昨今,日本の中高生の科学離れや,高等教育・専門教育を受けている学生の基礎知識不足が叫ばれています。
 それはその通りだと思います。
 だけれど,教育する側の知識にも問題があるとは思いませんか?
 あまりにも専門が分断されてしまって,木を見て森を見ない状態になってはいないでしょうか。
 私も人のことを言える様な状況ではありませんが(^^;)
 科学を学んだり,知識や情報を得たりすることにとって大事なことは,杓子定規に方程式や理論を記憶することだけではなく,科学を楽しむ心を学ぶことだと思います。
 科学が楽しいものでなければ,全てを投げ打って身を捧げている本当の研究者や,ファーブルやダーウインと言った偉大な先達の存在を,説明できないでしょう。
 
個人的に,広く浅くと言う方針に基づき,中学生時代から一般の科学書籍を読み続けております。
 
以下には,電車の中などで気軽に読める科学の書籍と教科書を紹介しました。
 食品や生物関係がほとんどです。
 本の解説の多くは,以前,PC−VANのAG−NET(農業ネット)等に書き込んだものを転用しています(手抜き)。
 面白いと言ってるのは,あくまで私の主観に基づいているので,誰にでも面白いかと問われると保証しかねます(^.^)
 UPしようとして気がついたのだけど,比較的お高いハードカバーの本は現在も簡単に入手出きると思いますが,ソフトカバーのものはかえって入手困難かも。古本屋を覗いたとき,偶然に見つけたら読んでください。
 このコーナーに目を通して頂いた方には,恐縮ですが,俺は(私は)もっと面白いこんな本を知っているぞ! と紹介していただければ幸いです。

 順次追加予定(あてにならんが)・・・・・


【食品に関する面白い本】

1.「トウガラシの文化誌-A Story of Hot Pursuits-/アマール・ナージ著,林真理他訳,晶文社,1997年,2800円」
  辛いものは好きですか?
  この本は辛いものの代表格であるトウガラシについて,栽培,品種,加工,健康,文化等多岐に渡って記述したたいへん素晴らしい本です。
  著者はインド生まれのインド人で,北アイルランドで勉強し,ウォールストリート・ジャーナルの記者をしている人です。
  文系の人なんですが,たいへんな取材力でして,一つの香辛料について,これほど深い内容の書籍は珍しいと思います。そこいらへんに溢れている日本の安直な食品本等,足下にも及びません。
  西にトウガラシの原種を追い求める学者がいれば,くっついて行って,中米の原野を歩き回り,東にトウガラシの医学的な効果を研究している学者がいれば,行ってその学説を拝聴し,南にトウガラシの栽培を依託されている農家がいれば,行って収穫につき合い試食し,北にトウガラシを加工するタバスコ工場があれば,行って作り方を伝授してもらい,といった具合であります。
  著者によれば,トウガラシの辛みには一種の習慣性があり,中毒になると言います。読者から見ると,著者自身が一番の中毒者なのではないかというほどであります。
  トウガラシには1600種類も品種があるのをご存知でしょうか?
  ベルペッパー,ピーマンといった辛くない品種から,日本の熊鷹とかハバネーロといったすこぶる辛い品種まで,たくさんあるそうです。
  また,同一の品種でも栽培地や条件によって辛みがかなり違い,一般には暑い地方の方が辛くなるそうです。
  農業的なネタとしては,トウガラシはとてもウィルスに弱く,いったんウィルスにやられた畑は放棄されてしまうそうです。
  このため育種がとても盛んですが,なかなかままならないとのこと。
  世界で一番トウガラシを食べる国はタイで,一日当たり一人5gを食べるそうです。インド人はその1/2。日本人は少ない部類ですけど,もみじおろしを紹介するほど,著者はよく取材しております。
  日本ではトウガラシの品種や出来具合を見て購入すると言う人は,カレー屋の料理人くらいしかいないでしょう,インドや西洋には試食してから購入するとか,市販品では我慢できずに自分で栽培までする人がたくさんいるようです。
  トウガラシ・ジャンキーと言ったところか(^^;)
  本書の中でもっとも詳しく書かれているのはタバスコについてです。タバスコの由来,タバスコソースに関わる企業戦争など,とても面白い。
  さて,トウガラシを始めに発見した西洋人はコロンブスになるわけですが,彼らはインドとアメリカを勘違いしたわけですね。
  彼らはコショウを捜しに行って,トウガラシを見つけました。このため,トウガラシは植物学上の品種とはまったく違う「レッド・ペッパー」という俗名が与えられることになり,それが今でも続いているわけです。
  トウガラシに歴史ということですね。
  ところでワタシは辛いものは昔恐怖感を覚えていましたが,現在はワリと好きですね。
  トウガラシの辛みはカプサイシン類によるモノですが,カプサイシンは「口の中に火事が起こったよ」という神経情報の攪乱を与えるそうです。
  あの辛みの刺激というのは,その神経の攪乱を楽しんでいるみたいで,攪乱は何度食べても同じように起こるとのこと。
  従って,「辛みに慣れる」というのは,カプサイシンによる辛みに慣れて麻痺してしまうために生じるのではなく,「麻痺することに慣れて楽しむ」ようになるそうです。

