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Arek part1
荒廃した神官居住区、その一角に取り残された聖域でアオーシャの巫女ミレイが祈りをささげていた。世間ではギンザとか言う怪物が暴れ回り、城や街を次々破壊しているという。ミレイは一心に祈りをささげ、早くこの世が平和になりますようにと願った。
日課の祈りが済み居住区へ戻ろうとしたとき、空気がわずかに震えるのを感じとった。
「この雰囲気、前にも感じたことがあるわ。もしかしてバルカ様の霊?」
(・・・)
ミレイは心を澄まして感応力を高めた。
(・・・ミレイ・・、アレクを呼べ。・・神脳塔に4枚の皿がある。古の神々の頭脳を埋め込んだブレインディッシュだ・・・。柴神が復活しようとしている・・。・・アレクに皿を探させ・・・塔を破壊させるのだ・・・。)
「まぁ、それだったらおねーさまに頼むわ。いいでしょ、バルカ様?」
(・・・。・・・・・。)
「バルカ様ぁ? おーい、おーい、・・・あら、消えちゃった」
そのころアレクは地底の忘れられた花園で一時の休息を得ていた。地上は廃墟だらけになってしまい、落ち着く場所すらない。傭兵としての仕事も無くなってしまった。あの剣さえあれば、あの惑星をも破壊するプラネット・パスタさえあればアレクも怖いもの無しだが、すでに失って久しい。アレクは花をめでるでもなく今はただ何もせずに静かに過ごしている。
Arek part2
アレクがいつものように花畑で寝転がっていると、突然近くにある少年の彫像が輝き始めた。
「・・・・?」
アレクは慎重に近づいて彫像の目を見据えた。昔見た覚えのある感じだ・・・、バルカなのか? 何か声が聞こえる気がした。
(・・・神脳塔・・・皿・・壊せ・・)
輝きは弱々しく消えた。アレクはバルカが何を言いたかったのか掴みかねた。しかし神脳塔と言った事だけは確かだ。神脳塔の噂は聞いたことがある。古の神々の力を得ようとして何人もの冒険者が入ったが、塔の上の方から帰って来た者はいないという話だ。塔の下の方には冒険者相手の街があり、唯一そこに人が住んでいるという。
Arek part3
アレクは意を決して地上に出た。漁村跡を抜けて崖をのぼり城跡へとたどり着いた。城下町は完全に廃墟となり、誰一人居ない。
「・・・・・」
アレクは泣き声を聞いたような気がした。廃墟につきものの亡霊なのか?。アレクは声のする方向に行ってみた。良く見ると瓦礫の下に巧妙に出入り口が隠してあった。アレクは思い切って入ってみた。
「うわ、・・・びっくりしたぜ。あれ? あんたも無事だったのか」
そこには昔なじみの武器屋夫婦と子供がいた。
「いやぁ、遊び盛りのガキが外で遊びたいって泣いて困ってんだ。ん? ここかい? ここは城の地下にあった屋敷跡だぜ。何人かはここへ避難していて助かったんだ。奥座敷にギンザの写し絵があったけど、たぶんここが破壊を免れたのもそのおかげかもな」
子供はすっかり泣き止んでアレクを物珍しそうに見ている。
「へぇ、神脳塔へ行くのかい。砂漠を渡らなきゃならんぜ。そうだ、昔のよしみだ。水筒と食料を安く売ってやるよ」
Arek part4
アレクは砂漠を歩き続けた。アレクにとって砂漠は慣れたものだった。しばらく歩いていると巨大蟻地獄の巣に出くわした。スッと剣を抜いて身構えたが、巨大蟻地獄は身動きしなかった。死んでいるようだ。近づいて良く見てみると、体がいたるところ食い荒らされていた。こんな奴を食い荒らすとは、よほど凶暴で貪欲な怪物に違いない。アレクは思わず武者震いした。幸いなことにそのような凶暴な怪物にはその後出くわすことはなかった。
神脳塔の門に無事着いたアレクは塔を見上げた。思ったよりは高そうだ。アレクは門をくぐるのを一瞬ためらった。バルカは一体何を頼もうとしていたのか? しかし、アレクは塔の中に入れば運命が開けるような気がした。何よりもまた以前のように存分に剣を振れるであろうことがうれしかった。アレクは大きく一呼吸し、心を踊らせながら門をくぐった。
Arek part5
アレクは1階を歩いて回った。レンガ積みの壁で仕切られた小部屋がいくつもあり、中には見慣れたスライムが群れをなしていた。アレクは剣を抜くでもなく、気にせずにスライムの群れの中を歩き続けた。スライムの方もアレクが攻撃してこないので、人なつっこく擦りよってきた。
