「地方分権速報」(1999年3月分)

朝日新聞に掲載された地方分権に関する記事を、月単位でまとめて掲載してあります。

目次

○3/17直轄公共事業を削減 地方分権へ推進計画案、月内にも閣議決定
〇3/12分権の虚実(まちに望む ひとに望む:2)
〇3/11地方自治法、52年ぶり大幅改正へ 自民部会が改正案了承
〇3/10審議会削減抜け穴だらけ 「分科会」で存続も(時時刻刻)
〇3/10国が「代理署名」 知事の拒否、道閉ざす 特措法改正案
〇3/8高橋庄太郎の目
〇3/5九州独立「応援歌」 「考える本」、学者らが出版 【西部】
○3/5取り組みも選挙次第(地方では 介護保険) 【西部】
○3/4高知県の非核条例案批判、広島県知事が陳謝 【大阪】
○3/4法律改正、475本 機関委任事務廃止351本 地方分権法案

直轄公共事業を削減 地方分権へ推進計画案、月内にも閣議決定
年月日   1999年 3月17日

 公共事業で国の直轄事業を減らす第二次地方分権推進計画案がまとまり、内閣内政審議室が16日、自民党行政改革推進本部の役員会に説明し、了承された。政府が今月下旬に閣議決定し、2000年度から大半は実施に移される予定だ。
 推進計画案は、道路と河川、港湾、砂防など7つの公共事業について、国の直轄事業の範囲の見直しによって削減を図り、地方に移管するため、関係審議会で早急に結論を得て、その範囲を指定する基準を法令に明示する措置を講じる、としている。
 具体的には、国道では、国土の骨格を成し、国土を縦断・横断・循環する都道府県庁所在地などの拠点を連絡する枢要な区間などに直轄区間を限定することを原則に、新たな客観的な指定基準を検討する。
 新基準は法令化されるので、関係法の改正も検討される。ただ、今国会に先行提案される港湾法改正案は直轄範囲の新基準を運輸省令にゆだねる。「新基準の内容は閣議決定されるので、省令でも変更できない」(運輸省港湾局)との理由からで、省令の改正にとどまるケースも出そうだ。
 国庫補助事業で、自治体の裁量を増やす統合補助金も二級河川、公共下水道、都市公園など七事業の一定の分野で2000年度から新設する方針を示している。