2.「食品の研究−アメリカのスーパーマーケット−/ヴィンス・ステートン著,北濃秋子訳,晶文社,1995年」
  
アメリカのスーパーマーケットの中を歩く通路の順番を追って,売られている食品について,それぞれの成り立ちを解説していく,語り口に優れた楽しい本です。
  研究と言っても,学術的な研究を意味するのではなく,普通の人が普通に疑問に感じたり興味を持つ様なことを次々に解き明かしていく感じ。
  普段何気なく手にとって食べている食品達の秘密を一つ一つ解き明かしていきます。
  著者はケンタッキー在住の男性。奥深い秘密を簡潔な文章で解説していきます。
  話題はとても豊富で,サッカリンの安全性の論議から,コーンフレークの誕生,スイートコーンの品種名の由来。
  ナビスコ社,フリトレー社,何故か洗剤メーカーのP&G社まで交えたチョコクッキーの熾烈な市場争い。
  牛乳の容器の開発の経緯。トマトケチャップのねっとり度の公的な規格。
  最後はバーコードの読み方まで解説しています。
  どの家族でも毎週通っているスーパーに並んでいる商品について,優しく楽しく解説してくれる本です。

3.「新つけもの考,前田安彦著,岩波新書,1987年,480円(発売当時)」
  漬け物について広く解説した一般向けの本です。
  ここ20年位ほどで隆盛を極めたというか,旧来の漬け物に取って代わった発酵しない漬け物の特徴・製造について,業界の状況まで突っ込んで書かれています。
  著者の前田先生は元(?)宇都宮大学の教授だった方で,もちろんその道の専門家。
  歯に衣着せぬ書き方をした論文を読んだことがあります。
  (実はお会いしたこともあるんだけど,絶対に覚えていらっしゃらないだろうな〜)

4.「食文化の中の日本と朝鮮,チョン・デ・ソン著,講談社新書,1992年,600円(発売当時)」
  日本と朝鮮の食文化の共通点・相違点を歴史的な視点で解説した一般向けの本です。
  キムチ,焼き肉,寿司,酒,漬け物,ニンニク,豆腐,トウガラシ,朝鮮人参と言った食品から,厨房や陶磁器まで解説しています。
  江戸時代以前の日本の食文化について,海外の文献から考察した例は少ないんではないでしょうか?
  著者は大阪経済法科大学の教授であるばかりでなく,モランボンの味の研究所の所長をなされている方です。
  近くて遠い朝鮮の文化について,身近な食べ物から勉強するのも良いかもしれませんね。

5.「とんかつの誕生,岡田哲著,書籍,講談社選書メチェ,2000年,1500円」
  明治時代から大正時代にかけて,文明開化と共に日本の食べ物の一大革命が生じた。この本はこれをコンパクトにまとめたものです。
  著者は,東大農芸化学科出身で,長年日清製粉に務め,後年は放送大学で講義を務めていた方です。
  いわゆる洋食の誕生を解説したもので,特に”牛肉”の普及,日本式の”パン”の開発と普及,そして,日本式の豚肉料理の開発について詳説しています。
  歯切れの良い,センテンスの短い文書が分かりやすく,好著です。
  食からみた一種の歴史解説書とも言えるのだけど,歴史的な偉人の諸行よりも,普通の庶民の創意工夫を丁寧に記しており,そういった面から見ても楽しい読み物になっています。
  それにしても,日本の先達の苦労と開拓精神,努力には感嘆せざるをえません。 
  この本はちょっとしたベストセラーになっていると聴きます。
  誰にでも勧められる楽しい本です。

