Rain/side G

kyo



 
 
 
 

雨が降るのは、嫌いじゃない。

朝、雨が降っていると、リナがしばらく空とにらめっこして、
オレ達のその日の行動を決める。
多少の雨なら、出かけることもあるし、
今日のように、ちょっとやそっとじゃ止みそうにない雨なら、
もう1泊逗留を決め込む。
もともとカンがいい方なのか、リナの天気予報は、割とよく当たる。
今日も、リナはなにやら空をじーっと見つめ、
オレには見当もつかない何かをさんざん考え込んだあげく、
もう一日ここにとどまることを決めた。

逗留を決め込んだ日は、朝食もそこそこにリナは部屋に戻る。
すぐに後を追いかけていくと、何やらうっとおしそうな顔をされるので、
時間つぶしに宿屋の親父と世間話をしてみたりする。
リナとの関係を聞かれるが、適当に笑ってはぐらかす。
自分でもよくわからないものを説明できる訳がない。
しばらく、他愛のない会話を続けた後、
オレは、宿の2階に上がり、リナの部屋のドアをノックした。
こういう時、1回で返事が返ってくることはあまりない。
あまり強く叩きすぎないように注意しながら、何度かノックを続けると、
やがてかちゃりとドアを開けて、リナが顔を出す。
入ってもいいか、と尋ねると、大抵はため息混じりの苦笑が帰って来る。
それでも、リナがオレを閉め出したことはない。
大きく開けられた扉から部屋の中に入ると、リナが無造作にかちゃりと扉を閉
めた。

雨が降ると、リナは主に本を読んで一日を過ごす。
本を読むときのリナの定位置は、窓の側。
オレがリナの部屋に来る頃には、大抵、机と椅子が窓際に引っ越ししている。
あたりには魔道書や古文書らしきものが積み上がり、ちょっとした山になって
いる。
いつだったか、その本の山を誤ってひっくり返し、
リナにとんでもなくどやされたことがある。
それ以来オレは、そういう山は注意深く避けるようになった。
とりあえず適当なところに座っていると、
かちゃかちゃと茶器の触れあう音を立てながら、リナが香茶を淹れてくれる。
これも、いつものリナの行動。
なんだかんだと文句をつけながら、結構まめにリナは動く。
押しつけるようにリナがマグカップをオレに渡し、
自分の分を手に取って、お気に入りの場所に移動する。
香茶を入れてくれた礼を言うと、照れたような表情と素直じゃない返事が返っ
てきた。
余計な事を口にしたら、またなにか言い返されるのはわかっているから、
オレは浮かんだ微笑をこっそり隠して、リナの表情には気付いていないふりを
する。
オレもカップを片手に、適当な椅子を引っ張ってきて腰掛ける。
リナがよく見える位置をさりげに捜しているのは、リナには内緒。
オレが自分の位置を決める頃には、リナも読みかけの本に戻っている。
リナは、本を開くとすぐ、その世界に没頭してしまう。
多少周りがうるさかろうが、おかまいなしである。
普段の勝ち気な表情はなりを潜め、かわりに穏やかで真剣な表情がその顔に浮
かぶ。
リナは、本を読んだり魔法の研究をしたりするのが本当に好きらしい。
何となく、見ているこっちも惹きつけられる、
それは、普段は目にすることのない、リナの顔。
時折、リナの白い手が頬に落ちかかる栗色の髪を掻き上げる。
無意識のその仕草が、その静かな表情と相まって、他のどんな時よりも女性ら
しく見える。
少女だと思っていたのに、こうした瞬間に覗かせる表情は、オレを魅了し、放
さない。
誰にも教えるつもりなんてない。
これは、雨の日にこっそりオレだけが見ている、もう一人のリナ………。
だからオレは、雨の降る日は嫌いじゃない。
オレは黙ってリナを見ている。
他に誰もいない、二人だけの空間で。

聞こえてくるのは、ただ、雨の音。
そこに時折、リナが本のページを繰る乾いたぱさりという音が重なる。
そのまま瞳を閉ざすと、とても穏やかな気分になれた。
心の底から落ち着いていられる、まどろみにも似た感覚。

魔族も、何も、関係ない。
今この時だけが、永遠に続けばいい───。
 
 

ふと目を開けると、リナが怖い顔をしてこちらを見ている。
あわててあたりを見渡すと、窓の外は、すっかり闇に沈んでいた。
………どうやら、すっかり熟睡してしまったらしい。
やばい。
目の前では、頬を膨らませたリナが、ぷちぷちとオレに文句を言っている。
こういうときのリナは、まだ幼い少女のようで、なにやら妙に可愛らしい。
思わず笑ってしまったオレを、リナが更ににらみつける。
オレはあわててリナに謝る。
ここでタイミングを外すと、夕飯にありつける確率がぐんと下がる。
リナが大きく肩をすくめた。
あきらめたように大きくため息をつくと、オレに向かって手を差し伸べた。
 

オレは笑ってその手を取る。
また明日から、いつもの生活を始めるために。
 
 


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