○戻る

分権の虚実(まちに望む ひとに望む:2)
年月日   1999年 3月12日

 ●腹決めれば自立できる 多摩大大学院教授・日下公人さん(68)
 地方分権が進むと、住民の方が移動することになるんです。住み心地がいいのか悪いのか、自分たちの足で投票しちゃうわけです。流動性のある人は「どこそこの地域を良くしてくれ」とは言わない。良いところを探して自分から移る。
 ところが流動性のない人は、自分の住んでいるところが良くなればいいわけだから「ここに新幹線を持って来い」となる。それはエゴなんだけど、本人たちは「国民の一員だから、平等に新幹線も空港も欲しい」と言う。こういうことを何十年もやってきた。そしてあまり使われもしない空港が残ったりする。そういうことはやめようというのが、地方分権だと思うんですね。
 地域開発を国家がやるにも財政的に、すでに限界がきている。そもそも地域開発をする義務は国家にないんですよ。「自分のことは自分の権限でやってくれ」と中央は思い始めてる。その結果、道路が不足しようが学校が不足しようが、要は住み心地の問題だ。
 もし、過疎になっても、そこには過疎による豊かさが出てくる。1人当たりの豊かさがある。
 例えば、「道路がないから病院に行くまで1時間かかる」と地方から来た人がよく霞が関で陳情しているが、都心では、1時間あっても病院に運べない場合がある。むしろ過疎地域の方が、手厚い看護を期待できるかもしれない。
 けれども、地方はそれをわかってなくて、あるいはわかっていても、甘える材料に使っている。国家にやってくれと言えば、経費が国家持ちになるからね。地方道をわざわざ国道にしてくれ、という運動ばかりを地方はしてきた。
 国家の仕事をあえて地方に引っ張ってきて、地方の自立を自ら捨てた。地方分権も「分権するならカネをくれ」となっちゃう。
 しかし、それはおかしい。権限があればいろいろやれることがあるのに、財源ばかりを主張するのは意気地がない。地方の時代とか尊厳を言うのであれば、「権限さえ渡してくれれば財源は何とかします」と言わなければいけない。アイデアがないのはリーダーじゃない。
 アメリカは、ワシントン政府対ステーツガバメント(州)の戦いを200年続けてきている。だから、地方で何か問題が起きても、町なら町同士で相談し、そこに国の調整は入らない。ワシントンに調整を頼みに行かないところが、アメリカのすごいところです。
 日本だって、地方にはもともと権限があった。今は、中央「集権」の状態になっているだけであって、権利を地方に分けるという発想がおかしい。地方が本来の権限を取り戻すということだ。そこから自治体間の経済発展競争が始まる。
 ◆兵庫県生まれ。日本長期信用銀行の取締役を経て現在、ソフト化経済センターの理事長、国際研究奨学財団会長を務める。著書に「新・文化産業論」など多数。日本経済のソフトサービス化を予測した。
 ●心もとない人材・能力 あぶくま農業者大学校教頭・秋山豊寛さん(56)
 東京からこの阿武隈の山の中に移り住んで四年になります。そこで感じるのは地方分権と言ったって、そういう意識が地域の住民にあるのかということです。どこがどう変わるのかについて、理解も関心もないというのが実情じゃないかという気がします。
 地方分権って口触りも耳触りもいいでしょ。何だか世の中が良くなるように感じるけれど、今の自治体を見てみると、そう簡単にいくとは思えないんですね。自治体にそれだけのものを担える力があるのかどうかも、すごく疑問があります。
 一つには役場の能力がある。ここ福島県滝根町は人口約5600人。私が昔、住んでいた東京の世田谷でいうと、出張所の管轄と同じくらいです。でも、例えば事務処理能力にしても随分違う。さらに町村長のレベルに差がありすぎます。
 分権が進めば、国から県へ、県から市町村へ、いろんな権限が移るわけでしょう。それを行使するには、情報を蓄積し、処理しなければいけない。その能力がどのくらいあるか。使いこなせる人がどのくらいいるか、心もとない限りです。
 議会の質の問題もある。行政の監視役であり、議員は地域の代表だけど、選挙でも、そういう人たちがどうやって選ばれるかを見てみると、たいてい地縁血縁とか、「だれそれに頼まれた」とか、義理ですよ。
 こういう地域で、影響力を持つのは結局、声の大きい人。地域の利益は、地域のボスの利益ということになりかねない。分権が単に責任を地方に任せてしまうということであれば、たとえば環境行政一つにしても、地元の判断だけに任せてよいものなのか、心配ですね。
 町村は、ある意味で中小企業と同じでしょう。つぶれることもありえる。吸収合併ですよ。でも、町村の側にはそういう危機感が感じられない。そこに勤めている人は、何だか永久にその自治体があるんじゃないかと思っている気がする。
 最近少しはそういう考えが揺らぎ始めた。農協の吸収合併を目の当たりにしたからでしょう。このあたりの町の職員はほとんどが町の住人。せいぜい周辺からしか人を採用していない。外の刺激がほとんど入らない、ぬるま湯ですよ。地縁血縁のしがらみが強いところで、町民全体の利益という観点から、行政なり判断ができるかというと、私は疑問に思う。
 そういう意味では、地方交付税と同じように、人材も中央から還付するシステムが必要かもしれない。
 やっぱり、元気のある町村というのは、全国的に人材を募ってますよ。その点では首長の見識が重要です。独自の経営能力を持った人がいない限り、吸収合併の対象になる時代なんだ、という自覚がいりますね。
 ◆東京都生まれ。TBS記者時代、1990年に日本人初の宇宙飛行士として当時ソ連の「ソユーズ」に乗り込む。95年に退社、あぶくま農業者大学校は地域の仲間と結成した有機農業のグループ。