6.「日本の野菜,大久保増太郎著,中公新書,1995年,740円」
  
これ,面白い本というよりも,私にとっては野菜の辞書みたい本です。
  エーと,タマネギの匂いは何だっけ?とか,アスパラの流通はどうなってるんだっけ?とか,CA貯蔵って何だっけ?
  とか言った具合に,野菜について色々とためになる話が個別に網羅されているので,とても実用的です。
  必携だな。

7.「フグはなぜ毒をもつのか,野口玉雄著,NHKブックス,1996年,850円」
  フグの毒はどうやって出来るのでしょうか?
  実はビブリオ属の微生物の一種が生産するのですが,まだよくわかっていない点も多いらしく,現在までに判明している実験データを詳細にかつ,優しく解説してくれています。
  というように,本書は魚介類の毒,カニ毒,海草毒など,海洋生物に存在する毒(マリントキシン)について,とても詳しく紹介したものです。

                              
8.「イカはしゃべるし,空も飛ぶ−面白いイカ学入門−,奥谷喬司著,講談社ブルーバックス,1989年,640円」
  なるべく新しい本を紹介しようと思っていたのですが,ネタに尽きたので,古いものも紹介していくことにしました。
  これはもうメチャメチャに面白い本ですね。
  カバー写真は,トビイカの軍団が海上を滑空している美しい姿ですが,この写真は動物写真には定評がある岩合光昭さんによるものです。
  イカは日本人がもっともたくさん食べている海産物です。
  このイカの生態,歴史,生物学,イカ漁,食べ方などを豊富な図版と共に紹介しています。
  イカ・マニア必読というよりも,日本人必読と思えるくらいの名著だと思います。
  著者は水産大学の教授であり,ライフワークとしてイカに長年取り組んでおられる方です。
  こういう人の講義というのは,さぞかし楽しいんでしょうね。

9.「アジア怪食紀行,小泉武夫著,徳間書店,2001年,1800円」
 東京農大の教授で,発酵食品が専門の小泉先生の新刊。テレビでもときどき拝見しています。
 小泉先生は何せ行動力があります。食に対する好奇心が旺盛です。
 本書は怪食というくらいだからして,一般的な日本人の感覚からすると,ゲテモノ的な食品ばかりを食べつつ,紹介しています。
 小泉先生に食べられてしまう動物たちは,石カメ,ネズミ,犬,蛇,トカゲ,各種昆虫たち,etc...
 読む方からしても,”火くらい通してから食えよ!”と叫びたくなってしまう(笑)。
 やはり発酵食品の専門家というのは,こういう性格と胃袋を持っていないと勤まらないのでしょうか?
 本書と小泉先生が素晴らしいのは,これらを食べるアジアの食文化や,それを育んでいる人たちをとても尊敬し,大切にしているところだと思います。敬意が感じられます。
 鋼鉄の胃袋の持ち主に訪問されるアジアの国々は,ラオス,ベトナム,韓国,モンゴル,ウイグル,ミャンマー,中国。
 個人的にもっとも興味深かったのは,お隣韓国の巨大なエイを使った発酵食品”ホンオ”。
 嫌気性アルカリ菌が発酵し,発生するアンモニアによってアルカリ性になり,このために保存性が増すそうです。
 たいへんな高級料理だそうです。乳酸発酵や酢酸発酵によって酸性にして保存性を増す食品は数多く世界各地に存在しますが,こういうタイプのものがあるということは初めて知りました。
 食べるのはちょっと躊躇ってしまうが,読んで楽しい,見て楽しい本です。
 親父ギャグ満載の文章も軽妙。

10.「シー・ベジタブル,大房剛著,講談社ブルーバックス,(昭和60年)」
 ちょっと古い本になりますがあしからず。海藻について網羅した一般向けの本です。
 海藻は英語でシー・ウイードと言います。海の雑草。シー・ベジタブルと言う言い方は食べ物としての海藻ということになるのでしょう。
 海藻の本はダイエットとか健康面について書かれているものが多いのですが,この本は前半海藻の養殖や分類にも触れています。
 著者は山本海苔の研究所に勤めておられる人です。

