SAN-SYOKU-TEI
 
 
 
 
 

 
 
蒼き瞳の少女 2

 


 
とりあえずは、店のおすすめスペシャル昼食セットを10人前。
追加で鳥の唐揚げや、小エビのフライ、ミモザサラダなんかを注文する。
その子の為には、子供用にポーションを少なくしたランチセットと、レシスのジュース。
『オレの子』だから、という理由で、少女の払いは、オレ持ちだった。
ふと気がつくと、リナの分の払いもいつの間にかオレ持ちということに決まっている。
なんでそうなったんだか、オレにはどうしてもわからなかった。
ま、いつものことではあるんだが。
「うーん」
首を振りながらリナが戻って来た。
オレの隣の椅子をかたんと音を立てて引き、あまり行儀のいいとは言えない仕草で座りこむ。
オレは、リナの前に、一応半分だけ残しておいた鳥の唐揚げの皿を押しやった。
リナが、半分無意識の動作で、フォークを握り、ひとつふたつ唐揚げを口に放り込む。
それを飲み込んでから、おもむろに口を開いた。
「今、とりあえず、店の親父さんや、近くにいた人に聞いてみたんだけどね、この辺りで、この子を見かけたことはないんだって」
リナのフォークが、次の唐揚げに突き刺さった。
少女は、自分の名前を言ったほかは、ほとんどなにもしゃべっていない。
待ち合わせ場所からここに来る前、リナは一応、その辺りに店を出していたおっちゃんおばちゃんにも聞いて回ってはみたのだが、その人達にも、どうやら心当たりはないらしかった。
「まあ、この街も、そう小さな街っていうわけでもないんだから、この子を見たことがないってのは当然ありうる話なんだけど………。この子って、結構目立つわよねえ」
リナがちらりと少女に目線を投げる。
オレもつられて少女を見た。
少女は大人しく自分用に用意された席に座り、ジュースを入れてもらったカップを両手で持って飲んでいる。
その仕草がまだあどけなさを残していて、可愛らしい。
そのきらきら光る髪といい、整った顔立ちといい、確かに人目を引くには十分な少女だった。
「少なくともこのあたりに住んでる子じゃない可能性は高いわね。まあ、着ているものはそんなに悪いものじゃないし、育ちも結構良さそうだし───、こんなところには足を踏み入れたことのない、どっかのお嬢ちゃんって線も結構有力なんだけど………」
唐揚げつきのフォークをぴこぴこ振りながらリナが言う。
「最悪、この子って、この街の子じゃあないのかもしれないわ。どうしたもんかしらね」
考え深げにリナが自分の分のジュースを手に取った。
いつの間にか、唐揚げの皿はきれいになっている。
さり気なくのばされたリナのフォークから、オレはスペシャル昼食セットのフライをかばった。左手で自分の皿を引き寄せると、代わりにピーマンのいっぱい入った炒め物の皿をリナの前に差し出してみる。
リナが小さく舌打ちして、わざとらしくピーマンにフォークを突き刺した。
「まあ、とりあえず、この子自身の口から事情を話してもらわないと、どうにもならないようだわね」
リナが少女に向き直った。
「ねえ。どうして家族の人がどこにいるのかも言えないの? 家出? そーゆーことなら相談のうえ、協力しないこともないんだけど………」
「………おい、リナ………」
いたいけな子ども相手に何を言うやら。
すると、思いのほか真剣にリナが言った。
「あのね、ガウリイ。あんたがどーゆー環境で育ってきたのかなんてことは興味もないし、聞かないけど。幼心に、家出を決意しちゃう環境ってのは、この世の中には確かにあるのよ」
その目つきが妙に据わっている。
例の「郷里のねーちゃん」がらみで、何かヤなことでもあったんだろうか、もしかして。
引きつるオレを後目に、リナは再び少女に問いかけた。
「ね、事情を聞いた後のことは、相談次第ってことにしてあげるから、これからあなたがどうしたいのかだけでも教えてくれないかな?」
少女がじっとリナを見た。
ことんと音をたてて、テーブルの上にカップを置く。
そして、リナに向かって、何か言おうと口を開きかけた。
その表情が、何かにおびえたように、ふと堅くなる。
オレは戸口の方にちらりと視線を投げた。
何気ない動作だったはずだが、それにリナが敏感に反応するのがわかる。
声をかける必要もない。
リナが剣士としても優秀だということを、こういう時に思い出す。
リナがどこか楽しそうな笑みを浮かべた。
オレ達は黙ったまま、相手の出方を待っていた。
 