○戻る

地方自治法、52年ぶり大幅改正へ 自民部会が改正案了承
年月日   1999年 3月11日

 機関委任事務廃止を柱に1947年に制定以来52年ぶりの大幅となる地方自治法改正案がまとまり、自治省が10日、自民党地方行政部会に説明、了承された。今月下旬に閣議決定され、地方分権一括法案として、国会に出される。来年4月から施行される予定。
 改正案は、国の役割を国家としての存立にかかわる事務などに重点化し、住民に身近な行政は自治体が担うとする国と地方の役割分担と、これへの配慮を今後の自治体関係の国の立法に義務づける規定を初めて盛り込んだ。
 機関委任事務の廃止で、地方の仕事は自治体の自主的な裁量が利く自治事務と、国が実施方法まで決める法定受託事務に分かれる。法定受託事務は役割分担を受けた形で「国が本来果たすべき役割に係り、国がその適正な処理を特に確保する必要があるもの」と定め、これ以外を自治事務とした。法定受託事務は現行のように地方自治法別表に掲載される。これらの規定により万能だった国の役割が限定的になることで、各省庁が今後法案を作成する際、法定受託事務の増加に一定の抑制効果を持ちそうだ。
 機関委任事務では、通達や電話で細かい指示ができた国の自治体への関与は法定ルール化され、国の助言や是正要求には文書が必要になる。国と地方を対等に置くため、自治体が国の関与に不服の時は審査を求められる国地方係争処理委員会が新設され、自治体は同委の勧告に不満な時は裁判に訴えられる。都道府県の市町村への関与にも最終的には裁判に持ち込める自治紛争処理制度が導入される。

