公共事業評価監視委員会が辰巳ダム再評価に結論

(1999年8月25日掲載)


 平成11年度第1回石川県公共事業評価監視委員会は、8月17日(火)午後3時から石川厚生年金会館で開催されました。


公共事業評価監視委員会。中央が川島良治委員長

 事務局(県土木部監理課)からの経過報告、事業者(県土木部河川開発課)からの辰巳ダム事業に関する説明を受けたのち、約1時間、公開で審議を行った時点で、「意見とりまとめ」として市民グループ、傍聴者、報道関係者、辰巳ダム関連の県職員(河川開発課、河川課など)を退室させ、事務局(県土木部監理課)たちあいのもと2時間40分にわたって密室審議を行い、結論を出しました。


公開の審議では、市民グループの要求が通り、単なる傍聴者でなく発言が認められた。
しかし、……


「意見とりまとめ」と称して、市民などを排除し3時間近くにわたって密室審議が行われた。
高齢者も少なくない市民たちはエアコンも効かない狭いロビーで待たされ疲労困憊。

石川県公共事業評価監視委員会意見

1 意見
 住民の生命財産を守るためには犀川の治水対策は重要であり、石川県が進めている辰巳ダム建設事業の継続の方針は理解できる。
 なお、辰巳ダム建設事業については様々な意見もあることから、次の付帯意見について十分に配慮しながら事業に当たられることを申し添える。

2 付帯意見
(1)
犀川水系の治水・利水については、浅野川などを含め流域全体の総合的な見地から検討を行うこと。
(2)環境対策については、水質保全に努力し、また生物多様性についての追加調査を行い、貴重種等が確認された場合には保全等の対応に努めること。
(3)辰巳用水については、辰巳ダム建設により影響を受ける区間は出来るだけ復元や移設等に努め、やむを得ない区間は今後の研究や調査に十分供する資料などを残すこと。
(4)上記に際しては、学識者などの意見に配慮すること。
(5)事業全般について、県民の理解を得るよう最大限の努力をすること。

公共事業評価監視委員会による辰巳ダム再評価について

1999年8月18日
兼六園と辰巳用水を守り、ダム建設を阻止する会
会長代行 中井安治

(1)昨日開かれた平成11年度第1回石川県公共事業評価監視委員会は、昨年度から継続審議となっていた辰巳ダム再評価について、「住民の生命財産を守るためには犀川の治水対策は重要であり、石川県が進めている辰巳ダム建設事業の継続の方針は理解できる」との意見をとりまとめた。犀川の治水対策が重要であることは当然であるが、雨量・洪水量の想定に際してのデータの捏造など、真に必要な犀川の治水計画を逆に混乱させるうえに、貴重な歴史的文化遺産・辰巳用水や自然環境を破壊する有害無益な辰巳ダムの事業継続を「理解できる」としたことは、まったく不当なものである。


(2)監視委員会は、1998(平成10)年度に審議に付された108件の公共事業のうち他の107件については県の方針を「適当」としたが、辰巳ダムだけは「理解できる」という消極的な表現にとどまり、5点にわたる付帯意見がつけられた。これは、当初は98年12月中に出すとされていた辰巳ダム再評価の結論が99年8月までずれ込んだこととあわせ、辰巳ダム建設計画の不合理性、辰巳ダム反対の世論のつよさの反映である。


(3)付帯意見には、@浅野川などを含めた流域全体の総合的な見地から犀川水系の治水・利水を検討すること、A生物多様性についての追加調査を行うこと、B辰巳用水について今後の研究や調査に十分供する資料を残すことなど、市民グループと県の間で行われてきた辰巳ダムに関する意見交換会での私たちの主張が一部とりいれられた。これは、意見交換会での事実と道理にもとづいた主張をはじめ、私たちの運動の重要な成果である。これらの付帯意見をつけるために尽力された監視委員各位には敬意を表したい。今後、県がこれらの課題に誠実にとりくむよう、全県民的に監視をつよめていく必要がある。


