King of Solitude 2
未だ殺風景な部屋に彼を招き入れて、ダイニングキッチンに立ったアムロは…
お茶もなにも全ての食器は独り分しか買ってなかった事に、その時に気が付いた。先程落としてしまったマグカップを洗いながら、コレで出すしかないかな…と考える。
「此処は…今は君の家なのか?」
率直な質問にアムロは顔は上げずに応えた。
「そう…昨日買った」
「昨日?買った?」
些か驚いて鸚鵡返しに尋ねてみるが、その後の返事は無い。見るとアムロは何やら考え込んでいる様子だ。シャアはゆっくりとリビングルームを見回してから、キッチンへと歩いていく。
その気配を感じてアムロは、珈琲メーカーをセットする手を休めずに応えた。
「ゴメン、食器が俺のしか無くてさ…」
「そうか、では買いに行こう」
「コレ今日買ったばかりだし、一度しか使ってないから……ってっっ…??今何て言った?」
顔を上げたアムロとシャアの視線が絡み合う。
「私の食器を買いに行かねばならないな、と」
やはり聞き間違いではなかった、とアムロは改めて瞳をパチクリさせる。
「……何で貴方の分の食器が必要なんだよ…」
「暫く此処に厄介になるからな…さあ行くぞ、私のエレカで良いな」
言うなりシャアはアムロの手を引いて、外へと促す。
「ええ?えっ?ええーっっ?!ちょ、ちょっとっっ強引過ぎるぞっ!」
「早く行かないと夕方になってしまうぞ」
この人って人の話を聞かないタイプだったっ?と焦りつつも、アムロはシャアに手を引かれたままで、家の鍵を手に取った。
「このシリーズが君のと同じ物か?」
「うん…まあ…そうなんだけれど…」
本日二度目の店で、同じ食器の類を再び選んでいるアムロであった。
「ふむ…コレで大体揃うか…ダイニングがあまりにも殺風景過ぎたな…では…」
そう言いながら何やら色々と選んでいるシャアは大変機嫌が良い…様子だ。
「マグカップはもう一つあっても良いだろう…私がプレゼントするよアムロ、どの色にする?」
「…どれでもいーよ…」
こんな場所で大の男二人が食器を選んでいる姿って…もの凄ーく変じゃないかっっ?…まあ変な視線は感じないけれど……
「ならばこちらにしようか…色違いで」
「ペアかよっ!そ、それはちょっと…あれ?…いいデザインだね……コレならこっちの色の方が好きかな…」
「ではアムロはコレで、私はこの色にしよう」
何でそんなに嬉しそうなんだっっと思いつつ、結局その後も食料品売り場まで、シャアの買い物に付き合ってしまった。
「…泊まっていい、なんて言ってないのになあ」
帰りのエレカの中でアムロは、その端正な横顔を見つめながらポツリと呟いてみたが、当の彼は聞こえてないフリなのか、それには答えない。
家に戻ると、手早く色々とセッティングをし始めるシャアを、アムロは感心しつつ見つめている。
…割りとマメな男なんだなあ…
そして、あーゆー豪華な美形はなにをしてても様になるものだ…とも。
「さて…やっと一休み出来るな」
一段落したシャアは、アムロにダイニングテーブルに着くように促した。素直に従ったアムロの目に、シンプルな花器…一輪の花が生けられているものが映る。それだけでも華やいで見える気がしてきた。
此処に花を置くなんて、自分には考えもつかなかったけれど…
「珈琲は…確か何も入れないのだったな」
先程お揃いで買ったマグカップが、湯気と芳潤な香りと共に差し出されてくる。そのままシャアはアムロの目の前の席に座り込んだ。
「あ…うん…お客さんに色々とやってもらって…ゴメン」
「構わんよ、これから世話になるのだし」
その言葉にぐふっと少し噴きそうになる。
「だからさっっ…俺はっ此処に泊まって良いなんて一言も言ってないんだけれどっ?!」
「しかし追い出すつもりもない…そうだろう?」
不遜なシャアの表情ににアムロも思わず言葉が詰まるのだった。
「…相変わらず…ドコからその自信が来るんだかっ」
目の前の男の意地が悪い微笑を睨みつけながら、アムロは無駄と解っていても抵抗する。
「君が私の性格を覚えてくれているのか嬉しいよ…アムロ」
「何でそうなるんだかっ…」
見つめてくるその視線がやたら熱い気がして…ふいっと視線を逸らしたアムロの頬に、シャアが長いその指を添えてきた。