○戻る

審議会削減抜け穴だらけ 「分科会」で存続も(時時刻刻)
年月日   1999年 3月10日

 2001年の省庁再編に合わせた国の審議会の整理、合理化を検討していた政府の中央省庁等改革推進本部(本部長・小渕恵三首相)が各省庁に示した基本方針が9日、明らかになった。審議会は現在の211を80に削減することがすでに決まっているが、廃止される審議会はその機能を、存続する審議会に移すことを認めており、事実上、存続が可能になっている。すでに、分科会などの形で残すことを検討している省庁もある。また、年収約2300万円という高額の報酬を受けている「常勤委員」も廃止の対象から外され、官僚OBの天下り先が温存される形となるなど、抜け穴だらけの内容となっている。
 政府はこの方針に基づいて、審議会の整理・合理化計画を4月に決定し、早ければ今国会にも関連法案を提出する方針だ。
 省庁再編の指針を示した中央省庁等改革大綱では、現在の211の審議会のうち、地方分権推進委員会など設置期限のあるものと、活動実績の乏しい審議会など合計131の審議会の廃止を決めている。ところが、改革本部が示した審議会の再編成方針は、廃止が決まった審議会も含め、すべての審議会の必要性を見直し、必要があれば、存続する審議会と統合することができるとしており、廃止対象審議会も実質的に存続が可能になっている。
 また、審議会の委員数は、現在は最大のもので130人まで認められているが、基本方針は上限を30人に制限した。ただし、分科会や部会を設けることができるうえに、人数制限の対象外としている。このため、廃止される審議会は存続する審議会の部会などに形を変えることも可能になっている。
 また、審議会の委員については2月中旬の閣僚懇談会で、「原則として官僚を委員としない」ことを確認した。民間の意見を極力反映させることが狙いだ。ただし、公務員が加入する共済組合など事業経営の当事者として参加する場合や、直接の仕事に関係なく個人的に専門的知識がある官僚は委員になることができるという規定は残っている。
 ○原点忘れ存廃論議
 中央省庁の審議会は、政策に国民代表や専門家らの意見を反映させるためにつくられた。それがいつか、「各省庁の政策決定の隠れみの」になるなどの弊害が目立ち始め、省庁再編にあわせて一気に6割以上が廃止される見通しになった。だが、審議会をうまく利用してきた官僚側は、手を替え品を替え、骨抜きを図っている。一方で、国民の視点を霞が関に伝えるために欠かせない審議会までなくなってしまうという恐れも少なからずある。審議会はどこに行くのだろうか。 (政治部)
 ◇官僚減らし質・量改革
 「行政職員は原則として審議会の委員としない」。2月16日の閣僚懇談会。行革担当の太田誠一総務庁長官が突然、官僚が審議会の委員になることは認めない、との方針を報告した。例外を認めた中央省庁等改革推進本部(本部長・小渕恵三首相)より厳しい考え方だった。
 法務省が先陣を切って歩調を合わせた。民法や刑法などを検討する法制審議会で、延べ人数で委員の3割以上を占める官僚委員を排除する方針を固めた。
 法制審から官僚を排除する方針には、「諮問する立場の人が諮問される側にいる」と批判していた中村正三郎前法相の強い指示があったという。国民の代表から意見を聞くべき官僚が、意見を言う側にデンと座っているのはおかしいというわけだ。
 中村氏は8日、自身の言動が国会空転を招いたとして法相を辞任したが、政府・与党内には、中村氏と官僚が抜き差しならない対立関係にあったという見方がある。その対立に「官僚排除」の動きを関連させて見る向きもあり、いま霞が関では審議会改革が関心の的となっている。
<主要>◆2月の出超額、前年比26.9%減の9342億円
 政府は質量両面で審議会を大きく変える計画だ。
 量の面ではまず、文部省の国語審議会や厚生省の年金審議会など131の審議会をなくす。その結果、審議会の数は現在の211から80になる。
 そのうえで、委員の数を最大で30人に絞り込む。例えば厚生省の公衆衛生審議会は委員が94人、環境庁の中央環境審議会は80人という具合に、簡単に意見をまとめることができないような大きな審議会がある。委員数を減らせば、審議のスピードアップも図れると期待する。
 「質」の改革は、言うまでもなく官僚や閣僚の委員就任の禁止だ。役所と利害関係がない第三者の意見を聞くという、審議会本来の姿にする狙いがある。
 ◇天下り並み厚遇なお
 「役人が審議会の存続にこだわる大きな理由は、自分たちの天下りポストを確保したいからだ」。政府関係者は、官僚にとって審議会がうまみになる理由の一端を、そう説明した。
 通常の委員は、会合の時だけ出席を求められる非常勤が大半だが、審議内容の調査などを理由に、事務局的な役割の常勤委員を置く場合がある。現在、運輸審議会(運輸省)や地方財政審(自治省)など13の審議会に47人の常勤委員がいる。
 このうち、半数以上が官僚OB。ほとんどがその審議会を所管する省庁の出身者だ。
 非常勤委員は日当と交通費で計2,3万円が相場なのに、常勤委員には年間約2300万円もの報酬が支払われている。中央省庁でいえば事務次官と局長の年収の中間ほどで、特殊法人の役員などへの天下りに匹敵する手厚い待遇だ。
 ところが、改革推進本部の議論では、常勤委員の問題は最初から全く出なかった。その結果、政府は今回の改革で常勤委員を抱える審議会をすべて存続させることにした。
 ◇民意吸収どうする
 シンガー・ソングライター中島みゆきさんの委員起用で注目を浴びた国語審議会は廃止対象の一つだ。これまで、常用漢字やかなづかいなどを決めてきたが、2001年に70年近くの歴史を閉じる。
 日本語は時代とともに変わるため、文部省にとって各界の意見を聞く作業は欠かせない。そこで、政府方針の抜け道を活用し、廃止する審議会の役割を存続する別の審議会に担わせることを思い付いた。
 存続が決まった文化財保護審議会に、国語審議会だけでなく、やはり廃止される著作権審議会、文化功労者選考審査会の役割を兼ねさせ、名称も「文化審議会」に変えるのだ。
 ただ、委員数は最大30人という制限がある。文部省幹部は「幅広い意見が聞けず、形がい化しそうだ」と心配する。
 公的年金制度を検討する年金審議会や、医療や介護制度を協議する医療保険福祉審議会がなくなる厚生省も、存続する審議会の活用を検討。「中央社会福祉審議会」を「社会保障審議会」と変え、年金や医療、介護などを担当させる。
 「公衆衛生審議会」は、名前はそのままにして薬剤承認や食品安全など科学的な分野を担当する。委員数の制限に対しては、「分科会や部会は人数制限の対象外」という「抜け道」を活用し、年金や医療などの分野別に部会を設ける。「審議会が果たしてきた民意吸収の機能は今後も必要」(首脳)というわけだ。
 <審議会> 政府が重要な政策を決定する過程で、政策に国民の意見を反映させたり専門的な知識を取り入れたりすることを目的に設けた協議機関。国語審議会のように戦前から続く審議会もある。戦後は、1948年に国家行政組織法が制定され、審議会の設置規定が盛り込まれた。中曽根康弘元首相は、審議会を活用して独自政策を打ち出した。最近では、民意の反映よりも政府の方針を追認しているだけという批判が出るなど、見直しを求める声が高まっていた。