11.「大衆魚のふしぎ,河井智康著,講談社ブルーバックス,(1993年)」
 
大衆魚という呼び方は魚の分類学上の言い方ではありませんね。イワシ,サンマ,アジ,サバといった,日本人にとって日常的に食している食用魚の総称でしょう。
 本書は大衆魚の性質,捕り方,歴史,特徴,生態,栄養までを網羅したたいへん面白い本です。
 特に興味深いところは,”サンマが通ればイワシが引っ込む”と言われる魚種交代現象とその原因の解析の部分です。
 著者は東北区水産研究所にて長年研究を続けているかたです。専門家ならではの奥深い考察を平易に解説してくれます。 
 
12. 「食べ物としての動物たち,伊藤宏著,講談社ブルーバックス,2001年」
 タイミングよく出版された畜産動物の解説書です。
 豚,鶏,牛について,歴史,品種と育種から,肉やミルク,卵の生産から加工まで,平易に記されています。
 内容的には科学に特化して書かれているわけではないので,ブルーバックスというよりも,講談社新書の方が相応しいような気がします。
 それにしても,本書に記載されている言葉を借りれば,まさに”生産工場”と呼べる,合理化のための,人間の手による凄まじい生物の改良です。
 こういった現実を垣間見ると,遺伝子操作技術だけがダメだなんてのは,おかしな理屈に思えてきます。
 肉や卵や牛乳を食べる全ての人は,こういった現実を知るべきです。
 見方によっては,人間の傲慢さを物語るものとして,別の見方をすれば,全ての生き物に感謝する気持ちを抱かせてくれる内容でしょう。
 著者は元北里大学の学長を務めた,家畜栄養学の重鎮です。

13.
「食べもの神話の落とし穴, 高橋久仁子, 講談社ブルーバックス, 2003年」(2003年11月UP)
 これは面白い本というよりもためになる本です。食に関して雑多な情報や商品が溢れている日本では,読んでおいた方が良いと思います。
 市場に氾濫する間違った食情報や誤解を招くうたい文句を優しく丁寧に解説しています。かつてベストセラーとなった"買ってはいけない"の内容と比較される方もいるかもしれないが,月とすっぽんです。
 健康食品メーカーや健康・ダイエットなどを宣伝に使っている企業にとっては,困った内容だと思いますが,事実だから仕方がありません。
 この本は基本的に栄養学の基礎知識から成立していて,読んでいくとそれが頭に入っていく仕組みになっています。
 著者は群馬大学教育学部の教授。BBシリーズで何冊か既に何冊か書いていますが,この本が最高です。
 勇気を出して,よくぞ書いてくれたものです。天晴れ。


【その他,科学系の手軽な参考書】

1.「電子顕微鏡でわかったこと,永野俊雄・牛木辰男・堀内繁雄著,講談社ブルーバックス,1994年,980円」
  
電子顕微鏡写真を集めた本は,ありそうでそれほど多くはないようです。しかも安価な本というのは貴重だと思います。
  本書の中では発酵食品や微生物の写真はありませんが,細胞や細胞組織の写真は豊富にあります。
  また,電子顕微鏡の仕組みや特徴について分かりやすく解説しており,入門書として好適です(って,自分が入門しているわけではないんだけどね)。

2.「キノコとカビの生物学,原田幸雄著,中公新書,1993年,680円」
  
著者は北大の教授で,植物病理学者。第1章では椎茸などの食用キノコについて解説されており,冬虫夏草など不思議な生態を持つキノコにも触れています。
  しかし本領を発揮するのは,2章以降の植物病原菌などカビ類です。
  いもち病など作物に有害なカビとその防除について,歴史的かつ具体的に解説されています。
  また,フレミングのペニシリン発見における偶然と観察眼は,人間というのはただボーっとしていてはいかんものだと,つくづく考えさせられました(自分のことだ)。

3.「感染するとはどういうことか,中原英臣・佐川峻著,講談社ブルーバックス,1995年,740円」 
  エイズや大腸菌O157の騒ぎ以来,感染症に関する一般向けの本はたくさん出版されています.
  一般向けといっても案外難しいものが多いようです.
  このあたりの本がとっつきやすいかもね.
  なお医学界における感染症の分野というのは,野口英世の時代から比べると一時は日陰者だったようですが,近年再び脚光を浴びているようです.                                 