一通り1階を見終わったアレクは地下へ降りてみた。土壁の通路が縦横無尽に走っているようだ。消え入りそうな蝋燭が所々に見える。アレクはこういう暗い通路に入るとなぜかほっとする。
アレクは地下二階に降りた。上と同じような土壁が続く。しかし通路はかなり入り組んでおり、しだいに方向感覚が狂わされてきた。それでも歩き続けると、なにやら焦げ臭いにおいがした。見ると焼け焦げた木が散乱している。なおも進むと土壁が崩れている場所に出た。アレクも時には木づちで壁を崩して進むことがあったが、ここの状況は木づちで崩したなどという可愛い状況ではなかった。凶獣が暴れ回ったような崩れ方であった。ここには一体どんな化物がいるのだろうか。アレクは思わず武者震いした。
しばらく進むと墓地の入り口が見えた。しかし先客が墓地を物色している姿が見えた。アレクは不必要なもめ事は嫌いなので黙って墓地を後にした。ほどなく下り階段が見えた。
Arek part6
降りてみるとそこは街だった。地下の街にしてはずいぶん明るく、にぎやかな場所だった。アレクは情報を集めることにし、まず武器屋に入った。
「皿? 聞いたことないなぁ。そう言うのは武器屋じゃ扱ってないからね」
やはりこの手の物は道具屋か? アレクは道具屋を探して街の中を歩き始めた。すると突然、道端にいた流浪の詩人が腕にすがりついてきた。
「あぁ、私は今霊感に打たれました。あなたこそ真の塔の支配者。あなたの瞳には神の影が見える」
薄汚い身なりの女詩人だった。顔立ちは結構綺麗だが、頭がイカレているのは好きじゃないな、とアレクは内心思った。腕を振りほどいて去ろうとすると、
「ブレインディッシュを探しているのですね」
アレクは振り返った。それがバルカの言っていた皿(ディッシュ)のことか。
「ブレインディッシュは扉にしか過ぎません。お行きなさい、神脳塔の上を目指して。あなたが真に求めるべき物がそこにあります」
アレクは困惑した。ただの狂った女なのか、それとも本当に霊感に打たれたのか。あるいは、新手の客引きなのか。アレクはちょっと期待して鼻の下を伸ばした。しかし詩人は、すっと離れて道端に戻った。
アレクは道具屋を見つけて入った。貧相な若い男が出てきた。
「皿ねぇ? そういやぁ僧皿というのがあったかな。これを持っていれば、どんな魔法をかけられても1日後に解けるという優れ物だ。たったの10万Tだ」
どうやらバルカの言っていた皿とは別物らしい。アレクは首を横に振った。
「金がないのかよ。じゃあ、ここは一つゲームで値段を決めようぜ。”今”から3分間あんたが何も喋らず、身動きもしなかったらただで譲ってやるよ。それが出来なきゃ有り金全部貰うよ。それでいいかい?」
「・・・」
「どっちだよ、いいのか、嫌なのか返事しろよ」
「・・・・・」
アレクは微動だにしなかった。店主はちらりと時計を見た。
「参った。負けたよ。これが約束の僧皿だ。受取な」
「・・・」
まだ3分は過ぎていない。
「こうなったら奥の手だ。・・・こちょこちょこちょ」
「・・・・・」
3分が過ぎ、アレクは黙って僧皿を取り上げると店を出た。
アレクはカジノに立ち寄ってみた。ずいぶん散らかっている。誰かがケンカでもしていたらしい。スロットマシンも壊れている。むっ? その横で女格闘家のアンパが酒瓶持って寝ている。この女とは昔闘技場で戦ったことがある。そう言えばこの女は以前もどこかのカジノで寝ていたな、とアレクは思い出した。
街での情報収集を終えたアレクは地下二階の墓地に戻ってみた。人影は見当たらない。墓場を一通り見て歩いたところ、奥に綺麗な棺が置いてあった。じっと見つめていると、かすかな息遣いが聞こえてきた。生きたまま棺に入れられたのか? アレクは興味がわいて棺を開けてみた。
「・・・!」
魔女ドーアがいた。アレクのことを師匠の仇とねらう女だ。この女、穴に入るのが好きだったな、と思い出した。どうやら棺も好きらしい。アレクは手を伸ばして触ってみた。うむ、このぺちゃっとした感触はドーアに間違いない。昔ブンデビ塔の屋根の上でさんざん触ったから良く覚えている。さて次はどこを触ろうか。
「アレク・・」
ぎょ、目が覚めたのか。アレクは一瞬ひやっとした。だが、ただの寝言だったようだ。アレクは棺を静かに閉め、そそくさに立ち去った。