○戻る

国が「代理署名」 知事の拒否、道閉ざす 特措法改正案
年月日   1999年 3月10日

 防衛庁は9日、米軍用地の強制使用手続きを定める駐留軍用地特別措置法(特措法)について、これまで市町村長や知事にゆだねられていた代理署名を国の事務とし、新たに首相の代行裁決の制度を創設するなどの改正案の概要をまとめた。1995年に大田昌秀沖縄県知事(当時)が代理署名を拒否し、強制使用に反対したが、この改正で知事の判断による拒否はできなくなる。特措法による強制使用は現在、沖縄県だけで行われており、米軍基地に反対する県民から反発が出るものとみられる。昨年5月に閣議決定された地方分権推進計画に沿った内容で、政府が今国会に提出する地方分権一括法案に盛り込む。
 改正案の概要によると、(1)土地調書への署名押印を地主が拒否した場合に、知事や市町村長が代行する事務を首相の処理する事務とする(2)防衛施設局長は県収用委員会に対し、原則として2カ月以内に緊急裁決をするよう求めることができる(3)県収用委が2カ月以内に緊急裁決をしない場合、県収用委は取り扱いを首相にゆだね、審議会の審査を経て、首相が代行裁決する――などとしている。

○戻る

高橋庄太郎の目
年月日   1999年 3月 8日

 みんなちがって、みんないい――童謡詩人、金子みすゞの『私と小鳥と鈴と』の末尾の有名なことばだ。
 いま小学校ではこのフレーズが大はやりで、国語の授業から、校長講話、学級通信、廊下の掲示物に至るまで、様々な場面に顔を出す。
 3年前、教科書に取り上げられ、ブームにはずみがついた。
 熱心な女の先生が話す。
 「お互いに個性を認め合って生きようというメッセージとして読める。やさしさ、あたたかさもあり、今の時代にぴったりです」
 個性重視は、日本の教育界で繰り返し唱えられてきた。実際にはなかなか浸透せず、反対に画一化のマイナス面が際だって、いま再び、個性化、多様化が叫ばれている。
 最近は、文部省の審議会などが、地方分権に沿い、学校はもっと個性をもて、特色を出せ、と盛んにハッパをかけている。
 何かにつけ、上をうかがい、横並びに気をつかってきた学校が変わるには、願ってもない追い風だ。
 しかし、口で言うほど、ことは簡単ではない。
 先週、この教育面の「ひろば」欄に載った記事はそれを痛感させる。東京・田無の小学校が、4年続いたフロア式の卒業式を、以前の壇上での式に戻すことにしたという。フロア式になじんだ児童、親からは疑問の声が出ているが、校長先生は、多くの学校がそうしているから、と説明しているそうだ。
 おそらく、ふだんの授業と儀式は別、との考えが根底にあるのだろう。
 みんなちがって、みんないい――学校の世界に、この言葉がしっかり根付くのはなお先のようだ。