4.「なぜ,人間は蛇が嫌いか−入門・人間行動学−,正高信男著,カッパ・サイエンス,1994年,820円」
  
京都大学の霊長類研究所にお勤めしている先生が書かれた本。
  あなたは蛇とか爬虫類に,本能的に恐怖感を憶えませんか?
  私はこの点について,遠い昔に人類がこいつ等に虐められていたため,その記憶が遺伝子の中に刷り込まれているのではないか?と思っていた人でした。この様な思考は,相当昔から議論されていたそうです。
  しかし,この考えは大きな間違いであると,本書で詳しく解説されています。
  ミネカという人によって,サルが蛇を恐れる行動は,学習によって形成されることが証明されたそうです。
  本書は,この様な動物の心理や生態の科学について,アラレちゃん,ゴルゴ13,ドラエモンといったマンガを例にあげて,優しく解説してくれます。

5.「ミミズのいる地球−大陸移動の生き証人−,中村方子著,中公新書,1996年,680円」(2001年4月UP)
  ミミズの本です(笑)。
  世の中には色々な人がいるもので,ミミズを追って,世界各地を訪れる中村先生の仕事を紹介した内容です。
  訪問先は,ポーランド,ケニア,ハワイ,ニューギニア,オーストラリア,モンゴル,タヒチ,ガラパゴス・・・
  本書はミミズの生物学から始まりますが,どっちかといえば,ミミズにとりつかれた中村先生の方が面白いかも(笑)。
  体長81cmのミミズを持ち上げる中村先生の姿が印象的です。
  ミミズを通して,人間社会や公害問題を捉える好著。

6.「タマムシのハネはなぜ玉虫色か−電子顕微鏡でのぞく身の回りの世界,田中敬一著,講談社ブルーバックス,1995年,980円」
  この本も1と同様に,電子顕微鏡で身の回りのモノを捉えた姿を多数掲載した本です。
  内容は,昆虫,植物,イカやタコの吸盤の写真,電気カミソリ,味の素の結晶なんてのもありました。
  本書が素晴らしいのは,走査型電子顕微鏡の原理や撮影方法などについて,とても分かりやすく解説されているところ。
  本書を読んで,私も引退後は別荘に引きこもって,日夜電子顕微鏡観察をする毎日を送りたいものだと,真剣に考えるようになりました。
  科学の基本は,観察することだということがよく理解できますね。

7.「おはよう寄生虫さん,亀谷了著,講談社+α文庫,1996年,680円」
  寄生虫博士というと,藤田紘一郎先生が有名ですが,元祖寄生虫博士というと,亀谷先生でしょう。
  何しろ,目黒寄生虫博物館を自ら設立し,無償で解放したのですから。私,尊敬しています。
  本書は,主に人間に害を加える寄生虫類について,たくさんの楽しい(?)具体例を交えて解説しています。とても分かりやすく丁寧です。
  後半は亀谷先生の寄生虫研究記を紹介していますが,サメよりもサメの寄生虫を,鯨よりも鯨の寄生虫を,人魚よりも人魚の寄生虫を観察したいとのこと(笑)。
  本書の弱点は,ほとんど図版がないことです。
  やはり実際の寄生虫を見るには,目黒寄生虫博物館に行ってみないとね。そういうわけで,私も一度訪問しました。
  凡人からみると,寄生虫学者というのは,やはり変わっているなと・・・

    http://homepage2.nifty.com/callon/   ←目黒寄生虫博物館のサイトです

8.「ゴキブリ3億年のひみつ,安富和男著,講談社ブルーバックス,1993年,740円」
  ゴキブリのことについて書かれている本は,どれも面白いです。
  2年ほど前,アメリカのセントルイスの科学館みたいなところを見学したときに,建物に入ってすぐのところに人だかりが出来ていて,水の入っていない水槽に館員が手を突っ込んでいました。
  何をしているのかと思って近寄ってみると,両腕に6−7cm位の灰色の昆虫をたくさんたからせて,子供達に見せていました。
  水槽の脇のプラカードを見ると,"○×Cockroach" という文字が。
  ゲゲッ! ゴキブリじゃんか!
  コオロギをよく見ると,何となくゴキブリに似てません?
  ゴキブリもコオロギの様にキレイな声で鳴けば嫌われないかもしれないと思いましたが,泣くゴキブリもいるらしいですね。
  聴いてみたいような,そうでもないような(笑)。
  ゴキブリをつぶすと白いものが出てきますが,これは脂肪体で,ここにはバクテリアが共生しており,各種のアミノ酸を合成してくれているそうです。
  ゴキブリというのはたいした生き物ですな〜

