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オレ達は、とりあえず、少女の住んでいた町を目指すことにした。 町中を抜け、街道沿いにアルディスを目指す。 かなり人目にさらされることになるが、仕方がない。少女を連れて、整備されてない道を歩くのは、まず無謀といっていい行動だった。それに、人目がある方がむしろ襲われにくいかもしれない、とリナが主張した。人目に触れれば、この子の身元も分かりやすくなるだろう、と。まあ、それはそうかもしれないが………。さっきからリナの行動を見ている限り、ただ単に、屋台食べ歩きの機会を逃がしたくないだけなんじゃないかとしか思えない。今も、後方確認との名目のもと、どこかに姿を消している。どうやら今日はたまたま市の立つ日だったらしく、町の中心にある広場は、田舎から出てきた人や、旅の商人達がものを売る屋台が、所狭しと立ち並んでいた。人出も多く、はぐれないように少女の手をしっかりと握って歩く。 ふと気付くと、少女の視線が、吸い寄せられるように屋台の方を見つめていた。 何気なくその視線を追ってみると、どうやら布地を売っている店を見ているようだった。 そこには、鮮やかな色彩に染められた布地が、所狭しと並べられていた。 その屋の柱のところには、いくつかのリボンが、風を受けてそよいでいる。 どういう素材かはしらないが、向こう側が透けて見えるような薄目の生地で、ふわふわと軽い。 「これか?」 オレは、少女の上から手をのばし、そのリボンを取ってみる。 リナの瞳と、同じ色のリボン。 髪の色から考えると、リナには多分似合わない色。 でも、この少女の髪には似合うような気がした。 硬貨を軽くはじいて、店の親父に代金を払う。 空中で硬貨を受け止めた親父が、にやりとオレに笑いかけてきた。 「え?」 おれがリボンを差し出すと、少女が、驚いたようにオレを見た。 心底びっくりしたようなその表情からすると、オレの行動が本当に予想外だったようだ。 やがて、その顔に柔らかな笑みが浮かぶ。 「………ありがとう………」 にこりと笑った少女は、ほんとうにいい表情をしていた。 いいよな、この素直さ。リナとは全然違ってて。 「結んでみていい?」 許可を求めるように少女がオレを見た。 オレは勿論と笑って頷いた。 くすくすと笑った少女が、自分の髪をまとめようと、リボンを片手に、奮戦する。 が、さらさらとした少女の髪は、まとめるには癖がなさすぎたらしい。 手を離したとたんに、はらりとすぐに髪が戻る。 やがて、途方に暮れたような表情で少女がオレを見た。 「え? オレにやれって言うのか?」 無言の瞳に促されて、とりあえずリボンを手にとってみる。 オレもなんだか途方に暮れたくなった。 いくら女装をさせられた過去があったといっても、こーゆー作業にまで慣れているわけじゃない。髪型や化粧なんかは、リナやその時にいた女性陣が手伝ってくれていたわけだし。 少女と同じく慣れない作業に四苦八苦していると、店を冷やかしがてらオレたちの後ろの尾行を警戒していたリナが帰ってきた。 「何やってるのよ、ガウリイ」 あきれたような口調でリナが言う。 「何って………リボンを結んでたんだか」 結び目をにらみながらオレは答える。 リボン結びに結んだはずが、どうしてこんなになるんだか。控えめに言っても、オレの結んだリボンは………とてもリボンには見えそうになかった。 リナがやれやれとため息をついた。 「そう? あたしはてっきり、この子を縛り上げて誘拐するつもりなんだと思ったわ」 そう言いながらオレの目の前に手を差し出す。 「ほら、ちゃっちゃと渡しなさいよ」 素直に、目の前に差し出された手にリボンを渡してみる。 自分の荷物から櫛を取り出したリナは、あっというまに少女の髪をまとめ、リボンを結んだ。 「ほら、これでいいわ」 少女の肩にリナが手を乗せた。 「似合ってるわよ」 そういって、少女の肩をぽんと押しだす。 うれしそうに笑った少女が、リボンを見せびらかすようにオレ達の、前で、2?3度くるくる回って見せた。 見た目だけなら、一応可愛らしい部類に入る───片方は、黙っていればという限定つきだが───二人が連れ立っている図は、結構目に嬉しいものがある。 「どうしたの、ガウリイ。ぼーっとしちゃって」 「え? ああ、いや………なんでもない」 「そう?」 リナがひょいっと首を傾げた。 じーっと真剣な表情でオレをのぞき込む。 自分の考えを見透かされたような気がしてオレは焦った。 「あのねえ、ガウリイ」 オレをじっと見つめたままでリナが言った。 オレの心臓がどくんと跳ねる。 「見とれるのはいいけど、10歳以下の子に手を出すのは犯罪だからね」 ───おい───。 「誰がンな子どもに手出しなんてするんだ」 オレはジト目でリナを見た。 「だってほら、プレゼントなんかあげたりして。実は、気をひこうとしたりするんじゃないの?」 にやにやと笑いながらリナが言う。 「あんた、お子って結構好きみたいだし。………ほんっと、子どもは甘いわよね。ガウリイ?」 「おい、オレをロリコンの変態扱いするなって」 オレは憮然と、リナに答える。 でも、リナのさっきの口調がなんだか妙に引っかかった。 まさか、とは思うんだけど。 「なあ、リナ? ひょっとしてお前さんもあーゆーの、欲しかったのか?」 「まさか」 リナが答えた。 その反応が、少し、早すぎるような気がオレはした。 「大体、あんたみたいなクラゲにんなこと期待する訳がないじゃない」 「ふーん」 重ねて言われたリナの台詞にオレは小さく首を傾げた。 リナに何かをやったことなんて………あっただろうか、そう言えば。 リナはオレにはお構いなしで、少女の後を追って、すたすたと歩き去っていく。 オレは後ろから素早くリナの上腕を捕まえ、オレの方に引き寄せた。 勢い余ったリナの身体が、こつんと軽くオレの胸にあたる。 上体を折ってリナの耳元にささやきかけた。 「………リナには、後でもっといいもん買ってやるよ………」 掴んだ手の中で、リナの身体がぴくんと小さく跳ねるのが判った。 片手でぱっと耳を押さえて、リナがオレの方を振り返る。 「………ほほう。あたしの『被扶養者』の分際で何を言うかな、ガウリイ」 リナが目をすがめてオレを見る。 でも、その頬がわずかに赤い。 本人に言ったら、きっと怒鳴られるくらいじゃすまないだろうけど。 「いいから、いいから。約束な」 オレは無理矢理リナの手を取り、約束の印に指を切る。 リナはしばらく複雑な顔でその手を見ていた。 「………どうせすぐに忘れる甲斐性なしのくせにね………」 そう言ってリナがくるりと背を向け、歩き出す。 オレは、苦笑してそのあとに続いた。
「あたしの選んだ『未来』はね、『今』なのよ。ガウリイ………」 そうつぶやいて、閉ざされた扉を、リナがじっと見ていたことも。
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