○戻る

九州独立「応援歌」 「考える本」、学者らが出版 【西部】
年月日   1999年 3月 5日

 九州の経済学者らが6年間、研究してまとめた本『九州独立も夢ではない−ポスト近代の国づくり』を出版した。日本国から独立宣言して、ローカル貨幣を発行し、九州でそれまで流通していた「円」は外貨としてため込むといった「荒業」がある。一方で、韓国の港や空港を拠点(ハブ)港として活用したり、情報産業に重点を置いたりといった現実的な政策も提言している。執筆陣は「地方分権を考えるカンフル剤になれば」と真剣だ。
 執筆したのは久留米大学経済学部の駄田井正・学部長や九州通産局の佐伯心高・国際課長、西南学院大学商学部の小川雄平教授ら7人。6年前、「独立九州の会」を結成し、研究してきた。
 駄田井氏らは、今後は観光での集客、情報産業の振興による商品開発や企画の売り込み、福祉ビジネスなどを中心にした社会を築く必要があると指摘。集積回路(IC)関連の工場、観光地の多い九州はそれに適しているとみる。
 問題は財政だ。九州7県の歳入と歳出を比べると、約5兆円の赤字になる。しかし、空港や港湾は韓国のソウルや釜山など国際ハブ港として認知されているものを利用することで、社会基盤(インフラ)整備の大型公共投資を抑えることができ、行革も進めれば、赤字は限りなく少なくなる。九州で流通するローカル通貨を発行すれば、運用益が得られ、不安定な国際金融市場に巻き込まれることもなくなるとしている。
 会は出版を機に7日午後2時から、シンポジウムを福岡市・天神のアクロス福岡で開く。
 本は四六判、206ページ。定価1785円。問い合わせは同文館出版(03・3294・1801)。

○戻る

取り組みも選挙次第(地方では 介護保険) 【西部】
年月日   1999年 3月 5日

 「自治体の企画力を養う大きな題材。地方分権の千載一遇のチャンス」
 来年4月から始まる介護保険制度について、福岡県豊津町の畑中茂広町長(46)は日ごろ、職員たちにそう言い続けている。県内の「流れ」に逆らう理由だ。
 同制度では、介護サービスの一定の基準を示すのは国だが、独自サービスや高齢者の保険料などは「保険者」である市町村が決める。厚生省は「市町村の裁量が大きい、地方分権の流れに沿う制度」と言う。
 畑中町長は、昨年6月の選挙に無所属新顔として立候補、現職を78票の小差で破って初当選した。九州大薬学部を卒業後、製薬会社を経て県の保健所などに勤務。労働運動にもかかわり、自治労県本部政策局長の時代に介護保険制度を研究した。選挙戦でも、重点公約として「介護保険の基盤整備」を掲げた。
 ところが、町長になって数カ月後、福岡県町村会が介護保険の運営主体として、県内の全73町村と一部の市による全国最大の広域連合構想を打ち出した。
昨年10月下旬、福岡市で開かれた市町村長協議会。県町村会長の山本文男・添田町長(73)は「保険料や介護サービスを統一して、町村間の格差をなくす」などと広域連合のねらいを説明。これに対し畑中町長は「なぜ全県の広域連合なのか。医療圏、生活圏での広域連合ならよいが、全県規模では実態にそぐわない」と疑問を投げかけた。
 73町村のうち、広域連合に参加しない方針を表明している自治体は4町だけ。人口約9200人の豊津町はその一つで、福岡市や北九州市なども含め単独実施方針の県内自治体では最も人口が少ない。
 「市町村には高齢者一人ひとりを生活実態に即して介護までみるという責任がある。そうした最先端の枠組みが巨大広域連合では機能しない恐れがある」。畑中町長は、基本的に町単独で介護保険を実施する理由をこう説明する。
 介護保険の事業計画をつくる豊津町の審議会(20人)には学者や各種団体の代表らに交え、公募に応じた住民4人も加わった。「知恵は地域にある」というのが畑中町長の持論だ。
 一方、県町村会長の山本町長も1月に当選したばかり。16年ぶりの無投票で8期目となった。
 全国町村会副会長の要職にある。選挙の前も後も一貫して「介護保険は本来は国か県で運営すべきもの。それが出来ないので広域連合をつくる。保険料や介護サービスは公平であるべきで、市町村間の競争は必要ない。広域連合でやれば、財政的に安定し、単独の場合より経費も安くすむ」と訴えてきた。
 添田町も含め広域連合に参加予定の70数市町村は、3月議会で議決を得る必要がある。そこでは議員の審議能力も問われる。
 当初は広域連合に加わる方針だった古賀市。だが、昨年11月末の選挙で、無所属新顔の中村隆象氏(50)が現職らを破って初当選した。新日鉄の社員だった中村市長は幹部職員らの意見を聴いたうえで1月初め、市単独の実施に方針を変更した。「近隣の数市町だけで運営するのならよいが、70以上もの広域連合になると、自分たちのまちがのみ込まれてしまい、地域の特徴に合った、創意工夫が出来なくなる」と話す。
 「福祉を事業として確立し、経済の活性化にもつなげたい」と言う中村市長は、介護保険がそのきっかけになる、と考えている。
 自治体の施策を継続させるのにも、逆に、変えるのにも、選挙は大きな役割を果たす。介護保険という新制度を通しても、その当たり前のことが浮かび上がる。
将来の高齢者福祉の柱となる介護保険制度、日米安保のあり方を大きく変える新しい日米防衛協力のための指針(ガイドライン)、様々な問題が浮上している第三セクター、そして不況対策。4年に一度の統一地方選を4月に控え、地方が選択を迫られる課題をシリーズで報告する。
 <広域連合> 1994年の地方自治法改正(95年施行)で、市町村の枠を超えて、ごみ処理など多様化した広域行政への対応といった地方分権の「受け皿」として創設された。国や都道府県から直接、権限移譲を受けられるため、一部事務組合より独自性の高い行政運営ができる。

