鬱陶しい。
何よりも先にそう思った。
オレの後を、先ほどから執拗につきまとう影が一つ。
それなりに気配は消しているつもりなんだろうが、オレの感覚から逃れるには、まだまだ不十分だ。
この距離では男か女かまでは確認できないが………。
追い剥ぎか、どこかの盗賊か、まあそんなところだろう。
それにしては気配がひとつだけというのが妙といえば妙だが。
………リナが喜ぶな。
脳裏を反射的に過ぎった考えに苦笑する。
出会ってからこのかた、ずっと傍らにあったはずの存在は、───今はいない。
それがこんなにもオレを苛立たせるものだとは思わなかった。
後をついてくる相手が、こちらにちょっかいをかけてくるのなら、それはそれでかまわない。
遊んでほしいのなら―――オレから遊んでやるだけの話だ。
思いきり叩きのめせば、少しはこのむしゃくしゃした気分の解消になるだろうか。
オレは無造作に剣を抜きはなった。
相手の出方を待っているつもりは───そんな余裕はオレにはなかった。
振り向きざまに放った一撃は、相手の剣で防がれた。
もとより、相手を殺す意図は全くない。
いくら盗賊でも、やつあたりの対象で死ぬのはあんまりだろう。
自分が今、相手に八つ当たりをしているのだというくらいの自覚はあった。
だから、そこそこ手加減はしてあるが―――。
相手の技量はオレが思っていたよりも上だったようだ。
予想していたより早いタイミングで受けられる。
あわせた剣は、力づくの押しあいになる前に、相手の方からすっと引いた。
触れた剣が離れるなり、相手はぱっととびずさった。
実戦にはなれているらしい。
オレをさっきからつけていた相手は、ありふれた旅行用のマントをまとい、顔を覆ったその姿からは、盗賊のもつあの独特の雰囲気が感じられなかった。
違和感はあったが、かまわず再度剣を振りおろす。
相手が、がっしりとオレの剣を受ける。
思ったより遙かに硬質な手応え。
相当の技量がなければ、オレの剣を力負けせずに受け止めることはできない。
しかも、この太刀筋は………。
「………悪いな。俺だよ、旦那」
オレは合わせていた剣から力を抜いた。
そのタイミングをはかって、背後に飛びずさった男がぱっとフードを跳ね上げる。
その下から現れたのは。
「ずいぶんと熱烈な歓迎だな」
皮肉な口調。
だがその顔にはわずかな笑みがある。
オレが良く知っている相手だった。
「―――ゼルガディス―――」
ゼルガディスが肩をすくめてオレに答えた。
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