「本当に嬉しいのだよ…4年ぶりか…」
「……正確には3年と6ヶ月…だ」
次第に上がる頬のその熱さは彼にも伝わっているだろう。シャアの指がアムロを自分の方へと向けさせる。素直に従うアムロは、近付いてくる蒼氷色の瞳を正面で捉えながら上半身を伸ばす。ギリギリまでその表情を見つめて、唇が重なった瞬間に瞳を閉じる。
3年6ヶ月ぶりのキスは、以前と全く変わらない感覚をアムロに想い出させた……
「君の休暇はいつまでだ?」
「…取り敢えず2週間…だけど」
「では私もそれに合わせよう」
強引だなあ、とアムロは少しムカつきながらも、キッチンに二人で並んで夕食の準備をしている。
何をやらせても様になる男は、何をやらせてもやはり器用だ。アムロも手料理はする方だが、彼の手先の方が妙に本格的に思える。サラダ用のレタスをパリパリと剥きながら、彼は横目で見ているシャアの鮮やかな手元に感心していた。
そんな視線をしっかりと感じて、シャアはアムロの方へ視線を移して口元を吊り上げる。
「君のお気に召すかどうかの味は保証できないぞ」
「それは俺の台詞…まあとにかく互いの作った料理にはケチつけない方針でいこうよ」
「それは賛成だ」
そして笑い合うこんな穏やかな時間が、この彼と共有出来るなど……と互いに内心驚いているのだが。
夕食は文句なしに美味かった。
「これは用意の良い事だ」
一つしかないベッドを見て、シャアがそう言うので、アムロは枕でその背中を軽く叩く。
「急いでいたからこのサイズになっただけだよっっ…男二人では窮屈だけど我慢しろよなっ」
「狭いのなら尚更嬉しいね」
その枕を手に取ってシャアは薄く笑った。かあぁっと瞬時に頬を赤く染めて、アムロは声を荒げてしまう。
「い…言っておくけどっっ…俺はそんな気はないからなっっ絶対にっっ!」
「そんな気、とは?」
本当に意地悪いその言い方に、自分用の枕で再び彼の身体をぼすぼすっっ…と叩くと、アムロはベッドの中に乱暴に潜り込んだ。
「もう貴方は床で寝ろよっっ!おやすみっっ!」
そんな彼の態度に苦笑しながら、シャアはベッドに静かに入ると、背中を向けているアムロの肩にそっと手を置いた。
「悪かったよアムロ…せめておやすみのキスを許してくれないか?」
「…?!…う…ううーっっ」
ガバッという勢いでアムロはシャアの方に向き直ると、その頬をガシっと両掌で挟む。そしてこれまた凄い勢いで自ら彼の唇に己のを重ねてきた。
「…こっ…これでいいだろっっ?!…じゃあなっ!」
やや驚いた表情のシャアに、アムロは再び思いっきり背を向ける。
「…アムロ、こういうキスはな…」
「な…何だよっっ……?!…わわっっ!」
再び彼の肩に置かれたシャアの手は、今度は強い力で自分の方へと向かせてきた。
「おやすみのキスとは言わないぞ…3年前にも教えたはずだが?」
琥珀色の瞳が潤む様が、あの時と同じで…とても扇情的だ、とシャアは感じる。
「……そんなの……忘れた…」
「ではもう一度教えよう」
シャアが優しく唇を重ねてきた。
「んっ……ふっっ…」
こんな時に漏れるアムロの声が自分はとても好きだったのだ、と思い出す。
長目のキスで彼の唇と口内をしっかりと堪能してから、唇を離した。その更に潤んだ瞳と赤い目尻と…アムロの濡れた唇が、嫌でも3年前のあの夜を思い出すのだが…
「…これ…おやすみのキス…じゃない…だろ」
そんな言葉を発しながら、アムロの思惟は明らかに…
「そうだな…」
再びゆっくりとその身体に覆い被さる。
「君が抱きたい…という意味のキスだった」
アムロの腕が背中に回されたのを合図に、シャアはその身体に更に深く…溺れる事にした。
どうして此処の場所に来た?とは互いに聞かない。
此処で再会する事は、運命で…既に決まっていた事なのだろうから……
「彼女」の存在は全く感じないこの場所で、その運命を分かち合った二人は…
互いの存在を強く感じたいと欲し、その身体に刻みつける……
そんな再会の夜を過ごした…
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1日遅れてショックだが…そんな降誕祭っっ
(2012/11/18UP)