9.「へんな虫はすごい虫,安富和男著,講談社ブルーバックス,1995年,680円」
 
安富先生の本はどれも面白いので,もう一冊紹介しておきましょう。
 本書は,昆虫たちの面白くも興味深い性質について,72項目に渡って解説しております。
 ”メイガ”類の幼虫は,大豆等豆類や穀類を好んで食べるので,これらを取り扱う者にとっては天敵です。
 その代表格の”ノシママダラメイガ”について,その名称となっているノシメ(熨斗目)は,武家の礼服にした織物のことで,縦糸は生糸,横糸は練り糸から出来ているそうです。
 ノシメマダラメイガの成虫は,ハネの付け根の部分が灰色で外側は黒い帯を持つ赤褐色なので,この模様から命名したしたそうです。
 この幼虫は何を食べても暗赤色の粒状の糞をするそうです。
 この色素がいったい何なのか?,今持って(出筆当時)解明されていないそうです。
 本書は各項目を短く区切って紹介しており,通勤中の電車の中で読むには恰好のデキになっています。

10.「マンガ 化学式に強くなる,高松正勝原作,鈴木みそ漫画,講談社ブルーバックス,2001年,940円」
 マンガで化学−特にモル−を解説した本。
 女子高生がつくばの人(若手研究者?)にマンツーマンで化学を教えて貰うという設定になっています。
 ありがちな設定ですが,できあがるまでに5年を要したそうで,これはサスガに傑作な解説書となりました。
 特に,改めてもう一回化学を勉強しなければならない様な人や,生物&バイオ分野の学生に好適です(ワシだ)。
 化学の啓蒙書というのは,このくらいやってもらわないと困るわけです。鈴木みそさんの労作です。
 現在23000部だそうですが,長い時間をかけて売りまくっておくれ!
  鈴木みそさんのサイト → http://www.misokichi.com


11.「毒虫の飼育・繁殖マニュアル,秋山智隆著,データハウス,2001年,1800円」
 昆虫でないムシの飼育・繁殖について解説した本である。
 取り上げられているムシは,タランチュラ,サソリ,ムカデ,ヤスデ,クモ類,サソリモドキ,ウデムシ,ヒヨケムシ。
 巻頭にはカラフルな写真。博識ぶりを発揮する丁寧な解説文。なかなか素晴らしい本である。
 こういう本を購入したからと言って,タランチュラの飼育を企てているわけではない。興味があるだけだ。
 本書はこういったムシ達の生態を観察を通してよく伝えてくれている。
 かいつまんでムシの飼育の注意点を記すと,一に湿度,二にエサ,三に脱走防止,四に取り扱い方といったところだろうか?
 ヤスデを除いて,これらのムシを手で触るわけにはいかない。一緒に遊べないのである。
 エサはコオロギを使用することが多いようだが,ピンクマウスといって,生まれたてのマウスが冷凍で流通しているのは知らなかった。
 たいへん勉強になる好著なのである。
 グロテスクだが美しいこれらのムシを飼育しようと言う気にはならなかった。残念ながら。
 強いて言えばヤスデなら良いかな?
 でもこれらのムシの大部分は,人間の食糧になってしまうんだから,人間は誠に恐ろしい生き物である。
 こんなのがペットになるのか? と疑問を抱くが,それはそれなりの楽しみ方,愛しみ方があるのである。分からないではない。
 こういったムシ達がペットになりうると言う現象は,都会のマンションなどで自然と隔離された生活を余儀なくされているせいかもしれない。
 昔だったら,縁側からムシさん達が簡単にお出まししていたわけだから。
 ウデムシやヒヨケムシというヤツ等はまったく知らなかった。
 また,ヤスデの類などにおいては,何を食って生活しているのか,よく知られていない種類も多いという。
 これから生物学の学徒になろうと言う人は,研究対象としてねらい目かもしれない。
 かく言う私も,ヤスデ類の消化酵素や腸内細菌層,酵素について,研究したくなってきた。
 どなかたか場所と研究費を提供してはくれないか?
 マジで頑張りますので,よろしく!(^^;)

 ※本書の著者である秋山智隆氏の文章は,センテンスが短くて歯切れがよく,ネット的だな〜と思った。
  案の定サイトを運営しているので紹介しよう。
  Pets! Pets! 魅惑の生き物の部屋→
  http://city.hokkai.or.jp/~pia/first.htm