○戻る

高知県の非核条例案批判、広島県知事が陳謝 【大阪】
年月日   1999年 3月 4日

 寄港する外国艦船の「非核証明書」を外務省に求めるとする高知県の非核条例案などを批判したことをめぐり、広島県の藤田雄山知事は3日、「ナンセンス」などと述べた点について「発言が穏当を欠いた」と陳謝した。藤田知事は会見し、「高知県や神戸市は、それぞれの考えで取り組まれていることであり、本県がこれを批判する立場にはない」としたうえで「外交、防衛に関することは政府の重要責務であり、国を信頼せず、自治体のやり方を通そうとするのは、真の意味での地方分権の確立に水を差すことになりかねない」と述べた。

○戻る

法律改正、475本 機関委任事務廃止351本 地方分権法案
年月日   1999年 3月 4日

 政府が今月下旬に国会に提出する「地方分権推進一括法案」(仮称)によっていっぺんに改正される法律数が475本にのぼることが3日、自治省のまとめでわかった。これまで最多だった行政手続法施行に伴う法改正の360本を大幅に上回り、過去最多の法律改正数になる。自治体を国の下部機関とみなして仕事をさせる機関委任事務の廃止▽自治体職員の資格や定数に対する規制の見直し――が主な柱で、国と地方の対等な関係づくりに向けた第一歩となる。政府は2000年4月からの施行をめざしている。
 一括法案は、地方分権推進委員会の1次から4次までの勧告を受けて作られた地方分権推進計画に基づく関係法の改正で、約1200ページに及ぶ。宮内庁と科学技術庁を除く24省庁が所管する法律改正となる。最も多い厚生省は91本、次いで農水省68本、建設省55本と続く。
 内容別では、機関委任事務の廃止に伴う法改正が最も多く、351本。地方自治法だけでなく、個別の機関委任事務の根拠法を改正する必要があるためだ。これによりすべての機関委任事務は、自治体の裁量がきく自治事務と、法令によって自治体に委託する法定受託事務のどちらかに振り分けられる。
 地方をコントロールする手法として多用されてきた「通達」も廃止され、自治体行政への国の関与は個別の法令を根拠にするようになる。この改革に伴って生活保護法など191本が改正される。法令によって自治体に特定の組織や職の設置、資格要件を義務づける必置規制の廃止、緩和に伴い図書館法など40本の法律が改正される。

○戻る