辰巳ダム再評価に関する監視委員会付帯意見の完全な実行を求める申し入れ

(1999年12月21日)


 辰巳の会など7団体は連名で、12月21日、谷本正憲石川県知事あてに『辰巳ダム再評価に関する監視委員会付帯意見の完全な実行を求める申し入れ』を提出しました。

 提出には、金沢自然観察会・吉岡代表、辰巳の会・碇山事務局長、ナギの会・渡辺代表、森の都愛鳥会・本間会長の4名が臨みました。県側は、土木部河川開発課の山本担当課長、尾崎課長補佐などが応対。申入書を提出したうえで参加者を代表して碇山が『申し入れ』のポイントを説明し、渡辺さんが資料・情報の保存・公開について、本間さんが貴重種・生物多様性の調査について補足発言をしました。

 山本担当課長から、付帯意見の実現についてはこれから先進地事例の調査や基礎資料収集などについて検討しようとしているところで、具体化はまだ先のことであり、スケジュールなどもまだ検討していないといった説明がありました。


辰巳ダム再評価に関する監視委員会付帯意見の完全な実行を求める申し入れ

1999年12月21日

石川県知事 谷本正憲殿

金沢自然観察会
代表 吉岡 勇

兼六園と辰巳用水を守り、ダム建設を阻止する会 
 会長 中井安治

辰巳の文化遺産と自然を守る会     
 代表 宮江伸一

ナギの会
 代表 渡辺 寛

白山の自然を考える会
 事務局長 高橋外男

森の都愛鳥会
 会長 本間勝美

豊かな自然と健康を考える会
 代表 佐藤禮子

 昨年度から今年8月まで行われた辰巳ダム建設事業の再評価の結論として、石川県公共事業評価監視委員会は、県の継続方針を「理解できる」との消極的表現で認めつつも、5点にわたる付帯意見をつけました。

 市民グループと県との間で行われた一連の意見交換会では、辰巳ダム建設計画の問題点があらためて明らかになりました。意見交換会の内容を踏まえれば、再評価の結論は、中止または一時休止・再検討となるべきものであり、継続の方針が認められたことは誠に遺憾です。また、県が、監視委員会に新たな資料を提出するときには事前に市民グループにも提供すると約束して、市民グループが反対していた監視委の8月17日開催への協力をとりつけながら、継続の結論を引き出すために『犀川水系辰巳ダム治水計画に関する所見』なる文書を秘密裡に監視委員会に提出したことは、重大な背信行為であり、監視委員会が3時間近くにわたる非公開審議で結論を出したことなどとあわせ、公共事業再評価の歴史に初年度から大きな問題点を残すことになりました。

 公共事業再評価の過程や「辰巳ダム継続」の結論には多くの問題点がありますが、監視委員会が「辰巳ダム建設事業については様々な意見もあることから、次の付帯意見について十分に配慮しながら事業に当たられることを申し添える」として5点の付帯意見を付したことは、重要であり、きわめて重い意味をもつものです。「継続の方針は理解できる」との監視委意見を受けて辰巳ダム建設を推進するのであれば、監視委が同時に付した付帯意見の内容をダム本体に着工する前に全面的かつ厳格に実行することが、石川県にとって当然の義務となることは明らかです。

 私たちは、公共事業再評価、辰巳ダム意見交換会に関わってきた者として、付帯意見の内容の実現にあたっては、最小限、以下の諸点を実行されることを、貴職に申し入れるものです。

T.付帯意見(1)に関して

 @1997年改正の新河川法にもとづき、犀川・浅野川の両河川について、整合性のある総合的・体系的・統一的・合理的な河川整備基本方針・河川整備計画を策定すること。

 Aその際、雨量・洪水量予測においては、データの流用を行わず、利用可能な限り多くの実測データを利用すること。

 B河川整備基本方針・河川整備計画の策定過程においては、徹底的な情報公開・住民参加を保障すること。

U.付帯意見(2)に関して

(a)生物多様性の追加調査について

 @特定の分野だけでなく、哺乳類、爬虫類、鳥類、昆虫類、被子植物、裸子植物、シダ類、菌類など、あらゆる分野についてそれぞれ複数の専門家からなる、独立性の高い第三者機関によって実施すること。