12.
「遺伝子組換え食品−あなたはどう思いますか?−,吉松嘉代著,日本薬学会編,丸善,平成13年,1200円」(2003年1月30日UP)
 難しい内容をコンパクトにまとめた良い本です。第1章〜4章までは,主に遺伝子組み換え作物の技術的な側面を,第5章は,主に消費者問題を解説しています。
 この内容を完全に理解するには,相当の知識と勉強が必要でしょうが,バイオ系の学徒には好適でしょう。私にピッタリかも(^^;)
 本著がこの問題を考える入り口になれば良いと思うし,著者もそういう旨の記載をしています。
 現代に生きる生活者必読。よりたくさんの人に読んでほしい。価格も手ごろでお勧め!

13.「ゴキブリ大全,デヴィッド・ジョージ・ゴードン著,松浦俊輔訳,青土社,1999年,2400円」(2003年1月30日UP)
 ゴキブリ・オタクは世界中にいるみたいで,著者は生物学者だそうです。東の安富さん,西のゴードンさんと言った感じか(笑)。
 松浦先生の翻訳した著作は何冊か読んだ記憶がありますが,ゴキブリの専門家というわけではく,大学の先生(英語担当)だそうです

 本書は,タイトル通り,ゴキブリの全てを網羅した一般向けの解説書です。
 第一部はゴキブリの基礎知識,第二部は生態,第三部は人とゴキブリの関係についてまとめています。T,Uも素晴らしいですが,個人的に特に第三部に興味を惹かれました。
 ゴキブリを描いた絵画マンガ,アニメーション,小説,テレビドラマ−その名もキャプテン・コックローチ!−など,文化・芸術面においてのゴキブリの果たした功績?を取り上げています。
 ゴキブリを扱った音楽も掲載されており,あの偉大ブルースマン,アルバート・キングによる「コックローチ」,ローズ&ジ・アレンジメントによる「シンシナティーを食べたゴキブリ」jの他,著者が一番好きだという
その名もコックローチーズというベイエリア出身の女性アカペラを紹介しています。マジ,聴いてみたいです!
 この他にも多数の曲を紹介しておりますが,残念ながら,森高千里様の超名曲「バスターズ・ブルース」 は抜け落ちていました。
 なお,60年代前半に”ローチ”というダンスが流行ったそうです。
 どなたか,レコード会社の企画担当の方,ゴキブリ・ソングのコンピレーション・アルバムを製作してくださらぬか?
 一枚は必ず売れまっせ!


【発酵食品に関する面白い本】

1.「チョコレートの科学,蜂屋巌著,講談社ブルーバックス,1992年,760円」
  
最近は健康食品としても話題になっているチョコレート。
  そのチョコレートやカカオの製造に,微生物が関与しているということはあまり知られていないと思います。
  
本書はチョコレートの歴史,製法,健康まで広範囲に扱った好著です。
  著者の蜂屋さんは,明治製菓に務める研究者で,この分野ではじめて博士号を取ったかたとのこと。
  チョコレートに対する造詣と愛情が感じられる内容です。

2.「世界香食大博覧会,小泉武夫著,徳間書店,1989年,1300円」
  
小泉先生は多くの著作を書している発酵飲食品の専門家です。特に匂いの強い食品については,右に出る者がないほどかな?
  猛毒を持つフグの卵巣を発酵と熟成によって無毒化して食べてしまう,石川県の糠漬。
  沢庵の香気成分の閾値(感じられる限界の量)。カラスの肉の臭み。
  本書では世界で臭い食品ベスト5をあげています。
  引用すると,1位はシュール・ストレンミング,2位はキビャック,3位は日本の鮒寿司,4位は焼きたてのくさや,5位には世界で最も臭いチーズとしてあげている,ニュージーランドのエピキュアー。
  ともあれ,食べるのはちょっとためらうけど,読むだけなら楽しい本です。

3. 「乳酸菌−健康をまもる発酵食品の秘密,小崎道雄著,八坂書房,2002年」(2003年11月UP)
 乳酸菌についての一般向けの解説書。極めて豊富な内容を優しく書いています。図版も多く,良心的な本です。
 古今東西の乳酸菌を利用した食品について,豊かな知識を幅広く取り上げています。乳酸菌や食品の微生物の学徒は必読書でしょう。
 とまあ,もちあげておいて,著者の小崎先生は農大の元教授で,私の学生時代の恩師なんである(^^;
 学生時代,あんまり話したことはなかったし,あんまり学校にいなくて,あちこち駆け回っていた感じがします。
 小崎先生は熊本県の出身で,本書には子供の時代の逸話もときおり登場して,私の知らない面を見せてもらえました。感謝!