(4)今回の監視委員会は、公開で審議するとしながら、わずか1時間の「審議」のあと、「意見とりまとめ」と称して、市民や報道関係者、県の辰巳ダム関連部門職員などを締め出して、事務局(県土木部監理課)の立ち会いのもと3時間近くにおよぶ密室審議を行った。このようなことは、1998年度の第1回・第2回の監視委員会、土木・農林各部会でもなかったことである。公開の審議では各委員から出された意見はバラバラであり、およそとりまとめ作業に入れるような状態ではなかった。それが密室での「とりまとめ」が終わると、「継続の方針は理解できる」という“結論”になっていた。公共事業の透明性を高めるという建前で設置された機関として、きわめて異常なことである。このような運営を行った川島良治委員長につよく抗議するとともに、密室で出された「結論」は県民を納得させうるものではないことを指摘しておく。


(5)私たち辰巳の会をはじめ、辰巳ダム建設計画に批判や疑問をもつ市民は、公共事業再評価を実りあるものにしようという立場から、県との間で辰巳ダムに関する意見交換会を7回、30数時間にわたって行ってきた。四半世紀におよぶ辰巳ダム問題の歴史のなかで公開で市民グループと県が意見交換を行ったのはこれがはじめてであり、私たちはその成果が監視委員会での審議に活かされるものと信じていた。ところが、最後の最後になって、監視委員会は密室審議で「結論」を出してしまった。私たちは、2回・7時間におよぶ県との予備交渉の結果、公開で開くことなどの民主的ルールを決めて意見交換会に臨んだ。しかし、このような苦労をして民主的ルールをつくっても最後は密室でことが決められてしまうという悪しき前例を、公共事業の透明性を高める建前の「第三者機関」がつくったのである。


 今回の監視委員会の「結論」の出し方は、石川県というところでは、透明性の確保だとか市民参加だとかいっても、結局はすべて密室で決められてしまうのだという、全県民的経験となった。今後、私たち県民は、県や、県のつくる「第三者機関」はこういうやり方をするものだということを考慮して行動せざるをえない。


 監視委員会は「事業全般について、県民の理解を得るよう最大限の努力をすること」と付帯意見をつけているが、公開であれ、どんなルールのもとであれ、最後は密室審議で「結論」を出すのに利用されてしまうだけであることを承知で県の説明をきいたり意見交換を行うようなことはできない。監視委員会が求めた「県民の理解を得るための最大限の努力」を、県がどのような形で実現できるのか、私たちが水没予定地にもつ共有地の買収交渉をどのように呼びかけるのか、注目していきたい。


(6)私たちは県と十分な意見交換を行いながら、聞くべきは聞き、自分たちの辰巳ダム反対運動のあり方をつねに見直していきたいと望んできたし、またそのように行動してきたが、今回の経験を踏まえれば、今後、県と意見交換を行うことは、ほとんど不可能なほど困難になってしまった。新河川法で策定が義務づけられている河川整備基本方針をはじめ、行政と市民の対話、公共事業への市民参加がこれまで以上に求められているまさにそのときにこのような事態を招いたのは、すべて、2回・7時間におよぶ予備交渉、7回・30時間あまりにおよぶ意見交換会を行ってきた私たちの善意を踏みにじった川島良治委員長の責任であり、監視委員会を設立し事務局を担当した石川県の責任であることを、厳しく指摘しておく。


(7)監視委員会による公共事業再評価は、監視委員を県が選ぶなど、はじめからその可能性が限界づけられたものであった。私たちは、その限界を知ったうえで、「公共事業の透明性確保」という建前に注目し、公共事業の透明性を高めるために少しでもこの制度を役立てようと努力してきた。しかし、初年度において、密室審議で重要案件の結論を出すという最悪の形で、公共事業再評価が透明性確保とはまったく逆のものであることを、監視委員会みずからが証明してみせることとなった。公共事業再評価に多くを期待できないことが明らかになったいま、無駄な公共事業、有害な公共事業への県民の批判と反対運動は、いっそう強まらざるをえないであろう。