 A環境影響評価法に準拠し、生態学をはじめとする関連諸科学の最新の成果・到達に立脚して実施すること。

 B予備調査の準備から調査結果の取りまとめにいたるまでのあらゆる段階で、徹底した情報公開を行い、県民からの情報・意見を最大限とりいれること。

 Cこれらにあたっては、十分な費用と時間をかけること。

(b)貴重種等について

 @国際的・全国的に貴重な種だけでなく、北陸地方・石川県・金沢市において地域的に貴重な種についても、同等の配慮と対応をすること。

 A貴重種が確認された場合、個体〔群〕の保護にとどまらず、その生息環境(ビオトープ)を保全すること。

(c)水質保全策について

 @1987年の環境影響評価以後の生物相の変化や、上流集落における生活様式の変化を考慮し、水質汚濁の予測を、(a)に準じてやり直すこと。

 Aダム湖の水が辰巳用水を通じて兼六園に流れ込むことになる点に鑑み、上流集落の下水処理完備などを前提とした甘い予測・対策ではなく、最悪のシナリオを想定した万全の対策を講じること。

V.付帯意見(3)に関して

(a)復元・移設等について

 @辰巳用水のうち辰巳ダム建設によって影響を受ける区間の復元・移設等については、考古学、歴史、技術史、土木、地質など関係するすべての分野からのそれぞれ複数の専門家によって構成される独立性の高い第三者機関において、十分な時間をかけて徹底的な調査・研究、検討を行うこと。

 A予備調査の準備から復元・移設等の可能性、方法に関する結論のとりまとめにいたるあらゆる段階で、徹底した情報公開を行い、県民からの情報・意見を最大限とりいれること。

(b)復元・移設等が不可能な区間について

 @『加賀辰巳用水』など既存の研究成果を踏まえたうえでの付帯意見であることに鑑み、復元・移設が不可能または困難な区間については、あらためて考古学、歴史、技術史、土木、地質など関係するすべての分野からのそれぞれ複数の専門家によって構成される独立性の高い第三者機関において、十分な時間をかけて徹底的な調査・研究・記録を行うこと。

 A予備調査の準備から調査・研究結果のとりまとめ、資料作成にいたるあらゆる段階で、徹底した情報公開を行い、県民からの情報・意見を最大限とりいれること。

W.付帯意見(4)について

 @付帯意見(1)〜(3)の実施に関連して学識経験者等によって構成される委員会等をつくる場合は、1土木部をはじめ辰巳ダム建設を推進する部局の影響を排して高い独立性を確保し、2関係するすべての分野からそれぞれ複数の専門家の参加を得、3「兼六園と辰巳用水を守り、ダム建設を阻止する会」などの辰巳ダム反対派市民グループが推薦する学識経験者を加えるなど、メンバーの選考においては反対派市民をはじめ県民が納得できる民主的過程を経ること。

 A当該委員会は、調査・研究・審議などすべての段階で徹底した情報公開を行い、委員以外の専門家をはじめひろく県民からの情報・意見を最大限とりいれるものとすること。

X.付帯意見(5)について

 @市民グループと県との間で行われた一連の意見交換会を踏まえたうえでの付帯意見であることに鑑み、一般的な説明会などではなく、意見交換会で未解明の問題、市民グループの理解を得られなかった問題など、反対派をはじめとする県民の批判や疑問をめぐって県民と県が議論できる場を、十分な回数・時間をかけて公開で開催すること。

 A議論の素材として、情報公開条例の枠にとらわれず、必要な資料・情報を速やかに提供すること。

 B説明会、意見交換会など県民の理解を得るための取り組みにあたっては、県側の都合で回数・時間・期間を決めたりせず、県民とりわけ反対派県民が納得できる運営を行うこと。

 C県民とりわけ反対派県民の理解を得るための前提として、6団体提出の『市民運動にたいする石川県の背信行為に関する抗議文』(1999年10月13日)が知事に求めた「経緯の全容と責任の所在の解明と公表、今後ふたたびこのようなことを起こさないための徹底的な措置」を実行し、県にたいする県民の信頼回復に努めること。

Y.全般的な問題について

 @監視委員会の付帯意見は、監視委員会での県側の説明や市民グループとの一連の意見交換会の内容、『犀川水系辰巳ダム治水計画に関する所見』などを踏まえたうえで出されたものであり、これまでに県が行ってきた治水事業や環境の調査・保全策、辰巳用水の調査・研究・保全策、学識経験者の意見の聴取・活用、県民の理解を得るための努力が不十分であったことへの批判として重く受けとめ、これまでの姿勢をあらため、付帯意見の内容の完全な実行へ誠意をもって取り組むこと。

 A付帯意見は、辰巳ダム継続を「理解できる」とした監視委員会が辰巳ダム建設の条件として付したものであって、その実現は辰巳ダム建設を可とする立場からも求められる全県民への義務であり、付帯意見実現を求める声を県の業務にたいする障害と見なすような立場をとらないこと。

 B付帯意見の内容の実行にあたっては、計画・進捗状況など、その全体をつねに県民に明らかにし、県民の意見をとりいれながら取り組むこと。

以上


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