【バイオテクノロジーのテキスト】

1.「くらしと微生物(改訂版),村尾澤夫・藤井ミチ子・荒井基夫共著,培風館,1987-1999年,1900円」
  家政系・農学系・医歯薬系・看護系・教育系の大学・短大の学生向けに書かれた本です。
  微生物について身近な話題を取り上げていて,親しみやすく書かれています。
  大きめの本屋さんで容易に手に入ります。この分野でのベストセラーらしいです。
  重宝しています。

2.「食品の熟成,佐藤信監修,光琳,昭和59年,9000円」
  これ,私のネタ本です。
  非常に広範囲の食品について,詳しく解説しています。どちらかと言うと,卒論を控えた大学生とか大学院生などの専門家向けですね。
  出筆者はいずれもその分野の専門家なので,内容は充実していると思います。
  ちょっと古い本なので,図書館に行かなければ見られないでしょうね。発売当時としてはとても高い本だし。
  監修者の佐藤先生は長らく醸造試験場に勤めていらした方。私,実は一度先生の講習会に参加したことがあります。

3.「バイオテクノロジーの拓く世界,木村光著,NHKライブラリー,1996年,950円」
  
NHKの教育テレビで放映された番組(人間大学−バイオテクノロジーへの招待)をまとめたものです。
  
ちょっと古くなってしまったかもしれませんが,発酵食品から農業分野,安全性に関わる問題まで広範囲な話題を取り上げ,関連図書の紹介も多く,入門本として好適だと思います。


4.「食品・そのミクロの世界−電子顕微鏡による立体写真集−,種谷真一・木村利昭・相良康重共著,槇書店,1991年,10000円」
  電子顕微鏡写真によって,普段見慣れた食品の微細構造を観察することは私にとってとても楽しいことです。
  本書は,食品だけに限って言えば,おそらく日本で唯一の電子顕微鏡写真集でしょう。
  ちょっとお高いので,個人で購入するのは躊躇ってしまいますね。図書館に常備してほしい本です。
  著者等はあの雪印乳業の研究所に勤める人たちで,巻頭には,雪印の専務さんによる推薦文が掲載されています。
  本書に収録されている電子顕微鏡写真は,乳製品だけではなく,豆腐や納豆といった農産加工品から,調味料,油脂,肉製品,菓子類,松茸などのキノコまで,多岐におよびます。
  どの写真もとても美しく,貴重なものです。
  この様な写真集を制作した雪印という会社と研究者の努力は賞賛に値し,敬意を払わねばなりません。
  でもどうしてこんな素晴らしい写真集を制作した会社があの様な事件を起こしてしまったのか,不思議ではあります・・・

5.「酵素−ライフサイエンスとバイオテクノロジーの基礎−,一島英治著,東海大学出版会,1984年,1200円」
  
ちょっと古い本を引っ張り出してきました。
  酵素発見の歴史から始まり,酵素とはなんぞや? 植物の発芽と酵素反応,発ガンと酵素,酒造りからバイテク,環境問題,治療薬の開発まで網羅した,一般にも専門家にも役立つ解説書です。
  微生物学を一通り学んだ人や微生物学をより深く理解するために好適な本だと思います。
  著者の一島先生には,東京農工大学時代に一度お会いしたことがありますが,絶対に覚えていらっしゃらないでしょうね(こればっかり)。
  この時には,一時どうなることかと思う状況が発生してよく覚えているんですが,書こうかな,やっぱやめとこう(笑)。

6.「微生物学・改訂版(食物・栄養化学シリーズ15,坂井拓夫著,培風館,1999年,1700円」
  比較的安価な微生物の教科書です。食品から廃水処理,医薬品の製造まで,広範囲で微生物を捉えています。
  薄いわりには,内容は充実していて,手軽に読めてためになるって感じ。
  大学,短大,専門学校などで広く使用されていると思います。1のくらしと微生物と並ぶ好教科書ですね。


 

 

2003/11/30