージンじゃない。若い男女が二人っきりで薄暗い洞窟にいて何も無かったなんておかしいんじゃない?」(がーんがーんがーん)エマリーは痛いところをつかれて99%の大ダメージを受けた。
 「な? ば、ばーじん」イオルタが急に目を輝かせた。「バージンというと古代リム王朝のナイフより貴重で珍しいアレか?」「おにぃちゃま、わたちもばぁじんよ」「ええい、チーズは黙ってなさい」「へ−、おにいちゃんあんな乳くさいのが趣味だったの? まぁいいわ。これでトレード成立ね」
 エマリーはもはや反撃の気力が残っていなかった。助けを求めるようにリパの方を見た。リパと言えば、さっきから一つの疑念に取りつかれていた。(あのおねーさん、あんなに肌を露出していて大丈夫かなぁ。洞窟には危険な怪物がうようよしてるのに。もしかして肌色のジャケットを着ているのかなぁ。うーん謎だ。ここからだと良く見えないしなぁ)などと考えごとしていた。その時、突然リパは自分の名前を呼ばれて我に返った。

 「リパ・ダイナトーク、据え膳食わないなら僕がいただくぞ。そーだ、学術協会と冒険者協会の協定事項第2条の3にも冒険者が権利放棄した新発見の遺跡内の物は学術協会所有になると定められてるぞぉ。もはやエマリーさんは僕の物だぁ」「えーと、」リパは必死にデートナの授業を思い出そうとしていた。(協定事項の第2条ってなんだっけなぁ、据え膳に関する物だっけ? 据え膳って古代の食器だっけ?うーん、デートナの講義は寝ててよく聞いてなかったしなぁ。でも何でエマリーが関係するんだ?)リパは眉間にしわを寄せて考え込んだ。その表情に一縷の望みを抱いたエマリーは、「彼の言ってることはめちゃめちゃだわ。わたしを見捨てないで」と震える声で言った。(そーか、あいつは僕を混乱させるようなこと言って、その隙に宝箱を独り占めしようとしてるんだな。許せないぞ)リパはぼそっと「戦うぞ・・」と言った。
 その一言でエマリーは120%回復した。言葉では負けそうなので、エマリーは問答無用でエステーラを拳銃で撃った。エステーラもすかさず撃ち返してきた。なしくずし的にリパとイオルタも撃ち合う。チーズだけはしゃがみ込んでわんわん泣いていた。空洞に激しい銃声がこだまする。お互い防弾ジャケットを着ているとは言え、音速の数倍で飛んでくる鉛弾が当たると痛い。ほんとに痛い。もーれつに痛い。リパはずいぶん腕が上ってきたせいか命中率が高く、イオルタに続けざまに6発の銃弾を当てた。
 「あうっ、痛てー、ゆ、ゆるせーん」イオルタはついに逆上して、グレネード・ランチャーを取り出した。大型怪物専用の武器で当たれば痛いじゃ済まない。リパに照準をあわせて引き金を引こうとした瞬間、「おにいちゃん、やりすぎよ」とエステーラがはねのけた。そのショックでグレネード弾が発射された。

 グレネード弾は狙いがそれて天井に命中し、ズドドーンと言う大音響が空洞にひびいた。ガラッ・・・ガラガラッ、続いて天井が崩れ始めた。もともと地震で地盤が緩んでいたところにグレネード弾の爆発の衝撃が加わったため、巨大な空洞を支えきれなくなったのだ。エマリーはとっさにリパの腕を引っ張って壁に駆け寄り、二人はピッケルを立てながら壁を登って外へ出た。
 しばらくして崩壊が収まり、埋もれた中から土砂をかきわけてキラ−ン兄妹が姿を現した。「えーん、えーん」チーズは泣き続けている。「きゃー、玉のお肌が泥だらけだわ、しなやかでつやつやの髪もぐしょぐしょだわ」「おぅ、僕のスーツも泥だらけだ」「おにいちゃんのは元からでしょ」「ゴホン、ともかくエマリーさんを追いかけるぞ。リパ・ダイナトークめ、手を出したら容赦しないぞぉ」「ありゃぁ、おにいちゃんプッツンしたのね。まぁいいわ、わたしもあのハンサムな男の子欲しいから、追っかけましょ」イオルタはようやく泣きやんだチーズを背負って遺跡を後にした。

