ミケ子へ 3びき目へ

4ひき目のおさかな


1999年6月18日

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  「子ウサギが2匹足りない」と言って、おかあさんが、さがしまわっています。いなくなったのは、食パンとぶどうパンのようです。
  「ほかの子たちより活発で、好奇心が強かったから、扉を抜けて出ていっちゃったのかしら」 「それにしても、そう遠くへは行かないはずだよ」
  不思議だな。どうしたのかな。


1999年6月20日

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  きょうは食べ物の話をします。
  引越して来たばかりの頃、おかあさんは買い物が不便だとこぼしていました。大きなスーパーは隣町へ行かないとありません。マクドナルドもありません。でも、せっかく食べ物がおいしい所に住んでいるのだから、なるべく地元で買うようにしようとおとうさんは言いました。そこでおかあさんは県道沿いにある、見かけがあまりパッとしないお店に行ってみました。それが隠れた名店だったのです。
  まず、お豆腐屋さん。おかあさんが「お揚げください」って言ったら、厚揚げを渡されました。食べてみたらすごく美味しかったのです。後でわかったのですが、こちらでは、うすいお揚げは「いなり揚げ」といいます。もちろん木綿と絹ごしもおいしく、冷奴は最高です。霧島はお水がいいのでおいしいんです。
  地鶏のおいしいお店も発見。おかあさんが献立を言うと、適当な種類と分量を奥さんが切り分けてくれます。霧島ではナマのままお刺身で食べるのが普通ですが、おとうさんたちはちょっと抵抗があるので、七輪の炭火であぶって塩・胡椒で食べるのが大好きです。
  ――それ、私も食べたい! 猫舌だけど……


1999年6月22日

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  子ウサギがまた2匹消えちゃいました。今度はチョコレートパンとコッペパンです。いったいどうなってるんでしょう。おとうさんとおかあさんは、子ウサギをさらった犯人は誰か、いろいろ考えました。

  タヌキに襲われた? 林さんが、この辺はよくタヌキが出て畑を荒らすと言っていた。

  カラスにさらわれた? 最近、夕方になるとカラスの鳴き声がする。

  キツネにやられた?
  「そういえば、きのう裏山の土手を、キツネみたいな動物がよじ登っているのを見た」と、おかあさんが言い出しました。首のあたりの毛を風になびかせて、ちょっと重そうに、よっこらしょという感じで這い上がっていったそうです。それって、トラ兄ちゃんじゃないのかしら。でも、お兄ちゃんは焦茶色だけど、その動物はキツネ色だったそうです。

  どうやら、犯人はキツネみたいです。だけど小屋の扉は閉まっていたし、中も荒らされた様子がないのは、どうしてかしら?  当分の間、残ったジャムパンとクリームパンは、夜は家の玄関の中に入れて、昼間だけ小屋に戻すことになりました。


1999年6月25日


  きょうは予防接種をしに行く日です。
  3種ワクチンといって、猫がよくかかる3つの病気を予防するそうです。霧島には牛や馬の獣医さんしかいないので、隣の国分市の動物病院に行くことになりました。私とお姉ちゃんは籐のバスケットに入り、お兄ちゃんは体がはみ出ちゃうので、引越で使ったダンボールに入れられて車に乗りました。
  川沿いに県道を走り、峠を越えると、遠くに錦江湾と桜島が見え、街が広がっています。車がたくさん走っていて、大きなスーパーがあります。私の猫缶、売ってるかしら。
  おとうさんは、「♪花は霧島〜たばこは〜国分〜」なんて歌ってるけど、お姉ちゃんはさっきから不機嫌そうに黙り込んでるし、お兄ちゃんは「やだよー降ろしてよー」ってギャーギャー鳴いてます。いやだな。何されるのかしら。
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  病院に着くと、待合室にいた人たちが私を見て、「あっ、かわいい」。 それからダンボールをこわごわ覗き、「わっ……でかい」。
  先生は優しそうな人です。診察台に乗ったら、体重の数字が出ました。これって便利ね。背中を押さえられ、首の後ろがチックンとしました。そんなに痛くなかったです。
  お姉ちゃんは、さんざん抵抗したけど、お兄ちゃんは診察台にしがみついて離れないので、簡単に注射が済みました。体重は、お姉ちゃんが3.7キロ、お兄ちゃんが6.8キロ、私は1.3キロでした。
  帰りの車の中で、「ミケ子は1キロを超えたから、もう家の秤で量れないね」と、ちょっぴり寂しそうにおかあさんが言いました。


1999年6月30日

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  今朝、おとうさんは用事で国分へ出かけました。おかあさんはいつものように、夜の間玄関の中にいる2匹の子ウサギたちを、クロパンのいる小屋へ連れていきました。2匹は、うれしそうに、おっぱいにしがみつきました。
  おかあさんは掃除と洗濯を済ませ、昼頃、小屋をのぞきに行きました。

  ギャッ!! 小屋の中にヘビがいる!

  ものすごく大きいヘビが鎌首をもたげてシャッ、シャッと口を開け、ウサギたちは逃げまどっています。おかあさんは、小屋の入口近くにいたクリームパンを、とっさに外に逃がしました。ジャムパンはどこ? よく見ると、ヘビの腹が一ヶ所大きく膨らんでいます。ああ、遅かった! やがてヘビは、シュルシュルと鉄柵の高い所に巻きついて、動かなくなりました。銀色と緑色のまだら模様で、長さは人の身長くらいあります。おかあさんは足元の小石を拾って、やみくもに投げつけたけれど、全然あたりません。ヘビは頭上からシャーッと威嚇してきます。こ、こわい……。
  1時間近く経っておとうさんが帰ってきました。おとうさんは剪定ハサミで、ヘビの首を挟んで締め上げて殺しました。二人とも力が抜け、汗びっしょり。
  子ウサギたち、かわいそうに。そして、生き物を殺してしまった後味の悪さで、ふたりは、重苦しい気分でした。
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