お待ちかねの相手は、定石どおり、オレ達の方を目指してやってくる。
まだ昼食の時間には早く、空いている席は他にもたくさんあるというのに。
「よう」
数人の、見るからに粗野な男達が、オレ達の陣取っているテーブルのそばに近寄ってきた。
明らかに退路を断つ目的で、オレ達の周りをぐるりと囲む。
そのうちの数人が、ぞんざいな態度で、隣のテーブルにもたれかかってオレ達を見た。
何が楽しいのか、にやにや笑いをあまり造作のいいとはいえない顔に貼り付けている。
数だけに頼った、隙だらけの態度。
手入れのほとんどされていない武器。
確認するまでもない―――雑魚だった。
一応リーダーとおぼしき男が、更にオレ達のそばに寄ってくる。
黄色い歯を見せて、男が笑った。
「なあ、ものは相談なんだがよ。あんた達の連れてるその子ども、オレ達に譲っちゃくれねーか? ただでなんてことは言わねーからさ」
男は品のよくない笑いを浮かべる。
リナは、無表情にそれを見ていた。
少女の肩がぴくんと震えた。
オレは、安心させるように少女の肩を軽く叩いた。
「あんた達が、無傷でこっから帰れるってのが、その子どもの代金だ。どうだ。決して安い金額じゃねーだろう?」
リーダー格の男が笑うと、何が面白いのか、くっついて来た男達も、それにあわせて声を立てて笑う。
リーダー格の男が、わざとらしくオレ達のテーブルに音をたてて肘をついた。
その弾みで、リナの飲みかけていたスープが、ほんの少し、テーブルにこぼれた。
それをみたリナが眉をひそめる。
あーあ。
その瞬間、男達の辿る運命が決まったのがわかった。
リナの前でちょっとでも食べ物を粗末にするなんて、そんな無謀な………。
心のなかで、そっと合掌する。
「ねえガウリイ?」
どうでもいいような口調でリナが聞いた。
「なんだ?」
「さっき、あんたがのした相手って、こいつらだったの?」
リナが男達をぐるりと指さした。
「………おぼえてないけど、多分ちがうよーな………。こんなごっついのはいなかったような気がするし」
首を傾げながらオレは答えた。
確かにさっきの相手も、のしたらあっさり逃げ出していったが、こいつらより多少はましな雑魚だったような気がする。
「あ、そう」
リナがため息をついた。
「まあ、あんたにのされたメンバーが、こうものうのうと現れる訳もないでしょうしね。記憶力くらげなあんたじゃあるまいし………」
「ちゃんと手加減はしといたぞ。あいつらが歩いて行けるくらいには。そうじゃないと迷惑だろう? そいつらを片づける町の人が」
「じゃあ、今回はどうしよっか」
楽しそうにリナが言う。
そして、自信に満ちた笑みを男達に向けた。
怯えなど、微塵もない表情に、男達の方が一瞬ひるむ。
だが、自分たちがリナにからかわれていると知った男たちの顔に徐々に怒気がこもっていく。
やれやれ。
オレはこっそりため息をついた。
事態はますます悪化の一途をたどっていた―――男たちにとって。
「ふざけやがって」
リーダー格の男がばんっと強くテーブルを打ち据える。
リナがわざとらしく顔をしかめて、耳を塞いだ。
「素直にその子を渡すんなら、穏便に済ませようって言ってやってるってのによ」
みんなの視線が少女に集中した。
複数の視線にさらされて、怯えたように少女が、オレの方に、身を寄せてくる。
緑がかった青い瞳が、オレと―――そしてリナを覗き込んだ。
しばらくの沈黙。
そして。
「………助けて………」
ささやくような小さな声で少女が言う。
リナが、それを見て、ふと表情を柔らげた。
安心させるように、少女の肩に手を乗せる。
そうして、男達の方を振り返った。
かたんと椅子の引かれる音。
「あたしはね、あんた達の事情なんて、はっきり言ってどうでもいいの。だからあんた達が何をしようとかまわないけど………」
ゆっくりとリナが立ち上がった。
「あたしが気分良く食事をしていたのを邪魔した罪は重いわね」
その顔に物騒な笑みが浮かぶ。
オレはさりげなく少女を引き寄せた。
心配そうな顔を向けてくる少女に、オレは安心させるように笑ってみせる。
「大丈夫。あいつに任せておけって」
 


[蒼き瞳の少女 1に戻る]   [蒼き瞳の少女3へ進む]

[スレイヤーズの部屋へ戻る]    [トップページへ戻る]


 

 
 
 
 
 
SAN-SYOKU-TEI