 一方リパ達はハルバートレバに戻って思案していた。「かあさん宝物を期待してたから手ぶらじゃ返れないなぁ」「そうね、でも渓谷には戻る気がしないわ」二人が迷っているとちょうど通りかかったデートナ・アイリーンがのっしのっしと近づいてきた。「渓谷はどうだっただす?」リパ達は学術協会の連中と撃ち合いになったことを話した。「そりはキラーン兄妹だすな。兄貴は100年に一度の考古学の天才とか言われてるだす」「あのむさい男が天才ねぇ」
 「ところで、あたいはライレール湖に行くけど、いっしょに泳ぎに行かないだすか?」「そーね、泥まみれの体も洗いたいし」リパはデートナの水着姿を思い浮かべて身震いしたが、エマリーの言うことももっともなので承知した。
 三人はハルバートレバの西門から出てライレール湖につながるサバレイスの町を目指した。町まで後少しという所で後ろから轟音が聞こえてきた。振り返ると、黒い影が砂ぼこりを舞上げながら突進してくるのが見えた。三人が慌てて退くと、キィーンという空気を切り裂く音とともに物体は通りすぎていった。「アレ何なの?」エマリーが誰に聞くともなく言った。「少女が超音速で走っていっただす。羽飾りの帽子をかぶって両手を広げながら走ってたようだす」さすがに百戦錬磨、ベテランのデートナは鍛えられた動体視力で超音速の少女を見分けていた。
 ほんの少しの間を置いて、前方でドッシーンという音が聞こえた。三人が近づいてみると、少女が仰向けに倒れていた。どうやら木にぶつかったらしく、近くの太い木が途中で折れて倒れていた。

 少女を放っておくわけにも行かず、三人は少女を担いでサバレイスの病院に駆け込んだ。しかし病院の看護婦が少女を見るなり、「きゃ、この娘メルコちゃんじゃないの。この娘を町中に連れてきちゃ駄目よ、すぐ裏山の家へ連れてって」と追い返された。やむなく裏山へ連れていくと、岩盤をくり抜いて作った家が見えてきた。なかからお姉さんと覚しき女性が現れて少女を奥の部屋に寝かせた。
 「妹を運んでいただいてありがとう。私はアサテリカ・ツリーフィズ、妹はメルコって言って、時々弾丸ライナーになるんです」「だんがんらいなぁ?」「えぇ、シラク山の魔女に魔法をかけられたらしいんです。2,3日ごとに急に歩くスピードが上って、何かにぶつかって破壊しない限り元に戻らないんです。町の中だと人に怪我させたり家を壊してしまうのでここに住んでいるんです」「魔女となると厄介だすなぁ」さすがのデートナも大怪獣は倒せても魔女は苦手のようだ。「でもなんとかして上げたいわ、ねぇリパ?」エマリーはリパの方を向いた。しかし表情が凍りついてしまった。リパはアサテリカの胸をじぃ〜と魅入っているようだ。
 (まずいわ、アサテリカさんて胸おっきいし妖艶な感じの美人だし、リパってああいうのがタイプかしら)エマリーは心配になって、「あ、でも魔法使いが相手だと冒険者じゃどうしようも無いしぃ、今回はわたしたちの出る幕はないわね」と言いつくろった。
 一方リパの視線に気がついたアサテリカは(あらん、私の体に興味があるみたいね。年下だけどこんな綺麗な男の子なら愛人にするのも悪くないわね)と思い、あだっぽい流し目でリパを見た。


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