市民運動の新しい段階をしめした辰巳ダム再評価・意見交換会

兼六園と辰巳用水を守り、ダム建設を阻止する会事務局
碇山洋


 8月17日に開かれた石川県公共事業評価監視委員会は、前年度から唯一継続審議となっていた辰巳ダム再評価について、5点にわたる付帯意見をつけたうえで「石川県が進めている辰巳ダム建設事業の継続の方針は理解できる」という結論を出しました。継続が認められたということで、これで辰巳ダムが一気に建設に向かって走り出すのではと心配されている方もいらっしゃるようですが、事態はまったく逆。私個人としては勝利宣言を出したいくらいです。


 「北國」8月20日付の「秒針」欄を読まれたでしょうか? 県議会の委員会で、継続方針が認められて勢いづいているはずの中島土木部長のさえない顔つきに、議員が叱咤激励し、部長が汗だくで答弁したという記事です。17日の監視委員会終了後も、県側出席者に勝利のよろこびの色はなく、むしろ沈痛な空気がただよっていました。


 これは、監視委の付帯意見がきわめて厳しいものだからです。生物多様性の追加調査を行えば、水没予定の犀川渓谷がどれほどすぐれた生物生息環境であるかが明らかになり、ダム建設はいっそうむずかしくなります。辰巳用水については復元や移設を求めています。用水を、しかも崖の中を通っている水トンネルを移設することなどできるでしょうか? 『ベニスの商人』の最後の場面で強欲な商人シャイロックにつきつけられた「借金のカタに肉を切り取ってもよい。ただし血は1滴たりとも流してはいけない」という判決に似て、監視委の結論は、県に有利なように見えながら、実は、辰巳ダムを事実上ストップさせるほどの内容なのです。


 この付帯意見が、4月から7月末までの4か月間、7回にわたって開かれた意見交換会の成果であることはまちがいありません。


 昨年11月、監視委員会が設立され公共事業再評価が始まると、県内で環境問題や公共事業に関わって活動する15の市民団体が、「監視委の審議は公開で行うこと」「反対運動のある事業については反対派市民の意見を聴くこと」などの申し入れを監視委にたいして行いました。公共事業再評価を県の方針に「お墨付き」を与えるだけにさせないための市民グループの“監視”のなか、当初は98年12月中に結論を出すとされていた辰巳ダム再評価は、「年度内に結論」に後退。それさえ実現できず、108件の再評価対象事業のうちただひとつ結論が年度を越えて先送りされるという、全国的にも異例の事態になりました。


 事態の打開のため県土木部長や監視委員会委員長が市民グループに意見交換を提案。2回7時間におよぶ予備交渉の結果、市民グループの求めていた民主的ルールが合意文書としてとりかわされ、20年以上におよぶ辰巳ダム問題の歴史上はじめて、公開の場で市民グループと県が意見交換を行うことになったのです。


 辰巳の会を中心に専門家のアドバイスを得ながら、現地調査なども行い、市民側は毎回よく準備して意見交換会に臨み、議論を終始リードしました。辰巳ダム計画のずさんさや矛盾点を指摘され、県側が立ち往生することもしばしばでした。


 予備交渉の合意にもとづき、意見交換会には毎回監視委から数名の出席があり、8月17日の監視委への報告文書も市民側・県側合同で作成しました。県にとってきわめて厳しい付帯意見を監視委がつけたのは、四半世紀におよぶ反対運動、とりわけ昨秋の公共事業再評価開始を契機に高まった広範な市民団体の力の結集の成果なのです。


 17日の監視委では、3時間近くにおよぶ密室審議で結論が出されるなど、公共事業再評価には問題点もたくさんあります。しかし、再評価制度があるために、市民の声を無視して事業をゴリ押しすることがむずかしくなってきていることはまちがいありません。公共事業再評価を「『お墨付き』を与えるだけ」などと無視したりせず、このチャンスを的確にとらえて民主的再評価実現のために広範な市民団体が力をあわせたこと、行政と互角以上に論争できる科学の力と論戦力を市民運動が身につけはじめたことが、公共事業の流れを大きく変えつつあるのです。

(編集者の許可を得て『環境ダイアリー』(石川環境ネットワーク発行)1999年9月号より転載。本稿の転載・複写については、『環境ダイアリー』編集者の許可が必要です。)


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